第五十九話
リーシアは代官と頭を抱えていた。
必要であったこととは言えお金を多方面に使いすぎていて今期の収支は大赤字だ。
公爵家全体で見れば補填は出来るとは言えこの状態はまずい。
イーリッヒもそう思ったのだろう名代として執事のセバスチャンを送り込んできていた。
「お嬢様。言いにくいのですが何とかしませんと」
冒険者としてお金は稼げている方だが都市経営としてみれば微々たる物だ。
一番簡単な方法としては税をあげることだが長期的に見れば悪手である。
税をあげれば冒険者や市民が離れる可能性がある。
そうなってしまえば結果として税収も下がってしまう。
一度離れてしまった者を連れ戻すの程難しいことはない。
「ん~。公爵家名義で冒険者に依頼を出しましょう」
「依頼をですか?」
「そう。素材を集めて職人に直接依頼を出してそれを外部で売りさばくの」
これは迷宮都市でしか通用しない方法だ。
そして公爵家がこのような手段を取った試しはない。
色々叩かれるだろう。
しかし、現実問題としてお金が必要なのである。
それならば外野の意見など頑として受け入れず実行するのみ。
「最初は皆、奇異の目で見るでしょう。うるさく騒ぐ者も出るでしょう。でも、時代を先駆ける者にはそういった批判はつきものよ」
「そういうものでしょうか?」
「それでお嬢様。何の素材を集めるのでしょうか」
「黒沼ダンジョンに出るウシガエルよ」
「確かに換金効率は良いですね。生肝は薬に。肉は食用に。皮は革製品に。問題は運べる冒険者がそれ程多くないことですが」
なんせ牛サイズのカエルだ。
マジックバック持ちでもなければ1匹を解体して持ち帰れるかどうか。
ただし、それは普通のやり方をした場合だ。
「商人から荷車を借り受けそれを冒険者に貸し出します」
「破損した場合、弁償しなければなりませんがそれでもですか?」
「増員された兵士の一部を護衛にあてます」
「冒険者組合はいい顔をしないと思いますが?」
ダンジョンに兵士を入れると言っているのだ。
ダンジョン関係は冒険者組合の管轄。
そこを犯せば要らぬ摩擦が生じかねない。
「組合長には私からお話をするので大丈夫です」
「はぁ・・・。お嬢様はとんでもない発想をしますね」
「それでは決まりです。苦労をかけますがそれぞれ動いてください」
「かしこまりました」
組合長のヘンゲスは最初は前代未聞だと難色を示した。
しかし、冒険者の利をしっかり守るとのリーシアの言葉に折れることとなる。
こうして迷宮都市アルスヘルムの財政復興計画ははじまったのである。