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聖王伝  作者: 竜人
第二十四章 王の帰還
783/800

第783話

女神ゾーンは、強力な大型の義体まで用意していた

ギルバートは苦戦しながらも、何とか1体を倒して

そしてイチロも、もう1体の義体を倒した

それを見て、ゾーンは激しく動揺していた

イチロはゾーンの腕を掴むと、そのまま首飾りを巻き付ける

そして精霊に乞うて、首飾りの力を発動させる

それは時を止めて、封印する為の力だった

首飾りは激しく輝き、その力を解き放つ


「うおおおおお」

バギバギバギ!


「ギルバート

 ありがとう」

「イチロは?」

「向こうで戦って…な!」


ギルバートは、アイシャ達と協力して義体を倒す。

しかしその時、背後で強い光が放たれた。


「駄目!

 イチロ!」

「そんな!」

「やっと…

 やっと戻れたのよ?

 何でなの?」

「何だ?

 どうしたんだ?」


アイシャ達には、その光が何だか分かっていたのだ。


「いやああああ」

「そんな…」


ギルバートには、何が起こっているのか分からなかった。

しかしアイシャ達は、泣き崩れて蹲っていた。

彼女達には、何が起こったのか分かるからだ。

イチロは女神を掴んだまま、封印の石柱に取り込まれる。


「さあ…

 この…まま…」

「ぐ…

 こん…な…」


イチロもゾーンも、光に包まれて身動きが取れなくなる。

そしてそのまま、光の中でイチロの身体が石になり始めた。

イチロは女神の腕を掴んでいて、みるみるうちに石と化して行く。

そして女神も、腕から徐々に石と化して行った。


「ふざ…な…

 わた…がみ…」

「あき…

 もは…」


女神は懸命に抗おうとするが、身体は動かない。

そうして光が収まる頃には、二人の姿は石像とかしていた。


「いやああああ

 イチロ!

 イチロー!」

「嫌よ!

 こんなの嫌よ!」

「こんな結末なんて認めないよ!」

「一緒に帰るって言ったじゃない!」

「どうしたんだ?

 何が起きている?」


ギルバートは、彼女達の狼狽えぶりが理解出来なかった。


「ギル…」


アーネストが、動かなくなった義体の群れの中から出て来る。

後少しで、アーネストは義体に囲まれていた。

そうなったら、いくら雷撃の魔法があっても無駄だっただろう。

義体に囲まれては、アーネストも身動きが取れなくなるからだ。


「アーネスト!

 これは一体…」

「封印だ…」

「封印?」

「ああ

 以前に話しただろう?

 イチロは500年ほど昔に、自らを封印させたんだ」

「だからって…」

「500年だぞ?」

「それは…

 本当なのか?」

「ああ

 オレも封印を解くところを見たんだ」

「そんな事が本当に?」

「ああ…」


ギルバートは、ここで初めてイチロの方を見た。


「石に?」

「ああ

 あの時も石の壁の様になっていたな」

「こんな…

 こんな事があるのか?」

「あるんだよ」

「ああああ

 イチロ!」

「イチロ!」

「うわああああん」


アイシャ達は、石と化したイチロの周りに集まる。

そして蹲り、取り縋る様に周りで泣いていた。


「なあ

 この封印は解けないのか?」

「解けなくは無いだろうが…

 女神も復活するぞ?」

「あ…」

「イチロが自身を賭して封印したんだ

 そうで無ければ…」

「そうだな…」


ギルバートとアーネストは、何とも言えない表情で石像を見ていた。


「イチロ

 イチロ…」

「ああはあああん」

「うわあああん」


「どうする?」

「暫くこのままにしよう」

「これで…

 終わりか?」

「ああ」

「終わりなのか?」

「そうだ」

「こんな結末…」

「ああ…」


納得出来ない


ギルバートは、そう思ってギュッと拳を握った。


「許せない」

「ああ

 だがもう、終わりなんだ」

「しかし…」

「このまま…」

「いつか封印は解けるのか?」

「分からない

 しかしイチロは…」

「そうか

 500年も…」


二人はそこで、黙って感情の整理をしようとする。


アーネストはここに、ギルバートを探して辿り着いた。

女神を倒す事は、アーネストにとってはついでだったのだ。

世界を救う事よりも、アーネストにとっては親友の方が大事だったのだ。

そして今、戦いは終わったのだ。


ギルを連れて…

これで帰れるんだ

そうだ

何も問題は無い筈なんだ


ギルバートは、静かに俯きながら考える。

女神に捕らえられている間に、彼は様々な事を考えていた。

その一つが、女神が生み出した魔物の事だった。

ギルバートは、彼等を哀れだと感じていた。


これで終わりなのか?

魔物はどうするんだ?

そしてこの世界は?

オレ達は無事に、ここからかえれるのか?


ギルバートはそう考えて、小さく首を横に振る。


いや、今はそれどころでは無い

彼女達を連れて、ここから脱出しなければ


ギルバートは、先ずはイチロの妻達をどうするか考えていた。

それはギルバートが、イチロに恩義を感じていたからだ。

あのまま戦っていても、ギルバート達は勝てなかっただろう。

いや、女神は破壊する事は出来た筈だ。

しかし女神は、何度でも義体を使って復活する。

だからここで、女神に止めを刺す事は出来なかっただろう。


イチロが居たから…

こういう形ではあるが、無事に果たせたんだ

そう思って納得するしか無いんだ


ギルバートはそう思って、彼女達が泣き止むのを待っていた。


「ギル

 これからどうする?」

「どうするって…」

「国に帰ってからさ

 当然王位を継ぐよな?」

「王位…か…」

「ん?

 お前は王になるんだろう?

 国民を幸せにするって…

 ハルバート王に誓ったじゃないか」

「ああ

 そうだな」


ギルバートはそう答えながら、少し考えていた。


「なあ

 魔物も…」

「ハイランド・オーク達か?

 彼等はもう、国民だぞ」

「そうじゃない!

 ここに居た魔物達だ」

「あいつ等は狩られただろう?」

「そうだろうが…」

「魔物の事が…

 気になるのか?」

「ああ」


ギルバートは、魔物に同情をしていた。


「魔物だって被害者なんだ」

「それは違うぞ

 ハイランド・オーク達は違うが、ほとんどの魔物が元々狂暴なんだ」

「しかし中には…」

「そうだな

 優しい魔物も居るかも知れない

 しかしどうやって見分ける?」

「それは…」

「ハイランド・オーク達は特別なんだ

 他の魔物には悪いが…

 助けるってのは現実的では無い

 下手したら逆に、こっちが襲われるだけだぞ?」

「確かにそうなんだが…」


ギルバートは納得出来ないのか、困った様な表情を浮かべる。


「救ってやれないのかな?」

「難しいな

 向こうが救いを求めてくれば…

 あるいは助けてやれるが…」

「そうか…」

「それよりもどうするんだ?

 セリアの子の事もあるし」

「ロバートか…」

「ああ

 あの子が王子…

 王太子になるんだよな」

「ああ

 だけど帰れるのか?」


ギルバートは、改めてここから帰れるのか聞いて来た。


「帰れるって

 あの時は向こう側からだっただろう?

 こちら側に精霊達を呼べば…」

「出来るのか?」

「精霊達は呼べていただろう?」

「だが精霊達は、こちら側から帰れるとは…」

「帰れるさ

 大丈夫だ

 それに…」

「それに?」

「ああ

 その時にまた考えるさ」


二人が話していると、そろそろ彼女達が泣き止んでいた。

戦闘中は後方に下がっていた、セリアが彼女等を慰めている。


「ギル

 アーネスト」

「ん?」

「どうした?」

「この石像も持ち帰りたいの」

「それは出来なくは無いが…」

「そうだな

 抱えれば良いだろう?」

「うん

 後は精霊達を…」


セリアはそう言って、精霊達を呼ぼうと祈り始める。


「石像…か」

「城の奥に保管するか」

「そういう言い方は…」

「仕方が無いだろう?

 安全な場所で、封印が破られない様に見張らないと」

「それはそうなんだが…」


イチロと女神の封印の石像は、城の奥に仕舞われる事になるだろう。

本来ならば、平和の象徴として祝福をしたかった。

人目の付く場所に置いて、国の安寧を見守って欲しい。

しかし問題は、これが封印である事だった。

封印が解かれれば、再び女神が解放されるのだ。


「イチロや女神にも、平和になった世界を見せたい」

「それは無理だろう

 封印なんだぞ?」

「それはそうだが…」

「代わりの石像を、それだとして置く事は出来る

 しかし本物は、安全な場所に保管すべきだ」

「そう…か」


アーネストは代替え案として、代わりの石像を置くと言っていた。

本物を人目に付く場所に置くのは、封印を解かれる恐れがあるからだ。

精霊の力が必要なので、その心配は杞憂なのだが、アーネストは万が一を考えていた。


「それでイチロも女神も…

 許してくれるさ」

「そうかな?」

「ああ

 何よりも封印が解けるのが危険だ」

「そうか…」


ギルバートは口惜しそうに、石像になった二人を見詰める。


「イチロ…

 うう、ぐすっ」

「泣くな

 行くよ」

「分かって…

 うう…」

「さあ

 精霊を呼んで…」


アイシャ達はそう言って、涙を振り払う。

悲しみに目は、未だに涙を流していた。

しかしそれを拭いながら、石像を見詰める。


「帰ろう」

「一緒にあの国へ…」

「あそこがイチロの目指した国なんだもんね」


イチロも嘗ては、魔物と人間の平和に暮らす世界を目指していた。

しかしイチロの力を恐れて、人間はイチロを裏切る。

そしてイチロを、魔物に憑かれた危険な化け物としたのだ。

魔物とイチロを殺そうと、人間は再び武器を手にした。


イチロが目指した世界は、まだクリサリス聖教王国だけだった。

しかし王都には、魔物も獣人も一緒になって暮らしていた。

これが他の国にも広がれば、やがて世界は変わって行くだろう。

女神はそうならないと、否定をしていた。

しかしクリサリスでは、それが当たり前になりつつあった。


「精霊よ

 シルフ、ノーム、イフリーテ…

 誰でも良いから応えて」

「&kQO…」

「何?

 どうしたの?」

「…ずか…です

 って…さい」

「来れないの?」


セリアの呼び掛けに、精霊の誰かが応えようとしていた。

しかし難しいのか、声が微かに聞こえる程度だった。


「どうしたんだ?

 来れないのか?」

「ううん…」

「難しいんだろうな」

「何でだ?

 魔法は使えていただろう?」

「魔法はな」


アーネストはそう言って、難しい顔をする。


「魔法はな、精霊の力を借りるんだ」

「だからそれなら…」

「力なら何とか…

 しかし本体は…」

「違う…

 と言うのか?」

「ああ

 だから難しいって…」

「それじゃあ帰れないじゃないか」

「黙ってて

 ミリアさん」

「ええ

 私も手伝います」

「精霊よ!

 私の呼び掛けに応えて」

「精霊よ

 お願い」


二人が祈って、集中して眼を瞑っていた。


暫くして、再び声がし始める。


「…が…やり…」

「…ぬぬ…」

「…でどうよ!」

「…たわ

 出れた!」


そう声がして、光が飛び込んで来た。

それは赤や青の輝く、光の球の様だった。


「来てくれたのね」

「ええ

 ようやく抜けられました」

「ここが女神の世界?」

「ううむ…

 すっかり山の様子が…」

「山だけでは無いわ

 この世界自体が、不思議な魔力に包まれているわ」

「よく安定させたものだ」

「やはり精霊の因子を依り代に…」

「赤子の状態で、肉塊にしよって…

 ゾーンめ」


光の球は、クルクルとセリアの周りで舞いながら回っていた。


「それで?

 ゾーンめの奴は倒せたのか?」

「うん

 イチロが…」

「イチロが?」

「イチロ…

 うう…」

「む?

 どうしたのじゃ?」

「イチロが!

 うわあああん」


ミリアは思い出した様に、再び涙を流し始める。

チセも堪え切れなくなったのか、再び泣き始めた。


「イチロがね、封印したの」

「封印?」

「まさか!」

「確かにイチロの魔力を感じない」

「あれか!」

「ぬう…

 ワシ等の魔力が無いから、自らを核にしたのか」

「何と無謀な事を…」

「うわあああん」

「イチロ…」

「くっ

 我はこんな結末を望んでいなかったぞ!」

「何であいつが!

 言ってくれれば、我等が封印したものを…」

「ううん

 イチロは覚悟していたんだと思うの

 思えば思い詰めた顔をしてたもの」

「くそっ!」


精霊達も石像に気付き、悔しそうしていた。

彼等の力があれば、女神も封印出来たのだろう。

しかし女神には、封印をさせる隙が無かったのだ。

だから精霊達も、今まで手を出せないでいたのだ。

精霊達でも、女神に迂闊に手を出せないでいたのだ。


「それで?」

「我等を呼んだという事は…」

「帰るという事で良いのか?」

「うん」

「お願いします」

「ああ

 我等もそのつもりで来た」

「しかし時間が掛かるわよ?」

「そうじゃな

 ちとこの干渉がな…」

「難しいのか?」

「難しくは無いが…」

「時間が掛かるのよ」

「分かった」

「お願い」

「ああ

 飛空艇じゃったかな?」

「アレの近くに作るぞ」

「でも、飛空艇は…」

「なあに

 出口が出来れば法則にも影響が出る」

「出られるのか?」

「うむ」

「その方が良いじゃろう?」

「兵士達も居るからのう」

「ああ

 頼む」


精霊達は、光の球まま宙を飛んで行く。

そして精霊達は、飛空艇の周りに集まった。


「さあ!

 ワシ等の力の見せどころじゃぞ!」

「ああ

 任せろ!」

「それじゃあ力を集中して」

「うむ

 一点に集中しろ」

「…」

「もう!

 何か良いなさいよ

 イドは暗いんだから」


精霊達は集中して、力を虚空に向かって放ち始める。

飛空艇のすぐ側に、力が集まってバチバチと音を立て始める。


「おお!

 あれは精霊様か?」

「帰り道を作ってくださっているのか?」

「ああ…

 これで帰れるんだ」

「帰ったら、黄金の穂亭で飲み明かそうな」

「ああ

 そうしよう」


騎士とハイランド・オーク達は、その光景を見て歓声を上げていた。

魔物が逃げ出した事で、ギルバート達が勝ったと確信していた。

そして今、精霊達が集まって帰り道を作り始めたのだ。

だからこれで、もう家に帰れるんだと思っていた。


彼等は帰ったら、どうするか話していた。

長い戦いは、こうして幕を閉じたのだ。

まだまだ続きます。

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