七十六話
ミリスが宿に急いでいると風体の良くない男に道を遮られた。
「おう。姉ちゃん。急いでどこにいくんだ?」
先ほどまでウキウキ気分だったのにこの男のせいで気分は最悪である。
「私に何か御用ですか?」
「おう。ちょっと酒代を恵んでくれるだけでいいんだ」
「そんなお金はありません」
冒険者としてリーシア達と荒稼ぎをしたので貯えは十分ある。
だが、しばらく収入がないことを考えればほいほいと使っていいわけがなかった。
「そうかそうか。なら体を提供してくれてもいいんだぜ」
「はぁ・・・。男ってどいつもこいつも」
ミリスは思わずため息をついてしまう。
自分勝手で欲望をぶつけてくるこういうタイプの男は多く見てきた。
「少しでも触れたら吹き飛ばすわよ?」
「おお。怖い怖い。嬢ちゃんみたいなタイプは嫌いじゃないぜ」
そう言って男は近づいてくる。
ミリスは戦闘態勢をとる。
魔術師と言えど、冒険者学校時代に接近戦の指南も受けている。
無防備に向かってくる男の顔に掌底を食らわす。
掌底を食らった男はフラフラとしているが立っている。
追撃をするべきだろうと踏み込もうとしたとき、後ろから気配を感じた。
「おせぇぞ」
目の前の男は頭を振りながらそう言っている。
「へへ。悪い悪い」
ミリスは後ろに現れた人物に体を拘束されてしまった。
仲間がいたらしい。
ここから脱出する為には魔術を使うしかない。
「おっと。魔術は使わせないぜ?」
そう言って腕に何かが巻きつけられる。
巻きつけられて物によって魔力が吸い取られていく。
「しま・・・」
腕に巻きつけられたのは奴隷や罪人に使われる魔力封じである。
「まぁまぁ。姉さん悪く思わないでくれよ」
そう言って首筋に手刀を食らわせられ気を失ってしまった。
ミリスが目を覚ましたのはボロボロの床にボロボロの壁。
今にも壊れそうな建物の中だった。
体を確認するが乱暴をされた形跡は今のところはない。
「おう。目覚めたか」
「何が目的?」
「とある筋からの依頼でな。お前さんはいわゆる人質って奴だよ」
魔力封じを用意していた所を見ると計画性が高い。
ただの破落戸ではなさそうだ。
「まぁ。大人しくしててくれよ。俺達も面倒なのはごめんだからな」
「少し味見してもよくないか?」
「お前はまた・・・。前にそれで逃げられたのを忘れたのか?」
「あの時は悪かったって・・・」
「とにかく大事な金蔓だ。取引が終わるまでは手を出すなよ」
ミリスは男達の言葉を聞きつつ脱出の手段をずっと考えていた。