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聖王伝  作者: 竜人
第二十三章 甦った勇者
737/800

第737話

アーネスト達は、クリサリスの城で休んでいた

出発するには、時刻が遅すぎたのだ

それでその日は泊って、翌日に出発する事になった

朝になるまで、彼等は王城で休んでいた

翌日になり、王城にも朝日が差し込んでいた

アーネスト達は起床して、王城を後にする

バルトフェルドや王女、騎士団が見守る中、先ずは騎士達が乗り込む

今回の遠征では、馬を使う機会は少ないだろう

空中では馬も落ち着かないだろうと、騎士達は馬無しで乗り込んだ


「本当に宙に浮くんですか?」

「ああ

 実際に浮いているだろう?」

「ええ

 しかし階段が…」

「さすがにこの階段で、船を支える事は出来ないだろう?」


騎士達は不安に思いながらも、階段を登って船の中に入った。

そこは倉庫の横の部屋で、騎士団が寛げるだけのスペースがあった。

彼等は野営の道具などを降ろして、装備の点検を始めていた。

そこにイチロ達が乗り込み、チセが騎士達の装備を目にする。


「あ!

 それって魔法金属で作ったの?」

「いえ

 これは魔鉱石と言いまして、魔物の骨などを一緒に焼いた鉄でして…」

「ああ

 魔物の魔力を付与したのか

 それで魔力が不安定なんだね?」

「え?」

「これだと魔力付与は出来るけど、発動が弱いんだよね…」

「チセ」

「あの?

 この方は?」

「ああ

 勇者様の奥方だ

 ドワーフなので鍛冶には詳しいぞ」


チセは騎士達の装備を見て、イチロに提案をする。


「ねえ…」

「駄目だ!」

「まだ何も言ってないじゃない」

「分かっている

 こいつ等の装備を作ろうって言うんだろう?」

「そうだよ」

「材料が無いだろう」

「それならここに…」

「まだ残ってたのか?」

「うん♪

 イチロの作ってくれたバッグに、まだ鉱石がいっぱい残ってるよ」

「しかしどうやって鍛冶を…」

「あそこの炉があるでしょ?」

「あれで大丈夫か?」

「うん♪

 それでね、ミリアに…」

「はあ…

 火の精霊か?」

「うん♪」

「ミリア

 頼めるか?」

「ううん…

 私も様子を見るわ」

「そうか

 頼んだぞ」

「うん♪」

「任せて」


チセは鼻歌を歌い、ミリアは頭を抱えながら炉のある部屋へと向かう。

そこは倉庫の隣で、簡単な修理をする為に簡易の炉などが置かれていた。

チセはそこに火の精霊を呼んで、鍛冶をしようと言うのだ。

普通に考えれば、こんな木造の船なんて危険で鍛冶など出来ないだろう。

しかし魔法で加工された木材なので、火に対する抵抗も上がっているのだ。


「良いのか?」

「ああ

 言い出したら聞かないからな」

「しかし魔物が来たら…」

弩弓(バリスタ)があるだろ?

 アイシャが居るから大丈夫だ」


ミリアがレーザーキャノンの、照準と操作を任されていた。

しかし他にも、弩弓(バリスタ)が装備されている。

チセの世話をミリアに任せて、一行は艦橋に向かって上がって行った。


「レーダーはどうするの?」

「ファリスがやってくれ

 大丈夫だよな?」

「まあ…

 操作は分かるから」

「よし

 それぞれ配置に着いてくれ」

「分かったわ」

「エンジンを始動するわね」

「頼む」


チセが居ないので、ファリスがエンジンの始動も開始する。

彼女は翼人なので、機械の操作にも多少は慣れていた。

それで飛空艇のエンジンを始動して、魔力をエンジンに込め始める。

待機中の魔力を吸収して、飛空艇のエンジンが唸りを上げる。


「今回は大気中から集めているからね

 少し時間が掛かるわよ」

「構わない

 やってくれ」

「はいよ」


魔力が溜まり始めると、艦橋のモニターも点灯する。

それからレーダーも点灯して、周囲の様子が映し出される。

飛空艇のすぐ下に、複数の緑色の光点が表示される。

それは見送りに来た、王女や騎士団を示す光点だった。


緑の光点(パターン・グリーン)

 レーダーは正常ね」

「ああ

 他には問題は無いか?」

「何も無さそうね

 出火も無いみたいだし」

「ゾッとする事を言うな

 この木材は特殊な木材なんだろ?」

「そうよ

 簡単に燃える様な物では無いわ」

「簡単には…ね

 仮にも火の精霊を扱うのよ?」

「あ…

 確かにマズいかも」

「大丈夫よ

 精霊もその辺は考えているわ」

「そうなら良いけどね」


ファリスは肩を竦めて、大丈夫なの?とジェスチャーをする。

イチロはそれを見たが、首を横に振って否定する。

そもそも心配しても、チセが言う事を素直に聞く訳が無い。

だから今は、黙認して済ませるしか無かった。


「出発の準備をするぞ」

「はあい」

「こっちは良いわよ

 バリスタも問題無く稼働しているわ」

「オレは操舵だからな

 動ける様になったら教えてくれ」


アーネストはそう言って、船の舵の前に立った。

エルリックはする事が無いので、チセの代わりにレーダーを見張っていた。

操作方法は分からないが、赤い光点を見るぐらいは出来る。

後はそれを見逃さず、報告するだけだ。


「エネルギー充填率100%

 出発しても大丈夫よ」

「よし

 飛空艇、発進!」

「飛空艇エリシオン号

 発進!」


アーネストが舵を操作して、エリシオン号はゆっくりと上昇する。


「おお…」

「船が浮かんで行く」

「本当に飛ぶのね」

「あなた…

 気を付けて」


ジャーネはこの場には居なかった。

それは不貞腐れて、見送りに行かないと言ったからだ。

彼女は王城のバルコニーで、遠くに浮かぶ飛空艇を見詰めていた。


「パパ…

 必ず戻って来てね」


ジャーネはそう言って、女神に祈るのであった。


飛空艇は100mほど上昇して、上空で姿勢を安定させる。


「挙動に問題は無さそうだな」

「ええ

 レーダーはどう?」

「何も変化は無いぞ」

「エルリック

 そこの下にある、緑色と赤いボタンが分かる?」

「ああ

 この光っているやつだな」

「そう

 緑が範囲を縮小で、赤が範囲拡大よ

 大体1回押すと、100mが200mにって感じよ」

「へえ…

 これで切り替えるんだな」

「ええ

 今は500mぐらいだと思うの

 1㎞に切り替えて」

「1㎞…

 5回押すんだな」

「そうよ」

「そんなに広くするのか?」

「ええ

 空を飛ぶ魔物は素早いわ

 早目に確認出来た方が良いの」


エルリックは赤いボタンを押して、レーダーの範囲を変更する。


「青いボタンは何だ?」

「それはアクティブソナー…

 魔力を照射して探る為のボタンよ

 今は大体、10秒に1回照射しているわ

 それ以外に照射して、探る為のボタンよ」

「という事は…

 押す必要は無いか」

「そうね

 ソナーの感覚が広い時に、細目に確認する為のボタンなの

 チセが居ないから、今は弄る必要は無いわ」

「分かった」


エルリックはレーダーを見詰めて、何も映っていない事を確認する。


「何も映っていないな」

「そう

 今はね…」

「何か映ったら、報せてくれ」

「分かった」


「それでは、出発するぞ」

「おう

 出発してくれ」


アーネストが舵を操作して、ゆっくりと飛空艇は加速する。

まるで海の上を走る様に、飛空艇は空を突っ切って進んで行く。

エルリックはレーダーを見て、何も映らない事を確認する。

レーダーには地形を映す、淡い緑色の線だけが映されていた。


「間もなくフランシスとの国境だな」

「左の海岸線に、街らしき地形が映っているな」

「国境の街、ダンケルフだな」

「ここからフランシス聖教国だ」

「フランシス…

 トマスの国か」

「イチロ

 トマスは数百年も昔の人よ」

「そうそう

 もうあいつは居ないわ」

「何があったんだ?」

「いや…」

「トマスってのは、奴隷制を推し進める嫌な奴だったんだよ」

「ああ

 いつも私達を厭らしい目で見ていて…」

「そんな奴が居たのか?」

「ええ

 しかも司教だって

 女神様も、あいつの事は嫌っていたわ」

「そうか…」


昔のフランシスの司教は、奴隷制を推奨していた。

それでイスリールも、彼の事は嫌っていた。

しかし司教の身分であったので、ぞんざいな扱いも出来ない。

それでトマスは、威張って神殿に出入りをしていた。


「それにトマスは、あの時の戦争で敗退したのよ」

「そうよ

 一番に逃げ出したじゃ無いの」

「そうだな…」


そのトマスも、人間軍が不利になった際に、真っ先に逃げ出していた。

今ではその後にどうなったのかは、女神しか知らないだろう。

そしてその女神も、ギルバートとの戦いで破壊されていた。


「もう

 いつまでも引き摺らないの」

「そうよ

 今は女神の事でしょう?」

「そうだな

 そろそろエジンバラか?」

「もう少しだな

 それにこの方角だと、北に通り過ぎる感じだろう?」

「そうか

 海峡を突っ切る形になるのか」

「見えて来た

 北に見える陸地が、エジンバラだな」

「ああ

 このまま西へ向かうぞ」


正確には、西よりも少しだけ南寄りに向けて飛行している。

そのまま西に向かえば、暗黒大陸の北に着いてしまう。

目指す妖精の国は、暗黒大陸の西南に位置している。

それで女神は、目標のマーカーを少し南に示していた。


「エジンバラを抜けるぞ」

「そろそろ夕暮れか…」

「え?

 早く無いか?」

「高速で移動しているんだ

 日照時間のズレはあるさ」

「え?

 どういう事?」

「ん?

 そうか…

 この世界では解明されていないのか?」

「そうね

 まだそこまでの文明は…

 今は存在していないわ」

「古代王国では?」

「一時は日照時間の謎は調べられたわ

 それに魔導王国時代には、日照時間は土地によって違うというところまで解明されていたわ」

「そうか…」


イチロはしばし考えてから、簡単に説明する事にした。


「日照時間自体は、ほぼ同じぐらいの時間なんだ」

「え?

 それはおかしいじゃないか」

「そうよ

 もうすぐ夕暮れなんでしょう?」

「ああ

 ただしズレるんだ

 これには星の特性があってな」

「星?

 この世界じゃ無くて」

「いや!

 そういえば、この世界もその星の一つなんだよな?」

「そうだ

 この世界も星の一つなんだ」

「え?

 星って空に浮かぶあの…」

「ああ

 この世界も広い宇宙の中では、一つの星なんだ」


イチロの説明を補う様に、女神がパネルを出した。

そこには丸い玉が映っていて、そこに大陸も映し出されていた。


「これがこの星…

 アース・シーのある星よ」

「この丸い玉が?」

「ええ

 星というのは、ほとんど丸い形をしているの」

「丸い…

 だけど地面は…」

「そうね

 あまりに大きいから、その様に見えないの

 あれをご覧なさい」


女神はそう言って、艦橋から見える外の景色を指差す。

そこには夕日に照らされた、海が見えていた。

海は広がっているが、よく見ると少しだけ丸みを帯びている。

それを指差しながら、女神は説明を続ける。


「海を見てみなさい

 少し丸くなっているでしょう?」

「丸く?」

「本当だわ

 少しだけだけど、確かに丸いわ」

「そう

 これがこの世界が、丸い星の上にある証拠なの」

「それは分かったが…

 それじゃあ何で日照時間が?」

「それはこういう事よ」


女神はそう言って、星の周りに光る玉を加える。

それはゆっくりと回って、アース・シーの世界の周りを回っていた。


「それは?」

「ソルスは本当は、もっと大きいの

 今は分かり易くする為に、これがソルスとするわ」

「これが…」

「ソルス?」

「あの?」


一向は星の周りを回る、太陽(ソルス)の動きに魅入った。

太陽は一定の時間で、星の周りを一周していた。


「でも、それに何の関係が?」

「そうか!

 これがソルスなら、こうして一定の時間で回っている

 だから場所が変われば、回って来るタイミングも違うんだ」

「え?

 どういう事?」

「イチロ

 あなたもこれぐらいは習っているのよね?」

「記憶を見たんだろ?」

「そうね

 でも、しっかりと勉強していたの?」

「そこまで分かっているんだろう?

 オレは理科は苦手なんだ」

「仕方が無いわね…」


女神は溜息を吐きながら、映像に印を付ける。


「ここがさっきの王都のある場所」

「ここが?」

「ああ

 確かにこの場所だろう

 周りの地形にも見覚えがある」

「アーネストは地図を持っているわね

 クリサリスの周辺は覚えているのね」

「ああ

 必要だからな」

「イチロも見習いなさいよ」

「オレは社会や地理も苦手なんだ」

「もう…」


女神はもう一ヶ所、今度は左の海の中に印を付ける。

それはエジンバラの、南西から少し離れた場所だった。

ここが今居る場所だと、みなは何となく察した。


「ここが現在地よ

 ここで今の場所と、王都の場所ではソルスの位置が違うでしょ?」

「あ…」

「本当だ

 確かに違う」

「これで時間がズレる意味が分かった?」

「ううん…」

「そ、そうね…」

「はあ…」

「もう!

 アスタロトに教えられていたでしょう?」

「ここまでの事は…」

「何となく分かるけど…

 ここで見た時と、こっちの場所でのソルスの位置が違う…

 それで合っている?」


ファリスだけは、何とか女神の言わんとする事を理解していた。

アイシャもファリスの説明を見て、何となく理解していた。

しかしアナスタシアとエレンは、ファリスの言っている意味が理解出来なかった。

二人はまだ子供で、そこまで頭が回らなかったのだろう。


「まあ、大体は分かった

 しかしそれで、こうもズレるものなのか?」

「ああ

 西に向けて移動しているからな

 余計にズレてしまうんだ」

「西に…

 ああ、そういう事か」


アーネストはここで、自分達が太陽と真逆に進んでいる事に気が付く。

アース・シーの太陽は、西から昇って東に沈む。

飛空艇は西に向かって進むので、進めば進むほど時間のズレは大きくなる。

それでここに来て、日の沈む時間が早くなっていたのだ。


「そうか

 それで早く日が沈んで…」

「このままでは暗くなるわ

 今日はここまでね」

「ああ

 夜間に進むのは危険だ」


暗くなって進むのは危険なので、飛空艇は止まる事となった。

アーネストは舵を引いて、飛空艇をその場に停止させた。

まだまだ続きます。

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