揚羽ルート13 覚醒
「あちゃ~、大河。負けたじゃん」
大河と揚羽の試合を見ていた剛はがっかりした。
「仕方がなかろう。相手はあの揚羽先輩なんだから。みしろ、ここまで戦った大河を褒めないと」
渚もがっかりしているみたいだ。
「ん?どうした、優燈に鈴?」
そこで違和感に気が付いた。さっきまで元気に応援していた2人がいきなり静かになってしまったから。
「大河が負けて悔しいのはわかるが、そんなに落ち込まなくてもな」
剛はその2人の様子に気が付き、宥めようとした。
「違うの」
そしたら、優燈が口を開いた。
「違う?何が違うのだ?」
「大河が負けたから落ち込んでいるんじゃないの、むしろ別」
「どういうことだ?」
「やっぱり、優燈も感じた?」
今まで黙っていた鈴も口をはさんで来た。
「うん。あれが目覚める」
「駄目だよ。早く止めないと」
鈴はいそいで舞台に上がろうとした。
「おい、待て。まだ試合は終わってないぞ」
渚はそう言って、鈴の腕を掴んだ。
「離して!早く、大ちゃんの所に行かないと」
「だから、さっきからなんなんだ?訳くらい聞かせてくれてもよかろう」
「だから、そんな暇がないんだって!」
「鈴。もう遅いみたい」
「え?」
「なっ!」
優燈の言葉でその場にいた全員が舞台を見た。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
そしたら、舞台から雄叫びを上げた大河がいた。
「な、なんなんだ。あれは?」
渚は大河を見ながら驚いている。そこにいるのは大河の筈なのに、大河じゃない。あれはまさしく首輪を解き放たれた獣だった。
私は大河に止めを刺した。
「これで私を止める者がいなくなったな」
私は大河に背を向けて、空を仰ぐ、後はレフリーが勝者を言うだけだ。
「どうだ?自分の手で大切な物を殺めたのは?」
私は自分の中に問いかけた。
・・・・・・・・・。
もう一人は何も答えない。
そりゃあ、そうか。今頃、大河に止めを刺したことに絶望を感じているんだろう。これで、当分あいつは出てこないだろう。
「くくく、これでやりたい放題だ」
爺も私のことを感ずいていたが何も言ってこなかったな。まあいい、私を止めに来た時は叩き潰すだけだ。
・・・・・・何をそんなにおかしいんだ?
そうしていると、もう一人の私が声をかけてきた。
「なんだ?絶望に浸っていたんじゃないのか?」
絶望?何故、私が絶望を感じなければいけないんだ?
「そりゃあ、そうだろう。自分で大切な人を殺めたんだから」
殺めた?私が大河を?あはは、これは面白い。あいつは死んでないよ。
「死んでない?お前、大河を殺したショックにより気でもふれたか?」
私は正常だよ。いいか、もう一人の私。あいつを殺めたいんなら、確実に首を飛ばさないといけない。
「何を言っているんだ?」
本当に気でもふれたか?
ふれてないさ。なんせあいつは私と同じだからな。
「同じ?一体それは」
「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
どういう意味だと言おうとした瞬間、後ろから叫び声が聞こえてきた。
私は驚き振り返った。
そこには確実に止めを刺したはずの大河が叫び声を上げている。
どうやら、獣が起きたようだな。
あれは私と同じ。もう一人の私が言った言葉を今ここで理解した。
「くくく、あはははは。いいね、琥牙大河。ここまで私を楽しませてくれるとは、お前は最高だ。さあ、やろう。本当の壊し合いを。私をもっと楽しませてくれ」
私はそういい、大河に襲いかかった。




