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聖王伝  作者: 竜人
第二十四章 王の帰還
778/800

第778話

魔物達の群れを抜けて、イチロ達は女神の神殿に向かって進んでいた

しかし目の前に、新たに魔物が現れる

それはイチロの話では、竜の因子を持った人間、リザードマンだった

彼等は300名近い数で、イチロ達の前に立ちはだかる

アーネストは呪文を唱えて、精霊に助力を乞うた

そして両腕に、風と火の精霊の魔力を集める

それを一つに纏めて、アーネストは魔物に向けて放つ

それは不安定な存在で、とても危険な魔法だった


「無茶よ!

 アーネスト!」

「我に大いなる力の一端を貸し与え給え

 うおおおおお!

 二つの力を合わせて…

 大いなる爆炎の力を示せ!」

「アーネスト!」

「はあああああ…」

バチバチバチ!

シュオオオオ!


二種類の魔法が拮抗して、激しく渦巻いていた。

アーネストはそれを、魔物の真ん中に向けて放ったのだ。


「あああああ!

 混じって砕けろ!

 地獄の爆炎(ヘルズ・バースト)

ズゴゴゴゴ…!

キシャアア…

アギャア…


魔力の塊は、ゆっくりと魔物に向けて飛んで行く。

それは赤と青の魔力が混ざり合い、激しく渦を巻いている。

そのまま魔物の群れの真ん中まで進み、魔物達は思わずそれに魅入っていた。

魔物にもそれが、激しい魔力の塊だと認識出来たのだろう。


「何て物を…」

「お兄ちゃん、イチロ

 こっちに逃げて

 シルフ

 ウンディーネ」

「どうしたの?」

「な!

 何て物を…」

「お願い!

 障壁を…」

「くっ!」

「間に合って!」

シュオオオオ!


セリアは慌てて、二柱の精霊を呼び出す。

そして風の障壁の上に、水の魔力の障壁も張り巡らす。

それを魔物との間に、壁になる様に張り巡らした。


「セリア?」

「良いから早く

 アーネストも」

「おい!

 アーネスト」


イチロが手を引き、アーネストを強引に障壁の中に引き込む。

その直後に、魔力の塊が弾けた。

眩い光と共に、轟音が辺りに鳴り響いた。

騎士達も爆風で、ひっくり返りそうになった。


シュゴウッ!

…ゴゴゴゴ…!


あまりの衝撃と轟音に、イチロ達も耳鳴りがしていた。

風の障壁の中でもそれなのだ、騎士達にも影響が出ていた。

しかし魔物が前に居たので、負傷した者は居なかったのは幸いだった。

爆発の後のキノコ雲を見て、魔物も騎士達も茫然としていた。


ズドガン!

ドゴオオオオン!

「こ…」

「何が?」

「物凄い音がしたが?」

「み、耳が聞こえない」

「あ、ああ…」

ゴゴゴゴ…!


黒煙とキノコ雲を見て、ハイランド・オークは身震いをする。

何が起こったのか分からないが、物凄い事が起こったのは理解出来た。


「ゆ、勇者殿は?」

「ギルバート王は無事なのか?」

「あれを…」


一人のハイランド・オークが、イチロ達の姿を見付けて指差す。

彼等は障壁に守られて、無事であった。


「はあ…」

「良かった」

「しかし一体何が?」

「分からんが、ワシ等はこっちを守るんじゃ」

「そ、そうだな」


ハイランド・オーク達は、少し動揺していた。

しかし己の使命を思い出し、再び魔物の前に立ち塞がる。

そして騎士達も、剣を振り回して魔物を切り伏せて行った。

何が起こったのか分からないが、イチロ達は無事だったのだ。

そして彼等の役目は、飛空艇を守る為に魔物を倒す事なのだ。


グギャオオオ

グオオオオ

「うおおおお」

「何が何だか…」

「ああ

 しかし役目を全うしろ」

「そうだ

 我等の役目は…」

「ここを守る事なんだ」


爆発の影響は、飛空艇の中にも起きていた。


シュバッ!

ズドオオン!

ガタガタガタ!

「きゃあああ」

「な、何よ?

 今のは?」

「魔法?

 魔法なのかしら?」

「精霊も騒いでいるわ

 何かの魔法みたい」

「一体何が起こったの?」

「恐らくアーネストの魔法ね

 しかしこれは…」

ゴゴゴゴ…!


あまりの強烈な爆風と魔力で、レーダーも使えなくなっていた。

そして艦橋からも、大きなキノコ雲が見えていた。


「魔法なの?」

「爆発じゃない?」

「でも…

 爆発する様な物は無かったわよ?」

「魔法での爆発?」

「それこそまさかだわ

 爆発の魔法って禁術でしょう?」

「だけどあれって…」

「どう見ても爆発よね?」


アイシャ達はアスタロトから、爆発魔法は危険だと聞いていた。

そして爆発魔法は、禁術になっているとも教えられていた。

しかしキノコ雲を見て、チセは爆発だと確信していた。

彼女は鍛冶で失敗した時に、爆発を起こした事があるからだ。


「爆発って…

 そんな簡単に出来る事なの?」

「簡単じゃ無いわよ

 だからアスタロト様も…」

「そうよね

 暴発するだけだから、使っては駄目だって…」

「そもそも呪文や使い方が分からないわ」


飛空艇の中からでも、大きなキノコ雲は見える。

そしてレーダーは、そのキノコ雲が消えるまでノイズが走っていた。


「ああもう!

 いずれにせよレーダーが使えないわ」

「そうね

 バリスタの照準も駄目だわ」

「レーザーキャノンも駄目だわ」

「魔力障害ね

 よほど強い魔力を放ったのね」

「困ったわね」

「騎士達は大丈夫なの?」

「今のところはね…」

「ならば今の内に…」

「そうね

 どうせ何も出来ないのなら…」

「イチロ達を追うわよ」


アイシャ達は、飛空艇を降りる事にした。

このまま乗っていても、再びバリスタが使えるか確証が無いのだ。

それならば船を棄て、イチロ達を追った方がマシなのだ。

彼女達は武器を手にして、飛空艇を降り始めた。


その頃イチロは、その魔法の威力に驚いていた。

地面は大きな穴が開き、その周りは熱で真っ赤に溶けている。

そしてその先には、熱で生まれた火炎旋風が渦巻いていた。

ほとんどのリザードマンは、最初の爆発で焼き殺されていた。

そして生き残ったリザードマンは、この火炎旋風に巻き込まれていた。


「な、何て物を…」

「は、はは…

 成功したぞ」

「馬鹿野郎!

 失敗したらどうするつもりだったんだ」

「いや

 自信があるから使ったんだぞ」

「自信って…

 あまりに失敗続きで、諦めたって話なんだぞ」

「そうか?

 オレは成功したぞ?」

「ああ

 しかし見ろ!」

シュゴオオオ!

ゴバアアア!


イチロは未だに、燃え盛る炎と火炎旋風を指差す。


「これじゃあ進めないじゃ無いか」

「そうか?

 回り込めば…」

「火炎旋風があるだろうが」

「火炎旋風?」

「ああ

 あれが見えないのか?」

「ああ

 風が渦巻いているのか」

「ああ

 大きな気温の差が起きると、渦巻く風が起こるんだ」

「そうなのか?」

「ああ

 特に大きな火事で起こるんだが…

 まさか魔法で出来るなんて…」

「ああ

 オレも驚いたよ」

「驚いたじゃ無い

 失敗したら、あれが目の前に発生してかも知れないんだぞ?」

「そうなのか?」

「ああ

 だから危険だから禁術にって…」

「しかし理論は、魔導王国の辞典にも載っていたぞ?」

「理論だけだろう?

 実際に試す奴は居ないだろ」

「どうなのかなあ…」

ゴオオオオ…!


アーネストとしては、実験した奴はごまんと居ると思っていた。

なんせ複雑な理論では無く、二つの魔法を出して混ぜるだけなのだ。

その魔力量が拮抗していれば、混ざって高威力の魔法になる。

しかし拮抗した魔力を、安定させて混ぜる事が困難なのだ。


「兎も角…

 あの火炎旋風が収まらないと進めないぞ」

「もう…

 シルフ?」

「難しいわよ」

「そうね

 私でも厳しいわ」

「お願い」

「しょうがないわね」

「アーネスト!

 今後この魔法は禁止よ」

「ええ?」

「当たり前でしょう?

 危険過ぎるわ」

「そもそも使う必要が無いでしょう?」

「それは…」

「イフリーテにも、協力しない様に注意しておくわ」

「そうね

 それにしても…」

「やああああ…」

「はああああ…」

ゴゴゴゴ…!


シルフとウンディーネは、協力して雨雲を作り出す。

この空間には、本来は雨雲を作る事は出来ない。

しかし上位精霊である二人は、力を合わせて雨雲を作り出した。

そして雨と強風を使って、火炎旋風を消そうとした。


「キツイわね…」

「頑張って」

「うん

 イーセリアの為だからね」

「アーネスト

 覚えてなさい」

「え?

 悪いのはオレ?」

「そうだぞ

 あんな無茶な魔法を使って」

「精霊達も困っているだろう?」

「そんな…」

「二度と使うなよ」

「うう…」


アーネストは、精霊だけでなくイチロとギルバートにも責められる。

危険な魔法を使って、周りに迷惑を掛けたからだ。


暫くして、ようやく火炎旋風は消された。

地面も雨に濡れて、燃え盛る炎も消えていた。

しかし地面には、大きな穴が開いていた。


「イチロ!」

「アイシャ

 みんな」

「どうしたの?」

「物凄い爆発だったけど?」

「向こうは大丈夫なのか?」

「飛空艇のレーダーは使えないわ」

「強力な魔力の影響で、使えなくなったの」

「アーネスト!」

「お、オレは悪く無いぞ」

「やっぱり…」

「アーネストの仕業だったのね」


アイシャ達も、白い目でアーネストを睨む。


「それで?

 騎士達は?」

「大丈夫よ」

「魔物も爆風にやられていたからね」

「私達もそれで、無事にここまで来れたわ」

「そうか…」


ギルバートは騎士達が、無事なのか心配していた。

アイシャ達が無事に来れたので、問題は無いとは思われた。

そしてアイシャ達から、無事だと聞いて安心した。


「それよりも…

 凄い痕ね」

「ああ

 爆発魔法を使ったんだ」

「爆発って禁術の…」

「ああ

 無茶をする」

「出来たの?

 アスタロト様でも無理だって…」

「ああ

 成功しやがった

 しかしこの有様だ」

「そうね

 大きな穴まで開けて…」

「うう…

 そんな目で見るなよ」


みんなから責める様に、アーネストは睨まれていた。


「さあ

 火炎旋風も何とか消えた」

「そうね

 先を急ぎましょう」

「でも…」

「またか…」

キシャアアアア

ギャオオオオ


再びイチロ達の前に、魔物が姿を現わす。

彼等は地面に開いた、穴から姿を現わした。

それは焼けて溶けた穴以外に、魔物達が出て来る穴が用意されていたのだ。


「こいつ等もリザードマンか?」

「リザードマン?」

「ああ

 そうだろ?

 イチロ」

「いや…

 こいつは…」


先頭に立っているのは、先ほどと同じリザードマンだった。

しかしその後ろには、リザードマンよりも人間に近い魔物が複数人立っていた。


「あれは…」

「何て事!

 そんな!」

「そこまで真似をする気なの?」

「どうやって作ったのか…」

「何だよ?

 どうしたんだ?」


そのリザードマンに似た者達を見て、イチロ達は顔を青褪めていた。


「リシア…」

「似ているけど違うわ!

 彼女は死んだのよ?」

「何だ?」

「誰かに似ているのか?」

「ああ

 亡くなった妻の一人だ」

「それってこの前の…」

「違う!

 エミリアとは別の…」

「そうね

 確かに死んだ筈よ

 何て悪趣味な…」

「そうじゃ無いだろう

 どうせこれも、竜の因子を使った実験なんだろう」

「実験って…」

「リシアは衝動を抑えられなかった

 こいつ等も恐らく…」

「そういう事ね」

「だったら…」


イチロの言葉を聞いて、アイシャ達は武器を構える。

その瞳には、戦う意思が宿っていた。

嘗てのイチロの正妻を掛けて、競い合った仲間に似ている。

しかしこの者は、魔物として作られた別の存在だった。


「ドラゴニュート…

 人間に近しい竜の因子を受けた者だ」

「そして古代竜の因子の影響で、狂暴化してしまうの」

「だからイスリールは、二度と生み出さないって…」

「狂暴化って…」

「魔物の狂暴化とは違うわ」

「精神の高揚で敵味方の見境も無く暴れてしまうの」

「それでリシアは…

 人間に殺されてしまったの」

「な!」

「それじゃあ人間は…」

「そうね

 イチロは仇を討ったわ

 だけどそれで…」

「人間との決別がより確実になったわ」

「エミリアだけでなく、リシアまで喪ったんだもの」

「それに人間達は、自分達は悪く無いって…」

「いや、実際にリシアは暴れていたからな

 バーサーカーになってしまっていた」

「バーサーカー?」

「狂暴化して、敵味方関係無く殺そうとする狂戦士だ…」

「何て事だ…」

「それじゃあ…

 あのドラゴニュートも?」

「恐らくな」


ドラゴニュートは、リザードマンよりも竜の因子が多く含まれている。

それで興奮した際に、狂戦士(バーサーカー)化して暴れてしまうのだ。

イチロの妻の一人の、リシアもバーサーカーになってしまった。

それで人間達に、囲まれて殺されてしまったのだ。


「狂暴化は危険なのか?」

「少々の怪我では止まらない

 それに自傷に構わず向かって来る」

「それは厄介だな」

「ああ

 それにリザードマンよりも強い

 恐らくガーディアンである、アイシャ達と互角かそれ以上だ」

「そんなにか?」

「ああ」

「それならオレが…」

「駄目だ!」

「いい加減にしろ

 また火炎旋風を起こす気か?」

「いや

 今度は氷結魔法を…」

「それこそ危険だろう?

 既に向かって来ている」

キシャアアア

ギャギョオオオ


リザードマンと、ドラゴニュートは剣を構えて向かって来る。

既に距離は詰まって、一触即発の状況だった。

イチロも剣を引き抜くと、躊躇いながら先頭のドラゴニュートに切り掛かった。

どこか面影が残っているのか、イチロの剣は鈍っていた。


「イチロ!

 危険だ!」

「しかしこいつ等だけは!」

「それならオレがやる!

 お前が手を下すな!」

「だが…

 だがこいつ等は…」

「良いから下がれ!」


ギルバートが声を掛けて、イチロの前に出る。

そして切り掛かって来た、ドラゴニュートの剣を受けた。


キシャアアア

ガキン!

「くっ!

 確かに強い」

「良いからオレに…」

「馬鹿!

 お前が手をくだすな!

 こんのおおお!」

ドガッ!


ギルバートは剣を受けながら、右足でドラゴニュートを蹴り飛ばす。

魔物は激昂して、ギルバートを睨んでいた。


「来いよ!

 オレが相手だ!」



ギルバートは吠える様に叫び、剣を構えて魔物達を睨み付けた。

そしてアイシャ達は、その背後で援護する為に弓を構えるのだった。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。


昨日更新出来なかったので、もう一本上げます。

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