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聖王伝  作者: 竜人
第二十三章 甦った勇者
734/800

第734話

飛空艇はゆっくりと、神殿に向かって進んで行く

空を飛行しているので、砂漠も苦にもならなかった

この調子で進めば、後数時間で神殿に到着出来るだろう

この高度で進めば、山脈も問題無く進めそうだった

竜の顎山脈を越え、飛空艇は高山に入る

外は空気が薄いが、飛空艇の中は快適だった

それは飛空艇の周りに、魔力によるフィールドが形成されているからだ

このフィールドがバリアの様になって、外の環境から守ってくれていた

「もうすぐ神殿が見えるわよ」

「思ったよりも早いな」

「あそこが古代竜の山脈の切れ目よ

 そこから慎重に高度を下げて」

「舵を押せば良いのか?」

「ええ

 ただし速度には気を付けて」

「分かった」


アーネストは速度を落としつつ、慎重に高度を下げる。

そうして古代竜の顔と尻尾の間を抜けて、神殿の前の森が見えて来る。

森の向こう側では、ハイランドオーク達が作業をしているのが見える。

彼等は女神の指示に従って、森の木を伐採していたのだ。


「お?

 ハイランドオーク達が気が付いたみたいだな」

「あははは

 手を振ってる」

「レーダーも正常に作動しているわ

 彼等を緑の光点(パターン・グリーン)で映し出しているわ」


そのまま飛空艇は進み、神殿の手前の広場に到達する。

そこでアーネストは、飛空艇を停止させる。

しかしここに来て、どうやって降りるか分からなかった。


「どうやって降りるんだ?

 下に着地出来るのか?」

「その必要は無いわ

 もう少しだけ高度を下げて」

「どのぐらいだ?」

「もう少し…

 そこで停めて」

「ああ」


アーネストが高度を下げて、地面から1mぐらいの高さまで下りる。

それからチセが、何かパネルを操作し始める。


プシュー!

「お?

 階段か?」

「ええ

 最初に乗り込んだ階段よ

 これで外に出られるわ」

「なるほど…」


艦底から階段が下りて、地面に設置される。

そこから降りて、外に出る事が出来る。

神殿の中からは、飛空艇に気付いてジャーネが駆け出して来た。

アーネストはその姿を見て、微笑みながら飛空艇を降りるのであった。


「もう!

 無事なら無事って、報せてよ!」

「はははは

 心配掛けたな」

「そうよ!」

「心細かったか?」

「な!

 知らない」


アーネストの言葉に、ジャーネは頬を膨らませて顔を赤らめる。

まだ反抗期には早かったが、ジャーネはアーネストに反抗的だった。

それは幼少の頃に、アーネストがあまり会う事が出来なかったからだ。

それでようやく会えた頃には、アーネストとは距離が出来ていた。

それでアーネストが可愛がろうとしても、少し嫌がっていた。


「すまなかったな

 少し探すのに時間が掛かってな」

「それで?

 あれが飛空…」

「飛空艇だ」

「そう、それ

 名前は?」

「名前?」

「だって、船には名前が付いているものなんでしょう?」

「あ…

 付いていないな」

「じゃあ…

 エリシオンはどう?」

「エリシオン?」

「ええ

 精霊の言葉で、希望の地なんだって」

「希望の…エリシオンか…」


ジャーネの提案で、この飛空艇の名前はエリシオンに決まった。

飛空艇エリシオン号に、ハイランドオーク達が木材を搬入する。

ハイランド・オーク達は女神に、木材の伐採を頼まれていた。

それで伐採した木材を、運んで積み込み始めた。


「こっちのコンテナに入れてね」

「はい

 しかし入りますか?」

「マジックバッグと同じ仕組みだから

 そのまま入れると入るわよ」

「おお!」

「いくらでも入るぞ」

「一つのコンテナに、大体100本ぐらい入るわ」

「それにしても、何で木材が必要なんです?」


それはハイランド・オーク達にとっても、気になっている事だった。

特に既に伐採して、乾燥した木材ならまだ分かる。

しかし女神は、それ以外に伐採したての木材も用意する様に命じたのだ。

そんな物を、何に使うのか気になっていたのだ。


「ああ、それはね

 この飛空艇の修理に使うの」

「飛空艇の?」

「ええ

 この飛空艇はね、特殊な木材で出来ているのよ」


チセに説明されて、ハイランド・オーク達は飛空艇の外壁を触ってみる。


「あれ?

 これって生木じゃ…」

「それに…

 まるでまだ生きているみたいだ」

「そう

 だから生木が必要なのよ」

「へえ…」

「凄いな」

「さあ

 乾燥した木材も運んで

 こっちのコンテナに入れておいてね」

「はい」


ハイランド・オーク達は、チセの指示に従って木材を運び込む。

そうして運び終わったところで、今度は誰が乗る事になるか相談が始まる。

ハイランド・オーク達の仕事は、甲板で弩弓(バリスタ)の弾を補充する役目だ。

その際には甲板に、侵入して来た魔物と戦う必要もあるだろう。

つまりはある程度は、腕の立つ者が必要だった。


「甲板で弾込めですか?」

「ええ

 その上で、魔物が来たら戦う必要もあります」

「それならオレが!」

「ワシもやりますぞ」

「オレも!

 オレも!」


我も我もと手を挙げるので、その中から公平に選ばれる事となる。

そして20名のハイランド・オーク達が、乗り込んで甲板の脇に待機する事になる。

そこには休憩用の部屋もあるので、交代で甲板に出る事になる。

余程の事が無い限りは、そこまで魔物が攻め込む事も無いだろう。


「これで資材も積み込み、ハイランド・オーク達も乗り込みました」

「そうね

 それでは王都に向かいましょう」

「ええ

 食料も載せないと

 何日掛かるか分かりませんからね」


いよいよ出発という事で、アーネストが舵に手を掛ける。

そこでイチロが出て来て、代わってくれと言い出した。

アーネストが簡単そうに操作していたので、自分も出来ると思ったのだろう。


「なあ

 操縦を代わってくれ」

「え?

 船の操舵をか?」

「ああ

 やってみたいんだ」

「出来るのか?」

「簡単だろう?」

「いや

 そうでも無いんだが…」

「良いだろ?

 ちょっとだけ、な?」

「いや、危険だし…」


イチロが無理矢理舵を取ろうとして、舵輪が回ってしまう。

それで飛空艇は、クルリと回り始める。


「どわああああ」

「きゃああああ」

「何なの!」

「あきゃあああ」


急に飛空艇が回転して、何人かその場で転がる。

しかも地面には、まだ階段が下りたままだった。

ガリガリと階段は、地面を引っ掻いて傷だらけになる。

さらに急に回った事で、何人か気分が悪くなっていた。


「うっぷ…」

「気持ち悪い…」

「イチロ!

 何考えているのよ!」

「いや、操縦を代わってもらおうと…」

「だからって急に舵輪を回したら、どうなるか分からないの?」

「それは…」

「もう良い!

 イチロはそこで、大人しく座ってなさい!」

「え?

 でも、操縦を…」

「良いから!

 余計な事はしないで!」


さすがの勇者も、怒れる婦人達の声には敵わなかった。

しっかりと叱られて、大人しく艦長席に座る。

そうして改めて、アーネストが舵を握っていた。

チセが声を掛けながら、下ろしてあったタラップを元に戻す。

それは先程の、無理な旋回で多少曲がっていた。

しかし船体に納まる頃には、魔力で変形も直されていた。


「階段を仕舞うわよ」

「誰も居ないわ

 問題無いわよ」

「アーネスト、ゆっくりと上昇して」

「階段は大丈夫か?」

「自動修復で直る程度だったわ

 問題は無さそうよ」

「それは良かった

 上昇するぞ!」

「良いわよ」

「周囲に敵性反応は無いわ」


飛空艇は緩やかに上昇して、山を越えられる高さまで上昇する。

それからアーネストは、ゆっくりと飛空艇の向きを王都に向ける。

そして舵を押し込みながら、緩やかに加速を開始する。


「飛空艇エリシオン

 発信するぞ」

「エリシオン発進」


飛空艇は音も無く、緩やかに空を移動し始める。

それは魔力と重力ジャイロを使って、流れる様な移動だった。

ジェット機やヘリコプターの様な、機械音や燃焼音も聞こえない。

まさにクリーンな、夢の乗り物だった。


王都までの行程は、普通ならば2週間以上は掛かるところだろう。

しかし空を高速で移動出来るので、飛空艇はみるみる山を越えて進む。

そして出発してから3時間ほどで、飛空艇は王都の見える距離まで進んでいた。

王都の方では、まさかその様な物が近付いて来るとは思っていない。


「全く、王都の守りも弛んでいるんじゃ無いのか?」

「いや、いくらなんでも空から来るとは…」

「魔物には翼竜(ワイバーン)って危険な魔物も居るって言っただろう?」

「しかし最近では、その魔物も減っておったじゃろう?」

「ああ

 しかし神殿では、バルトフェルド様も魔物の姿を見ただろう」

「むう…

 それはそうじゃが…」


バルトフェルドは、神殿ではほとんど空気の様な扱いだった。

見る物全てが初めてで、何が何だか分からない。

その内神殿の隅で、余計な事を言わない様にしていた。

それで危うく、王都への帰還に取り残されるところであった。

ジャーネが飛空艇に乗る前に、引っ張って来なければ忘れられていただろう。


飛空艇が王都の近くの、開けた場所にゆっくりと降下する。

その段になって、ようやく城壁の見張りが飛空艇に気付いた。


「おい!

 何だ、あれは?」

「あん?

 何言って…船?」

「何を馬鹿な…

 何じゃこりゃあ!」


兵士達は空飛ぶ船を見て、ほとんどの者が驚いて放心していた。

しかし数人の騎兵達が、馬に飛び乗って城門に向かう。


「開門しろ!

 真偽を正して来る」

「しかし…」

「ぐずぐずするな!

 あれが魔物なら、大変な事になるぞ!」

「わ、分かった!

 開門!」

「開門!」


呆けていた見張りの兵士達も、慌ただしく行動を開始する。

しかし王都の兵士の装備では、飛空艇は見えても、その中までは見えない。

遠眼鏡の様な物はあっても、そこまでの性能では無いのだ。

それで兵士達は、中から誰か出て来るまで見張っていた。


「あ…れ?」

「アーネスト様?

 それに…

 バルトフェルド様って城内に居なかったか?」

「え?」

「どういう事だ?」


城壁の兵士達には、バルトフェルドが出た事は知らされていなかった。

そもそも城内から、女神の転移で移動していたのだ。

外に出るところを、誰にも目撃されていなかった。

その事が、兵士達をより混乱させる。

騎兵達も近付いてみて、アーネストとバルトフェルドが下りて来た事で驚く。


「え?

バルトフェルド様?」

「アーネスト様も…

 確か城内にいらっしゃいませんでしたか?」

「ああ

 訳あってな、外に出ていたんだ」

「しかし…

 城門を通られていませんよね?」

「ああ

 転移の魔法だ」

「転移…

 城の中からです?」

「ああ、そうだ」

「すまんな

 ワシもそれに同行しておった」

「それは構いませんが…」

「これは一体?」


騎兵達の目は、飛空艇に向けられる。

見た事も無い船が、空を飛んで現れたのだ。

驚くなと言う方が無理だろう。


「これはな、飛空艇エリシオン号と言うんだ」

「ワシ等はこれから、これに乗って暗黒大陸に渡る」

「え?

 ひくうてい?」

「何ですか?

 それは…」

「それに暗黒大陸って…」

「詳しくは一旦、城に入って説明する

 直ちにこの船に、兵士の補充と食料の補充を行いたい」

「その為にも、先ずは一旦城へ向かう」

「あ…

 はい」

「それでは私達が先導します」


騎兵達に先導されて、アーネスト達は城に向かう。

ハイランド・オーク達は、そのままエリシオン号に待機していた。

そのまま着いて行っても、特にする事が無いからだ。

代わりに物資が届いたら、積み込みの手伝いをする事になる。


「飛空艇にはハイランド・オーク達が乗っておる」

「ハイランド・オークですか?」

「わざわざ来てくれたんですね」

「ああ

 それでも兵力に問題がある

 出来れば騎士を、2個師団載せたいのじゃが」

「騎士を…

 しかしそれ程の余裕は…」

「厳しいのは分かる

 しかし騎兵と騎士では、戦って来た戦歴が違う」

「そう…ですね」

「そういう訳で、騎士達に召集を掛けておいてくれ」

「分かりました」


「食料も必要と伺いましたが…

 どのぐらい必要ですか?」

「そうじゃな…」

「騎士2個師団、それからハイランド・オークが20名

 オレ達の人数が11名だ」

「ん?

 女神様は?」

「女神は食事をされない

 そうだろう?」

「ああ

 食事をする必要が無いんだ」

「私は…

 出来ればみなと一緒に食べたいが…」

「え?

 食事が出来るんですか?」

「そうだな

 イスリール様も、よくオレ達と召し上がっていた

 食事自体は出来るさ」

「それなら12名分だな

 総勢82名で、2週間分は必要だ」

「そんなに!」

「ああ

 何せ海の向こうにある大陸だ

 それに向かった先には、何があるか分からない」

「そうじゃな

 本当なら、一月分は欲しいところじゃ」

「いくらなんでも、それはすぐには用意出来ません」

「うむ

 じゃから2週間分じゃな」


大陸を渡る以外に、向こうでの滞在の事も考えなければならない。

そう考えると、2週間分でも不安な量だった。

しかし城の備蓄では、それぐらいしか用意が出来ない。

一月分となると、用意するのに数日は掛かるだろう。

今はその時間が惜しかった。


「急いで向かわないとならないんだ

 世界の命運が掛かっている」

「世界の…」

「それは王太子殿下も関係されているのでしょうか?」

「分からない」

「王太子殿下は…

 ギルバート様は未だ行方不明なのじゃ」

「そんな…」


兵士達は急に現れた飛空艇と、アーネスト達に驚いていた。

しかしそんな奇跡の様な出来事が起こったので、王太子も見付かったのではと思っていた。

だが、現実はそんなに甘くは無かった。

世界の命運を賭けた、決戦が迫っているのだ。

まだまだ続きます。

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