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聖王伝  作者: 竜人
プロローグ
9/800

第9話

斯くて物語の幕は開く

魔物と人間の存亡を賭けて

初めての大規模な戦いが始まろうとしていた

これは大きな戦いの序章でしかなかった

闇夜に曙光が差し込む

辺りに差し込む光が、やがて温かみを取り戻していく

野鳥の声が朝の訪れを告げる頃、重苦しい音を立てて門が開く


「ぜんた―い

 すすめ―」

『ぜんた―い

 すすめ―』


ゆっくりと、第2砦の門を抜けて部隊が進む。

第1砦へと退がり、魔物を迎え撃つ為だ。


昨晩の激戦を物語る様に、公道のあちこちに不気味な魔物の死体が転がっている。


「これは…

 第3部隊は死体を集めて焼却しろ

 第1、第2部隊はそのまま住人を移送しろ」


部隊長の傍らに馬車が近付く。

窓が開き、少年が顔を出す。


「厄介ですね」

「ああ

 一先ずは住人を移送することを優先だな」


第4、第5部隊は周りの警戒と出立の後始末をしている。

早く移動をしたいが、死体をそのままには出来ない。

少年の話では、魔物に殺された人間の死体は、放って置くと亡者と成って襲って来るらしい。

闇の勢力である魔物の死体は、人間の死体より亡者に成り易く厄介であるらしい。

人間の亡者だけでも手強く厄介な魔物であるのに、魔物の亡者まで増えては堪らない。

早めに焼いて駆除した方がいいだろう。


「お前も早く砦へ向かえ

 ここへ居ても魔物に狙われるだけだぞ」

「そうですねえ

 とはいえ、おじさんに何かあっては後悔しそうです

 今暫くは同行しますよ」


またおじさんと言われて、少し傷つきながらも大隊長は続ける。


「心配してくれてありがとよ

 でも、まだお兄さんな!」

「お兄さん…ってのは無理が

 あ!痛い!痛い!」


大隊長の籠手を着けた拳が、グリグリと少年の頭に押しやられる。

その様子を見て、側近の数人がまたいつものとクスクス笑う。


「お前はどうして…そう口が悪いかね」

「そうですか?」


少年は涙目で何かやり返そうと思案する。


「そんなんじゃあ将来女にモテないぞ?」

「結婚も出来ないおじさんに言われたくありませーん」

「こ、こいつー」


あっかんべして、少年は窓から顔を引っ込める。

堪らず部下達が笑い出す。


「大隊長、今のは負けですよ」

「こないだの見合い話もダメだったし」


大隊長は渋面を作って脹れる。


「うるせえ

 オレだって…」


「まあまあ」

「帰ったら、またいつもの店に行きましょう」

「ばか!

 それがバレたからダメになったんだろが!」


大隊長が顔を真っ赤にして怒る。

せっかく見合い話が上手く行きそうだったのに、花街で遊んでいたのがバレてしまったのだ。

それで話はおじゃんに。


「お店って?」


少年が窓から顔を出す。


「子供は知らんでいい!!」


「ははあん

 チャーリーの店ですか?」

「お、おま、なんで?!」


少年は、溜息を吐いてから答える。


「はあ

 大隊長殿、夜遊びはほどほどにしてくださいね

 ボクの耳にも入るぐらいだし」


大隊長の顔色が赤から蒼へ、そしてまた赤へと変わる。


「それと

 ご機嫌な時は分かりますが、飲んで寝言はご用心を」


それがバレた原因だと気が付き、何か言おうと拳を振り上げるが部下が抑えて宥める。

そんなこんなで、騒いでいるところへ折り悪く、第3部隊の部隊長が作業が終わったと報告に来た。


「どうしたんだ?」

「いつものさ」

「ああ

 またアーネストの仕業か…」


「いいから

 報告しろ!」


「はーい」


部隊長は、巻き添いで怒られるのは割に合わないと、素直に報告する。

馬車の窓からは、少年がまた覗いてる。


「というわけで、死体の焼却も終わりました」

「ああ、ご苦労

 では、少し休憩してから出立するか」


「そうですね

 部下も、いくら魔物とはいえあれだけの死体を焼けば、干し肉と水を与えて休ませます」

「うむ

 1時間後に出立するぞ」

「はい」


報告を聞いてから、大隊長は渋い顔をしていた。

いや、その前に醜聞を暴露された時も渋い顔をしていたが、今の顔は不安要素を聞いて思案している戦士の顔だ。


「しかし、報告通りなら凄い数になるな」

「昨日ので50近く

 今日のが100近く」

「それでも本隊ではなかろう

 ならば本隊は…」


「少なくとも300はくだらないだろうな」


側近達の言葉に、大隊長が続ける。


「300…ですか?」


「ああ

 少なく見ても、300は超えるだろう」


「となれば、昨晩の攻め方から見れば

 予想出来る総数はその倍以上、ですか?」


大隊長はその言葉に首を振る。


「昨晩の攻め方から、敵はよく指揮されていた

 だから昨晩までの先遣が、おおよそ300以上だ」

「先遣隊?

 では、あれはまだ一部だと?」

「その可能性が高い

 たかだか砦を一つ落とすのに、全力を傾けるか?」


ゴクリと唾を呑み込む音が響く。


「奴らは繁殖能力が以上に高いらしい

 いいか

 ここだけの話にしろ

 他の奴らに聞かせて動揺させるなよ」


コクコクと頷き、側近達は今聞いた事を黙る事にした。

300匹でも脅威なのに、それが数部隊?数十部隊なぞ悪夢でしかない。

そんなの聞いたら、部隊の士気はガタ落ちだ。

最悪、瓦解して逃げ出すだろう。


「先ずは第1砦で一当てしてからだ

 それで敵さんの兵力の底も見えるだろう

 いや、見極めなくてはな」


聞いた話以上に、ゴブリンは作戦を練り、指示に従って動いている。

もしかしたら…

だが、その先はまだ考えない方が良いと判断した。

下手に考えて、違った場合は致命傷にも成り兼ねない。


今出来る事は、早く第1砦へ着いて、警戒網の強化と砦の防御の強化だ。

それも、焦って失敗してはダメだ。

冷静に出来る事を見極めて、敵の出方を見て対処しなければならない。

どんな魔物か名前は分かったが、肝心の情報と整合が取れない以上仕方が無い。


休息を終え、第3、第4、第5部隊の出立の準備が出来た。

各部隊長が点呼を終え、報告に上がる。


「では、出発だ

 ぜんた―い

 すすめ―!」

『ぜんた―い

 すすめ―!』


粛々と部隊は進む。

魔物を迎え撃つ為に、第1砦へ向かって。


時に、聖歴33年

季節は秋に入る9月の2週目

記録では9月9日であったと記されている。

この日付が第1砦の攻防戦の日と記されてはいるが、最初の集落への襲撃日であるという説もある。

ともあれ、この日クリサリス聖教国と魔物との間に初の戦争が始まろうとしていた。

これは、後に聖魔戦争と呼ばれる大きな争いの序章にしか過ぎない。

大きな争いを前にして、ノルドの森には再び暗雲が垂れこもうとしていた。

ここで物語の主人公の一人、アーネストの登場です。

もう一人の主人公はまだ出ていません。

少し短いのですが、話の都合上ここで終わります。

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