揚羽ルート2 昼休みの屋上で
「お前なんか産まれて来なければよかったのよ!」
それが私の親の最後の一言だった。
私の力が強すぎるあまりに、誤って親を傷つけてしまい言われた言葉。
私はその頃の記憶があまり無いけれども、その言葉だけはよく覚えている。
本当は忘れたいのに、忘れられない一言。
この時の私はどれだけ傷つき、どれだけその親を憎んだんだろう?
今にして思えば、あの時から親は私に恐怖を抱いているのがわかる。
年齢とは等しくない自分の力に。
だから親は昔、お世話になった人に私を預けたのだろう。
自分たちの身を守る為に。
「ふうー、悲しい現実だな」
私は過去を振り返るのを止め、ゆっくりと眼を開けた。
暗闇を街灯が照らし、今宵も狩りの時間が始まる。
そう、思うと体が疼いてきた。
「ちっ、この頃ペースが速くなってきているぞ」
倒しても倒しても、飢えが満たされない。
それどころか着々と自分の意志とは反し、力が押さえられなくなってきている。
あいつのことを言えなくなってきてるな。
「まあいい。さっさとやって、さっさと終わらそう」
私は自分に言い聞かせ、暗闇の中に自ら進んで行った。
「えーと、今日はスポーツ大会の話をします」
教壇に立ちながらクラスの委員長が説明をしていた。
「競技はいろいろありますが一人一回必ず出てください。それでは、一つずつ競技を言っていくので手を上げてください」
委員長はそう言って一つずつ黒板に書かれた競技の名を読み上げていった。
「ねえ、大ちゃん」
前の席の鈴が俺に話しかけてきた。
「ん?」
「大ちゃんは何の競技に出るの?」
「武道大会」
「あ、やっぱり?」
「ん、つか出ろって隼先生に言われた」
俺は出る気が無かったのに。出なければ単位をやらないと言いやがった。職権乱用じゃないか?
「あはは、隼先生なら言いそうだね」
まったく迷惑な話だ。
「なあ、武道大会ってなんだ?」
渚が俺と鈴の話に入って来た。たぶん、武道大会に釣られたのだろう。
「そのままの意味だよ。翡翠学園は、この学園は先生生徒問わず誰が一番強いのか決める大会があるんだ」
「ほう、それは興味があるな」
「なら、出れば?クラスの奴必ず五人まで出なけ」
「出る」
渚は即答した。
決断早っ!
「大ちゃん。あたしも」
鈴も手を上げてきた。
「つか、俺に言わないでその競技の名が呼ばれたら手を上げろよ」
俺は武道娘二人から視線を外し、空を見上げた。
・・・・・姉さんもやっぱり出るんだろうな。
「当たり前だ。ジジイに出ろと言われたからな」
昼休み、屋上で昼寝していると姉さんがやってきたので、武道大会のことについて話していた。
「ああ、姉さんもか」
「姉さんもということはお前もか?」
「俺の場合は隼先生だけどね。ところでさ、来た所から言おうと思ったんだけど」
「なんだ?」
「スカートの中、見えてるんだけど」
俺は寝ころんで、姉さんが俺の頭の上で仁王立ちしているので見えちゃってわけだ。
「知っている。見せているんだからな」
揚羽はそう言ってスカートの裾を持ち上げた。
今日は黒に紫か。
「いや、つか、なんで?」
「日頃からのお礼だ」
「恥ずかしくないの?」
「すごい恥ずかしい」
揚羽が少しだけ顔を赤くしているのがわかる。
「じゃあ、止めようか」
「だな」
揚羽はそう言って俺のお腹を枕代わりにして寝ころんだ。
「ああ、気持ちいいな」
「いや、なんでそこに寝るの?」
「どこに寝ようと私の勝手だ」
すんげー、我が儘だな。まあいいか、姉さんの我が儘は今に始まった事ではないし。
「・・・・・なあ、大河」
「ん?」
「お前は最近、自分の力を制御しきれているか?」
「うん、まあ、一応、制御しきれているよ。それがどうしたの?」
「いや、何制御しきれていなかったら、お姉さんが手厚く相手をしてあげようと思ってな」
「心から遠慮させてもらいます」
「そうゆうなよ、この頃相手がいなくてつまらないんだよ」
「それってただ暴れたいだけじゃないの?」
「そうともいうな」
はあー、やれやれ姉さんには困った者だ。
「言っとくけど、俺はやらないよ」
「何故?」
「面倒だから」
「なら、私と遊べ」
「はあ?」
どういうこと?
「だから、選べ。私と稽古をするか、私と遊ぶか」
「え、それって絶対?」
できれば、ずっとこうしているを選びたいんだけど。
「うん、絶対」
揚羽は起き上がり俺に向けて微笑みかけてきた。
「じゃあ、そうだな。俺は」
俺は選択をした。
次回予告
作《次回、大河はどっちを選択するんでしょうか?》
大《どっちでもいいです。結局俺が損をするんだから》
作《損?なんのこと?俺はただ揚羽と一緒に楽しんでほしいだけだよ》
大《楽しむ?あれのどこが楽しんでいるんだ?》
作《揚羽が楽しんでいるじゃん》
大《主人公を楽しませようよ》
作《ごめん。無理》
大《なんで?》
作《俺的にヒロインを幸せにさせたいから》
大《なんじゃそりゃああああ!! 》




