七十二話
「ジールベッド商会の言うことが聞けないのか?」
「はぁ・・・。貴方の都合より、王命が優先されるに決まっているでしょう」
「何故だ。子供を産むしか能のないようなこんな女・・・」
それを聞いていた後ろにいた老執事が慌てだす。
「バッカス様。それ以上はいけません。王家を敵に回します」
「なんだと。爺。僕の言うことが聞けないのか」
目の前の男は何をしても許されると勘違いしているのか駄々をこね続ける。
「はぁ・・・。一目見たいと言われた時から、嫌な予感はしてましたが・・・。とにかく坊ちゃま。帰りますよ」
そう言って老執事は老体とも思えない力で駄々をこねる子供を連れて去って行った。
リーシアがいなければあんな奴の相手をさせられていたかと思うと恐ろしい。
「ブラハムさん。ご迷惑をおかけしました」
「いや・・・。何と言うか。君も大変だな」
「それほどでも・・・」
その後は、ラーシャは食堂に戻り残りのご飯を食べ眠りについた。
カンカンカン。
まだ早い時間に鐘の音がする。
シェルが部屋に駆け込んでくる。
「ラーシャさん。早く起きて」
「何事ですか?」
「朝の点呼の時間だよ。遅れると罰があるから急いで」
ラーシャは素早く身支度をしてシェルと共に廊下に出る。
すぐに上官と思われる女性騎士がやってくる。
「ふむ。少々遅かったが、初日だ。見逃してやろう」
それだけ言って、女性騎士は去って行った。
「はぁ・・・。ぎりぎりセーフって感じだね。食事に行きましょう」
今日もシェルは元気である。
食堂に向かうと大量の料理が出迎えてくれる。
シェルの皿はこれでもかというぐらいの料理の山が出来ていた。
ラーシャも自分の分の料理を皿にとり席に着く。
「それにしても、朝からよくそれだけ食べられるわね」
「朝はしっかり食べないと元気がでませんから」
シェルはすごい勢いで料理を食べおかわりに向かった。
午前中は自主練の時間とのことでラーシャはシェルと模擬戦を行う。
ラーシャの剣は我流ではないが冒険者の剣だ。
シェルはラーシャの剣を受け止め、時に流し、華麗に剣を扱う。
「ふむふむ。実戦に裏打ちされたいい剣筋ですね。でも・・・」
シェルが攻撃に転じる。
ラーシャは必死に受け止め続けるが剣を弾き飛ばされた。
どこか抜けている風に見えるシェルであるが見習い騎士だと言っていた。
騎士見ならないでこれなら騎士というのはどれだけ強いのだろうか・・・。
ここで学ぶべきことは多いだろう。
少しでも強くなる。
そう意識を改めた。