第二十話
「そうか照れているんだね。そう緊張しなくても大丈夫」
そう言って馬鹿は歩み寄ってくる。
リーシアはその分下がって距離を作る。
「逃げるなんて可愛いじゃないか。すぐ僕のテクでメロメロにしてあげるよ」
馬鹿は手を開いたり閉じたりしている。
どこのエロ親父だ。
広い部屋とはいえ逃げ場はすぐになくなった。
気が付けば壁際に追い詰められていた。
まさに馬鹿が飛びかかろうとした時、救いの神が舞い降りた。
「アース殿。これはどういうことかな?」
憤怒の形相をしている父、イーリッヒである。
「何をってリーシアと愛を深めようとしているところだ」
「娘は嫌がっているようですが?」
「照れているだけですよ。すぐに僕以外、目がいかなくなりますよ」
どこからそのような自信がやってくるというのか。
本当にこの馬鹿は救いようがないようだ。
そう言っている間も目線は胸にいっている。
気持ちが悪くてしかたない。
「お父様。私にその気はありません」
「娘はこう言っている。あまりにも無礼な態度をとるなら私にも考えがある」
イーリッヒは強気な態度で言い放つ。
普段は優しい面しか見せてこないがそこには為政者としての格の違いが見えていた。
「私を脅すおつもりか。王家との関係にヒビが入ってもいいと言うのか」
「娘の為ならば王家の一つや二つ敵にしても構いませんな」
言いきりましたよ。
お父様。
ちょっと私、感動のしすぎでお父様がカッコよく見えてきました。
あはは。
おかしいな。
中身おっさんのはずなのに。
「お父様。ありがとうございます。でもよろしいのですか?」
「元々このお見合いは向こうが無理を言って申し込んできたものだ。問題を起こすようならどのような処理をしてもいいとは言われている」
お父様のこの発言で馬鹿は顔色を青くしている。
「そんな。あの狸親父、俺を騙したのか」
「親の心子知らずとはこのことだな。陛下がお前のせいでどれだけ頭を悩ませているか知らんかったのか」
「私は悪いことは何もしていない」
「正直ここまで頭が悪いとはな。お前さんを放置していれば国が傾く。存在しているだけで貴族の信頼は離れていき、その謝罪で国費を食いつぶす。将来は考えなしに作られた子供でお家騒動になるかもしれない。どれだけ国に迷惑をかければ気が済むんだ」
お父様は普段とは違う厳しい顔をしている。
「そんな・・・。馬鹿な・・・」
「陛下には私から言っておこう。第4王子アース・シェード・カルマインは病気となったために隔離したと。連れていけ」
お父様の言葉で普段は見ない鎧姿の騎士達が現れて引き立てていくのだった。