第三十八話
リーシアは即座に十個の水球を生み出して空中に浮かべる。
水球からは自動的に水弾が発生してゴブリンを屠っていく。
しかし、次々に現れるゴブリンは恐れる様子を見せずこちらに突っ込んでくる。
通路側でもラーシャが突破されないように動きミリスがダークボールを次々と放ち抜けてこようとするゴブリンをアリスが仕留めている。
倒されたゴブリンは霧となって消えていくため死体が邪魔になって攻撃が通らないということはないが数が数である。
今は余裕を持って戦えているがそれがいつまで持つのか不安が残る。
体力は冒険者学校で嫌になるほど鍛えられているのでしばらくは大丈夫だろう。
しかし、精神のほうはそうはいかない。
まだまだ未熟なリーシア達はそのことに気づいていなかった。
最弱の魔物であるゴブリン達を相手にどれぐらい時間が経っただろうか。
数分?
何時間?
それがわからなくなった頃、まず最初にミリスに異変が訪れた。
ダークボールを放つこともなくぼーっとしている。
恐れていた事態の一つ魔力切れだ。
アリスがいち早く異変に気付き庇うように動いている。
一気にラーシャの負担が増えるが気力のみで時間を稼ぐ。
アリスはその間にラーシャのポーチから白くドロッとした液体の入った瓶を取り出すと無理矢理ミリスに飲ませる。
しばらくするとミリスは落ち着いていた。
「ごめんなさい」
「気にしないで。それより自分の身は守れるわね?」
魔術師タイプであるミリスではあるが自衛のために冒険者学校時代杖術を仕込まれている。
「えぇ。迷惑をかけるわね」
アリスはそれを確認するとラーシャの支援の為に駆けていった。
一方でリーシアは魔法と剣技を駆使して部屋の中央で大立ち回りをしている。
ミリスはちらっと見て格の違いというものを感じていた。
自分は魔力切れを起こしたというのにリーシアはそれ以上の規模で魔法を使っているというのに魔力が切れる様子がない。
それに魔法を使いながら体を動かすというのも無理な話だった。
自分達が課題をクリアするのに必死になっていたころリーシアは教官達と厳しい訓練をずっとしていた。
仲間であることにほっとする一方で嫉妬する自分もいる。
今はそんなことを考えている場合ではないと思うのだがどうしても暗黒面が出てきてしまう。
そんな知らず知らずの精神の変化がミリスに影響を及ぼすとはこの時は気付いていなかった。
魔法はイメージと精神に左右される。
闇魔法使いは珍しい存在である。
その精神に負の感情が合わさった時、誰も予測していなかった事態が起こるのだった。