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極楽鳥花  作者: 無印ブン屋
1/1

1.夢を理想に、夢をこの手に

初心者が1年ぶりに作品にしたものです。稚拙な文となってしまっているものと思いますが、温かい目で見守ってください!

どんな魔法だって簡単に解ける。どんな夢だって簡単に覚める。偽りの存在はいつだってそこにある。そこにあるだけで僕を惑わせているのだ。さんざめく初夏の憂いな陽を全身に浴びながら、僕は実家へと帰省するのだった。


春の名残を感じる夏の夜、暑苦しい風を全身で感じることにもそろそろ飽きてきたところだ。蝉の唄声が耳にこびりつき、遠くに見える街の光がやけに眩しく見えた。


将暉(まさき)、おかえりなさい」


背後から凛とした美しい声が聞こえてくる。久しぶりに聞く彼女の声、ただただ心が落ち着く。


(すい)、ただいま」


この何気ない会話が心に染みる。実家のドアを開け、靴を脱ぐ。久方ぶりに会う両親は、変わらず元気そうで安心した。そのまま自分の部屋まで足を運び、荷物を解いてから、翠と共に腰を床に腰を下ろした。


「いつぶりかしら、こうして二人で会うのは」

「僕が引っ越して以来だから、1年以上前のことになるんじゃないかな?本当に久しぶりさ」

「元気そうで安心したは、あなた、独りになるとすぐに寂しくなって、寝てる時唸されるんだから」


僕たちは笑い合った。幸せだ。この幸せをどれほど待ち望んだことだろうか。仕事の関係で都会に引っ越すことになり、慣れない生活の中で、不安に押しつぶされそうな毎日だった。けれど、彼女がいたから、待っていてくれたから、僕は今でも頑張ることができている。翠には頭が上がらないな。


「今日はどうする?泊まっていくか?」


僕はそう翠に問いかける。彼女は少し考えたような表情を見せていたが、やがて


「いや、今日は帰ることにするよ。お母さんも心配するしね」

「わかった。また明日会おう」


「うん」と一言言ってから翠は立ち上がり部屋を後にした。沈黙が訪れる。やはり独りは寂しい。家の隣にある田んぼから、蛙の声が聞こえてくる。その蛙の声すらも、何か僕に何かを伝える、いや罵ってるように聞こえてしまう。寝よう……入浴を済ませてから、僕はすぐに布団に入った。


ーーーーーーー


僕は黒い空間に立っていた。いや、ここが空間であるかなど、確認する方法など何もないわけなのだが。僕はつい先ほど眠りについた。だが、これほどまでに意識はハッキリとしている……夢、なのだろうか。わからない。


それから数分の時が経つと、正面の方向から何か夕日のようなものが現れた。不思議に思いながらも、興味をそそられたため、近づいてみることにした。少しづつ光は大きく、ハッキリとしたものになっていく。そして、僕を丸々包み込めそうな大きさの、夕日にも似た何かが目の前に現れた。


「何だこれは」


優しく僕の心を惑わせ、舐めまわし、囚われたら二度と抜け出すことのできない甘さすら感じさせるその物質は、まるで麻薬のようであった。


得体の知れないものへの興味と恐怖、二つが混ざりあっていく。だけれども、今ここで行動しなければならない。そんな気が僕はするのだ。

腹を括り恐る恐るその()()に触れる。

次の瞬間その物質は爆ぜ、僕の全てを閉じ込めた。


ーーーーーー


僕は音楽が好きだ。誰よりもそれを愛し、誰よりも努力している。僕には幼少からの夢があった。音楽で世界中の人々を笑顔にするという夢が。


この夢をあなたは笑うだろうか?僕には一つだって才能なんてものはない。美しい声、突出した音楽センス、何もかもが足りていない。


ただ努力するだけでは変えることのできない壁、これを自覚し始めた頃からだろうか。僕が僕を嘲笑い、なにもかもが馬鹿らしくなって、夢がただの理想になって。


それでも僕は練習した。モチベーションがあったわけではない。強いて言うなら使命感や長年のある種癖のようなものであった。


そんな時僕は出会った。僕を変質させてくれる人、僕を受け止め、唯一認めてくれた人。この出会いが僕が正しく歩むことがでた理由であり、誤ちを犯した要因であるのかもしれない。


昔から路上ライブが好きだった。街を流れゆく人たちを眺めながらギターをかき鳴らし、人々を魅了する。


いや、魅了なんてできていなかったのかもしれない、それでもその時にしか味わえない煌めきは、少なからず僕自身を魅了していた。


ある、満月のとても綺麗な夜だったのを覚えている。僕はあいも変わらず弾き語っていた。誰も足は止めてくれない。


「それでは、今日最後の曲にしたいとおもいます」


僕は時計の針が一周したのを確認すると、そう告げた。その時、コツコツと歩み寄ってくる女性の存在に気がつく。


「あなた、とっても素敵ですね」


一瞬心臓をキュッと掴まれ、血が止まったような感覚に陥る。それから直ぐに一瞬堰き止められたように感じられた血が、勢いよく身体中に巡り、熱を帯びていくのを感じる。


「あ、ありがとうございます…その、あまり音楽には自信がなくて、好きなんですけどね」


僕は返すだけで必死だった。音楽に全てを捧げてきた青春の時代、異性との会話など最低限しかしてこなかった。


女性はニッコリと微笑み、こちらの目を真っ直ぐに見つめてくる。


「そんなことはないですよ!長い間努力してきたのがわかりますよ!私も音楽やってるのでわかります!」


正直、涙が溢れ出そうになる瞬間だった。目を見て純粋な気持ちをぶつけられる、これほど気持ちがよく充実した時間は、過去を振り返っても、そうあるものではない。


「その、もし良ければ来週も来てくれませんかね?ぼ、僕は週に一回、ここでライブしてるんです!」


ダメ元での誘い、ロマンがないつまらない男の誘い、それでも彼女は笑顔を崩さず、一言


「必ずきますね!」


そう言い残して、その場を後にした。余韻に浸りつつ最後の曲を歌いきる。これほどまでに充実した気持ちでライブを終えるのは初めての経験だった。


後の一週間は久しく感じてこなかった音楽に対する情熱、これを少し取り戻していた。使命感ではなく、自らの意思でギターを取り、新しい曲にも手を出し、路上ライブを心から楽しみにしていた。


あっという間に1週間という時間は過ぎ去っていき、生活の一部といっても過言ではない路上ライブの日、ルーティーンで一口麦茶を飲む。深呼吸をし、駅へと歩みを進める。


いつものようにギターを取り出し、挨拶をする。リクエストに答えつつ、自分の得意とする曲も演奏していく、気持ちを込めて、情熱を込めて、いつもより激しく、今出せる自分自身の力を振り絞る。


いつも誰も見向きもしない、指を刺され笑われる演奏をする日もある。けれど、今日は違った。


5.6人の人が歩みを止め、僕の歌を聞いてくれている。少ない人数かもしれない、駅を歩く人の数はその何十倍、何百倍のである。それでも、自分を見てくれる人が多くいる。


その事実が僕の胸の中にあった固結びになった糸を、少しずつ緩くして行っているような感覚をヒシヒシと感じていく。


真ん中では先週の女性が笑顔でこちらを見ていた。曲が終わるたびに誰よりも大きく手を叩き、流行りの曲をリクエストしてきてくれる。


それが僕は嬉しくて、暴れる心臓の鼓動を必死に沈めるように深く息を吸う。気持ちのいい時間は、あっという間に過ぎていってしまうものであった。


時計を確認すれば、もう1時間が過ぎようとしていた。


「今日はこれくらいで終わりにさせていただきます!今日はありがとうございました!ぜひ来週も来てください!」


最終的に15人近い人が、僕歌のために止まってくれた。そして、この前の女性は最初から最後まで僕の演奏を聴き続けてくれていた。


少しずつ帰路につき始める観客たち、ホッと一息ついていると、この前の女性が近づいてくる。


「今日の演奏も素敵でしたよ!ふふ、やっぱ光るじゃないですか!」


手で口元を隠しながら、クスクスと小さな笑顔を見せてくる彼女は、とても眩しくて、直視できなかった。


「おかげで、その、熱を取り戻したと言いますか?その、ありがとうございます……」

「これはあなたの実力だよ!私はただ好きって言っただけ!」


僕がそう答えると、彼女はすぐにフォローを入れてくれた。数秒の沈黙の間、俯きながらマゴマゴとしている僕に、彼女が質問をしてきた。


「あなた、名前は?」

「名前ですか…えと、相川 将暉(あいかわ まさき)です」


彼女は目をまん丸くしながら、笑う。


「ふふ、恵比寿さんだね!私はね、蝉川(せみかわ) (すい)名前で呼んで大丈夫ですよ!」


元気一杯に彼女はそう答えた。


「その、翠さん?聴きたいんですけど、なんでバカなんかな歌なんかな気を止めたんですか?」


彼女は、斜め上を見つめ見つめながら「うーん」と唸る。そして、納得したような顔をして


「女の勘ってやつかな?なんか話しかけたくなっちゃったの」

「そ、そうですか」


可愛らしく喋る翠さんにドキリとし、言葉に詰まってしまう。そして翠さんは何か迷っているような雰囲気を出し始めていた。僕は気になり話しかける。


「え、えっと、うーん、どうしよう、うーん」

「え?あーと、なんでしょうか?」


うーうーと唸りなが、自身の頭をポンポンと叩く翠さん。そして「よし!」と小声で言った後、こちらを向きながら一言


「ねぇ、私と一緒に音楽をしない?」


この一言が僕の人生を大きく左右することになる。そのことを知るのは少し後になってからである。

どうだったでしょうか?5話以内に完結させる予定なので、是非興味を持っていただけたなら、ブックマーク、評価の方をよろしくお願いいたします。

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