No,3 木刀とポニーテイル
お待たせしました。遅れてすいません。
バキッ!
何かが折れる音がした。いや、正確には折ったという方が正しいだろ。
「なっ!」
少女はその光景を見て驚きを隠せないようだ。
それもそのはず、なんたって俺に振り下ろした木刀を、俺によっていとも簡単に折られてしまったんだから。
「これってあんまりじゃない?」
俺は右手を振りながら少女を見た。
確かに俺は油断していて、木刀を避けることができなかった。でも、それは逆にいえば、避けることができないなら木刀を折ってしまえばいいという考えに至る。だから俺は、俺に向かって振り下ろされた木刀を自分の拳を使って迎え撃った。その結果木刀は折れ、俺の拳は擦り傷ができ赤く腫れていた。
「せっかく助けてやったのに、恩を仇で返すのは酷くないか?」
おー、いて〜。やっぱ、素手で木刀を折るものじゃないな。
「え?お前はあいつらの仲間じゃないのか?」
少女は折れた木刀を構えながら、俺から距離を置いた。
どうやら、俺をまだ警戒しているらしい。
「ああ、そうだ。あいつらとは仲間じゃない」
「証拠はあるのか?」
あー、もう、めんどくさいな。
「じゃあ、聞くがお前は起きた時に手足とか拘束されていたか?」
「いやされていなかった」
「服の乱れは?」
「ない」
「その木刀はどうした?」
「ベット付近の机にたてかけてあった」
「それで、俺があいつらと仲間という根拠は?」
「今の質問からしてないな」
少女は構えを解き、俺に近づいてきた。
「助けてくれてありがとう。私は祈植渚という。今日からこの付近にある翡翠学園に転校してきたものだ。以後、お見知り置きを」
俺は相手が名前を教えてきたのでとりあえず安心した。
「あ、自己紹介するんだ。それじゃあ、俺もしないとな。俺の名は琥牙大河。同じく翡翠学園に通っている。あ、それと、俺には敬語使わなくていいし、気軽に大河と呼んでくれ」
「わかった。それと、大河も翡翠学園に通っているのは本当なのか?」
渚は驚いたようだ。
「ああ、そうだ。ちなみに俺のクラスは2年F組だ」
「おお、さらにこれまた偶然か?私も2年F組だ」
ああ、だから、優燈が転校生とか言っていたのか。
「しかし、私は大河をクラス内で見かけていないし、話しかけられてもいない」
渚は残念そうにしていた。
何故残念がっているんだろ?
「そりゃあ、そうだ。俺、今日はずっと寝ていたんだから」
「え?」
「クラスで一人だけ、ずっと寝ていた奴がいただろ」
「ああ、窓際の一番後ろな」
「それが俺だ」
「なっ!」
渚はまたもや驚いた。
「ちょっと訳ありで、2、3日ぶっ続けで徹夜していたら、いつの間にか死んでいた。だから、俺は話しかけないし、うつ伏せして寝ていたから見かけることもできない」
「そうだったのか」
渚はようやく納得したみたいだ。
「まあ、そうゆうわけだから。これからよろしくな。何か困ったことがあったら俺に言え、相談ぐらいなら聞いてやる」
俺は渚の前に手を差しだした。
「ああ、わかった。それと、こちらこそよろしく」
渚もつられて自分の手を差しだし、俺の手を握った。
「何かあったの?」
そこでようやく、木刀の折れる音に気がついたのか優燈がリビングから顔を出した。
「いや、なんでもない」
俺はすぐに握っていた手を離し、右手を隠しながら優燈の方を向いた。
何故、右手を隠したのかというと、このことが優燈にばれると、優燈は渚に何をするかわからないからである。
「そうなの。それより起きたんだ。転校生」
そこでようやく優燈は渚に気がついた。
「ああ、そうみたい。だから、こいつにお茶を淹れてくれないか?」
「うん。わかった。大河の頼みごとなら素直に聞いてあげる」
優燈は承諾し、リビングの中に戻っていった。
「なあ、さっきのは朝瀬さんではないのか?」
渚は不思議そうに質問してきた。
「ああ、そうだよ」
「なんで、ここにいるんだ?」
「なんでって。ここに住んでいるからだよ」
「ということは、ここは朝瀬さんの自宅か?」
「いや、俺の家だよ」
「ん?いったいどういうことなんだ?」
渚は混乱している様子だ。
まあ、最初は誰だって混乱するよな。
「とりあえず、それも含めて説明するから、早くリビングに行こうぜ」
「ああ、わかった」
俺は渚を連れてリビングに入ろうとした。
ピ〜ンポ〜ン。
そしたら、玄関に取り付けたチャイムが鳴った。
ん、誰だろ?
「大河。私手が離せないから出てちょうだい」
優燈がお茶の用意をしながら言ってきた。
「はいよ。あ、渚はリビングのどこでもいいから座って待っていてくれ」
「色々とすまないな」
「まあ、あんまり気にすんな」
俺は渚をリビングに通して玄関に向かった。
「はい。どなたですか?」
「あーたーしーっ!」
外から元気な声が聞こえてきた。
「なんだ、鈴か。開いているから入ればいいだろ」
「両手ふさがって開けれないから、開けてちょうだい」
「へいへい」
俺は外から聞こえてくる声の指示通りに玄関を開けた。そしたら、野菜が入った段ボールを両手で持った少女、聖純鈴がいた。
「どうしたんだ。その荷物は?」
俺は野菜の入った段ボールを見て呆れた。
「えへへ、じーちゃんが大ちゃんの家に持っていけって」
鈴は嬉しそうに微笑んだ。
「あ〜、そうなんだ」
じーさん、気づかいは無用っていたのにな。
「まあ、とりあえずごくろうさま。疲れたろ上がっていってくれ」
「うん。わかった」
鈴は家の中に入って来た。
「あ、それと荷物は俺が持つよ」
俺は鈴から段ボールを受け取った。
「あ、ありがとう」
鈴はまたもや微笑んだ。
突然だが、さっきから微笑んでいるこいつの紹介をしよう。名前は聖純鈴といって。幼稚園の頃からの知っている女の子だ。昔は赤く染まっていた髪を短くしていたが、今はポニーテイルにしている。鈴の髪飾りが特徴だ。いつも、俺と共に遊んでいるメンバーの一人だ。
「ん?誰かきているの?」
鈴は自分の靴を脱いだ時に靴の多さに気がついた。
「ああ、今日、俺達のクラスに来た転校生がお邪魔している」
「え?どうして?」
鈴は不思議そうにしていた。
「いろいろと訳ありなんだ」
俺は説明をするのがめんどくさかったので事情を話さなかった。
「ふ〜ん。そうなんだ」
鈴はそれで納得したらしい。
「まあ、とりあえず。リビングに行こうぜ」
「うん。そうしよう」
俺と鈴はとりあえずリビングに向かうことにした。
次回予告
作《さて次はどんな話にしようかな?》
大《考えていないのかよ!》