*シェヘラザードはかく語れり
初投稿になります。よろしくお願いいたします。
大好きなアラビア風の世界観を目指しました。
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砂漠の夜は更けていく。
凍てつく澄んだ空気の中、地上の灯が消えゆくにつれ、天空の星々が入れ代わりに真の輝きを放ち始める。
闇が深まるほどに星々は数を増し密度を増し、真冬の夜空は今や、まるで黒の天鷲絨に無数の宝石の欠片が輝くかのようだ。天上にひと際大きく輝く月が、今宵も支配者たらんと地上に遍く光を注ぐ。
月明りが照らす砂の大地は、眠り込んだかのように静まりかえっている。
静寂の支配する砂漠の片隅で、岩陰に身を潜めるように、その粗末な天幕は佇んでいた。
黒の山羊革でできた天幕は小さくて穴だらけ。虫食い穴からは橙色の微かな光が零れている。
冷えの差し込む天幕の中では、二人の人影がランプを挟んで向き合っていた。
片方は小柄な金髪の少年だ。―なぜか左耳にだけ、緑の宝石がついた女物の耳飾りを下げている。年の頃は10代の半ばだろうか。
寒さに身を縮めながらも、その銀の瞳は向かいの人物を真剣に見据えている。
少年が細く吐き出す息が白くたなびいては、中空に消えていった。
少年の向かいにちょこんと座るもう一人の人物は、美しい少女だった。
年齢は少年と同じくらいに見える。しかし身の丈は少年よりも遥かに小さく、少年の5分の1もない。さらに奇妙なことに、全身が薄っすらと光り輝いている。
小さすぎる身長に加え、身に纏っているのはコインと銀糸で飾られた豪奢な緑のドレスだ。姫君のような装いに容姿の美しさも相まってまるで人形のように見える。
彼女は確かに人間ではない。しかし人形でもなかった。
そのことを示すかのように、少女が自身の長い巻き毛を払うと手首の腕輪がしゃらりと音を立てる。
光り輝く小さな少女は、向かいの少年が急かすように自分を見つめているのに気が付いてくすくす笑うと、古風な口調で語り始めた。
「まあ、そう焦るな。ちゃんと話してやるとも。それでは早速始めようか、他愛もない昔話さ。
―かつて、強大な力をもつ巫女たちがこの地を支配していた。
国民たちは彼女たちを神と畏れ崇め、何をするにも彼女たちの意志を仰いだ。
それをいいことに巫女たちは思いのまま、国民たちに重税を課し、搾取した富を湯水のように浪費し、贅と淫楽を極めた。
巫女の支配に耐えかねて歯向かった人々もいたが、巫女たちは彼らを容赦なく捕えて拷問にかけ、処刑台へと送った。
国民の処刑も彼女らの娯楽の一つだった。
巫女たちの欲望のまま蹂躙されるこの国のあり様を見て立ち上がったのが立法者たる初代王ソロモンである。
彼は巫女の支配に苦しむ者たちを集め、巫女たちは神ではなく、権威を傘に着ているだけの普通の人間であること、自分たちは巫女のいいなりになる必要はないことを説いた。
ソロモンの組織した反乱軍の規模は瞬く間に膨れ上がった。
巫女を畏れる者はもう誰もいなかった。
やがて反乱軍は巫女の宮殿に押し入り、巫女の首頭が掲げられた。
かくして長き夜は明け、朝が訪れた。…これが世に伝わっている500年前の革命の大筋だ。
今回は導入部分で短いです。登場人物のこいつらは一体何者なのか?読み進めていって頂けると幸いです。
できるだけ近いうちに更新したいと思います。…できるだけ。