表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第三章 新たなる領主
78/800

第78話

フランドールは部屋に戻ると、早速装備を外した

愛用の剣を引き抜いて確認したが、ヒビこそ入っていなかったが傷や刃が欠けていた

これは最後のオークとの戦いでなったのだろう

オークという魔物は、彼が思っていた以上に危険で強力な魔物であった

あの時、守備部隊の兵士達の助けが間に合ってなければ…

思い出しただけでも身震いがする

剣を収めても恐怖と悔しさは収まらず、思わず壁を殴ってしまった

フランドールが湯浴みをして、夜着のガウンに着替えている間に夕食の準備は整っていた

そこには珍しい料理が出ており、フランドールはその説明が始まるのを待っていた

それは牛でも豚でもない、変わった姿の動物の丸焼きであった

どうやら内臓だけ取り出し、そこへ香草や野菜を詰め込んで焼き上げた様だ


良い匂いに誘われて、フランドールとアーネストは先に席に着いていた。

ギルバートも湯浴みをして着替えたらしく、簡素なローブを着て現れた。


「やあ

 お待たせして申し訳ない」

「いや

 今しがた来たところだよ」

「いいから、早く始めようぜ

 セリアが泣きそうな顔をしてる」


見ると本当に泣きそうな顔をしているが、それは恐らくアーネストに言われて恥ずかしくて泣きそうになっているのだろう。


「ははは

 これはすまなかった

 それでは始めよう」


そう言ってギルバートがグラスを差し出し、軽く打ち合わせて夕食が始まった。

グラスにはダーナで採れた葡萄から作られた葡萄酒が入れられていた。

それは芳醇な香りを放ち、渋みは少なく甘みが強い酒であった。

アルコール度数も低く、食前酒の様な感じの軽い酒だ。


「それで…

 これは何の肉なんだい?」


フランドールの質問に対し、アーネストが答えた。


「ああ、そうそう

 これの紹介がしたかったんだ」


アーネストは合図を出して、メイドが丸焼きの肉を切り分け、香草や野菜を添えて配っていった。

配られた皿からは香草の芳しい香りが漂い、肉の香りと相まって食欲をそそった。

見た目は豚の丸焼きに似ていたが、その容姿は異様で、大きさも2周りは大きかった。

そして出された肉も、豚にしては脂の乗り方が異なっており、どちらかというと牛の肉に見えなくもなかった。


「これは…」

「うん

 実に旨そうだ」


「兄さま

 もう…食べて良い?」


フランドールは厚く切った肉から滴る肉汁に目が行き、かぶりつきたい衝動に駆られた。

セリアも目を輝かせていて、今にも飛び掛からんとナイフとフォークを構えていた。

ジェニファーやフィオーナも唾を飲み込んで我慢していた。


「早速頂こう」


ギルバートがそう言ってナイフを入れ、みなもそれに従った。

暫し無言で肉の旨味を堪能していた。

やがて一心地着いたのか、アーネストが口を開いた。


「文献で知ってはいたが、これほどとは…」

「文献?」


「ええ

 実はこれは、古い文献に出ていましてね」

「?」


「最近…

 ワイルド・ボアという魔物が捕れる様になりましてね」

「まさか…」

「いえ、そいつは違います」


「ワイルド・ボアって、あの美味しい猪だよね

 わたし大好き」


セリアが嬉しそうに言う。

どうやら既に食べた事があるらしい。


「魔物の肉を食べたと言うのか?」

「ええ

 古い文献にありましたから」

「いや、文献に載っていたと言っても魔物だろ?」


「そうですね

 でも、魔物と言っても猪ですよ?

 さすがにオークやゴブリンとは違いますよ?」

「いや…

 大丈夫なのか?」

「ええ

 既に住民も食べていますし、王都へも干し肉にして献上しました

 今頃は王にも届いているかと」

「そうか…」


フランドールは魔物が食用に狩られていると聞いて驚いていた。

今まで魔物が居なかった事もあるが、魔物がそこらにいる猪や豚と変わらないという感覚が理解出来なかったからだ。

しかし、感覚は兎も角、肉は間違いなく美味しかった。


「あ!

 これは違いますから

 ワイルド・ボアは一昨日の祝賀の料理に出しています」

「え?」


「これはアーマード・ボアって言うもう一ランク高い魔物です」

「な…」

「そうそう

 こいつが手強かったんだ

 アレンが吹っ飛ばされて大変だったよ」

「それはまた…

 後で謝っておけよ」


一皿目が空になった為、再びメイドが切り分けて行く。

再び更に乗せられた肉が配られるが、その匂いに惹かれてみなが自然とナイフとフォークを手に持っていた。

子供であるセリアも、二皿目を目の前に涎を垂らしそうになる。


「本当に…魔物なんですか?」

「ええ

 手強かったですよ」

「アレン部隊長が戦ったって話だけど、止めはギルが刺したんだよな?」

「ああ

 さすがはアーマードと言うだけあって、そこらの剣じゃ跳ね返されてな

 オレの剣でやっとだよ」

「それはまた…」


「アレンが逃げた時に、大木をへし折っていたよ」

「そんなに頑丈なんですか?」

「そうらしい

 こいつの皮を剥ぐのも一苦労でしたよ

 継ぎ目から切り取るのでもナイフが何本かダメになりましたよ」


どうやら相当に頑丈らしく、調理の前に皮を剥ぐのにも苦労した様だ。

そこら辺も資料があったらしく、剥いだ皮の使い道も調べられていた。


「この魔物の皮は頑丈で、鎧や盾に使えるみたいですよ

 それに筋肉も固いらしく、強力な弓がつくれるって」

「でも、あんまり強いと引けないんじゃないか?」

「そうか

 今はオークの素材で作った弓も使えていないんだよな」

「そうだよ

 作るのは良いけど、使えないと意味がない

 先ずは兵士を鍛えないとな」


「ふむ

 私も早急に私兵達を鍛えないといけない

 よろしければ、また一緒に討伐に出てもらえないか?」

「ん、ん!」


三人がそんな話をしていると、小さく咳払いがされた。


「三人共、今は食事中です

 そういう話は他でしてもらえませんですか?

 娘達に悪影響です」


気が付けばジェニファーが冷たい視線でみており、フィオーナも嫌そうな顔をしていた。

ただ、セリアだけは美味しそうに肉にかぶりついていて、皿も3皿目になっていた。

それに気が付き、みなが視線を向ける。


「あむあむ…

 んにゅ?」

「ぷっ…くく…」

「これは…」


セリアはみんなに注目されている事に気付き、どうしたの?といった感じで周りを見る。

それを見てジェニファーは頭を抱え、ギルバート達は笑いを堪えていた。

フィオーナも2皿目を食べ終わっていたが、次の皿を頼むか悩んでいた。

しかしセリアの様子を見て恥ずかしくなったのか、俯いて困った顔をしていた。


「ほら

 これぐらいなら大丈夫だろ?」


ギルバートが合図をして、小さく切った肉が用意される。

フィオーナは躊躇ったが、嬉しそうにナイフで肉を切り始めた。

がっつくのは恥ずかしいが、それでもこの肉は魅力的だった。


それからは暫くは止め処ない会話が続けられ、食事は楽しく終わった。

食後の葡萄酒を飲みながら、ギルバートはフランドールを執務室へ誘った。


「フランドール殿

 よろしかったらこれから話したい事があります」

「分かりました」


二人は執務室へ向かい、アーネストも書類を取りに席を立った。

ジェニファーもフィオーナを椅子から降ろし、セリアは最後の一切れを頬張っていた。

気が付けば、皿は4皿重なっていた。


執務室に入ったギルバートはソファーに座り、フランドールもその向かい側に座った。


「で?

 お話とは?」

「そうですね…

 そろそろ…」


コンコン!


ドアがノックされて、アーネストが入って来た。


「お待たせしました

 こちらが資料になります」


アーネストは名簿と日付や時間の記された羊皮紙を机の上に置いた。

そこには騒ぎを起こして収容された私兵達と、彼等が接触した人物の名前が記されていた。

日付や時間は彼等が密会した時の記録で、不自然な接触が数回行われている事が分かった。


「これは…」

「あなたがここに来られて、まだ3日しか経ってません

 その間に行われた密会の記録です」


「まさか…

 既にこれだけ動いていたんですか?」

「ええ

 こちらが気が付いていないと思ったんですかね?

 堂々と密会していました」

「しかし、そうなると

 単に何かの用事があったのでは?」


「フランドール殿

 ここに来たばかりの兵士が…

 それも田舎者とか言っている者が住民と接触するのは、不自然ではありませんか?」

「ううむ…」


「兎に角

 こちらの人物達も怪しいので、警備兵や騎士団でも調べています

 これは今後のあなたの統治にも影響するので、早急に対処したいと思っています」

「そうですか

 ありがとうございます」

「いえ

 これは私達の為でもあります」

「と…言いますと?」


「実は、父上の葬儀の際にも不自然な動きがありました」

「なんと!」

「恐らくは以前から潜入していると思います」

「そうですか…」


「この街を守る為にも

 そして、母上や妹達を守る為にも

 不審な勢力を見逃す事は出来ません」


ギルバートの真剣な眼差しを見て、フランドールも頷く。

アーネストは黙っていたが、その真剣な眼差しからも同じ気持ちだと判断出来た。


「やるなら徹底的にです」

「ああ

 私で出来る事なら協力するよ」


「もしかしたら、フランドール殿の私兵達から更なる逮捕者が出るかも知れません」

「それは仕方が無いでしょう

 寧ろ今後を考えて、怪しい者は全て捕まえてください」

「分かりました

 それでは、明日から動かします

 数日中には方が付くと思います」

「よろしくお願いします」


フランドールが頭を下げ、ギルバートも頷いて握手を交わす。

そうして密談は完了した。

街に潜むであろう危険思想の勢力を捕まえる為の、共同戦線が結ばれた。


アーネストが書類を片付け、次の資料を取り出す。


「さて

 これは次の話題になるんだけど…」

「なんだ?」

「これは?」


「先ほど食べた魔物と、その他に最近確認された魔物の資料だよ

 どうやら狩猟する場所の相談も必要だろうから」

「ふうん」

「どれどれ」


ギルバートとフランドールは資料を手に取り、机に置かれた地図と見比べる。


「今日の狩猟結果から見ても、依然とは魔物の分布範囲が変わっているな」

「私がここでゴブリン、こっちでコボルトを見掛けたが…」

「最近はオークが増えてきたから

 ゴブリンやコボルトは徐々にこっちの…

 南の草原に移動している」


「ワイルド・ボアも草原に増えてきている

 これは元々、魔物が家畜として扱っていたのが原因かと」

「なるほど

 その魔物はゴブリンやコボルトの家畜だったわけか」

「そうなると…

 アーマード・ボアは?

 あれも家畜だったのか?」


「アーマード・ボアはまだよく分かっていないんだ

 ただ、肉は今日味わった様に非常に美味だ

 魔力の多い魔物は、その分肉も美味しくなるらしい」

「ふうん…」


「この欄外に書かれた魔物は?」


フランドールはフォレストウルフとワイルド・ベアという名前を示す。

それは地図上には記されていなかった。


「ああ、それはまだ未発見なんだ

 資料には出ているが、実物は見付かっていない」

「フォレストウルフはランクGだが、ワイルド・ベアはランクFだな

 となると…」


「そう

 ベアというだけあって、熊の魔物だ

 本当に出たら、恐らく危険な魔物だろう」

「そう思うと、同じFランクの魔物でもアーマード・ボアはまだ戦い易い魔物なのか?」


「そうかも知れないな

 ギルの話を聞いてるだけだけど、突進しかしないから

 それに毒とか持っていないし」


「毒?」

「そう、毒を持った魔物もいる

 まだ未発見だけど、コモドドラゴンって大トカゲの魔物がそれだ」

「大トカゲの魔物ねえ」


「あれ?

 でもその魔物って、確か美味だって話じゃなかったか?」

「お?

 よく覚えていたな

 確かに美味しいらしいが、牙に毒があるから危険なんだよ」

「毒があるのに食べられるのかい?」

「牙と毒を出す内臓に気を付ければ、食べられるみたいですよ

 ただし殺す時には気を付けないと

 なんせ強力な毒で、すぐに処置しないと痺れて動けなくなるし、放っておけば数日で亡くなるって書いてありましたよ」

「うえ

 そりゃあ食べる時も気を付けないと

 うっかり処置を誤れば、毒の入った肉を食べる事になるな」


まだ見た事もない大トカゲの話に盛り上がったが、それから話は元に戻された。


「こっちの草原にゴブリンやコボルトが多いなら、フランドール殿の私兵達はこっちで訓練されてはどうですか?」

「と、言うと?」

「ゴブリンやコボルトなら倒せそうですし

 スキルや戦闘訓練となるならその方が良いでしょう」

「なるほど」


「逆に、フランドール殿の訓練となると、こっちが良さそうですね」

「いや…

 オークはまだ自信が無いかな」

「大丈夫ですよ

 一緒に騎兵部隊から数人出します

 今日みたいに待ち伏せをされなければ、フランドール殿の腕なら十分戦えます」


ギルバートが頷くのを見て、フランドールは渋々と頷いた。


「ただし、数日は待って頂きたい

 今日の魔石で武器を強化して欲しいので」

「あ!」

「そうです

 武器の強化が出来れば、もうオークも怖くないでしょう」


ギルバートの言葉にフランドールもニヤリと笑う。

確かに武器の新調はしたいと思っていた。

それに、身体強化の付与は魅力的である。


「明日は商工ギルドで武器の強化の話をします

 申し訳ないんですが、朝の10時頃にギルドに来てもらえませんか?」

「分かりました

 私も剣の強化をしていただけるのなら、これほど嬉しい事はありません

 よろしくお願いします」


「序でに、今日のアーマード・ボアの素材で鎧も作りませんか?」


アーネストが調子に乗ってそう相談してきた。


「良いんですか?」

「そうですね

 まだ作った事が無いので、試作品となりますが、その機能も試してみたいですね

 明日ギルド長に話してみます」


かくして急遽新しい装備を作る事となり、ギルドに向かう事となった。


その夜、フランドールはグラスを片手にバルコニーで涼んでいた。

思い出すのは昨日のギルバートの剣技だ。

今日の戦闘でも、彼ほどの剣術があれば苦戦しなかっただろう。

それが悔しくもあったが、あの恐ろしい魔物と毎日の様に戦っていれば、あの様な力を手にする事も納得がいった。


あの少年に負けたくない

このまま負けたままではいられない

その為には、自分をもっと追い込んで、魔物との戦いで鍛えるしかないのだろう


新しい目標が出来て、フランドール目には強い決意が宿っていた。

まだ本調子ではありませんが、徐々にペースを戻したいと思います

更新がおくれてすいませんでした

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ