七十四話
午後からは様々な騎士と模擬戦をした。
どの騎士もラーシャより強く学ぶことが多かった。
ずっと見ていたブラハムが近づいてくる。
「ふむ。攻撃は見所があるが、防御が苦手なようだね」
考えてみれば魔物の攻撃を受ける前に倒すという風な考え方をしていた。
「魔物相手に攻撃する前に倒すというのは間違っていない。でも、君の役割は何だい?」
「私の役割・・・」
ここで考えてみる。
魔法の使えるミリスにリーシアがいるのだ。
無理に自分が倒しにいく必要はないのだ。
「私の役割はどんな状況でも相手を引き受け耐えることですか?」
「魔物相手でも人相手でも一番重要なことは死なないことだ」
「ご教授ありがとうございます」
「シェル。相手をしてあげなさい」
「わかったす。容赦なくいくっすよ」
そこからはシェルに攻撃してもらいひたすら耐えることに集中した。
手加減はしてくれているようだが、それでも何度もシェルの斬撃がヒットする。
だが、ラーシャは何度もシェルに立ち向かった。
「ふぅ。今日はここまでっすね」
「私ならまだまだいけますよ」
「ダメっす。これ以上したら大怪我するっすから」
ラーシャは構えをときお礼をする。
「付き合ってくれてありがとう」
「気にしなくていいっすよ」
宿舎に戻るとシェルが部屋に突撃してくる。
「さて、治療のお時間っす」
そう言って手に持っているのは傷薬だ。
「自分でできるわよ」
「いいから任せるっす」
そう言って手をわきわきしている。
これは言っても聞きそうにない。
ラーシャは諦めて服を脱いだ。
「中々いい物をお持ちで・・・」
「ちょっと、どこみてるのよ?」
「気にしたらまけっすよ。お決まりのネタっす」
言葉とは裏腹にシェルは丁寧に傷薬を塗ってくれた。
「さて。塗り残しはないっすね」
「えぇ。ありがとう」
「さて。それじゃ、ご飯にいくっすよ」
ラーシャは素早く衣服を着て応える。
「はいはい。ご飯は逃げないからね」
今日もシェルは食堂に着くとご飯を取りに突撃していく。
訓練して気付いたがシェルは他の騎士達よりも強いのではないだろうか。
今も体がぶつかりそうなところを見事な体捌きで避けている。
無駄な才能の使い方だとも思うがシェルは大真面目にやっているのだろう。
ラーシャはついつい笑ってしまう。
おかしな子ではあるが面倒見もいい。
いきなりこの環境に放り込まれたがシェルがいて助かった。
それを考えるとブラハムは騎士達の性格をよく理解しているのかもしれない。
他の騎士や騎士見習いだったらこうはならなかっただろう。
ラーシャは改めてシェルに感謝しつつ料理を取りに向かった。