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聖王伝  作者: 竜人
第二十三章 甦った勇者
726/800

第726話

勇者の復活を阻止するかの様に、バロールという名の強力な魔物が現れる

アーネストは女神の端末に指示を出し、何とかバロールの侵攻を阻止しようとする

しかしバロールは、無数の魔眼から光線を発射して迫って来る

その侵攻は、じわりじわりと進んでいた

アーネストが賢明に指示を出し、何とか魔物の侵攻を止めようとしていた

その間に精霊達は、勇者イチロの封印を解除していた

そして遂に、勇者を拘束していた封印は完全に解除された

地面に横たわった勇者は、小さく呻き声を上げていた


「う…

 ううん…」

「ああ

 遂にイチロ様が…」

「ミリアやチセも目覚めそうだ」

「みんな無事の様だな」


イチロの周りに倒れている、女性達も呻き声を上げていた。

最初に目を開けたのは、狐の獣人の少女であった。

彼女は茶色の毛並みをした耳に、リボンを結んでいた。

それが周囲の声を聞いて、ピクリと反応した。


「う…

 ここは?」

「おお!

 アイシャ

 目を覚ましたか」

「イスリール…様?」

「ふふ

 やはりお前が早起きじゃな」

「ち、違う!

 あなたは誰?」

「そう身構えるな

 私も女神の端末の一人じゃ

 今は私が、イスリールの名を継いでおる」

「そ…んな…」

「ああ

 残念ながら、エミリアの予言通りじゃった

 イスリール様は…」

「ああ…」

「悲しんでおる暇は無いぞ!」

「う…」


続いて二人の会話を聞いたのか、他の女性も目を覚まし始める。


「ここは?」

「むう?

 私は?」


各自が現状を、話し始めていた。

しかし肝心の勇者は、未だに意識を取り戻していなかった。


「そんな…」

「それでは現実に、私らは500年後の世界に?」

「そういう事になりますね」

「はあ…

 イチロ様、まだ起きない」

「なぬ?」

「はあ…

 いつも肝心な時には寝坊するんだから…」


ミリアと呼ばれたエルフの少女が、イチロの頬を思いっ切り引っ張る。

しかしそうされても、イチロは起きそうに無かった。


「うう…むにゃむにゃ

 母ちゃん、もう少し寝かしてくれ…」

「こ…

 ポンコツ勇者が」


寝惚けているイチロを見て、イスリールが身構える。


「いい加減に起きんか!

 サンダー・レイン」

「ほんぎゃら、ぐがぎご!」

ドシャン!

バチバチ!


女神の落とした雷撃が、激しく勇者を打ち付ける。

それで目が覚めたのか、イチロはようやく起き上がった。

普通ならば、あんな電撃を食らえば死んでしまう。

耐性の無い人間であれば、消し炭になっていただろう。

そこだけは、さすが勇者と言うべきなのだろうか?

とまれ、勇者イチロはようやく目を覚ましたのだ。


「ん…ああ…

 おはよう、みんな」

「イチロ」

「お兄ちゃん」

「イチロ様」

「ああ

 っと、それにイスリール」

「ようやくお目覚めかね?」

「はは…

 ってイスリールじゃ無いな?」

「はあ…

 そこは分かるのだな」

「いや、それだけじゃない

 歓迎の準備は出来ているって訳か」

「ああ

 全てはエミリアの予言の通りだ

 今もこちらに向けて…」


「早く何とかならないのか?

 さすがにマズいぞ!」

「ああ

 イチロがこれから出現する

 もう少し粘ってくれ」


女神との会話の途中に、アーネストの泣き言が加わって来た。

先程から魔物が、竜神機を無視して神殿に向かっているのだ。

最初こそはアーネストの計略が的中して、魔物はバロールの光線に焼かれていた。

しかし魔物は、竜神機を無視して直接神殿を攻撃する事を選んだのだ。


バロールに対しては、ツヴァイとドライが交互に攻撃する事でダメージを与えていた。

しかし魔眼の数が減っても、まだ他の魔眼が健在なのだ。

それに焼き払われた痕も、時間と共に回復していた。

それで竜神機も、魔物を攻撃するには無理があったのだ。


アーネストの作戦は、そんな魔物をバロールの光線との間に置く作戦だった。

しかし竜神機を襲って来ている間は、その計略も上手く行っていた。

しかし竜神機を無視して、魔物は神殿に向かって移動を開始した。

そうなると、バロールの光線を回避しながら、魔物を倒す事は無理だったのだ。


「再会を喜び合いたいが…

 今は時間が無い」

「ああ

 こうなる事は、エミリアに見せてもらっていた

 しかし一つだけ確認させてくれ

 お前は誰だ?」

「私か?

 私はイスリールを継いだ端末だ」

「それじゃあイスリール様は?」

「ああ

 最初の1年間は、後始末で何とかもっていらしたが…」

「それじゃあお前が?」

「いや

 自ら限界を認めて、後任に託して眠られた」

「そう…か…

 それじゃあお前が?」

「いや

 茨の女神が後任者だ

 私はその後だ」

「ん?

 じゃあお前は三番目なのか?」

「いや

 私は四番目だが、三番目が…」

「そうか…」


イチロは何かを察したのか、キュッと唇を噛みしめていた。


「おい!

 早くしてくれ!」

「分かってる!

 そう喚くな」

「そうじゃな

 今は時間が無いんじゃ」

「それにしても…

 あれが今のガーディアンか?」

「違うぞ

 あの子はガーディアン候補でしかない」

「え?

 それじゃあガーディアンは?」

「全部やられた後だ」

「はあ…

 確かにマズいな」


イチロは頭を抱えると、右手を宙に突き出した。


光の聖剣(クラウ・ソラス)


しかし何も起きずに、イチロは数回それを繰り返す。


「クラウ・ソラス!

 ええい

 それなら光の欠片(ティリヌス・エスト)


しかしこちらも、何も起こらなかった。


「すいません

 光の欠片(ティリヌス・エスト)は奪われまして…

 それで光の聖剣(クラウ・ソラス)もありません」

「何!

 それじゃあどうやって戦えば…」

「これを持って行きなさい

 銀の茨(シルバー・ソーン)です」

「これは…」

「茨の女神が鍛えた物です」

「しかし耐久性に難があるな」

「それは仕方が無いでしょう」

「そうだな

 借りて行くぞ」


イチロは数回、軽く細剣を振り回した。

それで強度と安定感を確認して、腰の剣帯にそれを差し込む。

そして彼は、そのまま神殿の入り口に向かった。


「敵はキマイラとヘカトンケイルだ」

「デカ物と三本首ね」

「アイシャとミリアで押さえろ」

「はい」

「任せて」

「ファリスは神聖魔法で、各自をサポート」

「はい

 女神の祝福を…」

「チセはアイシャのサポートを

 アン、エレンはオレと後方待機だ」

「はい」

「分かりました」


イチロは次々と指示を出し、先ずは神殿の外に出る。

そこには既に、血に飢えたキマイラが迫っている。

しかしアイシャは、落ち着いて背中から弓を引き抜く。

そうして数本の矢を、まとめてその手に握った。


「感覚は大丈夫?」

「眠ってたって言っても、私達にとっては一瞬よ

 影響は無いわ」

「そうね

 多少違和感はあるけど、精霊達も問題無く呼べるわ」

「それじゃあ行くわよ!」

「ええ!」

シュババババ!


アイシャが複数の矢を、強弓で一斉に放つ。

ミリアがそれに、精霊魔法を付与する。

それで矢は風の魔力を受けて、鋭く回転しながら魔物に突き刺さる。

精霊の力が加わり、矢は魔物の身体を容易く貫いた。


バシュッ!

ギャオン

グギャン


次に後方から、太い腕を振り上げながらヘカトンケイルが向かって来る。

しかしこれにも、アイシャ達は矢の雨で攻撃を加える。


アイシャの強弓は、唸りを上げて数本の矢を同時に撃つ。

ミリアがそれに、精霊魔法を付与して威力を上げる。

そしてチセが、アイシャの隣でマジックバッグから矢を取り出して手渡す。

そうする事で、アイシャは遠慮なく矢を射続けた。


精霊魔法で強化された矢は、ヘカトンケイルの頑丈な表皮をも貫く。

そうして次々と、魔物に向けて矢が放たれる。

しまし魔物が倒れても、さらに後続の魔物が続いて現れる。

森の中から、新たな魔物が湧き出ているのだ。


「おかしいわ

 魔物の数が減らない」

「追加の魔物を召喚している様です」

「あの女神め…

 そこまでして…」

「ですがこちらが押しています」

「このまま攻撃を続行すれば…」

「しかし切りが無いぞ?」


アーネストの言う通り、魔物に切りは無かった。

しかし魔物を放置出来るので、竜神機はバロールに集中出来る。

そこで端末達は、勝負を仕掛ける事にした。


「くそっ!

 少しずつ削っているが、回復もされる」

「こうなれば、アインスを呼んで…」

「どうするんだ?」

「ツヴァイで突っ込みます」

「な!

 そんな事をすれば!」

「一瞬で良いんです

 隙さえ出来れば…」


ツヴァイが被弾覚悟で、一気にバロールに向けて飛翔する。

バロールは不意を突かれて、ツヴァイの接近を許した。

しかしそこから、一気に光線が集中して放たれる。


ヴヴヴヴ!

ドシュドシュドシュッ!

ズガガン!

「ああ!

 ツヴァイが!」

「大丈夫です

 たかがメインカメラをやられたぐらいで…」

「竜神機は落ちません」


ツヴァイは光線を受けながらも、バロールに向かって進む。

光線の爆発で、左腕が吹き飛び、右の翼も破壊されていた。

しかしふらふらと、ツヴァイはバロールに向けて接近する。

そうして一斉斉射を受けて、遂にツヴァイの装甲が弾け飛んだ。


「ああ!

 壊れる!」

「今です!」

「食らいやがれ!です」

ボヒュッ!

ズドシュ!


次の瞬間、ゆっくりと落ちるツヴァイの後ろから、ドライが光線と光球を放った。

ツヴァイの陰に隠れて、ドライがエネルギーを充填しながら迫っていたのだ。

そうしてバスターランチャーと、ハイビームキャノンが火を噴いた。

それはバロールを正面から打ち抜き、魔物の表面に大きな穴を開けた。


「今です」

「行け!

 ドライ!」


ドライはそのまま、魔物の体表に開いた穴に向かって突っ込む。

しかしバロールも、そのまま黙ってやられるつもりは無かった。

必死に残りの目で、ドライに光線を浴びせる。

ドライは被弾しながらも、何とか魔物の体内に入り込んだ。


「ああ!」

「今です

 エネルギー臨界!」

「コアブロックをパージ」

「爆縮爆破します」


その瞬間、ドライの胸の装甲が弾ける。

竜神機の胸の中から、装甲を割って何かが飛び出した。

それは激しく明滅しながら、回転をしていた。

不意に何かが割れる音がして、そこから光が溢れる。


ピシッ!

シュゴオオオオ!

ズドン!


鈍い轟音が、神殿の方まで聞こえる。

そして激しい閃光を残して、竜神機ドライはそのまま自爆した。

自爆の激しい炎と熱が、バロールを内側から焼き尽くす。

そして爆発の衝撃で、バロールの(コア)である魔石が砕ける。


パキン!


さすがに魔石を砕かれれば、魔物は生きて行く事が出来ない。

脅威の再生能力も、その瞬間に失われていた。

そしてドライの自爆の熱が、残されたバロールの肉体を焼き尽くす。

遂に竜神機は、恐ろしい魔物を打ち倒したのだ。

2機の犠牲はあったが、これで魔物を倒す事が出来た。


「や…たのか?」

「アーネスト

 それはフラグです」

「しかし私達は、抜かりがありません」

「アインスのジェネレーターを使って、結界を張ります」

「な!

 そんな事をしたら、竜神機が…」

「仕方がありません」

「元々この戦いが終われば、竜神機は破棄する予定でした」

「それが少し早まっただけです」


ヴオオオオン!

バシュッ!


神殿の近くに飛来したアインスは、そのまま胸の装甲を弾き飛ばす。

ドライの時の様に、その胸の中から何かが回転しながら出て来る。

ドライと違うのは、それが激しく明滅していない事だろう。

それは淡い光を放出しながら、ゆっくりと崩れて行った。

それと同時に、アインスは空中から落下する。


まるで人形の糸が切れた様に、アインスは力を失って落下する。

ぐしゃりと音を立て、アインスは地面に叩き付けられる。

そして身体は、バラバラに壊れて弾け飛んだ。

魔法金属が頑丈なのは、その金属に魔力が流されているからだ。

魔力を失った竜神機は、ただの鉄くずでしか無かった。


「ああ…」

「良いんです

 あの子は無事に、役目を終えました」

「悲しまないでください」

「しかし…」

「それよりも

 結界が張られた事で、魔物が増えなくなりました」

「後はイチロ達が、魔物を殲滅するだけです」


界の女神は、バロールと複数の魔物を使って神殿を落すつもりだった。

その作戦自体は、穴も無く完璧だった。

さしもの女神イスリールも、この作戦の前には無力だっただろう。

しかし勇者が、その目論見を打破してくれた。


イチロ達が魔物を相手取ってくれた事で、竜神機をバロールに集中させれたのだ。

それが無ければ、魔物を倒す事は出来なかっただろう。

バロールだけでも、今の女神にとっては脅威だったのだ。


「何とかなりましたね」

「しかし竜神機が…」

「アーネスト

 しつこいですわ」

「しつこい男は嫌われますよ」

「しかしだな

 この先どうするんだ?

 あれほどの魔物が、再び現れたら…」

「そうですわね

 しかし今は、勝利を喜ぶべき時ではありませんか?」

「そうですよ

 なんせあのバロールを倒したんですから」

「これは快挙ですよ」

「しかも被害はほとんど出てません」


しかしこれは嘘である。

クリサリスや女神の神殿は、被害を出していなかった。

だが、女神の神殿の周りでは、あちこちが焼かれて穴だらけになっている。

それはバロールの、魔眼から放たれた光線のせいだった。


人的被害こそ出ていないが、付近の森では火事も起きている。

ハイランド・オーク達が、その火を消す為に向かっていた。

周りの木を切り倒して、延焼を防ごうとしているのだ。

こうしてハイランド・オークの活躍もあって、数時間後には火は消し止められていた。


「何とかなったわね」

「そうか?

 被害は大きいと思うが?」

「そうでも無いわよ

 最初は一つ二つぐらい、国が滅びると思っていたんだから」


女神はそう言って、安堵した様子を見せていた。

それだけバロールという魔物は、危険な存在だったのだ。

それが倒された事で、女神の端末達も安堵していた。

まだまだ続きます。

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