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聖王伝  作者: 竜人
第三章 新たなる領主
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第75話

ギルバートは模擬戦を終えた後、フランドールを褒めていた

流石は王国の騎士ですね、凄い剣捌きだと褒め、自分にも教えて欲しいとまで言っていた

しかしフランドールは、その言葉にしゃくぜんとしない物を感じていた

実際にギルバートは自分の全力の剣技を捌き切り、互角に打ち合っていたからだ

模擬戦が終わって、ギルバートはフランドールに提案していた

翌日にでも狩りに出て、魔物の討伐をしないかと言うのだ

勿論兵士も参加するが、今のフランドールの腕なら十分に戦えると言うのだ


「このダーナで、大型の魔物と戦えるのは将軍と私ぐらいです

 よろしかったら、明日でも魔物の討伐に森に出掛けませんか?」

「私はまだ、ゴブリンとコボルトしか戦った事が無い

 その私がそんな魔物と、果たして戦えるのでしょうか?」

「いえ

 今のフランドール殿なら、十分に戦えますよ

 先ずはオークでも探してみましょう」


自信無さ気に言うフランドールに、ギルバートは大丈夫だと話す。


「オークですか?」

「はい

 豚の頭の魔物です

 大型の魔物は滅多に出ませんから

 先ずはオークを狩って練習しましょう」


フランドールは、不承不承ながら承諾した。

今のままではギルバートに抜かれる日も近い。

それならば、少しでも実力を着ける為に、魔物を狩りに出るのが良いだろう。

話しを聞くと、ギルバートも魔物を狩って実力を伸ばして来たと言う。

それならば、自分も修練の為には魔物と戦う必要が有りそうだ。


フランドールは将軍とギルバートに約束して、明朝腕の立つ兵士と東門に集まる事にした。

そうしてフランドールは私兵を連れて、宿舎の訓練場の一つへ向かった。

このままでは兵士の自信が失われる一方だ。

訓練場を借りて実戦訓練をする事としたのだ。

しかし、どこにでも問題のある人間は居るものだ。

私兵の内の数名が、ダーナの兵士を侮蔑する言葉を言い続けていた。


「何が魔物だ

 我々王都の兵士の方が優秀だ」

「何を勘違いしているのか知らんが、あんな素振りなど役に立つまい」

「そうだそうだ」

「その内隙を見て、我らが強い事を見せてやる」

「こんな田舎の兵士等、簡単に切り殺してやるわ」


数人の兵士がそう息巻いていたが、他の兵士は関わりたく無いので無視を決め込んでいた。

それに気付かず、そのガラの悪い兵士達は汚い言葉を吐き続けていた。

それが聞こえているダーナの兵士も居たが、彼等も無視をしていた。

不愉快ではあるが、フランドールの私兵であるし、下手に問題を起こしたく無かったからだ。

それに、ダーナの兵士が本気になれば、私兵達は簡単に制圧出来ると判断していたのもある。

見るからに、口の悪い兵士達は腕が未熟だったからだ。


この件で、両者の間に溝が出来ていたが、ギルバートもフランドールも気が付いていなかった。

将軍だけは何となく察していたが、問題が起きるまでは静観しておく事にしていた。


ギルバートと将軍は、その後暫くフランドールに森に出る魔物の話をしていた。

コボルトとゴブリンは戦った事はあったが、その他は見た事も無かったからだ。


「それでは、王都の周りではその2種だけなんですか?」

「はい

 豚の頭の魔物等見た事もありません」

「そうですか

 それなら実戦訓練には持って来いかも知れません」

「と、言いますと?」


「オークは膂力のある屈強な兵士が、頭だけ豚になった様な魔物です

 コボルトより威力は有りますが、集団で行動もしませんので戦い易いです」

「それに、知能も高く無いですからな

 簡単な作戦にも引っ掛かります」


「スキルの練習には打って付けの魔物ですから、兵士達にもやらせてみてはどうでしょう?」

「そうですか…

 それなら、お言葉に甘えて、私の兵士達の練習に使わせていただきます」


「あ、それと

 オークは魔石を持っているかも知れません

 討伐したら回収してください」

「魔石ですか」

「ええ

 コボルトやゴブリンに比べれば、高い確率で持っています

 それを使って装備を整えましょう」

「なるほど

 そうやってダーナの兵士は良い装備を作っているんですね」

「ええ

 私の剣にも魔石は使っています」


ギルバートは自分の剣を持って来て、抜いて見せる。

フランドールはそれを受け取ると、驚きの声を上げた。


「おお…

 これは…持っているだけで力が湧いて来る様な?」

「ええ

 身体能力の強化が掛かっています

 それと強度と切れ味も上がる様に、魔石で強化しています」

「なるほど

 良い剣ですな」


フランドールは剣を返し、自分の剣を抜いて見せた。


「私の剣は長剣で、魔法は特には掛かっていません」

「それでも美しい剣ですね」

「刺突と切り裂くのと両方出来そうですな」

「ええ」


「よろしければ、手に入れた魔石でこの剣を強化しませんか?」

「出来るんですか?」

「はい

 恐らく出来ます

 加工済みの剣でも出来る筈ですから

 ただ、強力な剣を作るなら、最初から打ち直す必要がありますけど」

「うーん

 悩むところですね」


強力な剣は魅力的だが、それが仕上がるまでは時間が掛かるだろう。

フランドールは、当座はこの剣の強化だけで良いのでは?と考えていた。

それから新たな剣を一から打ってもらう。

時間が掛かると言っても、せいぜいが2週間ぐらいだろう。

先ずは魔物を狩る事から始めなければ。

フランドールは改めて翌日の魔物の討伐に期待した。


「オークなら探せば数匹は見付かるでしょう」

「先日も5匹狩ったばかりですから」

「そうですか

 それでは、明日は5匹と言わず10匹でも20匹でも狩りましょう」


そう言ってフランドールは笑ったが、ギルバートはそこまで出られたら困ると笑った。

そのまま翌日の準備の話をして、今日の模擬戦は終了となった。

フランドールは暫く私兵の訓練に付き合い、数人のダーナの兵士がスキルの訓練に付き合った。

先程の無礼な私兵達は大人しくしていたが、彼等は自分達が強いという根拠のない自信で訓練をさぼっていた。

真面目な私兵はダーナの兵士に頼み込み、スキルの構えを教えてもらっていた。

ここで差が出るのに気付かない者は、後ほど魔物との戦いで後悔する事となる。

辺境と王都の周りでは、魔物の強さが違っていたのだ。


フランドールは夕刻まで訓練に励み、空が茜色になるまで訓練場に居た。

兵士達は宿舎に風呂がある事を喜び、疲れた体を癒しに向かった。

辺境の街でこんなに風呂が用意出来るのは意外だったが、魔石が手に入る事が理由だったのだ。

フランドールも邸宅に向かい、風呂と夕食を頂く事にした。


フランドールが夕食を終え、バルコニーで涼んでいると、誰かが近付いて来た。

ローブの衣擦れの音がして、アーネストが現れた。

アーネストは書類を数点と書物を抱えていた。


「おお

 アーネスト君かい」

「こんばんわ

 昨夜はどうも失態を晒した様で、申し訳ありません」

「いやいや、若いんだから

 酒の失態は今の内に経験した方が良い

 大きくなってからでは言い訳出来ないからね」


フランドールはグラスの葡萄酒を軽く呷り、にこやかに笑った。


「そうですか?

 私はあんなに酔ったのは初めてで、朝にはベットで驚きました」

「はははは

 それでは、昨夜の宣言は無効かな?」

「え!

 宣言…??」


アーネストは顔色を変えてフランドールを見る。


やばい!

オレは何を言ったんだ?


「はははは

 他愛も無い宣言だよ

 私もギルバート殿も気にしていない

 寧ろ好感が持てたぐらいだよ」

「ええ…と

 その、内容は…」

「それはギルバート殿に聞いてみなさい

 ただ…素直に教えてくれるでしょうかね…」

「い??」


アーネストはさらに困惑した顔を浮かべ、困った様な顔をした。

それを見て、フランドールはさらに笑った。


「はははは

 まあ、そんなに気にする事でもないさ

 ただ、君はこの街を守る為にも、もっと精進しないとね」


フランドールは知らなかったが、アーネストは街を守る為に色々活動していた。

それこそ領地経営を学んだり、魔法を広めて戦力の拡充を計ったり。

凡そ考えられる事は全て、実践していた。

自分の力では出来ないので、誰かにお願いして回るのだが、それで表に出る事は無かった。


「それで

 その抱えた荷物は何かな?」

「は?

 あ、ええ」


アーネストは話題を変えられてホッとし、書類の束を手渡す。


「こちらが直近の報告書と、ここ数日の魔物の出現報告書です」

「ほう、どれどれ」


フランドールは書類に興味を示し、順番に読んで行く。

暫く静寂が訪れ、書類を捲る音だけがしていた。

やがて一刻程時間が経ち、フランドールは書類を読み終えて顔を上げた。


「幾つか気になる事が有る

 これから執務室に向かって良いかな?」

「ええ

 そのつもりでしたから」


二人はそのまま執務室に向かい、道中でも収穫量や税の割合の話をしていた。

それから執務室に入り、過去の書類との突合せが始まる。

細かい数値の比較は後回しにして、今年の取れ高の概算だけでも出そうと言うのだ。


「これを去年の値として、ここから引いてみると…

 この数値を去年の全体作付け数に掛けて…」

「なるほど、それならここの数値と比べてみてください」


二人で暫く計算し、今年の見込み収穫量を算出したり、税率の計算をする。

気が付けば2時間以上掛かっていた。

フランドールはすっかり酔いも醒め、書類の束を纏め直す。


「さて、これで大体の作業は終わった

 君はこういった計算も得意のようだね

 本当に部下として欲しいよ」

「ダメですよ

 オレはギルの右腕になるって決めてるんです

 それに…

 アルベルト様もそうでしたが、みなさん勉強が足りませんよ

 それでは領地経営に悪影響が出ます」

「ああ…

 計算は苦手だが、そうも言ってられないからな」


「本当、アルベルト様もよく計算を間違われては、オレが添削していましたから」

「そうなのか?」

「ええ

 だから、ギルには算学の勉強をしていたのですが…

 すぐに魔物討伐に逃げて…」

「く、はははは

 そりゃそうだ

 私も算学と魔物討伐なら、喜んで魔物討伐に向かうさ」


笑うフランドールを見て、アーネストは困った様に溜息を吐く。


「それが困るんですよ

 魔物の討伐も重要ですが、算学も大切です」


そう言いながら、アーネストは書物を机の上に置く。


「それは?」

「これは私が翻訳した書物に記されていた、戦術指南です

 役に立つか分かりませんが、戦闘の際に参考にしてください」


アーネストは魔法や算学には詳しいが、戦術や戦闘における戦い方に関しては素人だ。

多少は魔物の討伐で学んではいるものの、やはり実戦経験が少ない。

戦闘に長けた者の方が役に立つだろうと、ギルバートや将軍にも渡していた。


「明日には算学の書物も用意しておきます

 くれぐれもさぼらないで、しっかり勉強してください」

「う…

 分かったよ」


フランドールは書物を広げ、その内容を読み始める。

しかし、そこに書かれた内容に意識を奪われ、集中し始めた。


「これは…」

「それは差し上げます

 オレはもう寝ますが、フランドール殿も明日は早いんでしょ?

 ほどほどで寝てください」

「う…

 ああ

 ふ…む」


フランドールは無意識に返事をし、アーネストはそれを見ながら退出した。


「やれやれ

 あれではギルと同じだな

 脳筋はああいうのが好きなのかねえ」


アーネストはボソリと呟き、邸宅を後にした。

執務室の前で護衛していた従者は、思わず吹き出していた。


それから暫く、フランドールは書物に熱中していた。

従者が心配して声を掛けるまで読んでいて、仕舞いには明日の事があるからと引っ張られて行った。

執務室の上には、開かれた本がそのまま置かれていた。

そこには『兵法』より抜粋と書かれた、兵士の配置や陣の敷き方が書かれていた。


翌日の朝は晴れており、夏らしく朝から強い日差しが照り付けていた。

時間がありましたら、夜にまた上げます

少しペースが落ちていまして申し訳ないです

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