第五十六話
出された食事は貧しい村にしては豪勢なものだった。
パンは固い黒パンだったが野菜を贅沢に使ったスープに牛のステーキ。
残念だったのはスープには懸念された通り眠り薬が混ぜられていたことぐらいだろう。
リーシアはばれないように回復魔法で中和しアルスは歯に仕込んでいた薬を砕き解毒している。
眠ったふりをしていると男達が集まってくる。
「貴族の令嬢か。思った以上に上玉じゃねぇか」
「売ればいくらになるか。その前に試してもいいんだろう?」
とても不愉快な会話である。
男共の慰み者になるぐらいなら舌を噛み切って死んだ方がマシだ。
「男の方はめんどうだ。殺しちまおう」
男達が不用心にも近づいてくる。
あと少しで手がかかるぐらいのところでリーシアとアルスは飛び起きる。
「なっ。おいおい、薬が効いてねぇじゃねえか」
「めんどくせぇな。どっち道殺すんだ。女の方には傷つけるんじゃねえぞ」
男達の一人がナイフを持ってアルスに突っ込んでいく。
アルスは必要最低限の身のこなしで躱し顔面をぶん殴る。
男は錐揉みしながら吹っ飛んでいく。
その間にリーシアは警戒しつつもアルスの剣を掴み投げ渡した。
「リーシア様。ありがとうございます」
アルスは躊躇することなく剣を引き抜き構える。
「アルス様。リーシア・フーゲル・エルシュタインの名において生死は問いません」
貴族の名乗りは強い権限が付随する。
特に公爵代理としてこの場にいるリーシアの名乗りによってこの場で起きた惨劇は公爵家が責任を持つということになる。
アルスの実力なら賊を生きたまま捕らえるということも可能であるが救出しなければいけない者がいる現状生かしていたがために窮地に陥るというのは避けなければならなかった。
アルスは容赦なく剣を振るい集まっていた男達殲滅していった。
「リーシア様。終わりました」
「ご苦労様です」
惨劇を目撃してしまったロッコと言われた男の子は顔面蒼白で振るえている。
「ロッコと言いましたね。隠し部屋があるはずです。案内してくれますか?」
リーシアが優しく語りかけると首を振り倉庫のような部屋に案内してくれる。
床を叩くと明らかに他の床とは違う音がする場所があった。
アルスは慎重に床をずらすと下に続く階段が出てくる。
アルスを先頭に階段を下りていくとすえた匂いがしてくる。
この先で行われていたのは恐らく予想通りなのだろう。
「アルス様。ここで待っていてくれませんか?」
「気持ちはわかりますがリーシア様の安全を第一に考えなければいけません」
「わかりました。ですがなるべく見ないようにしてあげてください」
「えぇ。わかっています」
リーシア達は慎重にだが迅速に動き出した。