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聖王伝  作者: 竜人
第二十三章 甦った勇者
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第731話

ピラミッドの中で、アーネスト達はアスタロトのクローンに出会う

彼は本体と切り離されていたので、本体であるアスタロトが死んでも生きていた

そうして彼等クローン達は、ここで生き続けていた

彼等は研究を続けて、ここで生活しているのだ

アスタロトのクローンに案内されて、アーネスト達は地下に向かって降りる

昇降機は地下に下りると、自動で扉が開く

そこには複数の研究施設と、大きな工場が併設されている

これだけ大きい施設なら、飛空艇も置いてあるかも知れない


「あの…」

「ん?」

「どうしたんだ?」

「私はそろそろ…」

「ああ

 一つだけ教えてくれ

 ここに飛空艇は無いのか?」

「飛空艇?」

「ああ

 先ほどの部屋にあった、模型の完成品だ」

「空を飛ぶ事が出来る船なんだが…

 見た事は無いか?」

「空飛ぶ…船ですか?」

「ああ」

「詳しくは分かりませんが…

 この奥に建造施設がございます

 そこでは無いでしょうか?」

「そこへの案内は?」

「出来れば遠慮したいのですが…」


アスタロトのクローンは、ビクビクしながらイチロを見る。

本体と違って、彼は気弱で大人しい性格なのだ。

本人が望んだのか?

彼は本体とは全く異なった性格なのだ。

それで出来れば、人目に触れたくないという性格だった。


「分かったよ

 自分達で調べるよ」

「見て回るのは構わないよな?」

「ええ

 それは…

 しかし気を付けてください」

「ん?」

「中には危険物の研究もございます

 迂闊に訳の分からない物を触れたり…

 ガラスを割ったりしないでください」

「気を付けるよ」


アスタロトのクローンは、それで一行から離れて行った。

よほど人目に付くのが嫌だったのだろう。

そそくさとその場を後にしていた。


「さて

 手分けして調べるぞ」

「はい」


一向はその場から、鍵の掛かっていない部屋を調べ始める。

部屋は薬草を保管したり、調合する部屋。

生き物を標本にして、詳しく調べる部屋。

そして魔石や魔法金属を取り扱い、色々と制作する部屋などがあった。


薬草の部屋は、中で色々な薬草を扱っていたのだろう。

中は薬草の匂いが充満していて、様々なポーションや乾燥した薬草が置かれていた。

特にポーションの類が多く、表面に試薬の種類や効能が書かれている。

中には危険とか、触るなと書かれた瓶も置かれていた。


「回復以外にも、危険な効能の薬もあるわ」

「こっちは毒ね

 何でこんな物を?」

「毒は薬にもなるわ

 それに毒を調べる事で、その効果を防ぐ事も出来るの」

「ふうん…」

「これは痺れ薬だけど、飲むか傷口から入ると効果があるわ」

「ひええ…」

「だけどね、これを打ち消せる薬草もあるわ

 それを調べれば、対策も出来るでしょう?」


ミリアの言葉に、アナスタシアは恐ろしそうに瓶を見詰めていた。


また、標本の部屋には死体を保管してあった。

そこには主に、魔物の死体が保管されていた。

魔石の力を封印して、そのまま遺体を保管しているのだ。

魔石が砕けると、魔物の遺体も分解されてしまう。

そこで魔石の力を封じて、こうして保管しているのだ。


「この薬液の成分が、恐らく魔石の力を封じている」

「魔石だけを封じるの?」

「いや、魔石というよりは、恐らく魔力を通さないんだろう

 魔力察知も通さないだろう?」

「あら?

 そういえばそうね」


ここにはイチロとファリスが入っていて、魔物の生態が書かれた資料を整理していた。

この中には、飛空艇の資料は入っていないだろう。

しかし一応は、調べてみる必要があった。

だから二人は、念の為に確認をしていた。


「しかしアスタロト様は…

 何だってこんな事を?」

「魔物の特性を調べる事で、魔物の行動や生態を調べていたんだろう

 そうする事で、魔物がどう行動するか予測出来るからな」

「魔物の行動を?

 予測するの?」

「ああ

 食料に向かうか…

 虐殺を好むか

 それだけでも、住民がどう行動すべきか考えられるだろう?」

「それもそうね…」


魔物の資料は、かなりの数に上っている。

名前ごとに仕分けられ、そこに魔物の行動パターン等が記されている。

有効な魔法の種類や、攻撃の際の注意点なども書かれていた。

これは魔物によっては、知恵が回る魔物もいるからだ。

アスタロトは魔物に合わせて、有効な対処方法も調べていたみたいだ。


「こっちは魔物の食事に関してか…

 人間以外でも、食事で補えるか…」

「オーガ?」

「いや

 他にもあるぞ

 人間を食す理由は、他の生き物よりも魔力が大きいからな」

「そうね

 手軽に魔力が補えるからこそ、魔物同士の共食いもあるものね…」


二人はなんだかんだ言っても、資料に目を通していた。

二人からすれば、魔物をどうやって生かすかも重要な課題だったのだ。

イチロとしては、魔物との共生も考えていたのだ。

人間との戦いが終われば、魔物を無理に滅ぼす必要が無かったからだ。


「魔物が人間を襲う必要が無いのなら…

 それを証明出来れば…

 エレンを…」

「もう

 あなたって人は…」

「それがオレが勇者である意味なんだ

 魔物にも生まれて来た意味がある筈だ

 ただの人間を襲う為の怪異であって良い筈が無い」

「でも、イチロの世界のでも怪異は悪だったんでしょう?」

「そうじゃない

 そうじゃないけど…

 確かに怪異は人を襲う物が多かったな」

「だったらこの世界でも…」

「でもな、諦め切れないんだ

 それがエレンを託した王の意思でもある」

「そうね

 そんなあなただから、私達も惚れたんだもんね」

「ばか

 茶化すなよ」


イチロは顔を赤くしながら、腕組みして来るファリスを見る。

魔物であるエレンは、魔物の代表としてイチロに預けられた。

そうする事で、イチロに裏切らないと忠誠を誓ったのだ。

勿論、娘を差し出した王以外の魔物は、そこまでイチロに忠誠を誓ってはいない。

それにその事は、イチロが封印される前の話だった。


イチロが封印されてから、魔物はほとんどが滅ぼされている。

そしてエレンを差し出した、海魔も今ではほとんど姿を見せない。

暗い海の底に引き籠って、海中の魔物を襲っては食べている。

そうする事で、地上に出て来る事は無かった。


イチロは海魔の王と、約束をしていた。

いつか魔物が、地上で人間と生きれる様にする。

その為に世界の認識を改めさせて、魔物が不自由しない世界にする。

彼はそう約束して、エレンを海魔の王から受け取ったのだ。


「でも、本気であの子を妻にする気なの?」

「ばっ!

 そんなのは建前だ

 あいつはまだ子供だし…」

「でも、エレオーネは本気みたいよ?」

「それは少女時代特有の憧れだろ

 大きくなったら、あいつに相応しい男が現れるさ」

「それまでお父さんをするつもり?」

「ああ

 そういう約束だ」

「嘘!

 トリトンはあなたの妻にって差し出したのよ」

「そういう訳に行くか

 良いから飛空艇を探すぞ」

「あん

 もう…」


イチロは誤魔化す様に、顔を赤くしながら部屋を出る。

そう、彼の中ではエレンは、大切な娘なのだ。

可愛くて仕方が無いが、それは異性としてでは無い。

だから好意を持たれても、それは父親としてだと自分に言い聞かせていた。


「こっちにも無いな…」

「そうね…」

「これはどうです?

 魔力砲と言って、強力な兵器ですよ」

「もう!

 チセも真面目に探しなさい」


一方で魔道具の工房では、アーネスト達が捜索していた。

ここが一番、飛空艇の情報がありそうな場所だった。

しかし同時に、ここが一番散らかって危険な場所でもある。

ほとんどの危険物は、厳重に保管庫に仕舞われている。

しかし一部の魔石や魔道具は、その辺りに放り出されているのだ。


「これって何だろ?」

カチッ!

ボウッ!


エレンが何気無く、拾った小箱の蓋を開ける。

それは火口箱になっていて、開けると吹き出し口から火が出る様になっている。

イチロが見たら、ライターかよと突っ込んでいただろう。


「みぎゃああああ」

「危ないわね

 その辺の物を勝手に触らないの」

「ごめんなしゃい…」

「もう

 なんでこんな危険な物を…」

「使い様なんだろう?

 それは開けない限りは、簡単に持ち運びできる火口箱だ

 開けなければ危険は無い」

「開けなければって…

 現に開けて危険なんだけど」

「それは置いた本人では無いからな

 本人は安全なつもりなんだろう」

「だからって私達が…」

「来て、勝手に調べられるとは思っていなかったんだろう

 だから散らかっているんだ」

「それもそうね…」

「いいや

 私はこの部屋を管理する、アス様のクローンが悪いと思う」

「それは…」


それは当たらずとも遠からずだろう。

アスタロト本人なら、この様に散らかっていれば卒倒するだろう。

それほどアスタロトは几帳面で、綺麗好きであった。

しかしクローンの全てが、その特性を引き継ぐ訳では無い。

この部屋の担当のクローンは、いや、ここのクローンのほとんどがズボラだった。

それで端から散らかしては、綺麗好きなクローンが片付けているのだ。

今日もアーネスト達が来ていなければ、先ほどのクローンが片付けていただろう。


「ああ!

 しかし研究資料はあるが、肝心の飛空艇が無い」

「そもそも、ここでは無いのではないか?」

「そうだな

 こんな場所では、飛空艇を作れんだろう?」

「それはそうよ

 だって狭いもん

 飛空艇ってぐらいだから船でしょ?」

「そうだな

 模型を見ても、船の形をしていた」

「だったらドッグや工場でしょう?

 ここでは無いわよ」

「だからそこを探しているんだって

 そこが何処なのか…」

「ふえ?

 ここにあるじゃん」


チセはそう言って、その施設の奥の丸い金具を回す。

すると音がして、ゆっくりと壁の一部が開いた。

その奥から光が差し込み、その先に大きな部屋があるのが見える。


「ち、チセ?」

「へ?」

「それを探してたんだ」

「そうなの?

 なら最初っから言ってよ」

「言ってただろう」

「もう…」

「イチロ!」


そこは工場に併設された、大きなドックになっていた。

水は張られていないが、金属のレールの上に飛空艇が設置されている。

そしてその周りには、人型の金属で出来た人形が数体飾られていた。

その光景を見て、イチロは目を輝かせていた。


「う、うわあ…

 す、スーパーロボットだ!」

「スーパー…ロボット?」

「ああ!

 分からないのか?

 こっちはガンドンで、こっちはバンハムだ

 凄い…

 見た目は完璧に出来上がっている」

「あの…」

「イチロ?」


イチロは興奮して、その金属の人形の周りをウロウロする。

人形の胸には扉があり、音を立ててそれがスライドする。

そして中にはソファーや金属の操縦桿があり、魔力で動かせる様になっている。

イチロは興奮しながら、イスリールの方を見る。


「な、なあ

 こいつを動かして…」

「駄目です!」

「なあ

 目的を忘れていないか?」

「そうですよ!

 早く飛空艇で出発しなければ

 妖精の国に魔物が迫っているんですよ!」

「しかし…

 これは持って行けないだろう?」

「当たり前です!」

「何処に仕舞っておくんだ!」

「魔物との戦いには必要無いでしょう!」

「だって…

 スーパーロボットだぞ?

 強いんだぞ?」

「必要ありません!」

「そもそも、まともに動くのか?」

「それは…」


イチロは泣きそうな表情で、アーネストやイスリールの方を見る。

しかしイスリールも、まともに動くか分からないガラクタは不要だった。

アーネストもスーパーロボットを知らないので、同意を求められても困っていた。

これがイチロの世界の、アニメを知っていれば違っただろう。


「すっごく恰好良いんだぞ」

「はいはい」

「強いんだぞ」

「ちゃんと動くの?」

「その…

 悪い奴等を蹴散らして…」

「ねえ

 そのスーパーロボット?

 イチロの世界では動いていたの?」

「い、いや…

 アニメの…」

「またアニメか…」

「空想の産物でしたわよね?」

「それをアスタロト様が作ってみせた…」

「そう!

 そうなんだよ

 恐らく魔石や魔力で動く筈だ!」

「そのアニメとやらの様に?」

「そ、それは…」

「ちゃんと動かせるの?」

「魔物と戦えるの?」


妻達の言葉に、イチロは次第に返答に窮する。

確かに見た目は、アニメをそのままにした様に出来ている。

しかし問題は、アニメは所詮空想でしか無いという事だ。

見た目はよく出来ていても、そこまで忠実に仕上がっているという保証も無い。


そもそも今は、急いで飛空艇で向かわなければならない。

キチンと動くか分からない、金属の人形で遊んでいる暇は無いのだ。

それに兵装まで再現していても、運ぶ手段や訓練期間も無いのだ。

もし仮に持って行っても、邪魔にしかならないだろう。


「す、スーパーロボットなんだぞ」

「だから?」

「ガラクタに使っている時間はありません」

「ガラクタじゃ無い

 スーパーロボ…」

「ガラクタです!」

「いい加減になさい!」

「さっさと飛空艇を動かしますよ」

「先ずは動力の確認だね

 エネルギーは魔力かな?」

「これだけの大きさを動かすんです

 それだけの魔力を魔石に込めないと…」

「それなら竜神機と同じで…」


しつこく懇願するイチロを放置して、アーネスト達は飛空艇のドックに向かう。

理論は竜神機と同じなので、エネルギーの充填方式も同じだった。

女神が操作をして、飛空艇の魔石に魔力を充填し始める。

それと同時に、操作方法や発進方法も調べ始めた。


「スーパーロボット…」

「こっちのパネルで、ドックの上の隔壁が開閉出来るみたいね」

「ここから発進するのか?」

「砂を掻き分けて出るみたいね」

「スーパーロボ…」


イチロは俯いて、独り涙を溢すのであった…。

まだまだ続きます。

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