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聖王伝  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第91話

ギルバート達はなんとか3匹のワイルド・ベアを倒す事ができた

それは負傷者を出さずに済ませた事が大きかった

普通に考えても、熊に戦いを挑んだ時点で死者が出てもおかしく無かった

普通の熊でもそれだ、そいつが魔物では絶望でしか無いだろう

それが勝利できたので、兵士達は喜びに沸いていた

ギルバートがワイルド・ベアに勝利していた頃、将軍は苦戦していた

それは将軍がスピード型の戦士ではなく、重装型の戦士だからだ

ワイルド・ベアは確かに攻撃範囲も広いし、何よりも突進力もあった

しかし攻撃は直線的で、攻撃の範囲から離れれば脅威では無かった

問題は咆哮による恐怖心からの萎縮や恐慌状態だ


グオオオオ

「くそっ」

ガコーン!


将軍は必死に爪や腕での衝撃を剣で弾き、そうする事で何とか難を逃れる。

しかし兵士達は逃げる事が出来ず、既に3名が削り殺されていた。

鋭い一撃を防げず、ごっそりと上半身や胴を引き裂かれて死んでいった。

残った兵士も必死に逃れるが、最早恐慌状態でまともな判断も出来なくなっていた。

そんな彼等を守る為、将軍は果敢に魔物の前に立ち続けていた。


身体強化で腕力を上げて、剣で弾いては攻撃の範囲から逃れる。

少しづつだが爪は折れ、腕にも傷は与えれていた。

しかし、このままでは攻撃出来なくなる前に、将軍が潰れるのは目に見えて明らかだった。


どうする?

応援を呼ぼうにも、兵達は恐慌状態で動けない

せめてヤツの腕を潰せたら…


焦っても良い考えは浮かばない。

将軍は無我夢中で攻撃に堪えるしか無かった。


そんな時、少し離れた場所で魔物の断末魔が聞こえた。

それはギルバートが戦ったワイルド・ベアの悲鳴だったが、同族の叫びに魔物は少し動揺した。

将軍が前に踏み出した時、魔物は構えたままそちらに頭を向けた。


将軍は眼前の魔物に集中して気が付かなかったが、大きな断末魔は十分に聞こえていたのだ。

そして構えながら踏み込んだのに、魔物は一瞬とはいえ、視線を外していた。


ここが勝機か?


一瞬の躊躇いも無く、将軍は目の前の好機に飛び付いた。

魔物は左に向いていたので、魔物の右前方に大きく踏み込む。


チャンスは一度きり!

ここで決めるしかない


将軍は魔物の右手の死角に入る様に踏み込み、態勢を変えながらしゃがみ込む。

脚に力を込めて、頭上に剣を構えた。


「うおおおお

 バスター」

ズバッ!


それは思い付きではあったが、有効な手段であっただろう。

スキルの出掛かりの構えで上昇する際に、その構えた剣が魔物の右腕を切り裂いた。

そしてそのまま、弧を描く様に魔物の頭に目掛けて跳躍する。


グガア…

ズドン!


スキルの力を借りて、剣は魔物の首筋から左肩にかけて切り裂く。

魔物は一瞬、反撃しようと左手を振り上げるが、それは力なく空振った。

不意を突かれた事と、首への一撃で集中できていなかったからだろう。

そうでなければ、将軍の身体は空中で砕かれていたかも知れない。


ズサア!

「か、はっ」


将軍は着地しながら、バランスを崩して跪く。

スキルの連発と、極度の緊張が解けた反動で、四肢に力が入らなかった。


ズズン!

「はあっ、はあっ」


激しく呼吸する将軍の後ろで、魔物は力なく空振った態勢で倒れた。

兵士達はそんな将軍の方を見る事も無く、恐怖に震えて蹲っていた。

私兵ならしょうがないが、守備部隊の兵士まで戦意を喪失して震えていた。

ここに部隊長でも居れば、もう少しマシだったろうが、兵士の士気を維持出来る者が居なかった。

その為、疲れ切った将軍が肩で息をしていても、助け起こす者も居なく、負傷した兵士を手当て出来る者も居なかった。


「ふう、ふう…

 おい!」

「は、はい」


「呆けている、場合か」

「はい」

「負傷者、救助」

『はい』


将軍は何とか息を整えると、手短に負傷者の手当てを命じる。

まだ言いたい事はあったが、呼吸が整っていないので、これが限界だ。

一部の兵士が、将軍の声で正気に戻り、負傷者の手当てや恐慌状態の者を正気に戻そうとする。


「おい、大丈夫か」

「そっちを支えてくれ」

「こいつは…

 もう手遅れか」


「おい!

 しっかりしろ」


「おい、おい!」

「あ、あ…」

「ダメだ

 こいつは運ぶしかない」


魔物が倒された事で、兵士達も少しづつ冷静になってくる。

しかし、2名が恐慌状態でおかしくなり、正気を失っていた。


「将軍

 負傷者は9名、死者は4名です」

「ああ」

「それと…

 2名が正気を失っています」

「…」


「あの咆哮か…」

「はい」

「厄介だな」

「ええ」


将軍は想定外の被害に、重苦しく頭を振った。

魔物の侵攻に対抗する為、少しでも戦える様に狩に出たのに、それが却って犠牲者が出てしまった。


使える兵士を増やさないといけないのに、却って減らしてしまった

これでは殿下に合わす顔が無いな


落ち込む将軍を横目に、兵士達も深く落ち込んでいた。

戦闘どころか恐慌をきたし、恐怖に震え上がって将軍の足を引っ張っていたからだ。

そして、将軍に叱責されるまで我を失い、怪我をした同僚を見捨てて震えていたのだ。

こんな事では、魔物が侵攻して来た時に戦えるのだろうか。

兵士達はすっかり自信を無くして、落ち込んでいた。


手当てが終わり、帰還の準備が整った後も、多くの兵士が落ち込んでいた。

それを見て、将軍は慰めの言葉を探した。


「あー…

 なんだ

 今日の事はしょうがない」

「でも…」

「私達は…」


「あれは卑怯だろ?

 吠え声一つで、お前達は恐怖に震えて逃げ惑っていたんだ」

「それは…」


「確かに、今日はしょうがない

 だけど、今度は逃げるなよ?」

「え?」

「あのお…」


将軍は溜息を吐きながら続ける。


「次にこいつ等に会ったら、恐怖に負けるな

 街を、仲間を

 みんなを守る為に勇気を振り絞れ」

「将軍…」


兵士達は顔を上げる。


「オレ達に、出来るんでしょうか?」

「でしょうかじゃねえ

 やるんだよ」

「はあ」


「でも、自信がありませんよ」

「そもそも、卑怯だって将軍も言ってるじゃないですか」

「う、うむ…」

「まあ、魔物に卑怯も無いんでしょうが」

「そうだよな

 魔物に卑怯って…

 将軍ぐらいじゃないですか?」


一人の兵士の疑問に、他の兵士達も同調する。

そもそも、そんな考えに至らなかっただろう。

いつの間にか、兵士達の顔から恐怖は抜けていた。

中には苦笑いを浮かべている者までいた。


「兎に角

 今度負けなければ良い

 怖くても逃げ出すな

 立ち向かうんだ」

「はは…」

「将軍には敵いませんね」


少しは元気が出たのか、兵士達は立ち上がって帰り支度を整える。

そして街に向けて帰還を始めた。


「さあ、帰りましょう」

「負傷者の治療もしませんと」

「ああ

 今日はもう十分だ」


将軍達は帰り始め、少し進んだらギルバート達と合流した。


「将軍

 大丈夫ですか?」

「殿下」


「そのお…

 負傷者も多いし、人数も…」

「ええ

 熊の魔物が…」

「将軍もですか?」

「え?

 殿下もですか?」

「はい」


将軍とギルバートは合流し、一緒に負傷者を運んで移動を始めた。

死者と魔物の遺骸はその場に残し、後で回収する手配を出す事になっていた。

出来れば魔物の遺骸は運んでおきたかったが、今は負傷者とワイルド・ベアの事を伝える事を優先としたからだ。

ワイルド・ベアの咆哮は危険だから、みなに伝えないといけないと思ったからだ。


「そうなると、咆哮も受けましたか?」

「ええ

 そのせいで兵士が…」

「そうですか

 私も苦戦しましたが、ハウエルが頑張ってくれましたから」

「いえ

 殿下がお一人で1匹抑えてくださったからです

 そうでないとヤバかったですよ」

「そうだなあ

 あの魔物は咆哮も危険だが、攻撃力もある

 その辺の対策も必要ですな」


ハウエルも加わり、魔物の攻撃の特徴についても話をする。


「特に爪が危険ですが…

 それでなくとも膂力が強いので、並みの兵士では危険ですな」

「そうだな

 それに突進も厄介だ」

「将軍は速さを上げれないんですか?」

「速さ?」


「私やフランドール殿は身体強化で動きを上げています

 速く動ければそれだけ手数も増えますし、相手の攻撃も避けれます」

「なるほど…」

「殿下

 将軍は力任せに突っ込みます、むしろ力に特化していますから速さは…」

「ハウエル?」


ハウエルは将軍に聞こえない様に、こそこそとギルバートに話し掛ける。


「将軍は脳筋ですから、速度を活かした戦法は向いてません」

「うん

 むしろ魔物を力押ししそうだね」


「ハウエル、殿下

 誰が脳筋ですか?」


将軍が頬を引き攣らせて、怖い笑みを浮かべる。


「あ、ヤバい

 聞こえてた」

「ちょ、殿下」

「二人共

 いくらオレでもあれに力押しはしません

 そもそも、剣がこうなるんですよ」


将軍が出した剣は、刀身にぐらつきが出ていて、刃も一部が欠けていた。

魔物は倒せたが、1回の戦闘でこれでは真っ向勝負は無理だろう。


「相性か」

「え?」

「そうですね

 将軍はオーガには楽勝でしたが、ワイルド・ベアでは苦戦しそうですね」

「そうなると、魔物が侵攻して来た時に、将軍はワイルド・ベアに当てない様にしないとな」


こうして、ワイルド・ベアが出て来た時は、ギルバートとフランドールが相対する事になり、将軍はオーガやトロールが出た時に出る事に決まった。


「敵の布陣は不明だが、こちらの兵士の構成も考えないといけないな

 ワイルド・ベアに当てるなら、ある程度素早く動けて、攻撃力がある者を集めないと負けるからな」

「そうですね

 折角動けても、肝心の攻撃が弱くては…」

「毛皮がかなり固かったですから

 これは武器の改良が必要かも知れません」

「スカル・クラッシャーじゃダメかな?」


ギルバートはそう言ったが、二人は微妙な顔をした。


「殿下

 先にも言いましたが、それは使える物が少ないですよ

 オレなら持てますが、兵士には少しきついかも」

「そうですね

 慣れるまでに時間が必要かと

 少なくとも侵攻には間に合いませんよ」

「そうか…」


折角の強力な武器だが、大きさと重さがある為に慣れに時間が必要なのだ。


「アーネストに相談しますか」

「そうですね

 癪に障りますが、こういうのには一番頭が回りますから」

「今度の魔物の素材を使うにしても、時間が足りるかどうか…

 それよりは今ある武器を鍛え、勝てる戦略を練る方が確実そうですね」


結局、三人共い良い意見は無く、アーネストに相談する事で決まった。

まだ1回の戦闘なので、十分な情報では無いが、それも踏まえて相談する事になる。

まあ、全然情報が無かった魔物の情報が、少しでも手に入ったのは良い事だ。

少なくとも咆哮が危険という事だけでも十分な収穫だった。


三人が今後の事を話しながら城門を潜ると、そこには上機嫌なフランドールが待っていた。


「あ、お疲れ様です」

「フランドール殿?」

「すいません

 結構ワイルド・ボアが狩れたので、先に引き上げて運んでもらっていました」

「そうですか」

「どうやら、あれは我々だけが出会った様ですね」

「そうですね」

「あれ?」


三人の様子に疑問を持ち、フランドールは改めて後続の兵士達を見る。

よく見ると負傷者が多く、人数も少なく感じた。


「え?

 何かあったんですか?」


「ええ

 実は…」


三人はワイルド・ベアに遭遇した事を話した。


「私達は3匹のワイルド・ベアに遭遇し、将軍は1匹に遭遇しました」

「ワイルド・ベア…

 熊の魔物ですか」

「はい

 なんとか倒せましたが、将軍の方で被害が大きくて」

「そうですか…」


フランドールが見ても確かに負傷者が多く、兵士も何人か見られなかった。

それが何を意味しているかは推測出来た。


「その…

 ワイルド・ベアとはどういう魔物なんですか」

「簡単に言えば熊の魔物です」

「そうですね

 大きな熊の魔物

 しかし、危険なのは攻撃ではありません」

「と、言うと?」


「魔物が上げる咆哮がヤバいです」

「一時的に行動が鈍ります

 恐怖に堪えられないと恐慌状態になってしまいます」

「それは…危険ですね」

「ええ」


ギルバートも将軍も、項垂れている兵士の方を見る。


「彼等も恐怖に堪えられず、震えて戦えなかったと」

「そればかりか、怯えていては魔物に狙われます

 それが一番危険ですね」


二人の感想に、フランドールも頷く。

確かに恐怖で委縮するのも危険だが、怯えて動けなくなるのは危ない。

ましては戦場でそうなったら、格好の的になるだけではなく、味方の足を引っ張る事になる。

事実、それが原因で将軍は苦戦したし、兵士の多くが犠牲になった。


「何か対策はありませんか?」


それに対しては、みな首を振るしか無かった。


「こればっかりは…」

「恐怖に堪えられる強靭な意思を持つか…

 あるいは戦闘を重ねて慣れるしかありませんな」

「そうですか」


二人の言葉に、フランドールはこれからの狩に不安を覚えた。

今はまだ少ないが、これから魔物が侵攻して来た際に、どれだけワイルド・ベアが現れるのか。

それ次第では被害が増すばかりだ。

叶う事ならば、少数ずつで出て来て、兵士の訓練になれば良いのだが。

そればっかりは、まさに女神の采配次第だろう。


「兎に角

 これ以上被害が増える前に、ワイルド・ベアに対する策を練る必要があります」

「対策が出来るなら、兵士の士気も上がるでしょう」

「そうですね

 何とか倒せる様にならなければ

 侵攻する魔物にも居るんですよね?」

「ええ」

「さっそく帰って、アーネストに相談してみます」


ギルバートはそう言って、アーネストが待っているであろう邸宅を見上げた。

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