揚羽ルート7 2人で登校と不安な気持ち
「まさか、お主が負けるとはの」
煉磨は驚きを隠せないようだ。
「ごめん。役に立たなくて」
俺は腕に包帯を巻かれながら謝った。
俺は朝早くから聖純院に来て、夜に起こったことを報告していた。
「大河。終わったぞ」
揚羽はそう言って、俺の頭を叩いた。
俺、一応怪我人なんだけど。
「ありがとう。姉さん」
俺はそう思いながらもお礼を言っといた。
「何、弟が怪我をしたんだ。それぐらい姉が治療してやらないとな」
揚羽はそう言い残し、煉磨の部屋から出て行った。
「しかし、お主が負けるとなるとワシ自ら出ないといけないの」
煉磨は真剣に考えていた。
「あれ、次に出るのは姉さんじゃないの?」
俺は不思議に思った。久々の強敵が現れたのだから揚羽が適任だと思う。
「いや、揚羽が行くと死神は出ないだろう」
「なんでさ?」
「ワシの予想だと、死神は揚羽だ」
煉磨は髭を撫でながら語った。
「実の所言うとなこの頃、揚羽は夜中になるとフラッとどこかに行くのじゃよ。しかも、全身黒ずくめでな」
「でも、姉さんなら俺に攻撃をしてこないし、第一にあいつは聖純流ではなく鬼流と言っていたんだぞ!」
俺は思わず叫んでしまった。
「わかっている。だから予想だと言っているだろう!」
俺と煉磨の間に沈黙が訪れる。
「・・・・・ごめん。熱くなった」
「・・・・・それはワシもだからお互いさまじゃ」
煉磨はお茶を一口飲んだ。
「実際のところワシも信じたくない。でも、今日の明け方に帰ってきた時に黒ずくめの服のあちこちが擦れていたし」
「そこまで、もう言わなくていい」
俺は煉磨の話が続きそうなので止めた。
「とにかく、この件は俺が引き受けた以上。俺がやる。爺さんは手を貸さないでくれ」
俺はそう言って立ち上がった。
「わかった。そこまで言うなら。ワシはもう何も言わない」
「ありがとう」
俺はそう言って、煉磨の部屋から出た。
「話は終わったのか?」
俺が玄関に向かうと揚羽が制服姿で待っていてくれたようだ。
『死神は揚羽だ』
頭の中で煉磨の声が響いてくる。
「大河?」
「・・・・・ああ、終わったよ」
俺は揚羽の声でボーっとしていたことに気が付き、すぐに返事をした。
「なら、さっさと学校に行くぞ」
「え、あ、ちょっと待ってよ」
揚羽が外に行くのを見て、俺もさっさと靴を履き揚羽の後を追った。
き、傷に響くな。
「なんだ、大河。だらしないな」
「仕方がないでしょ、一応これでも怪我人なんだから」
「そんなの怪我した内に入らない」
少しは怪我人に優しくしようよ。
「優しくしてほしいなら私に金を寄こせ」
揚羽はそう言って手を差し出してきた。
「心の中を読まないで頂戴。しかも、便乗してカツアゲなんて酷くない?」
「カツアゲではない、れっきとしたバイト料だ」
「人に優しくするだけでバイトなの?」
「もちろん。私が優しくしてあげる代わりに一分につき740円な」
「しかも分給。どんだけえげつないんだよ」
「あはは、まあ、それはさておき。お前がそんなに怪我をさせるなんて一体、どこの流派の奴だったんだ?」
「確か死神は鬼流と名乗っていたけど」
しかし、あの死鬼煉獄弾っていう技。名前が違うけどどっかで見た覚えがあるんだよな。どこだったけ?
「鬼流か。聞いたことが無い流派だな」
「姉さんも知らないんだ」
「ああ、私も今まで色々な奴を相手してきたが。鬼流というのは初めて聞いた」
姉さんでも初めて聞く、流派なんだ。てっきり、相手が強いから姉さんなら知っていると思ったのにな。
「まさか、姉さんが死神だったりして」
俺は今日、煉磨の考えを思わず呟いた。
「・・・・・」
揚羽はそれを聞いて立ち止まった。
「ど、どうしたの姉さん。いきなり立ち止まって」
俺はいきなり立ち止まった揚羽に驚きながら振り向いた。
「い、いや、なんでもない気にするな」
そう言い残し再び歩き出した。
まさか、本当に姉さんが?
俺はその様子を見て、思わず考えてしまった。
いや、絶対にそれだけはありえない。
「なあ、大河」
揚羽は突然俺を呼んできた。
「ん?」
「もし、私が死神だったらどうする?」
「姉さんが死神だったら?」
「そうだ。昨日お前が負け、そして、また戦う死神が私だったらどうする?」
揚羽は真剣な表情をしながら俺を見据えてくる。
「倒す」
俺は揚羽が真剣だったので自分も真剣に答えた。
「死神が姉さんだろうとなんだろうと関係ない。俺はただ自分の力をすべて使い倒す」
「負けたのにか」
「それは俺が弱かっただけのこと、俺が死なない限り何度でも倒しに行く。ましてや、それが姉さんならガキの頃みたいに何度でも立ちふさがって止めさせてやる」
「あははは、楽しみにしているよ」
揚羽は俺の言葉を聞いて笑った。
「うん、楽しみにしていたよ」
俺も釣られて笑った。
でも、俺はその笑顔とは裏腹に不安を感じていた。
姉さんが死神?それだけは絶対に嫌だな。
次回予告
作《次はまた戦闘になります。大河は治療の為、お休みです》




