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File.3 会者不別

 かけるつもりはなかった、かけてしまったら心が揺らいでしまいそうで、かけてはいけないと思っていた彼への電話は、結局間違えてかけてしまっても誰も出なかった。

 期待していたわけじゃないと、思いたいけど、ああいや、自分がそんな人間だとは思いたくないけど、ああ、だったらやっぱり、期待していたのかな。どうなんだろ、わかんないのかな。自分のことなのに?

だめだ、思考がまとまらない。頭の中身がめちゃくちゃだ。ぐちゃぐちゃだ。めちゃくちゃのぐちゃぐちゃだ。

 まとめたくもない。こんな脳みそ腐って仕舞えばいいと思う。そしたら、こんなことも考えなくていい。

 死にたくないとも、思わなくていい。

 ああうんやっぱり死にたくないなあ。死ぬの、やめよっかな。そしたらここに入ったの、なんて言い訳しよう。怒られるのは嫌だな。

 いや、死ねば怒られないのか。ああじゃあやっぱり、死のうかな。

 いやそうじゃないや。何にしても死ぬんだ。

 死ぬんだ。死ぬんだ死ぬんだ死ぬんだ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死……………。

 ああ、頭使うの、疲れた。




 3回目が間に合ったからって、それがどうした。自殺なんだから違うんだって、言ったのは誰だ。僕だ。

 言ったのに、わかってなかった。

 僕は4回目に、間に合わなかった。

 いや微妙なラインなのかな。彼女は死ななかったんだから、間に合ったと言ってもいいのかもしれない。

 でもこんな醜態で、間に合ったとはいえない。言いたくない。そんなこと言ったら、逃げみたいなものじゃないか。

 後出し、回答の書き換え、立派な反則だ。何の話だ。

 あのあと僕は家を飛び出して、僕の母校。つまりは、彼女の通う中学校に向かって走った。何か確信があったわけじゃない。曖昧な、予想があっただけだ。

 彼女は家を大事な場所と、学校を嫌いな場所と思っているんじゃないかと思ったからだ。彼女が学校に行っていないからという、曖昧極まりない理由だった。そもそも、本当に学校に行っていないかもわからないのに。

 あとそうだ、なんで嫌いな場所で死ぬと思ったのか。

 彼女は多分、死にたくないと思っていたから。理由は、自殺するときにスマホを持っていたから。

 自殺を止めて欲しい人は直前まで通信機器を持っていてしまうものなのだと、どこかで聞いた気がしたからだ。そしてあと言うなら、僕がそうであって欲しいと思ったから。いや、これは関係ないのか。

 ああ、そういえば死にたくなかったら何で嫌いな場所で死ぬのかと言う話をしていなかったか。

 これこそ一番曖昧で、バカみたいな予想だ。

 自分が死ぬなら、好きなものに囲まれて死にたいと思ったからだ。逆の時は逆なんじゃないかという、単純な話だ。

 あとついでに言うなら、親のことが好きなら親の前では死なないだろう、という話。親のことを好きだという証拠は何もなかった。

 本当に、憶測や予想ばかりだった。それでも、それが当たってくれたのは助かった。

だけどそれでも、間に合わなかった。

 僕が来たときには、彼女はもう首をつっていた。屋外で、木の枝を使って首をつっていた。

 そこから僕は彼女を下ろしたり、息を確認したり、救急車を呼んだり、そういうことをした。そうとう慌てていたのにこんな事が出来たのは、僕の二面性のおかげか。不気味だとは思うけど、この時ばかりは不気味さ以上に助かったところが大きい。

 不在着信から40分以上たっていたのに彼女が生き絶える前に来れたのは、彼女も直前まで迷っていたからなのか。もしそうなら、あんなことを実行させてしまった僕はやっぱり、少しも間に合ってなんかいなかった。

 僕はまた、間に合わなかった。

 僕は彼女の病室の前で、スマホを手にため息をつく。

 このスマホは、僕のものではない。僕のスマホは、今通話中で、使用中だ。このスマホは、彼女のものだ。救急車が来る直前に、見つけたのだ。

 画面はバキバキだったけど、壊れてはいないようだった。とっさに取ったまま、まだ返していない。

 通話中にため息つかないでよ、と、悪い口調ではないのになぜか乱暴に聞こえてしまう、姉の声が耳元に響く。姉は、僕の奇跡のことを知っている、唯一の人だ。

 まあ彼女も信じているかはよくわからなかったし、正直なところ、本当に僕自身も心の底から信じていたのは怪しい。なんだかんだといって、自分でも心の底では全て夢だったと思っていたのかもしれない。

 まあ今となっては、流石に信じているけれど。

 姉が言葉を続ける。要するにあんたがもの盗んでそれ返すための勇気が足りないって話でしょ、と。

 違う。断じて、違う。そんな話じゃなかった。自分で言うのも何だけど、これはもうちょっとシリアスな話だったはずだ。

 でも盗んじゃってるのは変わんないじゃない。ほら、さっさと返しに行きなさいよ、と、姉が急かすように言う。

 僕が、でも、と渋っていると、彼女は向こうでため息をひとつついて、呆れたように言う。

 僕にとって一回だって許されるべきではなかった間違いを指摘して、傷をえぐるみたいに。

 もしくは、なぐさめるみたいに。


 5回目まで間に合わないつもりか、と。


 姉はそう言った。僕は礼を言って、通話を打ち切る。頼りになる姉だ。ああいう風に頼り甲斐のある人間に、僕もなりたいものだ。

 そんなことを考えながら、僕は彼女の病室のドアをノックした。

会者定離アウモノハナレルサダメ

会者不別アウモノワカレズ


成り行きは人の心次第、とも。

因みに自転車は盗まれてました。

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