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聖王伝  作者: 竜人
第二十四章 王の帰還
772/800

第772話

魔物達は、イチロ達の攻撃で逃げ去った

女神が逃げ出した事で、狂暴化が解けた事も大きかっただろう

そして女神は、遂に正体を現したのだ

この遭遇のお陰で、明確な敵が判明したのだ

女神ゾーンは、イーセリアを人質に取っていた

しかし何故か、亡くなった筈のエミリアが救出していた

それでゾーンは、止む無く撤退するしか無かった

一体どうやって、エミリアはセリアを救出したのだろうか?


「しかし分からない

 どうやってエミリアは…」

「そうね

 あの子…

 生きていたの?」

「それは無い!

 オレ達の目の前で死んだんだぞ?」

「そうね

 そうよね…」

「ああ

 それにどうやって…

 どうやってセリアを?」

「そういえばあの子…

 変な事を言っていたわ」

「変な事?」

「ええ

 これが私の、予言の秘密だって…

 どういう意味かしら?」

「さ、さあ…」


イチロはそれを聞いて、モヤモヤした物が胸の奥に渦巻く。

確かにエミリアは、不思議な予言の力を持っていた。

しかしそれに、何か秘密があると言うのだ。

それが今回の、予言には無かった襲撃と救出に関係しているのだ。


「アーネスト!

 おい!

 アーネスト!」

「うるさいなあ…

 こっちは感動の再会を…」

「良いから来い!」


アーネストはギルバート達と、感動の再会を喜んでいた。

しかもセリアは、可愛らしい子供を抱いていた。

見た目はまだ、産まれたばかりの赤子に見える。

しかしハイエルフと人間の子供だ、見た目と年齢は違うのだろう。


そしてセリアは、捕まっている間は特に何もされていなかったと言っていた。

女神ゾーンは、実はセリアには何もしていなかった。

ギルバートは戦力として、クローンを作ったりしていた。

しかしクローンは、思ったよりもコストが掛かったのだ。


そこでゾーンは、クローンの増産は諦めた。

そこで複数作っていれば、ここで人間は全滅していただろう。

しかし1体作るだけでも、多くの魔物を消費するのだ。

それに洗脳や、訓練にも時間を多く割いていた。

だからクローンを、兵士にする事は諦めた。


代わりにゾーンは、ギルバートを完全に支配する方法を考えていた。

実はギルバートを、支配出来たのは偶然なのだ。

二人が気絶していた事で、セリアを人質に出来たのだ。

そうで無ければ、ギルバートはそこで暴れていただろう。


ギルバートを負の魔力で侵したのは、自由に操る為だった。

しかしマーテリアルの力が、思ったよりもそれに抵抗していた。

そこで女神は、他の方法を思案していた。

黒騎士が破られていなければ、ここにギルバートを差し向ける事も無かっただろう。

アース・シーの者達が、ここに来る事は女神にとっても誤算だったのだ。


「ほら

 ロバート

 べろべろばあ」

「きゃっきゃ」

「うふふ

 ロバートもお父さんに会えて、嬉しいみたい」

「ああ

 こんな可愛い子供を産んでくれて…」

「もう

 恥ずかしいわ」

「良かった…」

「うう…

 ギルバート殿もイーセリア様も無事で…」

「それにお子様まで生まれていたなんて…」

「殿下…」

「新しい王子の誕生だ」

「ああ

 後はあの女神を…」

「そうだな

 憎きはあの女神、ゾーンだな」

「おい!

 アーネスト!」


兵士達と喜んでいると、うるさくイチロが呼んで来た。

アーネストは不満そうに、顔を顰めていた。


「アーネスト様?」

「ああ

 全く…」

「何か急ぎの用かも知れません」

「そうですよ」

「はあ…

 すまない、ギル」

「ん?

 ああ…」

「アーネスト

 行ってあげて」

「そうだな…」


ギルバートやセリアにとっては、イチロは助けてくれた恩人だった。

セリアを救ってくれたのも、彼の関係者の少女だった。

それにイチロが止めなければ、アーネストも加わって殺し合いになっていただろう。

だからこそイチロには、感謝しても足りないぐらいだった。


「アーネスト!」

「うるさいなあ…

 こっちは感動の再会を…」

「良いから来い!」

「しょうがないなあ…

 ぶつぶつ…」


アーネストは文句を言いながら、イチロとアイシャの元へ向かう。


「どうしたんだ?」

「ああ

 オレの妻の事なんだけど…」

「はあ?」

「イチロ!

 言葉が足りないわ」


妻の事と聞いて、アーネストは一瞬不満そうな表情をする。

大事な用事と思ったら、くだらない話だったと思ったからだ。

しかしここで、アイシャが事情を説明する。


「私達以外に、亡くなった者も居たの

 それがさっき…」

「亡くなった?

 イチロの奥さんが?」

「ああ…」

「エミリアって言うんだけど…

 イチロを庇って亡くなって…」

「ちょっと待て!

 エミリアってさっき…」

「ああ

 イーセリアを連れて来た者だ」

「はあ?

 何を馬鹿な…」

「本当なの!

 あれは確かにエミリアだったわ」

「そうだ

 しかも生きていただろう?」

「いや!

 死んだんだろう?」

「そうなんだ

 確かにオレ達の目の前で…」

「それに葬儀も行ったのよ?」

「いや

 そもそもあんた達は、数百年封印されていたんだろう?

 それならその人も…」

「ああ

 そのまま生きていれば…」

「あ!

 そういえばそうよ!

 あの時のままだったわ」

「そこが不思議なんだ」

「不思議って…」


アーネストも、二人の話を聞いて混乱した。

そもそもが死んでいるし、生きていてもここまで長生き出来るものなのだろうか?

魔族の寿命だって、精々が200年ぐらいだろう。

それが今、この場に現れたと言うのだ。


「どういう事か、訳が分らんが?」

「そうなのよ」

「それでお前を呼んだんだ」

「いや、呼ばれたって

 オレも分からないよ」

「でもね

 変なのよ」

「変?」

「ええ

 時間が無いって言っていたし

 こう…姿が薄くなって…消えたの」

「消えた?」

「ええ

 消えたの」

「転移や姿を見せなくなる魔法とか?」

「そうじゃないの

 転移なら薄くならないでしょう?」

「そういえば…」

「それに姿を消す意味も無い

 時間と言うのも気になるし」

「ううむ…」


二人から聞いて、アーネストは暫く考え込む。

しかし、そもそもが材料が少な過ぎる。

この程度の情報では、判断する事も難しかった。


「他に無いのか?」

「そうねえ…」

「エミリアは…

 そうだ!

 そもそもオレ達が、封印されたのも予言なんだ」

「予言?」

「ええ

 彼女は不思議な力を持っていて、予言を出来たの」

「そんな事が?」

「ああ

 それも予言した内容は、必ず当たるんだ」

「それは…」

「そうね

 前後を工夫しても、そこだけは必ず当たるのよね」

「ああ

 エミリアの話では、未来は変えられるんだって

 だけど予言の内容だけは、変える事は困難だって…」

「予言…」


エミリアの話では、確実に起こる事だけ予言にしているという事だった。

だからこそ女神が、反乱する事は防げなかったのだ。

しかし結末の、女神の勝利は防げると言うのだ。

だからイチロは、エミリアの言葉を信じて封印される事を選んだのだ。


「なるほど…

 それで予言に従って…」

「ああ

 そうする事が確実だって」

「ねえ

 どういう意味か分かる?」

「これが予言の秘密だって…

 そう言っていたんだよな?」

「え?

 ええ…」

「それなら、分からない方が良いだろう」

「え?」

「どういう意味だ?」

「いや、そのままだ

 いずれ嫌でも、その意味は分かるさ」

「おい!

 アーネスト!」

「どういう事なの?」

「また会える

 そういう意味だ」


アーネストはそう言って、それ以上は説明しなかった。

実はアーネストは、ある程度の確信はあったのだ。

しかしそれを告げるのは、彼等にとっては苦渋の決断を迫る事になる。

それに彼女は、長時間はこちらには来れないのだ。


「酷い魔法だ…

 しかしそれが…

 助かったよ、エミリアさん」


アーネストはそう、ポツリと呟いた。


魔物を追い返した事で、世界樹の城は歓声に沸いていた。

精霊王とドワーフ王は、城で歓待の準備を進めていた。

精霊女王が無事に、女神から解放されたからだ。

そしてギルバート王も、女神の支配から解放された。


「良かった…

 本当に良かった」

「おい、精霊王よ

 感動するのは良いが…」

「おお、そうじゃな

 先ずは歓迎の宴を…」

「馬鹿!

 早いわ」

「そうですよ

 先ずは温かく迎える準備を…」

「おお、そうじゃな

 すぐに準備に掛かれ」

「はい」

「ふう…

 やれやれ…」


ユミル王は、呆れた顔で精霊王を見ていた。

普段は賢く、しっかりした王なのだ。

しかし偶に、こうしてうっかりした行動をするのだ。


「ワシが側に居らんとな…」

「ん?

 何か言ったか?」

「何でも無い」


ユミル王はそう言って、首を横に振っていた。


「わあああああ…」

「ばんざい!」

「ばんざい!」

「精霊女王様、ばんざい!」

「ギルバート王、ばんざい!」


樹上にはエルフ、ドワーフ、そしてハイランド・オークや人間も集まっていた。

人間はクリサリス聖教王国から、ギルバートを探しにここまで来ていた。

そしてハイランド・オーク達は、女神の神殿やクリサリスから集まって来たのだ。

そのみんなが、ギルバートとセリアの無事を歓待して喜んでいた。


「良いのか?

 オレは敵として…」

「実際に戦ったのは、イチロだけだろ?」

「そうだぞ

 そのオレが気にしていないんだ」

「いや

 だってオレの苦労人?

 偽物が暴れたんだろう?」

「それも問題無い」

「そうだぜ

 あれはお前じゃ無いんだ」

「しかし…」

「だから気にするなって」

「そうだぞ

 お前は利用されただけだ」


イチロとアーネストが、ギルバートの両脇に立っていた。

それは念の為に、ギルバート達を守る為だった。

ここにはギルバートを、憎む様な者は居ない筈だ。

しかし女神が、刺客を送り込んでいる可能性も無くは無いのだ。


「凄い歓迎だな…」

「ああ

 それだけお前の、帰りを待つ者も居るのだ

 ほら

 あそこには王国の騎士も来ている」

「王国って?

 まさかクリサリスから?」

「ああ

 ハイランド・オーク達もだ」

「どうやって?

 ここはオレ達の世界とは…」

「島…

 というか大陸?

 それが違うだけだ」

「後で説明する

 陸続きでは無いが、ここはアース・シーのある世界と繋がっている」

「そうなのか?」

「ああ」

「それじゃあ…

 それじゃあ帰られるの…か…

 うぐっ…」

「ほら

 泣くなよ」

「胸を張って

 顔を上げろ」

「あ、ああ…」


ギルバートは王国に、帰られると聞いて思わず涙ぐむ。

しかし今は、無事に戻った事への歓迎だった。

ここでギルバートが俯いていては、周りの者達も心配するだろう。

だからこそイチロは、ギルバートに胸を張って、顔を上げろと言ったのだ。


「ばんざい!」

「ばんざい!」

「見ろ!

 みなお前の無事を、喜び歓迎しているのだ」

「そうだぞ

 お前は国王でもあるんだ」

「また国王か…

 オレは辞退したいって…」

「そうはいかんぞ!

 オレはお前が国王になると思って、宰相になる準備もしているんだ」

「お前が?」

「何だよ、その顔は!」


アーネストが宰相になると聞いて、ギルバートは厭な笑い方をする。

そもそもアーネストは、人付き合いはあまり好きでは無かった。

そんな事をする暇があれば、自室で魔法の研究をする方がマシだと常々言っていた。

そんなアーネストが、ギルバートの為に宰相になると言うのだ。


「へえ…」

「おい!

 今すぐその厭らしい笑いを止めろ」

「へへへへ…」

「おい!

 この!」

「止せよ!

 こんな歓待の雰囲気をぶち壊すなよ

 ギルバートもだ」

「へーい」

「くっ…

 後で覚えていろよ」

「もう…」


二人は広間に入ると、歓声に沸く人々に手を振る。

そしてそのまま、ゆっくりと城の中に入る。

城の中はしんと静まり返り、穏やかな空気が流れる。

その奥には謁見の間があり、ユミル王と精霊王が待っていた。


「穏やかだな

 まるで精霊の森だ」

「そうね

 沢山の精霊が集まっているわ」

「あはあ

 きゃっきゃ」

「ロバートも喜んでいるわ」

「はは…

 そうだな…」


ギルバートはそう言って、目を細めて息子を見ていた。


「さあ

 精霊王がお待ちです」

「横にはドワーフ王、ユミル王様も居ます」

「ああ

 失礼します」


ギルバートが先頭に立って、頭を下げて中に入る。

ギルバートも国王なのだが、ここでは救出された人間でしか無かった。

それに国王という肩書も、この大陸では意味が無いだろう。


「クリサリス聖教王国、国王

 ギルバート・クリサリスです」

「うむ

 頭を上げてくれんか?」

「そうじゃぞ

 精霊王と言っても、単なる爺じゃ」

「おい!

 爺とは何じゃ

 一応ワシも、この国の王なんじゃが?」

「がはははは」

「ぷっ

 はははは」


これにはさすがに、ギルバートも声を出して笑った。


「もう

 公式の場なんでしょう?」

「はあ…

 この三馬鹿国王は…」

「三馬鹿とは何じゃ?」

「そうじゃぞ」

「アーネスト

 オレも含まれるのか?」

「そうだよ

 一応人払いはしてあるけど、兵士も見ているぞ?」

「むう!」

「うおっほん」

「あ…」

「遅いって…」


それから三人は、それぞれの無事に感謝の言葉を述べる。


「これも女神の導きじゃな…」

「そうじゃな…」

「女神って…

 だってそもそも…」

「いや、あのクソ女神じゃ無いぞ」

「そうじゃ

 イスリール様じゃ」

「イスリール…

 そういえば、オレを救ってくれた…」

「そうじゃ

 そこにいらっしゃる」

「え?」


ギルバートは驚き、ユミル王が指さす先を見る。

そこには石像の様に、身動ぎ一つしないで女神が立っていた。

その身体からは生命力が感じられず、それでギルバートも気が付かなかったのだ。


「イスリール…様?」

「はい

 無事で良かったです」


イスリールはそう言って、優しく微笑むのだった。

まだまだ続きます。

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