七十三話
ラーシャは何度もシェルに挑むが惨敗だ。
「はぁ・・・。自信失くすわね」
「う~ん・・・。ラーシャさんは弱くはないっすよ。でも、それは魔物を相手にした場合っすね」
「魔物を相手にした場合かぁ・・・」
「まぁ。私達、騎士団は対人戦を想定してるっす。その為には、あらゆる剣術に精通している必要があるっすから・・・」
「なるほどね。私の手の内がバレバレなのか」
「その通りっすね」
「どうしたら、強くなれるのかしら?」
「今までの剣術を一度捨てて初心に戻るのがいいと思うっすよ」
使い慣れた剣術を捨てるというのは中々、勇気のいる選択だ。
「まずは手本を見せるから、素振りからっす」
シェルに教えてもらいながらラーシャは剣を振るう。
だが、癖というものは中々に厄介だ。
「ちがうっす。こうっすよ」
シェルは簡単にこなすことがラーシャには難しい。
「おう。やってるな」
「ブラハムさん・・・」
「団長。お疲れ様っす」
ブラハムは只者ではなさそうだったが、騎士団長だったらしい。
「見ていて気付いたことを伝えに来た」
ブラハムはそう言うと丁寧に修正箇所を教えてくれる。
力の入れるタイミングや悪い癖など。
多くの騎士を見てきたからだろうか。
ブラハムの教え方は上手かった。
ラーシャの剣は一振りするごとに修正されていく。
「うむ。この調子なら大丈夫だろう」
「ありがとうございました」
ラーシャはブラハムに頭を下げる。
「これも仕事だからな」
それだけ言って、ブラハムは別の人の所に行ってしまった。
「やっぱ、団長は流石っすね」
「そうねぇ・・・。短時間でここまで変わるとは思わなかったわ」
「さぁさぁ。一緒に素振りっすよ」
シェルに言われてラーシャも素振りに戻る。
時間はあっという間に過ぎ、昼の時間になった。
「ふぅ。真面目にやったからお腹が空いたっす」
「食堂に行きましょうか」
食堂に移動しつつ会話を続ける。
「普段は不真面目なのかしら?」
「そうっすね。バレないように手を抜いてるっすよ」
「バレたら怒られそうね」
「ここだけの秘密っす」
「ところで、口調が変わったような・・・」
「こっちが素っすよ。お客様って聞いてたから丁寧に接してたっす。でも疲れるんっすよ」
どうやらシェルに信頼されたということなのだろう。
シェルは今回も他の騎士の中を突貫していく。
周囲の騎士も気にしていない。
どうやらこれが日常の風景のなのだろう。
ラーシャもゆっくりした足取りで料理を取りに向かった。