プロローグ
是非見てください。
「あぁ〜かったりぃ〜」。
なにもかもがかったるいと思ってしまう今日の朝。
いつも通りに学校へ向かっている俺こと一朗は何気ない日常、当たり前の日々を謳歌しながらも刺激を求めていた。
「おはよぉ〜ってあれ?一朗相変わらず死んだ魚の目をしているね?」
ボブカットの髪をサラサラと揺らしながらそう言うのは俺の数少ない友達であり幼馴染であり同級生でありJKの七那だった。
「刺激がないからな。つまらない気持ちが限界値きてる。」
そう言うと七那は「なにそれ」と言いながら笑っていた。
やっぱり可愛いんだよな、七那は。
俺は幼馴染だから可愛いとは思っても恋心なんてものを七那に抱いたりしない。そりゃあそうだろ。ずっと遊んできた仲なんだ。家族みたいなもんだと思ってるからな。
だから皆の気持ちが分からないのだ。
なんでだろう、周囲の男子達の目が怖い。可愛い、明るい、優しい、気配り上手とヒロイン力たっぷりだから男子からまぁモテるモテる。だから俺という存在が気に食わないのだろう、親の仇みたいな目で見てくるのだ。たまにある殺害予告の手紙が靴箱にあったりするが俺からしたらコ○ンの事件の頻度くらいだから刺激にならない。
だが本当にかったるいな、今日は。一段とかったるい。誰かが俺の肩に乗っかってるかのように足が重く、瞼が重たい。視界が周り始めたその時、俺の意識は遠くなっていった。
遠くになるに連れて聞こえてくる七那の声。俺の名前を繰り返し繰り返し呼んでいる。
いるよって言いたいけど口から言葉が出てこない。脳は動いてるのに体が言うこと効かない。
あ、これって死ぬってことなんだな。そう思った瞬間、なにもかもが楽になった。
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目の前にあるのは見知らぬ天井。それに、半開き状態でしか見えない。手は指先しか動かない。何かを聞き取ることも難しくなっている。だってさ、俺の隣には誰かいるんだぜ?何か話してるようだけど聞こえない。匂いを感じないんだから鼻も機能してないのだ。
「ここはどこだ?」と思うことしかできない。。。
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私、七那は心が追いついていない。マラソン大会に出場してる優勝候補の選手が今の状況だとしたら私の心は一般参加のアマチュア選手だ。
なんでそこまで追いついてないのか。理解できるのは一朗が『不死病』という病気にかかっているということだけだ。
一朗を診断した医者は私と救急隊員によって呼び出された母親に向かってこう説明する。
「『不死病』というのは言わば『治療不可能な死病』なんです。今、全世界の12歳以上18歳未満の少年少女の間で流行してる病気なんです。レベル3まであるのですが、一朗くんはレベル3。末期状態なんです。レベル1はイライラや寝不足になったりする程度なんです。レベル2になると発熱や嘔吐などの症状が見られます。そしてレベル3。なにも感じなくなるんです。五感が失われるんです。手足、耳、目、鼻、味も動かないし感じなくなっていくんです。」
「ということは、家の息子は、一朗はその五感が完全に失った瞬間…」
「はい、完全に失った瞬間に亡くなります。」
先生は苦虫を噛み潰したような顔をしながら説明してくれた。
え?一朗死んじゃうの?いつも一緒にいたのに。当たり前が無くなる瞬間はいつも突然なんだと実感してる。あぁ、もう…会えないんだな。
私も一朗のお母さんも涙が止まらなかった。その時、先生が「あまりおすすめはできませんが」と前置きをしあることを教えてくれた。
「治療法が確立されてる時代まで冷凍保存させるという方法があります。」
「具体的に教えて頂けませんか?」とお母さん。
「分かりました。まず不死病患者に適応したカプセルを用意しそこに冷凍保存します。安心してください。政府管轄の研究所にて保管と研究を続けていきます。」
「でもそれって、私達が亡くなった後に治ったりするってことですよね?」
「はい。いつになるかは分かりませんが治せない病気は無いと私は考えています。この提案ができるのは日本でも限られた病院の先生達のみなんです。前置きしましたがおすすめはできません。もしかしたら研究段階で亡くなる可能性もあるからです。ですが、治してみせます。僕じゃなかったとしてもこれを知る誰かが、いや僕の意志を継ぐ誰かが必ずあなたの息子さんを治してみせます。」
その言葉に感化された一朗のお母さんは震えた声で「お願いします。」と先生にお願いした。私はというとあまりおすすめできないって保険かけてるし何よりも私がおばさんになってる頃かはたまた亡くなってる頃に一朗が目を覚ますのが嫌だからあまりいい顔ができずにいた。
その後、一朗のお父さんも来て事情を説明。了承を得た上で準備に動いた。私は一朗の家族じゃないから準備をしてる段階で家に帰ることにした。
ここで痛感するのは当たり前なんてない日常と本当に大事な時に一緒にいられない現状。
家に帰るのが辛いな。ただ歩いてるだけなのに。
もっと早く伝えればよかった。もう一度でいいからあの日常に戻って欲しい。
来世はもっと早くに決断を下してほしいな。だって『好き』なんて気持ち伝えずにいたら後悔するもん。
もしも今、願いが叶うのなら生まれ変わって今の私よりももっと一朗を分かってくれる女の子になって目を覚ました一朗と一緒にいてほしい。
「明日からの日常がつまらないよ、一朗。」
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「·····て」誰かが俺に言っている。でも起き上がれないんだ。手足の感覚がほとんどないんだ。
「·····きて」だから誰なんだよ。さっきから。俺は五感が動かないの!
「起きて、『今』を受け入れて。」
「だから誰なんだよ!」
そう言って俺は起き上がった。全裸で。
って!えぇぇ!!全裸でなんで寝てたんだよ。つかあれ?手の指も足の指も動く。関節も曲がる。頬をつまめば痛い!これは夢なんかじゃないんだ。
でも、俺が寝ていた部屋は真っ白な部屋だった。辺り一面どこまで広がってるのか分からないくらいの部屋。
久しぶりに歩くっていうのにふらふらしたり変な感覚に陥ったりしない。逆にそれが怖かったりしたが五感を失っていきながら沢山の後悔をしていたあの時に比べればなんてことない。
俺はコールドスリープするってなった時にはもう九割くらい感覚を失っていた。準備中に母から不死病患者だと教えられて理解したのだ。コールドスリープすることもその時に教えられた。泣きながら見送る両親を微かだが覚えている。
あの時に伝えれば良かったな。「ありがとう」って。
少し後悔しながらこの真っ白な部屋を探検してみる。が、本当に何も無い部屋のようだ。
「これからどうしよっかな〜」とボヤきながら振り返った瞬間に気づいた。俺はこの部屋に一人っきりじゃなかったのだ。その証拠に暗い青髪をした長髪の女の子がいる。髪の長さはくるぶしくらいまであるその子は「やっと気づいた。おはよう、我が契約者」と言ってきた。
ん?契約者?なんだそれ?
「契約者ってどういうことだ?俺はなにも契約してないぞ。それにここはどこだ?早く出たい。」
「質問が多いな、我が契約者よ。取り敢えず一つ一つ説明していこう。」
そう言うと彼女は俺に『今』を教えてくれた。
「契約者の両親はもう存在しない。無論、友達達もだ。」
「今は西暦七千年。契約者が冷凍保存されたあの日から一ヶ月後に『聖戦』と呼ばれる戦争が起きた。それは九人の魔女対人類との大戦で人類は魔女全員を封印することに成功するのだが被害が大きくてな。事実上負けたのだ。文明は崩壊し世界総人口の七割は死んだのだ。だが、魔女達の封印によってある力を人類は手に入れるのだ。それが『魔法』。魔法という非科学的な力を手に入れた人類は魔法や文明の発展を進めていき、このようなことが起きないように尽力を尽くした。『空白の三千年』と言われる発展時代を経て今がある。」
「つまり、その三千年があるから…はぁ?つうことはだ。俺の住んでいた時代から何年後の未来なんだ?」
「三千年は七千年に含まれてないから、契約者の時代から考えると…一万年後だ。」
へ、へぇ。一万年後ね。そりゃあいないわけだ。逆に生きてたらちょっと引くわ。つかなに?魔法って。夢じゃないのは分かってる。けど夢の中で夢を見てる気がしないでもないぞ。いやいや、ちょっと待て。一万年後の世界なんだろ?魔法なんてものが存在してるのだろ?やべえじゃん。俺、魔法使えないよ?どうやって生きていけばいいんだよ!
「まぁそうカリカリするでない。契約者よ、あとは自分の目で確かめるとよい。私はお前のそばにずっといるから安心せい。」
「いやいや!ちょっと待て!俺が着替えてる時もお手洗いに行ってる時もあなたいるんですか!?その時くらいは一人にしてくださいよ!」
「できぬ!なぜなら私と契約者は契約を結んでおるのだ。契約者の考えてることも感情もなにもかも分かるのだ。それに契約がある。よって離れられん!」
なんなんだよこの女は。無茶苦茶言ってくれるじゃないか。もう怒った。俺は怒ったぞ。今からこの女を殴る!
「そんなことはさせん」と彼女が言ったと同時に部屋の天井が開いた。まるで箱を開けるかのように。天井が開いたと同時に側面が開いた。あ、俺ってこんな所にいたんだなと実感する。
俺は白い部屋にいたんじゃない。内側だけ白く塗られた大きな箱の中にいたのだ。その箱はというと遥か上の空にあったみたい。俺?俺は今「うわああああああ!!!!死ぬぅうううううううう!!!!!」空を飛んでいる。やばいやばいやばい!死ぬ死ぬ死ぬ!!
地面に叩きつけられる!と思った瞬間、パラシュートみたいなのが開きゆっくりと着陸。危なかった、マジで死ぬと思ったわ。って、あれ?パラシュート持ってなかったよな?
「持ってないのになぜパラシュートみたいに着陸できたんだと思ってるでしょ?今のは私の魔法でパラシュートのようにゆっくりと着陸できるようにしてあげたのよ。」って言いながら腕を組んでドヤ顔をしてる。
「そんなことができるのならもっと早くしてください!!」
こいつ、怒ったのにも関わらずそんなことでキレるなんて器の小さい人ねみたいな目で見てきやがる。
どんな仕返しをしてやろうかと考えてる俺に向かってこう言ってきた。
「私の名前はアンノウン。契約者にしか見えないわ。私はサポートしかできない存在だけどよろしくね。」
そう言えば名前知らなかったな。まぁさっきのことを忘れることはできないが流すことはできる。
「俺の名前は一朗。山田一朗だ。これからよろしくな。」
握手を交わした俺はこれからの生活にワクワクしていた。このムカつくけどどこか憎めない彼女、アンノウンと新しい世界での生活が始まる。
読んでくださりありがとうございます!




