襲撃
自転車で飛ばすこと10分、僕らは圭たちがいると思われるその公園につき、周辺を見渡した。
急いでいたから、二人とも息が上がっていた。
「あ、あれ。」
唯の指さす方を見ると数人の人影が公園の端の方に見えた。
バットを構え走って近寄っていく。
立っている人影が4人。地面には3人男女がのびていた。
「けーい!」
立っている4つ人影のうちフェンスの柵に追い込まれている2人の人影は見覚えがあった。
圭と響ちゃんだ。
圭は腕をおさえ、肩で息をしていた。
「ゆ、唯ちゃん。」
響ちゃんの方が僕らに気づき唯の名前を呼んだ。
他の2人も慌てて僕らの方を振り返った。
「ま、まずい。ど、どうするのよ。」
「女、一人のはずだったはずだぞ。赤星がいるなんて聞いていないし、赤星がこんなに強いなんて・・・・・・・。今村たちも来たんじゃ勝ち目なんてないぞ。・・・・に、逃げるぞ。」
バットのようなものを持った二人の男女は分が悪いと思ったのか地面で伸びている仲間たちを置いて逃げて行った。
僕らは二人を追いかけず一目散に圭たちのもとに向かった。
「け、圭。だ、大丈夫。」
圭は今僕ら二人の存在に気づいたのか僕らの顔を見ると緊張の糸が切れたかのように地面にへたり込んだ。
シャツは泥や血で汚れ、目の上にはナイフで切られたのか血が垂れていた、圭が抑えていた左腕は紫色に腫れてはいたが嫌な方向には曲がっていないのが幸いだった。
「か、和樹君?」
「血が出てる・・・・いま救急車、よぶから。」
「必要ないよ。これくらいたいしたけがじゃないから。骨も折れていないみたい。」
「ご、ごめんなさい。私のせいで。け、圭君一人なら・・・。」
「響さんのせいじゃないよ。けが、なかったよね?」
響ちゃんがとても申し訳なさそうにうなずいたのを見て圭は微笑んだ。
二人とも無事でよかった。圭もけがはしているが大きなけがをしていないのが幸いだ。
あれだけの人数を相手にしてこれだけの傷で済んだのは圭だからできたことだろう。
それにしてもなぜこんなことに・・・いやそれより今はまず圭の手当てをしないと。
「ここにいるのもあれだから、どこか手当てできるところに行こう。」
「私の家が近くです。」
響ちゃんが圭の目の上あたりをハンカチで抑えながら言った。
「こんな時間にこの人数で行くのも迷惑じゃないかな。」
「そっか・・・訳を話すのも大変だしね。・・・あ、学校が近くだから学校に行こうか、そっちの方が包帯とかいろいろそろってそうだし。」
「学校は締まっているんじゃないんですか。」
「一つ、鍵が壊れているところがあるんだよ。そこから入ろう。」
「ほら、圭たてる?」
圭のもとへしゃがみ肩を貸した。
圭は素直に腕を肩にかけ、ありがとう。とだけ言い立ち上がった。
「どこの鍵が開いてるの?」
夜道で静かだったのが怖かったのか、それとも空気が重たかったのか唯が沈黙を破って聞いてきた。
「1年3組の教室の窓の鍵が壊れているんだ。僕ら1年のときそのクラスだったからその時に知ったんだ。」
「へーー、修理とかはしてないのかな。」
「たぶん、大丈夫。先生は知らないと思うから。生徒が気づいても黙てるんだ。」
「け、警備員とかがきたら・・・。」
「心配ないよ。響ちゃん。警備員がくるのは9時だから。ね、圭」
「え、あ、うん。」
「なんでそんなに詳しいんですか?」
僕が黙っていると圭が答えてくれた。
「えーとね、昔僕たち5人で肝試しに行ったんだ。その時にね。」
「そ、そうなんですね。」
いやーあの時は大変だったなー。鍵が壊れていたことをいいことに肝試しをやろうってことになったけど、警備員に見つかって鬼ごっこをすることになったからなー。
その日の犠牲者は悠大だった。
警備員に腕をつかまれた悠大。
お前の犠牲は無駄にしない。と僕らは涙ぬぐいながら夜の学校を脱出したのだ。
映画のような感動的な夜であった。
次の日、捕まった悠大が僕らのことをチクりやがって大目玉だ。友達を売るなんてひどい奴だ。
ん、僕らも悠大を見捨てて逃げたって?それは、悠大が僕のことはいい、先に行けって言ったんだよ。 僕にはそう聞こえたの!
それにしても、圭と響ちゃん気まずそうだな・・・。会話をさせようとしたけど続かなかったなー。
せっかく前まではいい感じだったのに・・・・・・
そうこうしているうちに学校に着き、1年3組の教室から学校内に侵入した。
「えーと、あったよ、包帯。・・・・あ、消毒液も。」
保健室に着き唯と響ちゃんが薬棚をあさっていった。
「電気、つけちゃったけど見つからないかな。」
「ここの保健室は幸い外からは見えにくいところにあるから大丈夫だと思う。」
唯が不安そうに言うのを響ちゃんが圭の手当てをしながら言った。
さすがは保健委員である。話しながらでも見事な腕前である。
そんな、保健委員の響ちゃんのおかげで圭の手当てもあっという間に終わった。
目の上も包帯がとても痛々しく見える。
「・・・・けい。何があったか話してもらえるかな。」
僕は神妙な顔で圭の目を見てただそう聞いた。
それに答えるかのようにうなずいて圭は口を開いた。
「・・・僕らが和樹君の家を出た後、響さんと帰っていたんだ。・・・途中コンビニに寄ったことぐらいしか寄り道はしなかった。 コンビニを出てしばらくしてからかな。なんというか見られているような気がしたというか、気配がするというか、とにかくつけられていることに気づいたんだ。
それで怖くなって響さんを連れて走ったんだ。
それで、公園のところで前からも来て囲まれちゃったんだ。もっと早くに撃退しようとしたんだけどねなかなか勇気が出なくて・・・。」
圭は最後の方はしょんぼりした感じで言ったが、むしろあれだけの人数相手によくやったと思う。
「相手はどんなだったんだ?」
「5人くらいいて、暗くてよくわからなかったんでけど女性もいたと思う。・・・包丁を持って襲ってきた。」
「女の人までも・・・もしかしてその目の上の傷も?」
「これは別の人だけど・・・女性を殴ってしまったよ。」
圭がまたひどく落ち込んでいる。しょうがなかったとはいえかなり自己嫌悪の陥っているようだ。
「圭さんは悪くないです。その女の人、私を襲ってきたんです。それを圭さんが・・・。」
響ちゃんは沈痛な顔でつぶやいた。
とはいえ、さすがは圭だ。5人から襲われても大事なけがをしなかった。
最も、圭が喧嘩なれしていたり、敵に女がいなかったりしたらけがもせずに済ませたことだろう。
道場内で大人を含め一番強いだけのことはある。
「今日はもう休もう。明日、先生たちが来る前にここを出よう。」
「圭君も響ちゃんも今日は大変だったね。」
「僕も今日は疲れたからもう寝るよ。・・・・お休み。」
「私も、休ませてもらいます。」
圭と響ちゃんは仰向けになりすぐに寝息を立て始めた。二人ともかなり疲れていたようだ。
「二人ともかなり疲れていたいだね。もう寝ちゃてる。」
「私たちも寝ようか。」
「そうだね。」
僕らも保健室のベットに潜り込み、保健室特有の布団の香りがするベットの中で眠りについた。
この時、僕は悠大や純、そして哲也のことなんて頭になかった・・・。
ーーーーー
翌朝。
学校を出て途中コンビニで朝ごはんを買い僕の家で食べることになった。
「昨日の今日でごめんなさい、親御さんとかは大丈夫かな。」
響ちゃんが申し訳なさそうに言った。
なんというか、この子はいつも申し訳なさそうにしているな。
「気にしないで、二人とも最近忙しいみたいで全然帰ってこないんだ。母は大きな事件でばたばたしてて、父は知り合いがなくなったみたいでその後処理で忙しいみたい。それで全然帰ってこないんだ。」
僕はみんなの分のコーヒーを入れながら笑いながら言った。 みんなといったが圭は子供でコーヒーが飲めないから水だ。
水がひどいとか言うなよ。どっかの山からとれる天然水だ。パイプを通ってきた水ではない。
コーヒーをみんなに配り自分も椅子に座ろうとしたとき、インターホンが鳴った。
「なんだろ、こんな朝早くに。」
不思議に思いながら、僕は玄関を開けた。
「早朝にすまないね。今村和樹君かな?」
玄関のドアを開けるとスーツを着た二人の男性が立っていた。
「そ、そうですけど。」
「私たちは警察でね。君に少し聞きたいことがあるんだ。学校にはこちらから連絡をしておくからちょっといいかな。」
け、警察?僕なんかしたかな・・・あ、もしかして昨日の圭のことかな。
「えーと、まぁ、落ち着いて聞いてほしいんだけどね。・・・昨日の夜、哲也君が亡くなったんだ。」
ナクナッタ? ・・・・・・は?哲也が死んだ?
「哲也君の家の近の近くでね・・・・何人かに暴行された跡があったんだ。何か心当たりはないかな。」
哲也が死んだ。昨日まで一緒にいて、一緒にゲームをしていた後輩が・・・・死んだ。少しオタクなところがあるやつ。なんで?
「和也君?大丈夫か?」
「へ? あ、はい。哲也はなんで死んだんですか。」
肩をゆすぶられ警察の方に意識を向けた。頭がふわふわする感じがする。
「大丈夫かい?・・・哲也君は複数から暴行された跡があり他殺の可能性が高い。」
他殺?あいつ、誰かに恨まれていたりしたのか?・・・あぁダメ頭が追い付かない。
「先輩、どこか、座らせた方がいいんじゃないんですか?」
もう一人の若い方の刑事が心配そうに僕の方を見ながらさっきまで話していたほうの刑事に言った。
きっと僕の目は虚ろで体はフラフラしていたんだろう。
「・・・・そうだな、和樹君、入ってもいいかな?」
僕はふらふらしながらもうなずき玄関のドアを開けた。
「ん、誰か来ていたのか。」
あぁ、そうだった、圭たちがいるんだった。・・・まぁ一緒に聞いた方がいいか。
「あ、和樹くん・・・ってその人たちは?」
3人の視線が僕と二人の刑事の方に向いた。
「えーと、この人たちは・・・。」
「はじめまして、みんなは和樹君の友達かな? 哲也君のことでちょっとね。みんなも哲也君とは友達かな?」
若い方の刑事が言葉を選びながらっといった感じで3人にゆっくりと話した。
「哲也くん?えーと、昨日も一緒に遊んでましたよ。」
「そう、そのことについて詳しく教えてもらえるかな。あ、和也君も座りなよ。」
それから、警察には昨日のことを話した。
昨日、何をしていて、何時に帰ったのか・・・。
警察の話によると哲也は昨日の夜、家の近所で殺された。通報があったのは10半頃、哲也が倒れているのを通行人が発見したらしい。すでに意識はなかったようだ。
運ばれていた時の哲也の状態はかなりひどかったらしい。
包丁のようなものでの刺し傷や切り傷、至る所にあった打撲痕。複数犯による犯行ら
しい。
複数犯・・・か。
「犯人に心当たりはあるか?」
先輩の方の刑事が聞いてきた。強気に聞いてきた。僕らの雰囲気から何か感じ取ったのかもしれない。
「そ、その、えーと」
「ほかに、・・・襲われた人はいるんですか?」
僕は圭の言葉をさえぎって刑事に聞いた。圭の顔は・・・うつむいていて見えなかった。
「・・・・いや、そういう情報は入ってきていないな。何かあるのか?」
「・・・いえ、やっぱり思い当たりないです。哲也に、会うことはできますか?」
僕は努めて表情を保ったまま聞いた。
「やめておいた方がいい。とても会える状態じゃない。哲也君にも、親族にもね。」
「そ、そうですか。」
「また来る、その時にまた話してくれ。もし話してないことがあるならな。」
しばらく沈黙が続いたのに何か思ったのか刑事はそういって帰っていった。
刑事が帰った後もしばらく誰も話さなかった。
「犯人誰なのでしょうね。・・・・昨日の人たちとは関係あるのでしょうか。」
沈黙を破ったのは響ちゃんだった。彼女自身他人事のように思えないのだろう。
疑問形で聞いたつもりなんだろう、しかし誰も答えようとはしない。もしかしたら、わかっているのだろうか。
少なくとも圭は、わかっていると僕は思う。
あ、純と悠大にも知らせておかないと。二人は襲われていないと思うけど哲也が死んだことくらいは知らせないといけないから。
「圭、悠大と純にも話さないといけないから、純に連絡してくれるか。僕は悠大に電話してみるから。」
「そうだね、純くんたちは大丈夫だったのかも気になるしね。」
圭はスマホを取り出し電話をかけ始めた。僕もスマホを持ち廊下に出て、悠大の番号を打った。
「和樹か。・・・何か用か。」
よかった、もしかしたら忙しくてつながらないかもしれないと思ったけどそんなことはなかった。 ただ、まだ少し暗いみたいだ。
「今、大丈夫かな。」
「ああ。」
「昨日、哲也っていうやつが仲間になった。って言ったよな。」
「あぁ、1年のやつか。そいつがどうかしたのか。」
「哲也が、昨日、死んだんだ。・・・・複数に暴行されたらしい。」
「・・・・そうか。」
やけに冷静だ。もっと、動揺するかと思っていた。
「動揺、したりとかしないんだな。」
「・・・今うちがこんな状況だしな。それに哲也とかいうやつとは会ったことも話したこともなかったから。・・・・・それだけなら、もういいか。」
確かに、悠大は哲也とは会ったことはない。この反応は普通なのか?
「ま、まて。えーと、きょ、今日だよね。最後に集まることってできないかな。」
「・・・・考えとく。会うことができるなら連絡するから。」
最後にそういうと悠大は電話を切った。
不機嫌そうな雰囲気が電話越しでも伝わった。
まずかったかな、父親が死んですぐに他人の死を伝えるのは・・・。
でも、まぁ伝えないわけにもいかなかったよな。そう考えながらリビングの方へ戻った。
ついに新元号になっちゃいましたね。
令和って言いにくいような気がします・・・僕だけかな(;^_^A
慣れていないだけかもしれないですねw
それはそうと、面白い、気になったっと思ってくれたら評価お願いします!
とても励みになります!
ここまで読んでくださりありがとうございました。
これからも頑張ります!!