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聖王伝  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第99話

ギルバートと将軍は、ミリアルドの率いる魔術師達と行軍していた

彼等は攻撃魔法しか使えない魔術師達で、補助や牽制などの魔法は使えなかった

それ故に、魔物を前にしたらいきなり魔法を放ち、連携など取れていなかった

森に入ってからは、暫くは何事も起きなかった

魔物の気配は無く、オーガ以外の魔物にも出会わなかった

ここで索敵の魔法でもあれば便利なのだが、そんな便利な魔法を身に着けた者などは居なかった

それ故に、索敵は斥候の兵士が出て、周囲を捜索していた


「右前方には居ません」

「正面も居ません」

「左前方に痕跡があります

 しかし周囲には魔物は居ません」


「うむ

 恐らく移動した跡だろう

 痕跡は大型の魔物の跡か?」

「いえ

 恐らくはオークかコボルトかと」

「そうか」


「どう見ます」

「そうだなあ

 オークが居たが、今は移動して居ない

 追っても見つかるか分からないし、このまま前進しよう」

「はい

 それでは引き続き斥候を出します」


指揮は将軍が出していたが、指示はギルバートが決めていた。

これは単に上下関係の問題で、指揮や指示の能力が優秀だからでは無かった。

一応指揮は執っていたが、細かい調整は将軍が執っていた。


「どうします?

 このまま出ない様でしたら、一旦帰還しますか?」

「そうだなあ

 もう少し探してみて、痕跡が無い様なら引き返すか」

「分かりました

 では、斥候には周囲の状況も調べさせます」

「うん

 頼んだよ」

「はい

 聞いたか?

 この場所を中心に、周囲を調べてみてくれ」

「はい」


兵士達が散り、周囲の状況を調べる。

その間、魔術師達は持てあましており、周囲を警戒してキョロキョロしていた。


「まいったなあ

 今日は外れか」

「そうですなあ

 まあ、そんな日もありますよ」

「うーん…」


ギルバートは昨日もアーマード・ボアが出たと聞いていたから、少しは期待していた。

しかし、結果としては魔物とは遭遇出来ず、無駄に時間を過ごしただけだった。

これでは魔術師達に訓練をさせる事も出来ない。


周囲を見回っていた兵士が帰って来て、後方の繁みから顔を出した。

兵士は純粋に指示に従い、周囲を見回してから報告に戻ったのだ。

しかし出て来た場所が悪かった。


ガサガサ

「う、うわああ

 ファイヤーボール」

ドコーン!

「うわっちい

 熱い!」


「何をしている!」

「ひっ、ひいい」

「くそっ」


繁みを掻き分けて出て来た兵士に、不意に魔術師の一人が魔法を放った。

それは驚いて放った為、直撃はしなかったが、兵士は燃えた茂みで火傷を負った。


「馬鹿もん!

 兵士に怪我をさせてどうするんだ」

「しっ

 将軍…」

「あ!」

「遅かったか」


グギャア

フゴフゴ


魔法の暴発の騒ぎを聞きつけて、魔物が近付いて来た。

森から棍棒を持ったオークが、騒いでる方へ向けて駆けて来る。


「見つかった

 戦闘準備だ」

「はい」

「右前方から来るぞ

 構えろ」


兵士達は指示に従い、右前方に向けて剣を構える。

オークが飛び出して来たら、一撃を加えようと身構えた。

しかし、そこへ無数の魔法が飛び込んで来た。


「マジックアロー」

「ファイヤーボール」

「マジックボルト」


ドス!ドス!

ズガーン!


「わっ」

「うわあ

 何するんだ」

「な、なんだと?」


飛び出して来た魔物に向かって、魔術師達は次々と、好き勝手に魔法を放った。

相手は8匹のオークだったが、過剰な魔法が放たれて、魔物は粉々に吹き飛んでいた。

魔法の矢だけなら良かったが、複数のファイヤーボールが爆発した為、吹き飛んでしまったのだ。


「こ…どういう

 どういうつもりなんだ」


「わははは

 オレ様の魔法で粉々だぜ」

「オレの魔法を見ました?

 豚が弾け飛びましたよ」

「はははは

 私の矢も、見事に刺さりました」


「こいつら…」


あまりの事に怒っている、ギルバートと将軍を他所に、魔術師達は興奮して喋っていた。

自分の魔法が一番威力があったとか、魔物を倒したのは自分だと騒ぎ出す。

そこには知性的な者は居らず、魔法の結果に興奮した子供の様な魔術師達が居た。

その有様を見て、将軍は怒りに震えていた。

いや、兵士達も怒りで真っ赤になり、手に握った剣が震えていた。


「ぎゃははは

 魔物なんてオレ様の魔法に…」

「こんなのに怖がっているなんて…」

ゴガアアア


魔術師達が興奮して騒いでいると、騒ぎに釣られて他の魔物が現れた。


グガアアア

バキバキ!


木をへし折りながら、興奮したオーガが出て来たのだ。


「へ?」

「あひぇっ?」

ゴアアアア


「ひ、ひいい」

「うるさい!」

ズザン!


怒った将軍が大きく踏み込むと、オーガの左脚に向けて大剣を叩き付ける。


グ…ガア


脚を叩き切られて、オーガはバランスを崩す。

そこへギルバートが走り込み、崩れ落ちるオーガの首に一撃を入れる。


「せりゃああ」

ズドッ!

グ…

ドスン!


「あわわわ」

「ひいい」


魔術師達はオーガを見て、半数が腰を抜かしてしまった。


「お前達が馬鹿な事をするから

 魔物が寄って来たぞ」

「まったく

 何を考えているのやら」


この時点になって、魔術師達は周囲の状況に気が付く。

兵士を始めとして、ギルバートも将軍も怒っており、魔術師達を囲んでいた。


「え?」

「ええ…と?」


「お前らは、今

 何をしでかしたか分かるか?」


「と…言いますと?」


ギルバートは溜息を吐きながら続けた。


「無意味に魔法を撃ち

 仲間である兵士達を危険に晒し

 あまつさえ、馬鹿騒ぎをして魔物を呼び寄せたんだ」

「え?」


「何で魔法を撃った?」

「そ、それは

 魔法で魔物を倒す為に決まってるでしょ」

「そうですよ

 我々はその為に来たんですから」


「たかだかオークに、あんな多量の魔法を使う為にか?」

「え?」

「ええ…と」


「オーク相手なら、数人でマジックアローを撃つぐらいでも良かったよな?」

「は?」

「あんなに魔法を撃つ必要があったのか?」

「それは…

 そのお…」


「それにな

 私は魔法を撃つ様に言ったか?」

「え?」


「本来なら、オーガに魔法を試す予定だったよな」

「あ…」

「オークに魔法を撃つなんて頼んだか?」

「い…いえ」


ギルバートはオーガを指してから、オークだった残骸を指した。


「こんな事をする為に、お前らを呼んだわけじゃあない

 兵士と連携して、オーガや強力な魔物を倒す為に呼んだんだ」

「は、はい」


ギルバートは剣の血を払って、鞘に納めながら言った。


「もういい

 今日はもう、帰るぞ」

「そうですね

 ここで時間を無駄にするわけにはいきません」


将軍も剣を仕舞いながら、部下に指示を出し始めた。


「すぐに帰還の準備に掛かる

 周囲と帰還の道順を調べてくれ」

「はい」


兵士も怒っていたが、将軍の指示に従って準備に掛かった。

それを見ながら、魔術師達は不安そうにしていた。


「お前達の処遇は、帰ってから決める」

「そ、そんなあ」

「殿下

 俺さ…私の魔法は見てくれましたよね?」


ミリアルドはそれでも引き下がらず、自信の保身の為にアピールを始めた。


「ん?」

「オレ様の…

 いや、私の魔法の威力は見ていただけたんでしょうか」

「威力?」

「はい」

「オークに使った事をか?」

「あ…いえ」


「どんな魔法でも、目的に合わせて使えなければ意味がない

 違うか?」

「は…はい」


「今後の事は帰ってからだ

 ここで騒いでいたら、また魔物が来てしまう」

「はい」


それは言外に、帰ったら叱られるのが確定していると言っている様なものだ。

魔術師達は、さっきのはしゃぎ様が嘘の様に、大人しく帰還の指示に従った。

オークは粉々に吹き飛んだが、オークの遺骸は兵士達が抱えて運んだ。

本当はもっと狩っていたかったが、ギルバート達は昼前に帰還する事となった。


一方その頃、アーネストは順調に狩をしていた。

ギルバート達が見付けたオークは、実はこちらのオークの一部であった。

痕跡はこのオーク達の残した物で、それからこちらに移動したのだ。

その際に、数匹が周囲に狩に出ていて、それがギルバート達の方へ来たのだ。

そして本隊の方は、アーネスト達が見付けて倒していた。


「今ので36匹ですね」

「ええ」

「結構多かったですが…

 集落でも作っていたんでしょうか?」

「そうですね

 恐らくは集落を出て、こちらに逃げて来たんでしょう」

「逃げてですか?」


「これを見てください」


アーネストはオークの遺骸の腕や脚を指差す。


「普通のオークに比べて、筋肉が少ないでしょう」

「そう…ですか?」

「ええ

 食料が不足しているのか

 あるいは逃亡で体力を使ったのか

 いずれにしても、弱っている様子でした」

「なるほど」


「ちょ、ちょっと待ってください

 そうなると、これは弱った個体なんですか?」

「そうですね

 通常よりは弱っていましたし、動きも鈍かったですよ」


アーネストが兵士達と話していると、魔術師の一人が質問してきた。


「それでは、オークはもっと強くて、素早いって事ですか?」

「そうです

 動きはそこまで早くはなりませんが、もう少し早く動きますね」

「そうですか」


彼はマジックボルトで仕留めていたが、あまり素早いと当たらないのではと危惧していたのだ。

アーネストもそれに気付いていたので、不安にさせない様にそこまで素早く無いと言ったのだ。

それで魔術師達も納得し、再び周囲の警戒に戻った。


こちらの魔術師達はまだまだ未熟で、強力な攻撃魔法は持っていない。

しかし若い魔術師が多く、教えればそれだけ覚えようとして吸収していた。

その為に、アーネストが考案した索敵の魔法も使える様になっていた。


「この索敵の魔法は便利ですね」

「周りに魔物が居たら、素早く把握できますね」

「ええ

 ただ、魔物の強さまでは分かりませんし、正確な距離も測れません

 過信は禁物ですよ」

「はい」


実は慣れてくれば、魔物の放つ魔力である程度の強さは計れる。

また、距離も慣れれば感覚的に掴めてくる。

しかし急には扱えないので、そこは諦めていた。

そのうち研究が進めば、もっと効率的な使い方も考えられるだろう。


「それで

 近くには魔物は居ませんか?」

「そうですね

 向こうの方に…

 さっきよりも強い魔力を感じます」

「恐らくはオークよりも強い魔物でしょう

 どうしますか?」


本当はアーネストが索敵すれば、もっと情報が得られる筈だ。

しかし、それでは魔術師達の訓練にはならない。

だからアーネストは、判断も魔術師達に任せていた。


「私からは何も言わないよ

 君達が判断して、自分で行動するんだ」

「え?

 でも…」

「大丈夫

 その為に騎兵部隊にも来てもらっている

 自分達でやってみよう」

「はい」


魔術師達は意見を出し合い、魔物と戦うかどうかを決める。

それは簡単には出来ない判断だが、いずれは彼等だけでも決められなければならない。

いつも守ってくれる部隊が居るとは限らないのだ。

部隊とはぐれて、魔術師達だけになった時、彼等が自分で判断しなければならないのだ。

その時の為にも、今から訓練しておく必要があるのだ。


「そうですね

 今日はオーガとの戦闘を目指して来たんです」

「ここは引き下がらず、戦いましょう」

「我々の手で、倒すんです」


戦う事を決心したら、次は敵の情報が必要だ。

彼等は索敵の魔法を使い、もう一度情報を探ってみる。

今度はもっと集中して、魔力を詳しく調べてみる。


「んー…

 強い魔力が…2、いや3か?」

「そうですね

 私も3つ感じます」

「そうなると、魔物は3匹だな」


「どうします?」

「距離があるからな

 もう少し近付くか」


相談しながら前進し、見つからない様に慎重に進む。

少し進んでみると、思ってもみない事になる。

それは木々の上に突き出た、巨人の頭が見えたのだ。

まだこちらには気付いてはいないが、これ以上近付けば見付かってしまう。


「どうする?」

「そうだなあ

 3匹の距離は空いてるし、思い切って1匹目に攻撃してみよう」

「他のオーガに気付かれたら?」

「それは先ず、気付かれるだろう

 だから、手早く1匹目を倒す必要がある」


「そうなると、強力な魔法が必要だね」

「そうか?

 マジックボルトやマジックアローでも、使い方次第じゃないか?」

「どういう事?」


「要は周りに気付かれ難ければ良いんだろう?」

「そりゃそうだけど」


「魔物の眼と喉元に向けて、一斉に放つんだ」

「そうすると、どうなるんだ?」

「喉が潰れれば声は出ないし、眼を潰せれれば見えなくなる

 それに首は急所だ

 上手く行けば倒せるだろう」

「なるほど」


「じゃあ、私達が眼を狙うわ」

「オレとお前、あと一人居ないか?」

「オレもやるよ」

「それじゃあ

 残りは他の魔物が来た時の為に、準備をしていてくれ」

「分かった」


こうして話し合うと、魔術師達は上手く連携して、オーガの包囲を開始した。

一方向から狙うんじゃなく、複数の方向から同時に撃って、相手が気付く前に倒そうという判断だ。

上手く当たれば、魔物が悲鳴を上げる前に、急所に当たって絶命するかも知れない。

そう思って、魔術師達は魔物を囲んだ。


アーネストが見守る目の前で、今まさに、オーガの討伐が始まろうとしていた。

遅くなりましたが上げておきます

明日は用事があるので書けないかも知れません

書くとしたら、また夜中になりそうです

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