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聖王伝  作者: 竜人
第二十四章 王の帰還
765/800

第765話

イチロ達は、世界樹の城の前の広場で戦っていた

そこは大きな樹に囲まれた、開けた場所になっている

しかし開けていると言っても、周りには家を何軒か建てられるほどの大きな樹が立っている

そんな場所で、彼等は魔物と戦っていた

多くの魔物達は、エルフの弓やドワーフのバリスタの矢に倒れていた

しかし大型の魔物が召喚されて、一時は危機的な状況に陥る

アーネストの放った魔法が、その大型の魔物を拘束する事が出来た

それでイチロが、何とか魔物に止めを刺した


「ギルバートか?」

「もう…

 おさえ…

 ぎ…ガグウ…

 ゲガアアアアアア」

「くっ!

 女神の力の方が強いのか?」

ゴガアアアア


黒騎士は女神の力で、闇の魔力に操られていた。

それでイチロの前に現れて、剣を引き抜いて身構える。


ガアアアアア…

「ぎ…る…」


アーネストは魔力枯渇で、意識を失っていた。

しかし彼は、それでもギルバートの声を聞いて心配していた。

それ程までに、彼は友の身を案じていた。

だがそれでも、女神の力は強力だった。


ゴガアアアア

ギャリン!

「ぬう

 厄介な!」


黒騎士は手始めとばかりに、剣を上段に構えて迫りくる。

周りの黒い靄は、アーネストの魔法で浄化されて消えていた。

しかし黒騎士は、その身の周りに黒い靄を漂わせている。

そこから力を得て、狂った様に襲い掛かって来るのだ。


ゴガアアアア

ギャリン!

ギン!


イチロは必死に剣を構えて、黒騎士の剣を受け流す。

しかし黒騎士は、正式な剣の修練を受けている太刀筋を持っていた。

イチロはルシフェルに、剣の修行も受けていた。

しかしその修練も、この世界に来てから受けた数年だけだった。


「くっ…

 経験の差か?

 それともガーディアンとマーテリアルの差か?」

ガアアアアア

ギン!

ガギン!


イチロは何とか、その重い剛剣を凌ぐ。

しかし正式な剣術を学んだ者の剣は、急所や受け難い箇所を狙った鋭い攻撃になる。

必死になって防ぐが、その剣筋は非常に厄介な物だった。

それを防ぐには、イチロの経験では少ないのだ。


「ぐうっ

 何て鋭い攻撃なんだ」

ガアアアアア

ギリギリ…!

カイン!


イチロは剣を力任せに押し返すと、何とか数歩後方に退いた。

しかし黒騎士は、そこにさらに踏み込んで来た。

鋭く左右から振り込み、イチロをさらに追い詰める。

経験の差か血の濃さが違うのか、黒騎士の剣術はイチロを上回っていた。


グオオオオ

「くなくそっ

 何て重たい連撃なんだ」

ギギギギ…!


イチロは何とか剣を受けると、そのまま鍔迫り合いに持ち込む。

しかしここでも、黒騎士はイチロの力を上回る。

ガーディアンの力を持ち、身体強化をも使っていた。

しかし黒騎士は、そんなイチロを押さえ込んでいた。


「ぐうう…

 力まで…」

「あー…ねずど…」

「ん?」

「なぜだ…」

「何だ?」


黒騎士はイチロを押しながら、何かを呟いていた。


「あー…ねずど…

 ぞごは…おれの…」

「何だ?」

「なんで…おでを…」

「何を言っている?

 しかしアーネスト?」

「あーねずどー!」

「やはりこいつは…」


黒騎士はイチロの言葉に反応して、さらに攻撃の速度を上げる。


ヴオオオオ

「あーねずどー!」

「アーネスト

 アーネストってうるさい!」

ガンギン!

ガキン!


「あら?

 あの子…」

「そうね

 どうやら…」


「ぞごは

 ぞごばおでのばじょだあああああ」

「な!」

ガギン!


黒騎士は唸りながら、力強くイチロを弾き飛ばす。

しかしイチロも、空中で態勢を整える。

どうやら黒騎士は、アーネストを取られたと勘違いしている様子だった。

イチロが並んで立っていた事で、嫉妬の感情に狂っているのだ。


ゴアアアアア

「あーねずどを、がえぜー!」

「うるせえ!

 大体お前が、あいつから離れたんだろうが!」

バギャン!

ドガッ!


イチロはそう叫び返すと、向かって来る黒騎士の剣を弾き返す。

そうしてお返しとばかりに、その頭を剣の柄で殴り返す。


「うわっちゃあ…」

「イチロ怒ってるよ?」

「滅多に感情的にならないのに」

「しかしあの男…

 感情がまだ残っておるのか?」

「ええ

 それも悪い方だけね

 女神も性悪だわ」

「負の感情だけ残して、魔剣の原動力にしているのね」

「だけどそれは、イチロも同じよ」


イチロは剣をしっかりと握ると、怒りを込めて切り掛かる。


「うおおおおお

 こなくそ!」

ガアアアア


「がえぜ!

 がえぜ!

 おでのあーねずどを…」

「ああ!

 うるさい!

 それなら女神になんか、負けるんじゃねえ!」

ギャリン!

ガッドガッ!


イチロは再び鍔迫り合いに持ち込むと、今度は拳と蹴りで黒騎士を吹っ飛ばす。

黒騎士は頭を蹴り飛ばされて、呻きながらよろめく。

先程殴ったのも効いたのか、少し隙が出来ていた。

そこを見逃さず、イチロは剣を構えて気合を発する。


「はああっ!

 うおおおおお!」

ドシュッ!


イチロの気合に合わせて、その周囲に銀色の神聖魔法の光が発せられる。


「聖光輝だわ

 マズいわよ」

「イチロも本気を出したわ」

「何がマズいんじゃ?」

「このまま戦っていたら、取り返しの付かない事になるわ」

「そうね…

 あれはイチロの力を高めるだけでは無いから…

 最悪あの子を殺してしまうわ」

「それはマズい!」

「だけどこうなったら…」

「そうね

 私達では止められ無いわ」


「うおおおお…」

ドシュッ!


イチロは銀の輝きを放ちながら、力強く地面を蹴った。

それはこれまでよりも早く、そして力強い踏み込みだった。

聖光輝を纏うには、ある程度の集中と魔力を溜める必要がある。

しかし一度発動すれば、魔力が切れるまで維持出来る。

これが勇者イチロの、魔物に対する切り札だった。


ガアアアアア

「あーねずどおおおお」

「うるせえ!

 食らいやがれ!

 幻影連舞(シャドー・ダンス)

ガガガガ!

ギャリンガキン!


速度を上げたイチロは、一気に黒騎士の前に迫る。

そこから剣を振り上げて、先ずは黒騎士の頭を狙う。

黒騎士も嫉妬に狂った感情から、さらに負の魔力を高めている。

それでイチロの攻撃も、難なく防いでいた。


しかしそこから、イチロは剣の回転速度を上げる。

左右に振り翳して、黒騎士の剣に向けて叩き付ける。

そのままへし折らんとばかりに、その剣は猛烈に振り回される。

そして黒騎士は、その連撃を懸命に剣で防ぐ。


「はははは!

 さすがだな」

「ぐがぎぎ…」

「このオレの連撃を防ぐとは

 マーテリアルだけあるな」

ギャリン!


再び剣を合わせて、両者は鍔迫り合いを始める。

イチロは笑みを浮かべて、黒騎士を見詰める。

しかし黒騎士は、その兜のせいで視線も分からなかった。

そこでイチロは、先ずはその兜を破壊する事にした。


「そんな物被ってちゃ、顔も見えんな

 先ずはそいつから…」

ウゴオオオオ

ドガッ!


兜を狙われると感じた黒騎士は、蹴りでイチロを突き放す。

しかしイチロは、そこから再び踏み込んだ。

その速さに驚き、黒騎士は剣を掲げられなかった。

それで鋭い突きが、黒騎士の顔に突き刺さる。


「もらった!」

「うぐおおおお」

バギン!

カランカラン!


黒騎士の後方に、黒い金属の板が転がる。


「へえ…

 思ったより男前だな」

「黙れ…」


兜の一部を失った黒騎士は、その素顔を露わにしていた。

それはまさに、5年前に行方不明になっていた、ギルバートその者だった。


「へえ…

 やっぱりイチロに似てるね」

「ええ

 しかしあの時には…」

「似ていると言うのは、どういう事じゃね?」

「あの子の中に、私達とイチロの血が流れているの」

「確認した訳ではありませんが…

 間違い無いかと」

「何じゃと?

 それではあの男は…」

「ええ

 封印される前に生まれた、私達とイチロの子供…

 その子孫です」

「でも不思議だよね

 何だって人間に流れたのかな?」

「それは恐らく、混血の子だったからでしょう」

「ああ

 血が穢れたとか?

 混じっている者を嫌悪するとか言うやつ?」

「ええ

 それで人間の中に混じって…」

「そうだね

 人間の方が、まだ混血には甘いからね」

「そんな事が…」


暗黒大陸では、混血は未だに忌み嫌われていた。

だから奴隷にするか、追放される事が多かった。

しかしアース・シーでは、何度か大きな戦が行われていた。

その事が多くの混血児を生み出し、彼等の子孫を守っていたのだ。


「混血って普通は、良くて追放だもんね」

「大きな戦があったって話だわ

 それで混血の子も、数多く出たのでしょう」

「だろうね

 そんな事になったら、殺す訳にもいかないもんね」

「ええ

 それで人間の中に、混じる事が出来たのでしょう」

「戦争ですか?」

「ええ

 大きな種族間の戦争が起これば、混血の子が産まれます」

「他の種族を襲って、子供を身籠らせるからね」

「あ…

 確かにそうですな…」


精霊王も思い当たる事があるのか、頷いていた。


フェイト・スピナーにも、直接関与する権限は無い。

しかし子供を逃がしたり、教会に預ける事ぐらいは許されたのだろう。

そうしてその血筋は、人間の中に混じって行った。

アーネストやギルバートは、その血筋を受け継いだのだろう。


「がああああ!」

「はは!

 そうやって感情を露わにした方が…

 楽だろう?」

「うるさい!

 貴様!」

「おっと」

「何故貴様が…

 アーネストの隣に居る!」

「お前が居なくなったからだ

 お前が女神ゾーンに、操られているからな」

「女神?

 女神だと?」

ガギン!


激しく切り結んでいたが、不意にギルバートの剣が鈍る。


「女神?

 ゾーン?」

「む?」


一瞬だが、濁って紅く輝いていた、黒騎士の瞳に正気が戻る。

彼は視線を動かすと、自らの手に握られた剣を見詰める。

それから恐怖に顔を歪めて、その手を振り回す。

まるでその剣が、呪われて手から離れない様に振り回した。


「う…

 うわああああああ」

「何だ?

 どうした?」

「ああああああ…

 違う!

 オレじゃ無い」

「どうしたと言うんだ?」

「殺したくない、殺したくない、殺したくない…」


黒騎士は剣を必死に振るって、何とか手から放そうとする。

しかし剣からは、再び黒い靄が腕を伝って伸びて来る。

そうして黒騎士を、包む様に迫っていた。


「まさか?

 あの靄が原因か?」

「オレは殺したくない!

 殺したく…」


黒い靄は、イチロの聖光輝で薄らいでいた。

しかし再び、剣が魔物からその靄を吸い込んで行く。

そうして黒騎士を包み込むと、その目は再び紅く輝き始める。

まるでそれは、生き物の様に黒騎士に纏わり着いた。


「おい!」

「けひゃ?」

「くっ!」


イチロは背筋に、嫌な気配を感じて後退る。

それは今までに感じた事の無い、どす黒い狂気を含んだ魔力だった。

確かに黒騎士は、その黒い兜に操られていた。

しかしその本体は、黒く脈打つその魔剣の方だったのだ。


「けひゃひゃひゃひゃっ」

「くそっ!

 そっちが本体だったのか

 見誤った」

「へひゃあああああ」

「ぐうっ!」

ガイン!


黒騎士は今までとは違い、枷が外れた様に向かって来る。

それは人間の関節を無視した、不規則な動きをしている。

そんな攻撃を続ければ、当然黒騎士の身体は壊れるだろう。

しかし操っている本体は、その魔剣の方なのだ。

黒騎士がどうなろうと、魔剣には問題が無かったのだ。


「しくったな…

 ぐおっ!

 これじゃあ解放は…ぬう」

「けひゃあああああ

 ひゃはははは」

ガキン!

ギャリギャリ!


不規則な体勢から、黒騎士は力強く打ち込んで来る。

変則的な動きをするので、その軌道は読み辛かった。

しかも魔剣から魔力を受けて、身体強化も行われている。

イチロはその剣戟を、受けるので必死になっていた。


「マズいわ!」

「ああ

 イチロ!」

「しかしこのままでは…」

「精霊王様

 魔物が再び…」

「ああ!

 もう!」

「加勢させる気は…

 無さそうね」


魔剣の効果なのか、再び魔物が迫って来る。

しかも魔物は、今度は全体で向かって来ていた。

エルフやドワーフも応戦するが、この数ではいずれ突破されてしまう。

騎士やハイランドオークが居ても、このままでは世界樹を守れないだろう。


「ああ!

 どうすれば良いのよ!」

「イチロ!

 イチロー!」


「くそっ!

 魔物まで…」

「けひゃはははっ

 ひしゃああああ」

キン!

シュバッ!


イチロはアイシャ達の声を聞いて、視線を奥に向けた。

そこには迫りくる、魔物の群れの姿が見える。

アイシャ達が何とか押さえているが、このままではここまで来るだろう。

そうなってしまえば、イチロでもどうしょうも無くなる。

黒騎士と魔物に押されて、倒される光景が目に浮かぶ。


「くっ…

 ここまでなのか?」


「ぎ…る…

 うう…

 ぎる…」


アーネストはうなされながら、懸命に友の名を呼ぶ。

しかしその友は、今や魔剣に支配されていた。

奇声を上げながら、身体の関節を軋ませて奇襲を繰り返す。

このまま戦い続ければ、いずれ何処かを壊すだろう。


イチロが魔物に囲まれて、そのまま倒されるのが先か。

それとも黒騎士が、腕や脚を壊して動けなくなるのが先か。

地上では混迷を極める状況となっていた。


「けひゃひゃはあああ」

「くっ

 どうすれば…」


しかしこの様子では、先にイチロが打ち負けてしまうだろう。

それほど黒騎士の動きは、人間の動きでは無かった。

イチロは浅手を負いながら、何とか逆転の目を探し続けていた。

まだまだ続きます。

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