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聖王伝  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第86話

フランドールは結局、2時間以上将軍と訓練をしていた

それは単なる自洗形式の訓練であったが、本物の剣で行う訓練は想像以上に消耗していた

肩で息をしながら訓練場を後にする頃には、フランドールは剣筋が矯正されていた

それは本人が意図してはいなかったが、今身に着けている長剣では軌道のズレが生じていたのだ

それが短い時間とはいえ、真剣で切り合っている間に修正されていたのだ

将軍との訓練で、最初はまともに打ち合う事も出来なかった

それが何度も振るう内に、少しづつ修正されて、最後の方は互いに隙を狙って打っては返されていた

それに満足したのか、将軍は最後にスキルを放ち、フランドールは見事に受け切った


「お見事です」

「はあはあ

 これが、はあ

 スキルです、か、はあはあ」


「そうです、ね

 はあはあ

 さすがに、防がれ、ましたか

 はあはあ」


二人共肩で息をしていたが、剣を仕舞って握手をした。


「どうです

 その剣の、重さにも

 慣れましたか?」

「ええ

 おかげさまで

 はあはあ」


ここでフランドールは将軍の糸に気付いた。

将軍は笑って去って行ったが、フランドールはその背中に頭を下げていた。


ここの人は素晴らしい

自分の力に酔う事も無く

相手の為に無償で手を差し伸べてくれる

私も彼等を見習って頑張らなければ


フランドールは頭を下げながら、そう思った。


それから数日は、将軍の後に着いて森へ向かった。

私兵達も南の草原に出て、毎日ゴブリンやコボルトを狩っていた。

最初の3日は何事も無かったが、4日目には戦士の称号を授かる者が現れた。

5日目には、スキルを習得した者が10名を超えて、いよいよ森へ入る者も出始めた。

フランドールもスラントまで使いこなせる様になり、一人でオークを狩れる様になっていた。


「フランドール様

 今日はオークを倒せました」

「こいつはブレイザーを習得したみたいです」


私兵達が城門で合流して、フランドールに嬉しそうに報告した。


「そうか

 それは良かった」


フランドールもニコリと微笑み、私兵達の成果を喜んだ。

まだ1週間も経たないが、成果は徐々に上がっていた。

このまま頑張っていれば、魔物が侵攻して来た時に足手纏いにはならなそうだ。


「魔石も手に入っているので、武器の作成も順調です」


私兵達は嬉しそうに長剣を掲げた。

その剣にはオークの魔石が使われており、フランドールの持つ剣ほどではないが、切れ味や耐久性も上がっていた。


「そう言えば、フランドール様の剣が出来上がったって報告がありましたよ

 取りに行かれましたか?」

「そうか

 遂に出来上がったか」

「はい

 商工ギルドに置いてあるそうですよ」

「分かった

 ありがとう」


フランドールはそう言うと、慌てて商工ギルドに向かった。

剣が仕上がったのが余程嬉しかったのだろう。

すぐに受け取りたくて走ってギルドへ向かった。


「あれま

 あんなに走って」

「余程嬉しかったんでしょうな」

「まあ、自分の剣が仕上がったって聞いたら、オレも走って向かうだろうな」

「そうだな」


私兵達は、そんなフランドールの姿を見送りながら、我が事の様に喜んでいた。


フランドールはギルドに着くと、いそいそとドアを開けて入った。


「すいません

 私の剣が出来上がったって聞いたんですが」

「おう

 フランドール様

 こちらです」


ギルド長が出て来て、奥のカウンターへ案内する。

そこには預けてあった剣が置いてあった。


久しぶりに対面した愛剣は、以前とあまり変わった様子は無かった。


「??」


フランドール些か拍子抜けして、自分の剣を見詰めた。


「どうなさった?」

「いや

 あまり見た目は変わっていないんですね」

「ああ、なるほど

 先ずは抜いてみてください」


フランドールは言われるままに、剣を持ち上げた。


「え?」


剣は思ったより軽く感じ、素早く抜刀してみせる。


シャキン!

「おお…」


鍔や握りは変わり無いが、本体は大幅に変わっていた。

先ず、剣の腹に厚みが出来ており、そこには複雑な模様と文字が刻まれていた。

そして刀身の先の方に魔石が埋め込まれており、そこから何か力を感じていた。


「これは…美しい」

「でしょう

 新たに刀身を打ち直し、強度と重量を加えました」

「重量?

 それにしては、重さを感じませんが?」

「そりゃそうでしょう

 あなたは今、身体強化で膂力も上がっていますから

 魔力を絞れば、重さを感じますよ」


言われてみて、自身の魔力を抑えてみる。

途端に剣の本来の重さが返ってきて、ズシリと重くなった。


「ぬ、おお…

 重い」

「はははは

 どうですか?

 それなら大型の魔物にも対抗出来るでしょう」


再び刀身に魔力を纏わせると、剣は軽くなった。


「この模様は?」

「そいつは切れ味と耐久性を上げる為に刻みました

 普通は魔石を埋め込むか、砕いた魔石を刀身に打ち込むんですが…

 今回は両方を試しています」

「と言いますと?」


「はい

 先ずは刀身の修復の際に、魔石を一緒に打ち込み、それに魔法を込めました

 その段階で強力な身体強化と耐久性を付与してあります」


「それから文字と紋章を刻み込み、更に魔石を組み込みました

 これで切れ味と魔力を封じ込めています」

「なるほど…」


フランドールは剣を構え、軽く振ってみる。

それだけで風切り音がして、剣の威力が相当な物だと判断出来た。


「へえ

 こいつは良い…」


「その剣にはもう一つ秘密があります」

「え?」


「まだ試作段階なので効果は低いんですが…

 魔石に魔力を込めれると言いましたでしょ?」

「ああ」


言われてフランドールは、先端の魔石に意識を集中する。


「ああ!

 ダメです!

 ここでは危険ですから」

「え?」


「ゆっくり

 ゆっくり魔力を込めるのを止めて、剣を仕舞ってください

 そのまま魔力を乗せて振ったら、ここでは危険ですから」

「危険?」

「ええ」


「一体、何をしたんですか?」

「ええ…っと

 魔石に魔力を込めて、十分に魔力が溜まると、刀身の文字が光り出します」

「ふむ」

「その状態で剣を振るうと、刀身に炎の魔法が発動します」

「え?」


フランドールは予想だにしなかった言葉に、思わず呆然とした。


「ですから

 刀身に炎が…

 分かり易く言いますと、火を点ける魔石を使った棒があるでしょ?

 あれを剣で出来る様にしてみたんです」


魔石を加工した物の中に、魔力で火を点火する棒がある。

これは最近、魔石が取れる様になってから開発された物だ。

その利便性から、各家庭に1個は置かれている。

それを剣に組み込みましたと言うのだ。

言うのは簡単だが、実際にやるのは大変だろう。


「それは…

 実際に使えるのか?」

「はい

 既に職人が試してみて、それで…」

「使ってみて危険だったと」

「はい」


「うーん

 実戦で使える物なのか?」

「そうですね

 刀身から火が出るので、上手く使えば魔物を火達磨に出来るかと」

「そうだろうが、自分も危険じゃないのか?」

「そこなんですよね

 そればっかりは、使う者の技量次第かと…」

「うーむ…」


フランドールは想定外の改造に、些か眉を顰めていた。


確かに燃え上がる剣など想定外だが、使いこなせれば強力な武器になるだろう。

それに炎の剣とは格好良くて、正直なところ非常に嬉しい。

しかし使いこなせるのだろうか?


「どうします?

 嫌でしたら直しますが」

「うう…」


フランドールは頭を抱えた。

しかし、結果としては誘惑に負けて、そのまま剣を持って帰った。

やはり炎の剣の魅力には勝てなかった。

そういう意味では職人達を責めれなかった。


フランドールは早速剣を持って、訓練場へ向かった。

街中では危険なので、訓練場で試してみる事にしたのだ。

足早に訓練場に向かうと、そこではギルバートが将軍と手合わせをしていた。


「うりゃあああ」

「甘い!」

ガコーン!


ギルバートは重い大剣を振り回し、将軍はそれを鎌で捌いていた。

どうやら今日の狩では収穫が無く、有り余った体力をここで発散している様だった。


「ふう、ふう…

 おや?」

「はあはあ

 ん?

 フランドール様ですね」


「やあ

 二人共本当に元気だねえ」


フランドールは挨拶をしつつ、二人の様子に苦笑いをする。

周りの兵士の様子から、二人がかなりの時間を打ち合っていたと察したからだ。


「いやあ

 今日はオークしか居なかったから」

「そうそう

 あれでは兵士の訓練にしかなりませんよ」

「いや…

 普通はオークでも大変だろうに…

 何でそんなに元気かな…」


フランドールは呆れながら訓練場に入り、二人の邪魔にならない場所で抜刀する。


「おや?

 剣が仕上がったんですか?」

「ええ」


そこで軽く振り回し、剣の使い心地を確かめる。


「そういえば…

 アーネストが何やら組み込んだって

 その魔石がそうですか?」

「え!」


フランドールは思わずギクリと止まる。


「ギルド長も久々の最高傑作とか言ってましたが

 何が違うんだろう」

「魔石が組み込まれていますね

 その分付与が強力だとか?」

「いや

 それじゃあ普通でしょう」


二人が注目しているのを感じて、フランドールの顔は引き攣る。

そんな様子にも気付かず、二人はあれこれと推論をする。


「刀身も打ち直したみたいだし、切れ味をあげたのかな?」

「それじゃあ、あまり変わらないのでは?」

「うーん

 他に何があるんだろう?」


ふと周りを見回すと、兵士達も見ている。

これだけ集中されたらやりにくいのだが、と思いながらも仕方なく素振りをする。

一通り振ってみて、問題が無さそうなので、いよいよ魔石に魔力を流す。

これで失敗したら恥ずかしいが、先ずは試してみないと分らない。

刀身の先に意識を集中し、魔力が行き渡るのを感じる。

するとすぐに、刀身が輝き始めた。


「おお!

 剣の文字が輝くのか」

「格好良い!」

『おお!』


刀身の文字が輝いただけでこれだ。

これから剣から炎が出るワケだが、そうなったらどうなる事やら。

フランドールは不安と期待を胸に、剣を鋭く振り上げてから切り下ろす。


「ふん」

ボオウ!

ズバーン!


「げえっ!」

「なんだ…と!」

『うおお、すげえ』


軽く振ったつもりが、炎が弧を描く様に出て地面を打った。

そして地面が一文字に焼き切れて、改めてギルド長が危険と言った意味が分かった。


「な…」

「こいつは…」


炎が出た事も衝撃だったが、その威力にギルバートも将軍も絶句した。


「ふう

 こんな感じか

 ふっ」


フランドールは、今度は力加減を考慮に入れて振ってみる。

あまり力を入れずに振れば、刀身が炎に包まれながら振り回せる。

それはまるで、炎の剣を振り回している様だ。


今度は先ほどの様に、剣を叩き付ける様に振る。

そうすると、刀身から出た炎がその先から焼き付ける。

上手く振るえば、間合いの外にも炎で攻撃出来そうだ。


やがて数合試しに振っていると、込められた魔力が切れたのか輝きが消えた。

それと同時に、刀身から炎が出なくなる。

再び魔力を込めてみると、刀身が輝き始める。

するとまた、刀身から炎が迸る。


「ふむ

 大体感じは掴めた

 後は実戦かな」


フランドールはそう言うと、剣を仕舞った。

それから背中に背負っていたもう一本の剣を剣帯ごと外す。


「ギルバート殿

 お借りしていた剣をお返ししますね」


そう言ってフランドールは長剣を差し出した。


「え?

 あ…」


ギルバートは長剣を受け取りつつ、まだ視線は先の剣に行っていた。


「それでは私は、これで失礼します」


フランドールはそう言っていそいそと引き上げた。

本当は少し前から、恥ずかしくて居た堪れなかったのだ。

慌てて訓練場を後にして、邸宅に向かった。

ギルバート達はその後暫く、炎の剣の威力で呆然としていた。


「アーネストの奴、とんでもない物を作ったな」

「くうっ

 オレも欲しい」

「将軍も作ってもらいますか?」

「そうだなあ

 でも…

 ただでさえ武器の受注で忙しいからなあ

 頼んだら何か言われそうなんだよな」

「そうですね」


ギルバートは自分の大剣を見る。


これがあの剣みたいに燃えたら、恰好が良いだろうな

でも、骨から作っているから燃えて灰になりそうだ


そう思うと、自分はこのままで良いかなと思った、。

取り敢えずアーネストに話してみて、出来そうなら将軍の分ぐらいは作ってもらおうと思った。

恐らく量産は出来ないだろうし、フランドールは上手く振っていたが、乱戦では危険だろう。

兵士に持たせるには危ないと思うので、持たせるとしたら隊長格か騎士だろう。


「それにしても、面白い物を作ったな

 炎の剣か…

 他にも出来るのかな?」


ギルバートは今夜にでもアーネストに聞いてみようと思った。

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