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聖王伝  作者: 竜人
第二十三章 甦った勇者
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第754話

アーネスト達は、飛空艇を南西に向けて進める

そこにはそこかしこに、魔物に襲われた集落の跡が見える

中には砦の跡も、無残に破壊されて残されていた

そこはハイキャッスルのすぐ近くの、ドワーフが作った砦の跡だった

アーネスト達は、その砦の残骸の前で静かに黙祷する

実はアトランタでは、獣人達が魔物と戦って亡くなっていた

しかし砦の跡には、死体は残されていなかった

黒騎士が魔剣を使って、全て魔物に変換していたからだ


「酷いな…」

「これがドワーフの城か?」

「いえ

 それにしてはおかしいです

 確かハイキャッスルは、洞窟の中に作られたと聞いています

 それにここには…」

「そうだな

 誰も居ないみたいだ」

「精霊の話では、ハイキャッスルにはドワーフ達が戻っているそうです」


女神イスリールは、そう言ってファリスが立つレーダーの前へ進む。

そうしてレーダーを操作して、周囲の情報を探る。

そこでレーダーに、複数の反応が確認される。

そこはアトランタの廃墟から、少し東に戻った場所になる。


「あそこじゃ

 あそこの岩山に反応があるぞ」

「本当だ

 イチロ!」

「そこにドワーフ達が居るのか?」

「ああ

 恐らく間違い無かろう」

「よし

 その岩山に向かうぞ」


アーネストが舵を操作して、東に向けて移動する。

そうして岩山の近くに来ると、地面が荒らされた痕が見えて来る。

どうやらここで、魔物が戦闘を行った様子だった。

アーネストは飛空艇を停めて、一行はその洞窟の前に降りた。


「ここが洞窟の入り口か?」

「どうやらその様じゃな」

「停まれ!」


イチロ達が洞窟に近付くと、中から野太い声が響き渡る。


「き、貴様等

 何者じゃ?」

「オレ達か?」

「どうする?

 女神の名は出さない方が良いだろう?」

「そうじゃな

 他所の大陸から、この地の危機を聞いて駆け付けたと申せば良いじゃろう」

「それで良いのか?」

「恐らく精霊から話は通っておる

 それに嘘は申しておらんじゃろう?」

「それはそうなんだが…」


アーネストとエルリックは、どう答えるか悩んでいた。

そこでイチロが前に出て、大きな声で返答をする。


「我々は別の大陸に住む者達だ」

「な?」

「別の大陸だと?」

「ユミル王様が仰られた?」


城に待機する兵士達も、ユミル王の伝言を聞いていた。

精霊を介して、精霊王から伝言が届いていたのだ。

その伝言の中に、別の大陸から援軍が来るという物があった。

その援軍らしき者達が、実際にこの城に現れたのだ。


「お、お前達

 本当に別の大陸から?」

「この世界を救いに来てくれたのか?」

「信じられん…」

「信じられないのも仕方が無いよね

 でもね、私達は魔物を倒しに来たの」

「その人数で?」

「人数は関係無いわ

 あの飛空艇が見えるでしょう?」

「飛空艇?」

「空を飛んで来た船か?」


ドワーフ達も、船が空を飛ぶ光景を見ていた。

最初は信じられなかったが、そこから人が降りて来たのだ。

しかも自分達の前に来て、この大陸を救いに来たと言うのだ。

これは彼等にとっても、信じられない光景だった。


「それでは本当に?」

「ああ

 我々の大陸にいらっしゃる、真の女神様からの要請を受けた」

「真の女神?」

「女神だと?」

「ワシ等を襲った、あの魔物を寄越した女神が?」

「それは違うぞ!」

「そうよ

 あなた達の前に現れたのは、偽の女神です」

「偽の女神だと?」

「おい!

 どういう事だ?」


ドワーフ達は事情が分からず、混乱して話し合っていた。


「兎も角城に入れてくれないか?」

「そうだ

 魔物がどうなっているのか、情報が欲しい」

「わ、分かった

 ユミル王様に報告して、詳しい事を話そう」


ドワーフ達は城門を開き、イチロ達を招き入れた。

そして城に案内すると、さっそくユミル王に連絡をしてみる。

しかしユミル王は、忙しいのか連絡に応えなかった。

この時ユミル王も、精霊王も戦闘中だったのだ。


「どうした事じゃ?」

「ううむ…

 ユミル王様は兎も角、精霊王様もお応えにならないとは…」

「精霊王?」

「ああ

 妖精の国を治める、当代の精霊王様じゃ」

「精霊を束ねておられて、こちらからも精霊を介して話しておったのじゃ」

「それが反応を見せない…」

「向こうで一体何が?」

「おい!

 これはマズいんじゃ無いのか?」

「そうだな

 急いだ方が良さそうだ」


連絡が取れないという事は、向こうで何か起こっているという事だ。

そう考えれば、魔物に襲撃されている可能性が高い。

このままでは、救出も間に合わなくなってしまう。


「おい!」

「は、はい」

「その妖精の国というのは、何処にあるんだ?」

「へ?」

「妖精の国はここから西に月が10回巡るぐらい時間が掛かる」

「精霊の道を使っても、一週間は掛かるぞ」

妖精の隧道(フェアリー・ロード)か…」

「それなら急いでも、三日は掛かるぞ?」

「急がなければ」

「あ!

 おい!」

「今から向かうのか?」

「ああ

 お前達は精霊王とやらに連絡を続けてくれ

 なるべく急いで行くが、間に合うかどうか…」

「わ、分かった」

「頼む!

 王様達を救ってくれ」

「あのお方達は、ワシ等の最期の希望なんじゃ」

「ああ

 任せろ」

「行くぞ!

 エルリック」

「あ、ああ…」


エルリックは立ち去り際に、何か羊皮紙に書き込んでいた。

それを精霊王に確認して欲しいと、ドワーフ達に頼み込んでいた。

そもそも精霊王達が、未だ無事であるかも危ういのだが…。

エルリックは何かを確認して欲しいと頼んでいたのだ。


「魔物が攻め込んでいるのだろう」

「急がなければな」

「そうね

 このまま強行突破するしか無いわ」

「恐らく妖精の国に近付けば、空を飛ぶ魔物も増えるだろうな…」

「ああ

 しかし今は、魔物を殲滅する事よりも精霊王達を救出する事が重要だ」

「そうね

 今は王達を救う事が重要よ」

「急ぎましょう」


イチロ達は急いで飛空艇に乗り込み、出発の準備を始める。


「お、おい

 どうしたんだ?」

「妖精の国が魔物に襲われているらしい」

「急いで向かうぞ」

「わ、分かった」

「間に合うのか?」

「ここから急いでも、三日ぐらい掛かるだろう」

「間に合いそうなのか?」

「間に合わせるんだ!」


ハイランド・オーク達は、戻って来たイチロ達に驚いていた。

てっきりドワーフの国に入って、暫く話をするのだろうと思っていた。

しかしそれが、一時間もしない内に戻って来た。

そして大慌てで、飛空艇を飛ばそうとしていたのだ。


「今から急いで西に向かう

 多少揺れるから気を付けてくれ」

「わ、分かった」

「妖精の国を救うんだな?」

「ああ

 魔物の群れに突っ込む事になるだろう

 その時は頼むぞ」

「分かった」

「任せてくれ」


飛空型の魔物の群れに突っ込めば、飛空艇も無事では済まない。

バリスタを発射しても、飛空艇の甲板に取り付かれるだろう。

その際には、ハイランド・オーク達の力が必要だった。

彼等が甲板を守る事で、飛空艇は無事に進む事が出来る。


「アーネスト

 発進準備は良いか?」

「ああ

 いつでも出発出来そうだ」

「ファリス

 周辺に魔物は?」

「レーダーには反応は無いわ

 今なら安全に発進出来そうね」

「よし

 このまま発進するぞ」

「ええ」


エルリックは伝声管を開いて、騎士やハイランド・オーク達に聞こえる様にする。


「我々はこれから、西にある妖精の国へ向かう

 現在妖精の国は、魔物に襲われていると思われる」


ここでエルリックは、一旦言葉を切って間をおいた。


「妖精の国を救う為に、多少荒っぽい運転になる

 各自近場の壁にもたれて、衝撃や揺れにそなえてくれ」

「分かった」

「壁に背を当てて座るんだ」

「掴まる物があれば掴まっておれ」

「衝撃に備えろ」


エルリックの言葉に、騎士達は座って背中を壁に当てる。

こうする事で、発進の衝撃に耐えられる可能性が高くなる。

それに魔物に襲われれば、船は大きく揺れる恐れがある。

そうした時に、こうした姿勢の方が安定するのだ。


一方でハイランド・オーク達は、既に衝撃に備えていた。

彼等はイチロから話を聞いて、すぐに船室に座り込んで備えていた。

彼等は騎士に比べると、腕や足の力も強い。

だから壁にしっかりと掴まれば、少々の事では問題は無かった。


「準備は良いな?」

「ああ

 各自席に着いて、シートベルトを着用してくれ」

「シーベルト?」

「この席に着いたベルトだ

 金具を差し込めば止まる」

「こ、こうか?」

「どうやって外すの?」

「真ん中のボタンを押せば、簡単に外れるぞ」


イチロはシーベルトを、簡単に説明する。

そうしてベルトを掛けたところで、出発の号令を掛ける。


「よし!

 西の妖精の国へ向けて」

「衝撃に備えてくれ」

「大丈夫よ」

「ああ

 こっちも問題無い」

「発進!」

「行くぞ!」


アーネストは舵を切ると、そのまま操縦桿を押し込んだ。

いつもの少し押し込むのでは無く、今回は力を加えて押し込んだ。

すると一瞬の間をおいて、飛空艇は猛スピードで西に移動を始める。

飛空艇は重力ジャイロを用いて、移動を可能にしている。

だから音も無く、飛空艇は物凄い勢いで西に向かって移動した。


「く…」

「う…ぎい…」

「こ…りゃ…」


激しい横向きの重力に、一同は横向きに引っ張られる。

中にはその衝撃で、一瞬意識を失う者も居た。

飛空艇はそのまま、一気に数十㎞の距離を移動していた。

このペースを保って移動すれば、二日で妖精の国へ到着しただろう。


「あ、アー…」

「こ…」

「うぐうがあ…」


アーネストも正直なところ、ここまでの衝撃だとは思っていなかった。

アーネストは何とか、身体強化で態勢を立て直す。

そうしてゆっくりと、操縦桿を引き戻した。

それで飛空艇のスピードは、先ほどよりは緩やかになった。

それでも飛空艇は、時速数十㎞のスピードで飛んではいたが。


「が、かはっ」

「ぐうっ

 これは効くわ…」

「凄い衝撃だったわよ?」

「アーネスト

 もう少し考えて操縦してくれ」

「すまない

 まさかあそこまでスピードが出るとは思わなかったんだ」


速度を調整して、アーネストは飛空艇を安定させる。

それで飛空艇は、安定して西へ向かって進む。

しかし地上からこの光景を見た者がいれば、相当驚く事になっただろう。

突然音も無く、空に何かが飛んで来ていたから。

そしてそれが飛んで来ても、ほとんど衝撃も風も起こらないからだ。

重力ジャイロを用いているので、飛空艇はそのまま横移動していたのだ。


「凄いわね…

 この速度で移動して、周りに影響が無いだなんて…」

「そうでも無いわよ

 大きな影響は無いけど、さすがにこの大きさだからね」


地上には影響は少なかったが、空は別だった。

飛空艇の周りには、さすがに空気抵抗で風が起こっていた。

それで鳥などが飛んでいれば、その空気の流れに巻き込まれていた。

レーダーを見ていれば、その様子が見て取れていた。


「どういう事?」

「鳥がね…」

「あ…」

「それに精霊も驚いているわ」

「そうね

 確かに驚くでしょうね」


空を飛ぶ船など、精霊にしても理解出来ない代物だろう。

それが飛んで来れば、精霊達も冷静ではいられないだろう。

見た事も無い空飛ぶ船に、精霊達は興奮して騒いでいた。

ミリアはそんな精霊達に、大丈夫だと事情を説明する事になった。


「だから大丈夫だから…」

「精霊にしては驚く事だよな」

「もう!

 他人事みたいに見て無いで、あなたも説得してよ」

「悪いが私は、精霊を視認出来ないんだ」

「あれ?

 エルリックは精霊王じゃ無いの?」

「ああ

 精霊女王はイーセリアだ

 私には精霊と話すぐらいしか出来ない」

「そうなの?」

「ああ」


エルリックは精霊の声は聞こえるが、姿を視認出来なかった。

ぼんやりと光って見えるが、姿までは見えないのだ。

これは来ていた精霊が、下位の精霊の子供であった事が原因だ。

上位の精霊ならば、エルリックも視認する事が出来ていた。


「精霊の子供なんだろう?

 精霊王達の事は分からないだろうな」

「そうね

 西で激しい争いが起こっている事は知ってるみたいだけど…

 詳しい事は分からないみたい」

「そうなれば、やはり向かってみないと分らないか」

「そうね

 でも間に合うの?」

「この調子で進めば…

 明日には到着出来そうよ

 だけど夜はどうするの?」

「レーダーで周囲の状況は確認出来そうか?」

「出来なくは無いけど…

 危険だわ」

「ならば夜は、やはり泊まるしか無いか」


出来ればそのまま、西へ進んで行きたかった。

しかし真っ暗な中を、空を飛んで行くのは危険だ。

レーダーである程度、地形は確認出来る。

しかし山や谷を飛ぶには、やはり真っ暗では危険だった。


もしレーダーで高い山脈を発見しても、その高さまでは詳しく分からない。

下手に高速で移動していては、山に接触する恐れもあるのだ。

そう考えれば、夜間はどうしてもゆっくりと移動する必要がある。

そうであるならば、明るい内に進んだ方が安全だろう。


「もうすぐ日が沈む

 暗くなったら、周囲の視認も難しい」

「ああ

 停まった方が安全だな」

「そうだな

 やむを得んが、停まるしか無いだろう」


日が暮れて、周囲はやがて暗くなり始める。

飛空艇はダラスに近い空で、一旦停泊する事になった。

このまま進んでは、どういった地形か分からないからだ。

アーネストは操縦桿を戻して、飛空艇をその場に留める。


「今夜はここで休もう

 歩哨を交代で行って、魔物には十分に警戒しよう」

「分かったわ」

「そうだな

 交代で警戒しよう」


イチロ達はこうして、再び飛空艇で夜を明かすのだった。

まだまだ続きます。

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