第四十四話
ダンジョンを攻略してメダルを持ち帰る。
それにはここ迷宮都市アルスヘルムでは大きな意味があった。
表面上は同じランクの冒険者であろうともダンジョンを攻略したことのない冒険者を同業としては認めないのだ。
それはこの迷宮都市アルスヘルムがダンジョンから採取された物で支えられているからだ。
しかし、1パーティーのみで攻略を完了したことに周囲は驚いた。
道中は問題ないが迷宮主はレイドを組み挑むのが普通だ。
そして、迷宮主にはいくつかのパターンが存在する。
近接型や魔法型そして召喚型などだ。
リーシア達の遭遇したゴブリンロードは外れと呼ばれる召喚型だった。
魔力が尽きるまで眷属召喚を続け大抵の冒険者は撤退に追い込まれる。
今、リーシア達は冒険者組合に併設された酒場で多くの冒険者に囲まれていた。
有望な新人冒険者。
まだ、どことも繋がりのない彼女達を自分達のグループに誘おうとあの手この手で勧誘する。
中にはリーシアの鎧を見て公爵家の関係者だと悟り仲間を止める者もいる。
しかし、どこにでも空気の読めない者というのはいるものだ。
この男もそんな者達の一人である。
大柄で頭をスキンヘッドにした男は強引に手中に収めようと脅迫まがいに言葉を発する。
「いいから俺達と来いって。ダンジョンでの安全は保障するしそれ以外だって満足させてやる」
そう言う男は強引にリーシアの手を掴んでくる。
「残念ですがそのつもりはありませんわ」
拒否するが男は手を放さない。
「そんなこと言わずに来いって」
周囲もどうなるのか見守っている。
リーシアの席は今だエルシュタイン公爵家にある。
無礼うちとしてこの男を斬り捨てても法律上は問題ない。
しかし、ここでこの男を斬り殺してしまえば冒険者達との溝は決定的なものとなってしまうだろう。
どうやって切り抜けたらよいか思案していると救いの手は意外な所からもたらされた。
「ガイン。その手を放せ」
低い威嚇するようなその声はリーシアも知る者だった。
「アルス。てめぇ。後からのこのこ来て割り込むきか」
「そうじゃない。彼女はエルシュタイン公爵家のご令嬢だ。この街の英雄でもある」
リーシアはこの街にきて直ぐに衛兵の悪事を暴き代官に丸投げしたがその後のフォローもしている。
代官と組合長のヘンゲスは積極的に噂を流してリーシアの英雄像を街の人々に植え付けた。
その話はあっという間に街の人々に広まり密かに英雄視する人々が出てきたのである。
そんな彼女に強引に迫れば街の人々がどう思うのかは一目瞭然だった。