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聖王伝  作者: 竜人
第二十三章 甦った勇者
753/800

第753話

妖精の国を、魔物の軍勢が襲っていた

その先頭には黒い鎧を着た、謎の男が先導していた

彼は魔剣も身に付けており、その力でドワーフ達の罠も無効化していた

そうしてドワーフ王からも、恐ろしい者だと評価されていた

ドワーフが作った罠も、黒い騎士の力で打ち破られていた

このままでは精霊の加護があっても、魔物は攻め込んで来るだろう

精霊の加護とは、結局は魔物に恐怖感や忌避感を与えるだけなのだ

それに耐える事が出来れば、魔物はこの中にも入って来れるのだ


「どうする?

 このままでは魔物が…」

「ううむ

 城壁も壊されたのか?」

「ああ

 全てでは無いが、真ん中を切り崩された」

「先ほど話しておった、魔剣の力か?」

「ああ

 あれで樹上まで攻撃されてのう…」

「何!

 それじゃあお前も攻撃されて…」

「ああ

 木の幹に隠れて無事じゃったが…

 あれはやばかったぞ」

「何を暢気な…

 それで被害は?」

「そうじゃのう…

 すまんがエルフにも被害が…」

「それは良い!

 お前は?

 お前は何も無かったのか?」

「それは木の陰に避難して…」

「はあ…

 それは良かった」


精霊王はユミル王に何も無かったと聞いて、ほっと溜息を漏らした。


「良くは無いぞ?

 エルフにも死者は出ておるし、捕まって生気を抜かれて…」

「それは仕方が無い事じゃ

 元よりワシ等だけならば、もっと被害が出ておった」

「しかし兵士が亡くなり、森にも被害が…」

「お前が死んでおったら、ワシは申し訳が立たん

 頼むから無茶はしないでくれ」

「それは…」

「今はワシ等は、少しでも多くの者を生き残らせる必要がある

 向こうの女神が向かって来ておる」

「本当に来るのかのう?

 向こうの大陸とは遠く離れておるんじゃろう?」

「それはそうなんじゃが…

 こちらには到着したらしい」

「何じゃと?

 いつ、どこにじゃ?」

「それは詳細が…

 しかし間も無く報告が届く筈じゃ

 そろそろお前の国に入る予定の筈じゃ」

「ハイキャッスルにか?

 それともアトランタの砦に?」

「ハイキャッスルは無事な様じゃが…

 アトランタは半分廃墟になっておる

 あそこでは生き残りも少なかろう」

「そうじゃな

 獣人の王子も何処へ逃げたのか消息も掴めんしな」

「ああ

 だからハイキャッスルに着けば、何か報せが来るじゃろう

 ワシ等はそれまで、ここを守り通すのじゃ」

「しかし当てになるのかのう?

 来るのは人間の戦士じゃろう?」

「ううむ…

 精霊の話では、強い戦士が来ると聞いておるがのう」


精霊王も、人間の戦士が来るとしか聞いていなかった。

そもそもアース・シーでの過去の英雄である、暗黒大陸では知られていないのだ。

彼の力を説明しようにも、引き当てれる存在がこの大陸には居なかった。

界の女神は、この大陸ではガーディアンや英雄をほとんど作っていなかったのだ。


「人間の戦士か…

 果たして魔族よりも強いのかのう?」

「それは分らんが…

 一人は魔王クラスのガーディアンを倒しているらしい」

「魔王を?

 それ程の戦士が居るのか?」

「ああ

 しかも魔法を使いこなすらしい」

「魔法をか?

 それではまるで…」

「ああ

 ミハイルの兄である、ルシフェルの様じゃな

 ワシは会った事は無いがのう」

「そうじゃな

 それなら期待が出来るのかのう」


ユミル王も、魔王からルシフェルの話を聞いた事があった。

それは様々な魔法を使いこなす、如何にも魔族の王である印象だった。

しかしそれは、誤った情報でもあった。

それはルシフェルの事では無く、アスタロトの事だったのだ。


「兎も角城壁を破られた以上は、この状況は維持出来んな」

「ああ

 しかし加護に関しては…」

「いや

 こうなればワシも出よう」

「しかしお主では…」

「なあに

 ワシも少しは精霊魔法が使える

 それに戦場でも精霊は呼べる」


精霊王は、遂に自らも出陣する決意をする。

それはこのままでは、加護の効果も半減するからだ。

城壁が無くなった以上、魔物はそのまま進軍して来るだろう。

そうなれば精霊の加護よりも、より具体的な精霊魔法の方が効果があるのだ。


「明日の布陣は考えておるのか?」

「いや

 それを相談しようと思って来たのじゃが…」

「そうか

 それならばワシに策がある」


精霊王はそう言って、机の上に地図を広げる。

そこにはドワーフが作った、砦や城壁も記されていた。

そこから城に向かう途中に、幾らか木の密集した場所が記されていた。

精霊王はその一ヶ所に、自らが布陣する場所を記した。


「ワシ等はここに結界を作る

 精霊魔法を使った結界じゃ」

「大丈夫なのか?」

「ああ

 少々の攻撃なら防ぎ切る」

「しかしどうするんじゃ?」

「ここから矢を放つ

 そしてワシは…

 ここを攻める」

「ふむ

 ならばワシ等が…」

「ああ

 危険じゃがここから、地上を攻めてくれ」


精霊王は、ドワーフ達に遊撃隊を任せる。

正面を精霊王が守り、左右からエルフ達が弓で攻撃する。

その間隙を縫って、ドワーフ達が奇襲を仕掛けるのだ。


「危険じゃがやってくれるか?」

「うむ

 そろそろワシも、斧を振り回したかったところじゃ」

「お主にはなるべく、前には出て欲しく無いのじゃがのう」

「なあに

 いざとなればお主が、結界を作ってくれ」

「簡単そうに言うな

 難しいんじゃぞ」


しかし精霊王は、ニヤリと笑って手を差し出す。

二人は固く握手を交わして、作戦を決行する決意をする。

もう少しで援軍が来るのだから、少しでも頑張る必要がある。

二人はそう考えて、総力戦を決めたのだ。


今日の作戦で、エルフ側には50名ほどの死者が出ていた。

ドワーフにも80名の死者が出て、その数は残り300名程であった。

このまま突撃しても、魔物に逆襲されるだけだろう。

だからこそ先に、エルフ達が魔物の注意を引く必要があった。


あくる日は朝から、少し小雨が降っていた。

魔物は水に濡れながらも、森の中を警戒しながら進んでいた。

そのまま加護の結界を抜けて、魔物はエルフ達の国に入った。

ここからは樹上に道が繋がり、あちこちに家があるのが見えている。


グガオウ

ギャッギャッ


魔物達は鳴き声を上げて、樹上の建物を指差す。

何体かの魔物が、それを狙って弓を射始めた。

幸い湿っているので、火矢を使われる事は無かった。

しかし放たれた矢は、樹上の家に突き刺さって行く。


ギャッギャッ

グホッグホグホ


魔物達は声を上げて、家に向かって矢を放つ。

しかし矢が当たっても、中から住人が逃げ出す事は無かった。

既にこの辺りは、住人であるエルフは避難しているのだ。

そして魔物も、その事に気が付いた様子だった。


グガオゥ

ガハアア…グルルル


魔物は悔しそうな声を上げて、その先の木を目指して移動する。

しかし同じ様に射掛けても、やはり誰も出て来なかった。

エルフは既に逃げており、この辺りには居ないのだ。

魔物は悔しそうに、弓を仕舞って進み始めた。


グガウウウ

ゴアガハハハ

グギャオゥ


魔物は不満そうにしながらも、先に進む事にした。

しかしこれこそ、精霊王が用意した罠だった。

魔物が暫く進んだところで、急に矢の雨が降り注いだ。

そしてその矢は、主に先頭に進んでいた魔物を狙って降り注いだ。

矢を放つ事の出来る魔物を、優先して狙ったのだ。


グギャオオオ

ギャワン


魔物の叫び声がして、先頭の魔物が次々と倒れる。

その様子を見て、周りの魔物が樹上を見上げる。

しかし見上げたところで、既に矢を放ったエルフは隠れていた。

それで弓を引き絞っても、狙うべき敵の姿は見当たらなかった。


本来ならこの様な場合でも、嗅覚の鋭い魔物に見付かってしまう。

しかし風の精霊の助力を得て、風向きも調整してあった。

それで魔物は、エルフ達の姿を完全に見失っていた。

だからエルフ達は、続け様に数回の奇襲を成功させた。


「よし

 上手く行っておる」

「はい

 しかし油断は出来ません」

「そうじゃな

 あちらにも魔力視を持つ者は居る様じゃ」


奇襲攻撃は、そのまま5回、6回と成功する。

足元には多くの魔物が倒れて、この奇襲は上手く行っている様に見えた。

しかし後続の魔物は、そう簡単には行かなかった。

ゴブリン・アーチャーは、エルフ達の隠れている場所を見抜いていた。


「気付かれましたか?」

「しかし場所がバレただけ

 まだ攻撃のタイミングまではバレていないでしょう」


先頭のエルフがそう言って、一斉にゴブリン・アーチャーに矢を放った。


「狙え…

 撃て」

シュバババ…!

グギャアアアア…

ギャピイイイ…


魔物の悲鳴が聞こえて、手前のゴブリン・アーチャーが倒れて行く。

しかしこの攻撃で、大体の場所がバレてしまった。

魔物は警戒して、矢の届かない場所を迂回しようとする。

しかしそれすらも、精霊王の作戦の内だった。


「掛かったな

 撃て」

「はい」

シュバババ!

グギャッ

ギャウウ…

ギャアアア…


魔物は背後を突かれる様に、矢の斉射を受ける。

これで纏まっていた、ゴブリン・アーチャーのほとんどが倒される。

精霊王は事前に、反対側にも伏兵を伏せていたのだ。

しかもこちらは、精霊の力で魔力も覆い隠していた。

並みの魔物では、この精霊の防壁までは見破れないだろう。


「ふふふ…

 今のところは順調だ」


そのまま暫く、エルフ達は樹上から矢を射続けた。

ほとんどの魔物が、魔力視の能力を持っていない。

それに一撃目に耐えれても、背後から二撃目が放たれる。

キマイラやギガースぐらいの魔物でなければ、この攻撃には耐えられなかった。


「精霊王様

 今のところ順調に倒せています」

「ああ

 既に二千は超えただろう

 この調子ならば…」

「いえ!

 そうも行かない様子です」

「むう?」


樹上で見張っているエルフが、手を振って危険を報せる。

どうやらキマイラかギガースが、こちらに向かっているのだ。

そのぐらいの魔物になると、エルフの強弓でもすぐには倒せない。

急所に数発当てて、やっと倒せるぐらいなのだ。

姿を隠したまま、魔物の不意を突き続けるのは難しいだろう。


「ここが正念場じゃな」

「はい」

「私達の力を見せてやります」


先ずは先頭を切って、2体のキマイラが駆けて来る。

既に魔力視で、手前のエルフには気付いている様子だった。

エルフ達が矢を放っても、上手く躱して樹上を睨み付けていた。

しかしもう一グループが、今度は背後から矢を放つ。


「撃て!」

シュバババ

ドシュ!

ズガッ!

グギャアアアア

ギャオオオオ


矢は一頭の尻尾である、毒蛇の頭を射抜いていた。

これが魔力視であるのか、片方は魔力視を失って辺りを見回していた。

もう一頭の方は、蛇は上手く矢を躱していた。

しかし腕や背中の翼に、矢で傷を負わす事が出来た。

これで魔物の動きは、大幅に抑える事が出来るだろう。


「手前のキマイラは魔力視を失っておる

 奥のキマイラから先に倒せ」

「はい」

「脚を狙います」


翼に傷が入って、奥のキマイラは飛行能力も落ちていた。

そこでさらに動きを止める為に、後ろ足を狙って矢が放たれる。

矢は魔物の後ろ足に、見事に命中する。


ドシュッ!

ズドドド!

ギャオン


キマイラは痛みで態勢を崩して、そのまま地面に落下する。

そこへさらに矢が降り注ぎ、目や喉元に突き刺さった。

魔物は絶叫を上げると、そのままぐったりと動かなくなる。

そしてエルフ達は、もう一体のキマイラに狙いを絞る。


「こちらは目を失った状態だ

 慎重に急所を狙え」

「ああ

 任せろ!」

シュバッ!

バシュバシュ!

ズドドド!

グギャオオオオ…


先に撃たれた数発を避けたところに、止めの矢が降り注ぐ。

そうしてもう一頭のキマイラも、頭に矢を無数に撃ち込まれる。

キマイラの脳はライオンと山羊、蛇の頭にそれぞれ付いている。

それでエルフ達は、油断なくキッチリと他の頭も射抜いた。


「何とかなりそうじゃな…」

「ええ

 しかしまだ2頭です

 これが複数来られたら…」

「その時はその時じゃ

 ワシの奥の手を使う」


精霊王はそう言って、目を鋭く細めるのだった。

眼下には三千近くの魔物が、無残に横たわっている。

しかし倒さなければ、彼等がこの魔物に殺されるだろう。

この不毛な戦いを、一体いつまで続ければ良いのか?

精霊王はそう思いながら、短く嘆息を漏らすのだった。


少し離れた場所で、黒騎士は苛立ちながらその様子を眺めていた。

彼の能力では、精霊王の隠れている場所まで見えていた。

しかし魔物には、そこまでの魔力視は備わっていない。

だから躱せと言っても、そう簡単には躱せないのだ。


「…」

ギャオオオ

グルルル…


黒騎士の後ろには、まだまだ数十体のキマイラが控えている。

しかしあの木々の狭さでは、一度に向かわせられるのは三頭までだろう。

それ以上向かわせても、狭くて身動きが取れなくなる。

それではみすみす、的にされに行くだけだ。


だからと言って、ギガースには魔力視に不安がある。

攻撃には数回耐えられそうだが、エルフを的確に攻撃する術が無いのだ。

魔物は唸り声を上げて、黒騎士に戦わせてくれと訴える。

彼等にとっては、黒騎士は優しい騎士なのだ。


人族には厳しい黒騎士だが、魔物には優しいのだ。

だからこそ、彼は魔物を犠牲にする様な作戦を躊躇っていた。

しかし魔物は、自主的にエルフ達に向かって行った。

キマイラが三体先頭に立って、その後ろにゴブリン・アーチャーが従う。

そうしてエルフを狙い撃ちにする為に、魔物は立ち向かって行く。


「…!」

ガルルルル

ギャッギャッ

グギャオウ


魔物は唸り声を上げて、エルフの待つ木の下へ向かって行った。

まだまだ続きます。

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