第六十一話
リーシア達の姿が王都の公爵邸にあった。
父親であるイーリッヒと母親であるリーゼロットの姿もある。
「いや、すまないね。対策をしてなかったわけじゃないんだが人の口に戸は立てられぬとはよくいったものだ」
「いえ、お父様。私の考えが足りませんでした」
「リーシアは悪くないわ。元を正せばイーリッヒが悪いのよ」
強引に資金集めをしなければならなかったのは衛兵の不祥事の後始末の為だ。
貴族社会の中では大スキャンダルである。
リーシアが解決に向けて動かなければ政敵に攻撃の糸口を与える結果となっただろう。
「それを言われると耳が痛いね。リーシアは正しいことをしたんだ。堂々としていなさい」
イーリッヒもただ領都でぼーっとしていたわけではない。
敵対貴族の弱みを探し、証拠を押さえることで動きを牽制していた。
今、リーシアの行動を批判している貴族は時世の見れない小者ばかりだ。
正面切って公爵家と敵対する度胸もない。
しかし、国王があえて呼び出したのは年頃の娘であるリーシアの評判を気にしてのものだ。
王家と公爵家は血縁関係にあり少し代を遡るだけで両者の血が混じりあっている。
そして、一番の理由はやはり馬鹿息子の件で引け目を感じていたからだろう。
嫌な役目を押し付けた。
その結果が今回の召喚理由。
また、娘のように思っていたリーシアの突然の冒険者活動。
こちらも気になっているのだろう。
公爵家での生活は気に入っていたがお見合いにウンザリしていたのもある。
このファンタジーな世界にやってきて魔法や剣技を学び自分自身はどこまで行けるのか気になったというのが大きな理由だろうか。
今はまだ新人冒険者だがもっと高ランクの冒険者になるのが今の目標だ。
公爵家関係の仕事が足枷になっているがそれは仕方ない。
装備やマジックバックを貰った手前、仕事を放棄するのは違うだろう。
何より、救った人々に感謝された時、嬉しかったのだ。
それだけで頑張れる。
民の為に持てる力の全てを投入するその姿勢は為政者の鑑と言ってもよいものだ。
これは資金が潤沢にある公爵家だから出来る方法ではあるがリーシアは統治者としての才能があると言えるだろう。
イーリッヒとしては誇りに思うことはあっても娘の新しい可能性に喜んでいた。
それはリーゼロットも同じである。
脇が甘い所もあるがそれは経験を積むことで解消されるだろう。
人は最初から完ぺきではないのだからフォローをしっかりするつもりだ。
短い間ではあるが二人はリーシアを徹底的に鍛えるつもりでここにきているのだった。