第五十五話
馬車は件の村に向かって走っていた。
夕闇の面々は付き合ってくれるといったのだが公爵家の事情に巻き込みたくないということで留守番だ。
今頃は街でのびのびと羽を伸ばしていることだろう。
朗報だったのはアルス率いる栄光の剣が今回の依頼を受けてくれたことだ。
今もアルスは御者に扮してリーシアの護衛についてくれている。
他のメンバーは隠密系の冒険者と共に既に現地入りしており囚われていると思われる人達の近くに待機しているはずだ。
「リーシア様。そろそろ到着します」
「わかりました」
時刻は夕刻。
馬車は問題なく進み目的の村に到着した。
アルスが村の人に話しかけ泊まれるように交渉してくれている。
しばらく待っていると話し合いは無事終わったようで馬車が動き出す。
馬車の窓から見える村の様子はいたって普通の村のように見える。
馬車が止まりアルスが扉を開く。
リーシアはアルスの手を借りて馬車を降りると周囲を見回す。
馬車が止まった家は周囲の家より大きいぐらいで特徴のない家だった。
村長の家といった感じだろうか。
アルスが先導する形で扉を叩き反応を待つ。
家の中から反応がありガタイの大きい中年の男が出てくる。
「すみません。旅の者ですが一晩の宿をお願いできないでしょうか」
「旅人ね。大したもてなしは出来ないがそれでいいならいいぜ」
リーシアは一瞬値踏みするようにこちらを見たのを感じ取った。
作戦の第一段階は成功といったところだろうか。
「少し待っててくれ」
中年の男は家の中に戻ると怒声が聞こえてくる。
「おい、ロッコ。客人の馬車を止めておけ」
しばらくするとまだ幼い男の子が家から出てくる。
どこか脅えたような雰囲気を持つ男の子はびくびくしながら家の脇にある納屋に馬を誘導していく。
再び扉が開き先ほどの中年男が顔を出す。
「待たせたな。こっちへ」
中年男の案内に従い家に足を踏み入れ居間に案内される。
「適当に座っててくれ。今、飯の準備をしてくるからな」
そう言って中年男は奥に引っ込んでいった。
「どう思いますか?」
「地下に隠し部屋がありますね。気配からすると子供と言ったところでしょうか」
「そうですか。他に気になることは?」
「食事には気を付けてください。何かを盛られる可能性もあります」
「そこは大丈夫です。回復魔法は得意ですから」
「では、計画通りにいきましょう」
二人は頷きあい平静を装って相手の次の手を待ち構えるのであった。
村に潜んでいた冒険者達も動きだしていた。