第732話
チセの活躍で、遂に飛空艇の建造施設が見付かった
そこはピラミッドの外周の地下で、そこから発進出来る様に造られていた
後は魔力を充填して、地上に発進するだけだった
その準備をする為に、アーネスト達は忙しく動き回っていた
地下の工場には、イチロの世界のスーパーロボットも置かれていた
それはどこまで忠実に出来ているのか、アスタロトにしか分からない
しかし見た目からも、魔力か魔石で動かす事は可能に見えた
だが、女神達からは、非常に冷やかな目で見られていた
「スーパーロボット…」
イチロとしては、子供時代からの憧れである。
実際に動かせるのなら、試しに動かしてみたかった。
しかしアーネストすら、興味も持たずに相手にされなかった。
イチロは独り寂しく、コクピットに座って操縦桿を握っていた。
「ガンドン行きます!
ブーン
バシュバシュ…」
「なあ
放って置いて良いのか?」
「良いのよ
もう子供じゃ無いんだから」
「そうよ
大体動かしたいのなら、今動かしてみれば良いのよ」
「いや、あれは賛同してもらいたいんじゃ無いのか?」
「それこそ時間の無駄よ
アナスタシア
ポーションはそっちに運んで」
「はい」
「薬草も持てるだけ持って行くよ」
「そうね
チセは鉱石も持って行くの?」
「うん♪
中に小さな工房もあるから
修理用の小さな炉や作業台だけどね」
「そこで矢とか補充出来そう?」
「出来るけど…
問題は食料だね」
「そうか…」
薬や金属は補充出来たが、ここには食料になる物が無かった。
クローン達の食料はあるだろうが、それ以上の食材の余裕は無さそうだった。
「それなら王都に向かおう
どの道試運転が必要だろう?」
「そうね」
「だけど良いのかい?」
「構わないさ
それに兵士の補充もしたいしな」
飛空艇には、最低限の武装はしてあった。
左右の舷側にレーザーキャノンが8門ずつ設置されている。
それから甲板には等間隔に、24基の自動制御の弩弓が設置されていた。
これらは艦橋内で、操作制御が可能である。
しかし弩弓に関しては、弾の補充が必要だった。
「弩弓の弾はあるのか?」
「船体の倉庫の中に幾つかあるわ」
「それに足りなくなれば、私が作るわよ」
「弾には問題は無いか
後は補充の方法だな」
「それは近場に誰か居る必要があるわね」
「弾を補充する為に人が必要か…
先に神殿に立ち寄っても良いか?」
「どうするの?」
「ジャーネを乗せたいし、ハイランド・オーク達が居るだろう?
何人か乗ってもらって、弩弓の弾の管理をしてもらおう」
「そうね
弾を補充してもらえれば、後は狙うだけだわ」
「私かアイシャが操作するわ」
バリスタとレーザーキャノンに関しては、アイシャとミリアが操作を任される事になる。
彼女達が艦橋から、操作して狙いを付ける。
そうして連射して、弾の補充は兵士かハイランド・オークが行う。
これで飛行型の魔物が来ても、反撃する事が出来る。
「攻撃に関しては、これで問題は無いだろう」
「他に必要な物は?」
「食料は王都で補充出来る
他に必要な資材は?」
「乾燥した木材と、生木が幾らか必要よ」
「乾燥した木材は分かるが…
生木とは?」
「この飛空艇は、特殊な加工をした木材が使われているわ」
「木材?
金属では無いのか?」
「そうね
金属の方が強度はあるけど、重たいのよ」
飛空艇の内部は、必要な箇所は魔法金属を使用していた。
しかし外装やほとんどの箇所は、特殊加工した木材が使われていた。
これは木材に魔法文字を刻み込み、強度や魔法に対する強度を上げていた。
この強化を施す事で、並みの魔法攻撃では傷が付かなかった。
それに少々の攻撃では、木材に傷を付ける事も出来ない。
「魔法で加工した木材か…」
「ええ
強度だけでは無く、魔法に関する抵抗も上げてあるわ
それで船体に使えているの」
「ううむ
だったら損傷したら…」
「私が加工出来るわ
だけどそれには、生木が必要なの」
「生木?
乾燥した木では駄目なのか?」
「ええ
まだ生きている…
伐採して間もない木が良いの
この加工は、木の生気も利用しているのよ」
「木が…
生きている?」
伐採して間もない木は、まだ生命力に満ちている。
この加工の強度を上げる工夫は、生きている木材の生命力を使う事にある。
魔法文字で生命力を閉じ込めて、それを木の強化に回しているのだ。
この技術の細かい内容は、アスタロトの論文にも纏められていた。
「詳しい事はここに書かれているわ」
「う…
相当な数の論文だな」
「ええ
それだけアスタロト様は、この加工に時間を費やして研究されたの
だからすぐには完成しなかったのね…」
重力ジャイロや、反重力システムは既に完成していた。
しかし飛空艇の完成には、それから長い年月が掛かっていた。
その主な原因は、この船体の素材の開発に費やされていたのだろう。
船体の重量次第で、飛行出来なくなってしまうからだ。
「金属では飛行は出来ても、速度や積載に問題があったみたいね」
「なるほど…
少量なら兎も角、これだけの大きさでは当然か…」
飛空艇は、その船体の大きさだけでも50mぐらいある。
その大きさの鉄塊を、簡単に飛ばす事は出来ないのだ。
木材にした事で、少しはマシになっているのだろう。
逆に言えば、木材でなければもっと重たくなっていただろう。
「この魔法で加工した木材は、製法さえ分れば作れる物なのか?」
「それはどういう意味です?」
「いや…
これ程の性能だ
ドワーフが工法を知れば…」
「あら?
それは無理ですよ
私だから出来るんです」
「チセ殿もドワーフでは?」
「チセで良いですわ
私はドワーフでも、格上の存在なのです」
「エルダー・ドワーフって種になるみたいです
今では暗黒大陸のドワーフ王と、その他には数人しか居ませんんわ」
「それでは並みのドワーフでは…」
「ええ
製法を知ったとしても、出来ないでしょうね
出来ても劣化した魔法木材になるでしょう」
「なるほど…」
アーネストは、内心ではこの工法を学びたいと思っていた。
しかしチセの話では、エルダー・ドワーフしか作れないらしい。
それを聞いて、悪用も出来ないと安心する。
作れないのなら、何者かが兵器に流用する事も無いだろう。
しかしチセは、実は嘘を吐いていた。
それはアーネストの様なガーディアンなら、魔力を込めて作れる可能性があるのだ。
しかし作れないと言ったのは、アーネストと同じく悪用されない為だった。
作れないと言っておけば、悪用しようとする者も居ないだろう。
「それで?
先ずは神殿に向かうので良いの?」
「ああ
娘のジャーネを迎えに行きたい」
「ジャーネちゃんね…」
「あの子…
精霊魔導士の素質があるわ」
「精霊魔導士?」
「私の様な、精霊の力を借りて魔法を扱える者よ
それも高位の魔法も扱えるから、精霊魔導士ね」
「ジャーネが?」
「ええ」
ミリアはハイエルフで、精霊の加護を受けている。
それと同様の力を、自分の娘が持っていると言うのだ。
アーネストとしては、娘がそんな力を秘めているとは知らなかった。
「その…
娘に影響は無いんだろうな?」
「影響?」
「ああ
そんな強力な力を身に付けて…」
「あははは
そうね
ハイエルフじゃないのに精霊魔導士だもんね」
「だから!」
「ミリア
揶揄わないの」
「はあい…」
「その事自体には影響は無いと思うわ
だけどそこまでの力を持つって事は…」
「ガーディアン?」
「ええ
あなたも奥さんも、ガーディアンの血が流れているのよ」
「そう…だな」
自分にもガーディアンの血が流れているし、恐らくフィオーナにも流れているのだろう。
ギルバートを封印した赤子の血にも、特殊な力が宿っていた。
だからこそ封印が成功されたし、意識がいつまでも残っていたのだ。
だからそんな二人の娘なら、当然ジャーネにもガーディアンの血が流れていてもおかしくない。
「そう身構えないで
私達にも流れているのよ」
「イスリール様がね、私達をそう作られたの」
「つく…?!」
「そうね
ここだけの話だけどね
私達のほとんどが、人工生命体として加工された存在なの」
「まあ、人間も同じ様にして作られていたからな
その一代目だと思ってくれ」
「私達はイチロの伴侶になる為に、女神様に生み出されたの」
「それは…」
「勘違いしないでね
親が居ないだけで、他は変わりが無いのよ」
「私達は私達
何も変わらないわ」
「そう…だろうな」
言われるまでは、彼女達が生み出された存在だと気が付かなかった。
しかも彼女達は、みなガーディアンの血が流れているのだ。
「私達はイチロを支える為に、ガーディアンの力が必要だったの」
「だからイスリール様には感謝してるわ」
「全員がガーディアンなのか?」
「そうね…
エレンにもその力があるわ」
「だけど魔物を人間に近付けるのは、初めての試みなの」
「だからエレンは、魔物でありながら人間に限りなく近いわ」
「まあ…
そもそもが魔物の定義が難しいからね」
「魔石の有無と、精神の定着
少なくとも、ガーディアンには魔石があるわ」
「それに、エレンには感情があるわ
だから私達は、彼女も人間なんだと思っているの」
「人間の定義か…」
これ以上は、それこそ人間の定義になる。
アーネスト達は、それ以上はその事について話さなかった。
それは詳しく話す程、人間の本質に疑問を感じるからだ。
これは人間が触れて良い領域の話では無いのだろう…。
「それで?
どうやってここを出るんだ?」
「それはね、隔壁を開いてこの上に出るの」
「この上?」
「ええ
この上はピラミッドの脇になるわ」
「そこから地上に出られるの」
ここはピラミッドの下では無く、ピラミッドの脇の地下だった。
だから隔壁を作っても、ピラミッドには影響は無かった。
それで隔壁を作って、そこから出入り出来る様に作られていた。
あくまでもアスタロトの基準ではあったが。
「飛空艇の準備は?」
「エネルギー充填率60%…
70%になったわ」
「隔壁は?」
「みんなが乗り込んでから操作するわ
どうなるか分からないからね」
「よし
乗り込もう」
飛空艇の舷側には、中に乗り込む為の階段が用意されている。
それは内部に収納出来る様になっており、外でも使える様になっていた。
そこから資材なども、運び入れれる様になっている。
アーネスト達はそこから、飛空艇の中に入って行った。
「ここは倉庫になっているのか?」
「ええ
このコンテナ…
箱が収納の魔法を付与されているわ」
「収納?
中に沢山入るって事か?」
「ええ」
倉庫には金属製の、箱が複数置かれていた。
その箱一つ一つに、物が大量に入れられる様になっている。
「こっちが艦橋か…」
「ええ
こっちが甲板に繋がっているわ」
「弩弓の弾は本体の横の箱に入れる様になっているわ」
「こっちはレーザーキャノンの操作する場所になるわ」
「操作?
それは艦橋で…」
「照準は艦橋よ
ここはそれが故障した時に、手動で操作する為の場所よ」
「その他にも修理も必要だからね
こうした中から点検出来る場所は必要なんだ」
「なるほど…」
一向はそのまま、艦橋に上がって来た。
艦橋は甲板から、少し高い場所になっている。
そこから周囲を、肉眼でも見られる様になっている。
しかし特徴的なのは、壁面にパネルも嵌め込まれている事だった。
「このパネルは?」
「外の景色を映せるの
隔壁を閉じれば、肉眼では見えないからね」
「隔壁?
隔壁って頭上の…」
「戦闘が始まった時に、艦橋が手薄では危険でしょう?」
「隔壁が艦橋の隙間を埋めて、外から攻撃出来ない様にするの」
「その間は、視認性が落ちるからな
だからパネルで、外の様子が見える様になるんだ」
「外の景色か…」
「うわあ…
見て!
全天球のレーダーよ」
「レーダー?」
「ここに飛空艇が見えるでしょう?」
「ああ」
その丸いガラスには、中心に飛空艇が映されていた。
その周囲に、地形や敵の位置を表示するのだ。
全天球なので、このレーダーには下方も映し出される。
それで下方から魔物に迫られても、このレーダーで確認出来るのだ。
「今はドックだから、ドック内の様子しか見えないわ
だけど飛行中は、周囲の様子もこれで見えるわ」
「へえ…
便利だな」
「これは地形だけでは無く、敵性の存在も確認出来るわ
迫って来る敵性の者は、赤い光点で表示されるわ」
「敵じゃ無かったら?」
「そうね
緑か青の光点で表示される筈よ」
「へえ…」
「こっちが照準になっているわ」
「アイシャが弩弓の照準を、ミリアがレーザーキャノンの照準をお願い」
「はい」
「任せて」
「アーネストは操舵をお願い」
「分かった」
「エルリックはそこの計器を見ていて」
「これは何なんだ?」
「こっちが高度計で…
こっちが速度を表しているわ」
ファリスが説明をして、チセが細かい調整をする。
機械の操作自体は、チセの方が得意だった。
しかし細かい仕様に関しては、ファリスの方が詳しかった。
それは彼女が、翼人として機械を詳しく学んでいたからだ。
「イチロは艦長として…
あれ?」
「イチロは?」
「あそこだ」
「ああ!
もう!」
ファリスは伝声管を開くと、大きな声でイチロを叱責する。
「イチロ!
いい加減にしなさい!」
「けど…
スーパーロボットだぜ?」
「諦めなさい!
早く来ないと、置いて行くわよ!」
「とほほほ…」
イチロは、まだスーパーロボットを諦められていなかった。
操作をしたくて、色々と調べていた。
しかし置いて行かれると言われれば、諦めるしか無かった。
イチロは後ろ髪を引かれながら、飛空艇に乗り込んだ。
まだまだ続きます。
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