表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
89/800

第89話

ギルバート達が追い着いた時には、丁度戦闘は終了していた

オーガは倒されていて、兵士達は私兵も守備部隊も関係なく、抱き合って喜んでいた

そこには兵士の出自の違いは無く、みな一様に生き残った事を喜び合っていた

兵士達はフランドールに感謝の歓声を上げており、将軍も離れた場所から見ていた

その様子から、フランドールが救援に来て、活躍した事が窺えた

ギルバートは安心するとともに、却って遅れた事が良い結果になって良かったと思った


『フランドール様万歳』

『さすがは我らの新しい領主様だ』


それは若干大袈裟であったし、領主は早過ぎだと突っ込みたくなる。

しかし、これは守備部隊の兵士がわざとやっており、私兵達と上手くやる為に敢えて歓声を上げていた。

実は一部の兵士には、既にアーネストから頼まれていたのだ。

フランドールが活躍した時、敢えてフランドールを褒める様にお願いしていたのだ。

その理由は、私兵達のガス抜きと融和を計る為である。

その辺も伝えてあったので、兵士達は素直に行動に移していた。


「些か大袈裟ではあるが、無事で良かったな」

「ええ

 これで私兵達の不満が解消されれば良いんですが」

「え?」


「アーネストからの提案です

 フランドール様を持ち上げて、燻っている不満を解消させろと」

「ふーん

 何か考えがあっての事なんだな?」

「はい」


「なら、オレからは何も無い

 ただ、これで逆に、こっちが不満を持たない様に気を付けてくれよ」

「はい

 それは重々承知しています」


ギルバートはそれだけ確認すると、喜ぶフランドール達に合流する為に広場に出た。


「どうやら私達は必要無かった様ですね」

「え?

 ああ、ギルバート殿」


「オーガはフランドール殿が倒した様ですね」

「ええ

 こいつの練習の為に、譲ってもらいました」

「そうですか

 さすがはフランドール殿

 これで安心してオーガの討伐に出れますね」

「はい」


ギルバートはフランドールの言葉に満足し、フランドールも力強く頷いた。

それを見ながら、将軍が豪快に笑いながら入って来た。


「おお

 殿下も来られましたか」

「ああ

 将軍もお疲れ様」


「いやあ

 最初は2匹だったんですが、後から応援が来まして焦りましたよ」

「なるほど

 それで救援を…」

「ええ

 さすがに6匹は無理ですから

 兵に被害は出せませんから」


一通り喜びを確かめ合うと、兵士達はオーガの遺骸を運び始めた。

オーガから取れる素材は、現在一番高価な素材であった。

最初は加工が難しくて難儀していたが、最近では加工職人も上達してきて、爪や角、牙も加工出来る様になってきた。

それに魔石も効果が高く、骨を加工した剣も作れる様になった。

まだギルバートの持っている試作だけだが、今も製作中である。

それを横目に、ギルバートは続けた。


「このスカル・クラッシャーが量産出来たら、楽になるのかな?」

「殿下…

 本気でその名前にするんです?」

「え?」

「正直、物騒な名前で」


兵士達にも聞こえたのか、クスクス笑っている。


「そんなに変か?」

「ええ」


ギルバートがガックリと崩れ落ちる。


「そ、そんな…」

「アーネストも言っていたでしょ?

 あまり趣味が良くないって」


周りの兵士も苦笑かクククと笑いを堪えている。


「剣自体は悪く無いんですがね

 その名前はどうかと…

 売れなくなりますよ」

「そんなにか?」

「はい」


そこへフランドールも近付いて来て、真面目な顔をして肩を叩く。

一瞬、慰めてくれると思って顔を輝かせて上げるが、フランドールは無言で頭を振った。

ここで完全に、ギルバートは崩れ落ちた。


「うおおおお」

「もう少しセンスのある名前にしましょう

 例えばグレートソードとか」


フランドールが微笑みながらそう告げたが、周りはシンと静まる。

兵士も将軍も微妙な顔をして、ギルバートも変な顔をしていた。


「?」

「いや…

 それならスカル・クラッシャーの方が良くね?」

『いや、どっちもどっちだろ』


みんなから突っ込まれて、今度は二人が落ち込んだ。


「まあ、職人からはボーン・ソードって名前が出てますから

 それで良しにしましょうよ」


将軍はそう言って、兵士達に撤退の準備をさせる。

今日の収穫としては十分だし、運ぶ魔物の数も多かった。

ここらで一旦街に戻り休憩して、午後からは出たい者は再び出る事になった。


オークの遺骸は大きく重かったが、身体強化の出来る者が背負って運んで行く。

オークぐらいなら馬車で運べるが、オーガでは普通の馬車では運べなかった。

大木を切った時に使う大型の荷台を使って、やっと運んでいるからだ。

だからここまでは荷台は入れないし、魔物を外まで運ぶ必要があった。


「街の近くなら、運ぶ手間が減ったろうに」

「馬鹿

 そしたら街が襲われていただろ」

「そうそう

 前に街に攻め込まれた時に、城壁が崩されて大変だったんだから」

「でも、城壁は直したんだろ?

 それに強化の魔法も掛けたって聞いたぞ」

「それでも、城壁が崩されたら大きな被害が出る

 前領主様がどうして亡くなったのか聞かなかったのか?」

「え?」


「前領主様、アルベルト様は住民を護る為に、危険を冒してまで城壁に残られた」

「それで魔物に襲われた時に城壁ごと…」

「あの時はまだ、オーガと戦える者は将軍とギルバート殿下以外はほとんど居なかった

 結果として、多くの犠牲者が出たんだと」

「そうか…」


本当は少しだけ違うのだが、この話が広まったお蔭で、前領主のイメージは大分良くなった。

元々、国王と戦った英雄の様な扱いだったが、歳を負って田舎に引っ込んだ負け犬の様なイメージが広まっていた。

これは王都の貴族が広めた醜聞で、実際は病弱だったギルバートを育てる為に、自然の多い辺境に移転したのだが、これ幸いにと貴族が貶めたのだ。

しかし、ここにきて、住民思いの優しい領主として慕われ、街の為にその身を投げ出したと勘違いして祭り上げられた。


これもアーネストが考えた融和政策で、選民思想者達の誤った話を打ち消す為の策だった。

街を田舎と蔑み、領主を臆病者の弱者と罵っていては、街の者とは上手くやっていけないからだ。

こうした話を少しづつ広める事によって、両者の溝を埋めようとしていた。

その甲斐あってか、段々と私兵と守備部隊の兵士とが仲良くなってきていた。

これは魔物が侵攻している事もあったのだが、足並みを揃える為にも色々と謀をしているのだった。


「そうなると、こいつ等が出ないのが一番なのかねえ」

「そうでもないだろ」

「こいつらの素材が一番良いからな」


「殿下の剣を見てみろよ

 あれはこいつの骨から作っているんだと」

「へえ

 あの剣って、すんげえ切れ味なんだろ」

「ああ

 こいつ等をぶった切っていたからな

 オレもあんな剣が欲しいぜ」

「その前に、お前はこの前の借金を返せよ

 剣を新調するのはそれからだ」


「え?

 お前、また負けたのか?」

「うるせえ

 こいつがいかさましただけだ

 オレは負けてねえ」

「へいへい

 次の給金貰ったら、また勝たせてもらうからな」


兵士達はそんな無駄口を叩きつつ、魔物を背負って移動していた。


時刻は正午を回る前に、何とか魔物を運んでから、一同は城壁の中に戻った。

城門の近くの酒場に入り、早速昼食を求める。

勿論、みんな午後からも出るつもりだったので、酒は当然飲まなかった。

ワイルド・ボアのステーキと、ボウルに盛ったサラダを前に歓声を上げる。


「今日は私からの奢りだ

 だが、昼からも出るのなら、くれぐれも食べ過ぎで動けなくならない様に」

『はい』


フランドールからの注意を聞いた後、一同は我先にステーキに食らいつく。

脇には野菜のスープと固い黒パンもあったが、そちらには目もくれない。


「ああ、うめえ」

「やっぱり、こいつのステーキが一番だ」


「でもよう

 なかなか捕れないんだろう?」

「そうだなあ

 だから、まだまだ高くて滅多に食べられない」


「午後にまた出るんだ、何とか狩れないかなあ」

「そうだなあ

 南ではそんなに出ないし、あんまり大きくないんだよな」


「身のしっかりした旨いのは、やっぱり北に出る大物かな」

「そうなると、是非とも狩りたいな」


兵士達は、すっかりワイルド・ボアのステーキを気に入っていたが、まだまだ供給が追い付いていなかった。

北からの移動で増えているが、それでも捕れる量に限界がある為、まだ高額なのだ。


「ワイルド・ボアを狙うのは良いが、オーガも狩ってくれよ」

「そうだぞ

 素材はオーガの方が良いんだから、頼むぞ」

『はい』


兵士達は良い返事をしたが、心の中ではワイルド・ボアがまだ占めていた。

そんな昼食を済ませると、装備の確認をしてから、再び北の城門に集合した。


「これから、もう一度森に入るが

 夜には帰って来なければならない」


「夜は暗くて危険だし、城門も閉まる

 くれぐれも無茶はしない様に」

『はい』


将軍の注意を聞いてから、再び城門が開かれた。

兵士達は午前とは違う班分けを行い、粛々と森へと入って行った。

再びオーガを探して森の中を進んで行く為だ。


「魔物の到着日時を考えると、もう少しオーガを狩っておきたいな」

「そうですね

 このペースでは、騎兵までしか武器が配れません

 せめてオークでも狩って、魔石を集めたいです」


長剣はぼちぼち出来てきたが、強力な剣の製造には魔石がまだまだ必要だった。

それに、オーガ素材の武器はそんなに出回っていない。

よりよい戦果を上げるには、まだまだ多量のオーガを狩る必要がある。


また、同時に、オーガを狩る訓練が出来れば、侵攻する魔物への対処も楽になるだろう。

オーガと戦えるだけの兵士は、少しでも多い方が良いのだ。

将軍はオーガを求め、再び森の奥を目指した。


その頃、フランドールはワイルド・ボアの群れに出会っていた。

酒場で兵士が望んだからか、30匹以上のワイルド・ボアが走って来たのだ。

兵士達は身の危険を感じ、慌てて木の陰に隠れた。

大きな木でなければ簡単にへし折ってしまう、ワイルド・ボアの突進が続く。

隙をみて脚や首筋にスキルを叩き込むが、なかなか数は減らない。

減らないどころか、声を聞いて来たのか、オークまで13匹も来てしまった。


「オークの事は良い

 先ずは少しでもワイルド・ボアを倒すんだ

 オークを倒すのはそれからだ」


フランドールの指示に従い、兵士は必死にワイルド・ボアを倒していく。

殺すには首筋に一撃を加えないといけないが、そのスピードに翻弄されてなかなか狙えない。

フランドールは上手い位置取りをして確実に倒してゆくが、兵士の中には突進で吹き飛ばされる者も数人いた。


20匹以上狩ったところでワイルド・ボアは去って行ったが、今度はオークが前へ出て来る。

先程まではワイルド・ボアの突進に巻き込まれない様に下がっていたが、ワイルド・ボアが居なくなった事で前に出て来たのだ。

オークなら簡単だった様で、次々と切り殺していく。

オーク如きではスキルも不要だったのだ。


「ふう

 これで全滅か」

「はい

 しかし、ワイルド・ボアを逃がしたのは惜しかったですね」

「あれだけ狩れていたら、暫くはワイルド・ボアに困らなかってのに」

「そう言うなって

 少しでも狩れたんだ

 次回に期待しよう」


そう言って、ワイルド・ボアの遺骸を集めていく。

オークやワイルド・ボアなら、普通の馬車でも十分に載せれる。

こうしてフランドールは、オークとワイルド・ボアを狩る事が出来た。

すいません

なかなか時間が取れなくて遅れています

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ