500年前
シェヘラザードの話の続きです。
(4/28に修正して、今回のお話はシェヘラザードの語りだけに統一しました。以前は少年少女の旅の部分も今回の話に入っていたのですが、その部分は次話に移動しています。)
「ーしかしな、革命を成した者たちが自分達の行いを正当化するのは世の習いだ。
500年前にこの国で起こった革命もその例に漏れない。
美しく脚色された革命軍の活躍劇の華やかさによって、都合の悪い事柄は総て塗りつぶされたのだよ。」
一瞬だけ、少女の瞳に鋭い光が浮かんだのを見て、聞き手の金髪の少年は気圧されて微かにたじろいだ。
ほんの一瞬だけの出来事だったが、その瞳には確かに強い悲しみと怒りが見て取れた。
しかしすぐに激情はなりを潜め、少女は再び静かに話し始める。
「現在の歴史書には巫女は詐欺師だったと書かれておる。
…これもかつての権力者であった巫女たちの存在を矮小化し、革命軍の偉大さを強調するための歪曲さ。
巫女が木々や大地、川や湖と対話することができたのは紛れもない事実だ。
巫女は自然の声を聞き取ることで、その年の収穫を占い、大地に埋もれている水脈や鉱脈を探り当てた。
長い間生きる木々、有史以前から存在する大地には魂が宿っており、鋭い感受性を持つ巫女たちは、常人には感知できないそれを見ることができたのだ。」
…彼女が語るのは、巫女のいた時代―文献にはただ一言、無明時代と。女詐欺師が圧政を敷いていたとしか記されていない現王朝成立前の裏歴史。今やこの国においてなかったことにされている出来事だ。
「巫女の力は土地を富ませる、資源を効率よく得るなど有用なことにも使われたが、逆に土地をやせ細らせ、水を腐らせ、死をもたらすことにも使われた。
多くの生と死を左右する力を持った巫女は崇められ、称えられる一方で恐れられた。」
シェヘラザードは妖しく微笑む。
ランプの光がそれに呼応するように、ひと際大きく揺らめいた。
「しかし…ソロモンが権力を握ってからは、巫女は体制にとって邪魔者になったため、巫女はただの詐欺師で巫女の持つ力は偽物だということになり、巫女を名乗っていた者やその親族たちはそのほとんど全員が、正義の名の下に周りの一般人に集団で襲われ、犯され、見るも無残な方法で殺された。」
一般的に伝えられるところによれば、諸悪の根源である最高司祭でさえも正当で中立な裁きの下に首を斬りおとされたのみ。
その他の巫女たちは国を去るか、自らの行いを恥じて悔い改めたとされている。
華々しい武勇伝として語り継がれている革命物語とはかけ離れた陰惨な話を聞いて、少年は目を見開いた。
そんな出来事が丸ごと、なかったことにされてしまったなんて。
「…ここのくだりをあまり詳しく語らせるのはやめてくれ。まあそれはそれはひどい事をされたとだけ、分かってくれればいい。
北西の大陸では魔女狩りなるものがあったそうだが、それと似たようなもので、魔女狩りならぬ巫女狩りと言ったところだな。魔女も巫女も同じようなものだろうと言われるかも知れないが。」
彼女にとっても辛かったであろう出来事を、シェヘラザードは淡々と語る。
その口調は嫌に明るくて、余計に痛ましく少年には思えた。
「兎に角、巫女たちが虐殺された後は巫女の働きについて話すことも禁じられ、巫女は皆殺しにされただけでなく、巫女の能力がこの世に実在したという記憶までもがほとんど根絶されたと言っていい。
巫女の名は今では僅かに、物語の中の悪役として登場するのみだ。…と、妾自身ついこの間までそう思っていたよ。ユースフ。そなたに出会うまではな。」
少女は向かいに座る少年に向かってにかっと笑った。少年はユースフという名前らしい。水を向けられて少し照れたように苦笑した。
そう、彼には少しばかり特殊な力があり、少年と少女が出会ったのもそれが縁になっての事だった。
彼には木石に宿った魂を見る事のできる、正真正銘の巫女の力が宿っていたのだ。
登場キャラ
少女:名前はまだない。身長は20センチくらい、体重は真っ赤に熟れたリンゴ十分の一くらい?
全身が薄っすらと光輝く精霊。白い肌、黒の巻き髪、瞳は緑色。
見た目は若くても確実に500年以上は生きているので、年齢を訊いてはいけない。
古今東西のあらゆる言語に通じる。プライドが高い。
少年:ユースフ。身長150センチくらい、体重40キロくらいの人間。精霊を見ることができる。
白っぽい髪と肌、瞳は銀色。
真面目で好奇心旺盛でそれなりに喋れるが、若干寝不足気味で疲れた目をしているため、一見無関 心に見える。
集中すると周りが見えなくなるなど微妙に抜けたところがある。




