表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
84/800

第84話

将軍が会議に戻ってから暫くして、会議場から大きな物音がした

ギルバートはフランドールと倒すべく魔物と得られるであろうジョブやスキルの話をしていた

ゴブリンでは無理であろうが、コボルトなら簡単なスキルと戦闘の経験が得られる

そこでスキルが身に着いた者から、オークが出る場所での戦闘を行う

オークに勝てる様になれば、オーガに簡単に殺される事も無いだろう

それに、オークを倒した兵士から、戦士のジョブを得た者が居る事まで判明していた

それより上のジョブは、恐らくオーガやワイルド・ボアでも倒さないと無理だろうと判断されていた

将軍の執務室にまで、会議場での騒音は聞こえていた

金属音が響き、恐らくは戦闘が始まっていると推測されていた

フランドールは認めたがらなかったが、私兵が暴れ出したのは明確だった

ギルバートはショートソードを構えて向かい、フランドールはその後に続いた


「そんな馬鹿な

 いくら彼等が危険な思想に染まっているとはいえ、簡単に抜刀するとは思えない」

「しかし、現に会議場からは戦闘と思しき音が聞こえてきている

 そうでしょう?」

「…」


フランドールは押し黙る。

信じたくは無かったが、実際に中からは剣戟の音が響いている。

微かに聞こえるのは、将軍や隊長が押さえろと叫んでいる声だ。


「…止めさせろ

 だからそいつを押さえつけ…」

「迂闊に抜くな

 同士討ちに…」


ギルバートは部屋の前に着くと、勢いよくドアを開けた。

バン!と音がして、ドアの前で構えていた兵士の頭に当たる。


「ぐはっ」

「すまな…

 ってこいつは暴れていた方か」


素早く振り返り、剣を構えようとしている兵士を蹴り上げる。

兵士は吹っ飛び、机の上に伸びる。


「殿下?」

「加勢する

 反乱分子を取り押さえるぞ」

「はい」


ギルバートはそう伝えると、乱戦に向かって突っ込んだ。

その後ろで、フランドールは左右を見ながら狼狽えていた。

魔物と戦ったり、街のチンピラを取り押さえる事はあった。

しかし、同郷の兵士が暴れているのを見るのは初めてであった。

しかも抜刀した人間を無力化するなどどうしたら良いか分からない。

狼狽えるフランドールを見て、私兵の一人が血走った眼を向ける。


「ひゃはああ

 この平民が、死ねえ!」


私兵は剣を構えていないフランドールを見て、これは好機とどさくさに紛れた殺害を計る。

兵士の声を聞き、フランドールは振り返ったが、その剣は既に振りかぶられていた。


「危ない!」

「マジックボルト」


気付いた守備部隊の兵士が前に割り込むが、その目前で魔力の矢が撃ち込まれた。


ドスドス!

「ぐはっ」


フランドールを狙っていた兵士が、魔法の矢を受けて吹っ飛ぶ。

魔力の調整がしてあった為か、傷は与えずに衝撃だけで吹き飛ばす。


「迂闊ですよ、フランドール殿

 ここは既に戦場です」

「そうです

 戦う気が無いなら、下がってください」


フランドールはアーネストと兵士に叱られて、改めて周りを見る。

私兵が既に20名ほど取り押さえられ、その先では30名ほどの塊が乱戦をしていた。

よく見ると私兵は剣を抜いていたが、守備部隊の兵士は棍棒や木剣を身に着けていた。

それなのに私兵の方が圧倒されており、事態は沈静化されつつあった。


「そん…な…」

「ほとんど大勢は決しましたね」

「ええ」


「死ねー!

 田舎も…ぐがっ」

「うるせえ

 次だ!」


声の方を見ると、いつの間にか素手になっているギルバートが、剣を構えた私兵と向き合っていた。

私兵はまだ5人居たが、足元には3人が呻いていた。

周りは守備部隊の兵士が囲み、逃げ場は無い。

しかも素手のギルバートが圧倒していて、踏み込めずに構えていた。


「くっ、くそお

 こんな田舎者の小僧に…」

「その小僧に殴り飛ばされて、お仲間はダウンしてるぞ」

「そうだそうだ!」

「今さらビビッてんじゃねえぞ」


「どうした?

 かかって来ないのか?」

「こんのお!

 ぶべっ」

ドカッ!


振り下ろされた剣を右手で逸らし、鋭く左手が鳩尾に入る。

苦悶の声を上げ、倒れた兵士が一人増えた。


「ひゅう

 ギルもやるな」

「あれは…

 暫く起きれないでしょうな」


アーネストと兵士は称賛の声を上げる。

横ではフランドールが、まだ事態を飲み込めないのかブツブツ言っていた。


「こんな…こんな…

 王都で募った兵士が…」


それは兵士の未熟さや不甲斐なさなのか?

それとも味方と思っていた兵士達の裏切りがショックだったのか?

フランドールはブツブツと呟きながら、ガクリと膝から崩れ落ちた。

それをチラリと一瞥し、アーネストは頭を振った。


そうこうするうちに、乱戦も将軍が拳で収め、ギルバートの側も残り2名になっていた。

最後は周りの兵士に詰め寄られ、剣を落として投降した。

足元の呻いている兵士も縛られ、次々に連れられて行った。


「ふう

 これで片付いたか?」

「はい

 お疲れ様です」


将軍は兵士が差し出したタオルを受け取り、顔に飛び散った返り血や汗を拭く。

ギルバートもタオルを受け取り、顔を拭いながら将軍の元へ向かった。


「それで?

 この騒ぎはどうしたんですか?」

「ん?

 ああ、殿下

 ありがとうございます」

「私兵の一部が、訓練を嫌がったんですよ」


将軍の隣に居たアレンが、嫌そうな顔をして呟く。


「訓練が…ですか?」

「ええ

 そんなふざけた訓練なんか出来るか!…と」

「え?

 ふざけてって?」

「コボルトなんか簡単だって言うから、それじゃあオークを相手にするかって

 そしたら我々には訓練なんか必要無いって」

「え…」


「それは…

 本当ですか?」


フランドールが将軍の言葉を聞き、不機嫌そうに聞き返した。

将軍はそんなフランドールの様子を気にする事も無く、両手を上げて首を振った。


「ここに居る兵士全員が証人です

 オレ達は王都の兵士だ、訓練なんか必要無いって

 それでも今度の侵攻を告げたら、ふざけるな!死ねって言うのか!だそうで」

「我々もこれから訓練でオークやオーガと戦うって言ったんですがね

 田舎のカスと一緒にするなって

 そんなふざけた訓練なんか参加出来るか!って、抜刀しやがりました」

「それは…」


フランドールは話を聞きながらも、信じられ無いといった様子だった。

いくらなんでも、話を聞いてても馬鹿のする事に思えた。


「まあ、中には真面目に聞いている者も居ましたが…

 不満を言ってたのを筆頭に、次々と抜刀しましてね

 後はご覧の有様です」

「まともな私兵達はあちらに固まって居ます

 彼等は不問ですが…

 暴れた兵士はさすがに謹慎ですね」

「そう…ですか」


「それで?

 暴れたのは何名ぐらい居ました?」


さすがに可哀想に思い、ギルバートが話に入った。

人数を確認し、先のリストと比較してみる。


「全部で78名

 最初は会議場の12名でしたが、外から剣を構えたのが合流しまして…」

「まさか、最初から狙っていた?」

「さあ?

 そこまでは…」


「あ!

 こいつとこいつ

 それからこいつが…」


リストに印をしていくと、やはり選民思想者の全てが加わっていた。

逆に言うと、この騒ぎで事前に判明していた者が全て捕まった。


「こりゃあ…

 逆に良かったんじゃないです?

 後で後ろからやられるより、ここで分ったんですから」

「そうだな

 リストより4人多かったが、これで問題が一つ片付いたな」


ギルバートはリストを受け取ると、それをフランドールに渡した。


「申し訳ありませんが、これで無事に片付いたかと

 彼等の処遇は?

 如何いたします?」

「あ…

 うん

 そちらに任せます…」


フランドールは力なく項垂れて、小さく嘆息した。


「気持ちは分かりますが…」

「何が分かるんだい!

 私は彼等を信じていて

 彼等が誇りを持った王都の兵士と思っていたんだぞ!

 それが!それが…」

「フランドール殿…」


「確かに、私を平民と蔑む者が居るのは分かっていた

 それでも、私の働きを認めて、私を慕って着いて来ていると思っていた

 それが…」

「でも、あちらの彼等は、フランドール殿を慕って着いて来たのでは?」

「…」


フランドールは騒ぎに加わらなっかった私兵達を見た。

彼等は8名しか居なかったが、他の私兵の考えに疑問を持ち、馬鹿な反乱には参加しなかった。


「それに、ここに居ない者達も…

 恐らく誤った考えを持った者は、残らずここに来ていたと思いますから」

「は…い…」


ギルバートの言葉にやっと落ち着きを取り戻したのか、フランドールは頷いた。


「フランドール殿は先に帰って休んでいてください

 私達はこのまま、街に潜む不穏分子を捕らえます

 頼んだぞ」

「はい

 では、フランドール様

 行きましょう」

「…」


フランドールは無言で頷き、兵士に付き添われて退出した。


「それでは、街の大掃除と行こうか」

「そうだな

 さすがに不満が溜まっていたから、ここらで暴れさせてもらうか」

「将軍は昨日もオーガと戦ったでしょう

 少しは落ち着いて下さいよ」

「そうだよ

 おじさんは、すぐに頭に血が上るんだから」


将軍は景気よく行こうと思ったのに、すぐに周りから諌められて凹んでしまった。


「そりゃあ無いだろ」

「いいえ

 ここは部隊長で向かいます」

「そうだな

 それぞれ班分けをして、すぐに急襲してくれ

 すでにこちらの騒ぎも伝わっているかも知れない

 奴等に時間を与えるな!」

『はい』


事前に決められていた班分けに従い、すぐに兵士達が宿舎から出て行く。

次々と兵士が街中に出て行く姿を見て、住民達も何事かと立ち止まって見る。

そうしている間にも、次々と拠点や商店に兵士が入り、不穏分子に繋がる者達が捕まえられる。


「これはどういう事だ!」

「ワシを誰だと思っているんだ!」

「ふざけるな!

 ここから出せ!」


次々に捕まり、兵舎に併設された牢屋に連れて行かれる。

中には婦人や娘も居て、必死に抵抗をしている。


「何かの間違いよ!」

「私は、私は関係無いわよー!」

「あ!

 ランデルさん、私は違うの

 ねえ、説明してよ!」


必死になって叫び、自分だけは助かろうとする。

中には諦めて自白する者も居たが、自分だけが捕まるのが不満なのか、仲間の名前を出す者も居た。


「こりゃあ壮観だなあ」

「牢屋は足りるのか?」


ギルバートとアーネストは、次々と運ばれる者を見てその多さに改めて驚いていた。

元々の人数も相当だったが、追加の逮捕者がかなりの人数に昇っている。


「リストの者もですが、使用人やその家族まで参加しています」

「予備の牢屋も埋まってしまいそうです」

「先の私兵達が居るから、警備隊の牢も使わないと足りません」


「こりゃあ大変だ」


そこへ、運ばれて来るうちの一人が叫び始めた。


「ギルバート様

 何故ですの?

 何故私が逮捕されますの?」」


「誰だ?

 あれは?」

「え?

 …覚えていないのか?」


「私です

 あなたの愛してくださったエレナーゼですよ」


「え?」

「ほら

 誕生パーティーで…」


「どうして!

 私の事を見捨てる気なの?」


「ん?

 覚えていない」

「あー…」


「ひどい!

 このクソガキがー…」

「おい!

 うるさいぞ、黙れ!」


最後はヒステリックに叫んでいたが、そのうちキーキーと言う声も聞こえなくなった。


「なあ」

「ん?」


「本当に覚えていないのか?」

「確かに、あのパーティーに何人か来ていたが

 誰がどうとか覚えていないよ」

「そうか…」


「それより」

「え?」

「女って怖いな…」

「あ、ああ…」


ギルバートはヒステリックな女が去った方を見て、溜息を吐く。


「セリアやフィオーナがああならなければ…良いのだが」

「そうだな…

 大丈夫とは思うけど」

「そうかな?」

「ああ」


この日の逮捕者は、私兵が78名と住民が186名になった。

まだ隠れて潜んで居る者も居るだろうが、一先ずは街の危険は去った様に見えた。


「これで今回の件に絡んだと思われる者は、全て逮捕出来ました」

「おかげさまで、街の牢屋がほぼ埋まってしまいましたよ」


「罪人の処罰はどうしますか?」

「そうだな…

 私兵は鉱山にでも送るか

 下手に街に置いていたら、再び反乱を起こすかも知れないからな」

「住民は如何いたします?」

「そうだなあ…」


次々と取り調べを行いつつ、刑罰を決めて行く。

不敬罪程度なら職務の剥奪や財産の没収だが、実行犯と繋がって反乱の準備をしていた者は、さすがに鉱山送りとなった。

もちろん、それは男女の別は無かった。

それだけ危険な思想を現実に実行しようとしていたのだ。

そこには情状酌量の余地など無かった。


「残念だが、総勢264名のうち206名が鉱山送りだな」

「こうなると、鉱山の方では大喜びだな」

「逆に、鉱山での反乱を危惧しないとな」

「そうですね

 まあ、反乱出来ても街まで戻れそうにありませんが」

「魔物か?」

「ええ」


確かに、鉱山で団結すれば、反乱を起こして鉱山を乗っ取れるかも知れない。

しかし鉱山から街の間には公道があり、魔物がうろついている。

もし鉱山を乗っ取っても、そこから出られないのだ。

そうなれば食料が不足していずれは餓死してしまうだろう。

畑や家畜が居るとはいえ、街からの補給が無ければもたないのだ。


「そういう事なら、鉱山に一纏めで送っても安心か」

「そうですね

 今の内に少しでも鉱石を回収しておけば、武具の作成の助けになりますし」

「そうだな

 少しでも上質の武具を作って、魔物の侵攻に備えないとな」


魔物の侵攻を考えれば、罪人の相手をしている暇は無いのだ。


だが、今の内に罪人を捕まえておかないと、魔物が攻めて来ている時に暴れられたら、それこそ街の存続に関わる危機となるだろう。


「早めに片付いただけマシか…」


ギルバートは溜息を吐きながら、牢屋に詰められた大量の罪人を見ていた。

今年もあと少し

出来ればこのまま1日に1話は書きたいと思います

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ