第781話
イチロ達は、女神を追って神殿の地下に向かった
神殿の中の棺に、隠し階段が仕込まれていたのだ
そうして一行は、神殿の地下深くに降りて行った
そこには広間があって、大型の魔物が控えていた
魔物はドラゴンをベースにして、獅子の頭と毒蛇の尻尾を持っていた
両肩の獅子の頭も、炎のブレスを吐く事が出来る
アイシャとミリアが左右から、矢を番えて放っていた
しかしこの獅子のブレスが、その矢を焼いて防いでいた
「何なのよ、もう」
「厄介だわ
イチロ
大丈夫なの?」
「うおおおおお」
「せやあああああ」
ガキン!
ギャリン!
ギルバートとイチロが、同時に魔物の脚に切り付けた。
しかし鱗が硬いのか、剣は通らなかった。
「くっ」
「硬いなあ」
「そうだ…うおっ」
ギャオオオオ
竜は仕返しとばかりに、首を伸ばして噛み付いて来た。
二人はその攻撃を躱して、後方に下がる。
そうして剣を構えると、再び魔物に向かって走り込む。
今度はイチロが足元を狙い、ギルバートはもう少し上を狙ってみる。
「やあああああ」
「うおりゃあああ」
ギャオオオオ
ガキン!
ギャリン!
ガリガリ!
今度はギルバートは、前足の関節を狙って振り抜く。
イチロの攻撃に魔物は、首を下げて噛み付こうとする。
しかしギルバートの攻撃で、関節部の鱗が何枚か剥げ落ちる。
その痛みで、魔物は首をギルバートの方へ向ける。
グギャオオ
「させるか!」
「食らうかよ」
ギャギギギギ!
バキン!
グギャン
ギルバートは剣を振るって、竜の頭を叩いて逃れる。
そしてその間に、イチロが関節部の薄くなった鱗を叩き割った。
それで魔物は、苦痛に呻いて首を振る。
ギルバートはその首に叩き付けたので、その反動で後方に着地する。
「っはあ、ふう…」
「何とか通ったな」
「ああ
効かない訳では無いな」
二人は剣を構えると、再び魔物に向けて駆け出す。
今度はギルバートは、胸元に向けて跳躍する。
イチロは魔物を引き付ける為に、敢えて前足に攻撃を加える。
「うおおおお」
ギャオオオオ
「今だ!
食らえ!」
ギャリン!
バギン!
グギャオオオ
今度も剣は突き刺さり、魔物の胸元の鱗を数枚破壊する。
そうしてギルバートは、そこに足を踏ん張って剣を掻き回す。
「そうっれええええ」
バギバギバギャン!
ギャオオオオオン
魔物は悲鳴を上げて、首を左右に振り回す。
「ぬ?
うおっと」
振り回す前足の鉤爪が、イチロの近くの地面を抉る。
そして苦痛に呻く魔物は、左右の獅子の頭も苦しんでいた。
それでアイシャ達は、その目を狙って矢を放った。
「今よ!」
「これでも食らいなさい」
グギャオオオ
ギャイン
放たれた矢は、魔物の獅子の目に突き刺さる。
左側は右目を、右側の頭には左右両方の目が潰されていた。
「やった」
「これで獅子も…」
「でも…
まだ竜の頭が残っているわ」
獅子の目を潰したので、これで視界は大分狭まっただろう。
しかしまだ、竜の首が残っていた。
獅子の頭は目を潰されたので、出鱈目に炎を吐いていた。
それが却って、厄介な状況を作り出す。
ゴウッ!
ボワッ!
「くっ
却って厄介だな」
「しかしこれで、首元も狙える様になった」
「そうだな
こいつを倒すぞ」
「ああ」
イチロとギルバートは、再び魔物に向かって行く。
先ずは魔物の、前足を集中して狙って行く。
前足には大きな鉤爪があり、それをまともに受ければギルバートでも危険だった。
だから二人は、先ずは前足を動かせない様に執拗に狙った。
「うおおおお」
バギン!
ギャオオオ
「うりゃああああ」
ザシュッ!
グギャン
魔物は悲鳴を上げて、右の前足を振り上げる。
そこにイチロが、素早く剣を振り込んだ。
袈裟懸けに振り下ろされた剣は、魔物の右足の指を数本切り落とした。
「よし
右足は…ぬおっ」
「危ない
油断するな」
「あ、ああ」
二人は剣を構えて、さらに魔物に切り込む。
「せやあああああ」
「うおおおお」
ザン!
ザシュッ!
グギャオオオ
さらに左前脚を切り付け、手傷を負わせる。
魔物は前脚を引き摺りながら、二人の方へ振り向く。
その目は怒りに燃えており、口を大きく開く。
そこから一筋の、赤い炎が吐き出される。
ゴオオッ!
「くっ!
まだブレスがあるか」
「しかしそれだけだ!
行くぞ!」
「おう!」
「うおおおおお」
「うわああああ」
二人は今度は、ブレスの合間に胸元や首筋に切り付ける。
胸元は先程、ギルバートが鱗を剥ぎ取っていた。
そこを狙って、イチロは剣を構えて跳躍する。
魔物の大きさは5mほどで、胸元も2m以上の高さになる。
しかし跳躍すれば、届く高さだった。
「食らい…やがれええええ」
ガギン!
バキン!
ギャオオオオ
イチロの振るった剣は、横一文字に胸元を切り裂く。
鱗がその一撃で、さらに剝がれて落ちて行く。
傷口からは、血が流れて魔物は苦しそうだった。
しかし倒さなければ、この先には向かえない。
「悪いな
女神を倒さなければならないんだ」
「ギルバート
油断をするな」
「分かっている
これで止めだ」
ギルバートは身体を沈めて、魔物の注意を引き付ける。
魔物は右足を振り上げ、残った指を振り下ろそうとする。
ギルバートはそれを、ギリギリまで引き付ける。
そして後方に跳躍してから、もう一度前に向かって跳躍する。
「はああああ…
せりゃあああ」
ズザン!
ブシュウウウウ!
ギャオオオン
魔物の断末魔の、叫び声が響き渡る。
剣は魔物の首を、半分以上切り割いていた。
そこから夥しい量の血が、地面に向かって滴り落ちる。
しかし魔物は、最後の力を振り絞る。
グギャオオオ…
「ギルバート!
危ない!」
「頑張ったな
もう良いんだぞ」
ズドシュッ!
向かって来る竜の頭に、ギルバートは剣を突き立てた。
魔物はそこで、ゆっくりと目を閉じて力尽きる。
ギルバートはその頭を、優しく撫でてやっていた。
「苦しかったよな…
もう眠れ」
グギャオ…
魔物は最期に、一声鳴きながら静かに横たわる。
「ギルバート!」
「大丈夫だ
最期の足搔きさ」
「しかし…」
「可哀想に…
お前も女神の被害者なんだな」
「ギルバート…」
ギルバートは、その魔物に同情していたのだ。
だから最期は、自分の手でしっかりと止めを刺したのだ。
魔物の最期の一撃を、正面から受け止めて。
その上で、彼は魔物に止めを刺したのだ。
「被害者か…」
「ああ」
「ギルバート…」
「…っさねえ
女神め…」
ギルバートは怒りに燃えた目で、奥に続く扉を睨み付ける。
「行こう…」
「ああ
アーネスト
アイシャ」
「ああ」
「ええ
行きましょう」
一行は再び、奥に向かって進み始める。
その後方では、倒れたミハイルの声がしていた。
「あ、ああ…
遂にガーディアンまで…
神よ…」
奥の扉の前で、ギルバートは一行に振り返る。
「ここに恐らく、女神ゾーンが居る」
「ええ、そうね」
「独特の魔力を感じるわ」
「いよいよ最後ね」
「ここに…」
ギルバートは再び、みなの顔を見ながら言った。
「恐らく女神が待ち構えている…
帰るのなら今だぞ?」
「何言ってるのよ?」
「そうよ
ここまで来て、帰れないわよ」
「しかし危険だぞ?」
「それは帰っても同じよ」
「まだ魔物と戦っているかもよ?」
「そ、それは…」
確かに、まだ騎士達は戦っている途中かも知れない。
「それにね
どうやって帰るの?」
「へ?」
「飛空艇は動かないでしょ?」
「それに入り口もね
もう閉まっているんじゃない?」
「あ…」
「そういう事だ」
「今さら引き返せないさ」
「それはそうだが…」
「さっさと行くぞ」
イチロはそう言って、ギルバートの肩を叩いた。
「分かった
後悔するなよ?」
「ああ
必ず生きて帰るぞ」
「そうね
私はまだまだ作りたい物があるのよ
飛空艇も調べたいし」
「そうね
私も…」
「私はこの国を…
妖精の国を立て直したい」
「みんな…」
「そういう訳だ
みんな死ぬつもりはない」
「ああ
そうだな」
ギルバートは頷くと、目の前の扉に手を掛ける。
それは簡素ながら、金属で周りを囲ったしっかりとした扉だ。
それをゆっくりと、ギルバートは押し込んで開く。
ギギギギ…
扉はゆっくりと軋んで、中に向かって開かれる。
そこは大きな部屋で、中には金属の棺が並んでいる。
そこには少女や女性が、棺の中に横たわっている。
棺の蓋がガラスなので、中が見えているのだ。
「棺?」
「いや
あれは女神の…」
「あれだけ予備の身体があれば…」
「予備の?
まさか!」
「ああ
死んでもすぐに生き返るだろうな」
「くっ…」
棺の中の身体は、全て女神の予備の義体だった。
本体に何かあった時に、その身体に移る為に用意しているのだ。
そしてその真ん中の、壇上に一人の女性が立っていた。
「よく来たわね」
「ああ
大変だったぞ」
「歓迎は喜んでくれたようね?」
「ああ
楽しませてもらったさ」
女神の嫌味に、イチロは苦笑いを浮かべて応える。
「それで?
本気で私に勝てる気なの?」
「ああ
そのつもりで来た」
「今日こそ倒させてもらうぞ」
「あら?
あなたの力で?」
「ああ
茨の女神も倒したんだ」
「そうね
破壊は出来るでしょうね…
でもね」
女神はギルバートの言葉に、ニヤリと微笑んでいた。
そして周囲にある、義体を指差してニヤリと笑った。
「これだけ身体があるのに?
どうやって?」
「くっ…」
「片っ端から壊すだけだ!」
「どうやって?
この数を?
ほほほほ」
「くそっ!」
「舐めやがって…」
女神の笑いに、アーネストも苛立って身構える。
「そう…
どうしても…なの?」
「ああ」
「はあ…
今なら生かして帰してあげようとも思ったんだけど…」
「ふん
生かして帰すだと?」
「その後に魔物を放つのにか?」
「それは仕方が無いでしょう?
あなた達が悪いのよ?
まともに暮らしていてくれれば…」
「何がまともにだ!
それじゃあクリサリスは?
クリサリスは何で魔物に襲われる?」
「アーネスト…
あなた達は私を狙っていたでしょう?
そうで無ければ見逃していたわよ?」
「何が見逃すだ!」
「アーネスト
まともに取り合うな」
「しかし…」
「こうなってしまえば、後は雌雄を決するだけだ」
「そうだな
最早言葉は要らない!」
「そう…
残念だわ」
女神はそう言うと、肩を竦めて振り返る。
「逃げる気か?」
「逃げる?
私が直接手を下す必要は無いわ」
「何?」
「さあ!」
ガゴン!
女神の声と同時に、棺の蓋が開かれる。
そこから数体の女神の義体が、身構えながら姿を現わす。
中には腕の代わりに、剣や金属製の何かを付けた義体も居た。
「くっ…
そういう事か」
「本人が入らなくても、動かせるのか?」
「どうやらその様だな」
「構わん
そっちの奴を頼むぞ!」
「ああ
来るぞ!」
キシャシャアア
ウキャアアア
奇妙な叫びを上げて、少女や女性が襲い掛かって来た。
手にした武器や、金属製の腕を振り上げて襲い掛かる。
後方のアイシャやファリス達も、剣やメイスを手にして戦っている。
「くそっ!
見た目が見た目だから」
「戦い難いわね」
「だからって…」
「そこまで強く無いな」
その義体の群れは、力自体はそこまででは無かった。
問題はその数が、多くて厄介だという事だ。
「もう!」
「厄介な相手ね」
「見た目が少女や女性だなんて…」
「ドリルやチェーンソーに気を付けろ」
「チェーンソー?」
「ドリル?」
「ドリルはあの回る鉄の…
棘みたいなヤツだ」
「棘?」
「あのうるさく回っているヤツか?」
「ああ
思ったより鋭いぞ」
「ああ
躱すから何とかなる」
「そうしてくれ
チェーンソーは同じくうるさい、鋸みたいなヤツだ」
「あれも危険なのか?」
「ああ
武器で受けようとするな
躱すんだ」
「分かった」
「躱せば良いのね?」
「ああ
触れるなよ」
イチロは、その武器に見覚えがあったのだろう。
すぐさま危険を察知して、みなに注意を促す。
しかし女神の義体は、それ以外の武器も持っていた。
それは電撃を、腕から放つ義体も居たのだ。
バチバチ!
「くっ!」
「このっ!」
「雷か?」
「痺れるから気を付けて」
「本当に…
厄介な武器ばかり…」
「ほほほほ
当然でしょう?
あなた達とまともに戦う気なんて無いわ」
「くそっ!
食らえええええ」
「くっ!
魔力の斬撃ですって?」
ギルバートが、周囲の義体ごと剣を振り抜く。
そこから放たれた斬撃が、女神本体に向けて飛んで行った。
魔力を込めた斬撃は、女神の左腕を切り飛ばす。
それで女神は、別の義体に本体を移す。
「だけど残念ね
私を殺す事は出来ないわ」
「くっ
止めは刺せないか…」
いくら本体に攻撃しても、すぐに他の身体に移動出来る。
それで女神は、安心してイチロ達の戦いを眺めていた。
それ自体が、イチロ達に対する挑発なのだ。
「舐めやがって…」
「ギルバート
目の前の義体に集中しろ」
「しかし女神が!」
「今は堪えろ
きっと機会は訪れる」
「ほほほほ
どうかしらね?」
しかし破壊された義体も、すぐに他の義体が回収する。
そして新たな、義体が向かって来るのだ。
それにイチロは、回収された義体が修理されていると感じていた。
だからどれだけ倒しても、切りは無いのだ。
「隙を…
女神が油断する隙を…」
イチロは、女神が油断する機会を窺っていた。
そこに起死回生の、一撃を狙っていたのだ。
まだまだ続きます。
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