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聖王伝  作者: 竜人
第二十二章 魔物との決戦
721/800

第721話

女神イスリールは、アーネストを迎えに来ていた

勇者を復活させるには、彼と娘のジャーネの力が必要なのだ

その為に女神は、クリサリスの王城に来たのだ

ここから神殿まで、二人を連れて行く為に

女神の言葉に、アーネストは驚いていた

自分の力が必要だと言われれば、まだそれは納得出来る

彼はガーディアンの能力に、不完全ながら覚醒しているからだ

しかしジャーネは、まだ小さな少女でしか無い


「何でジャーネが?」

「そうね

 彼女は精霊と話せるの

 私も話せるけど、不完全なの」

「イスリール様は、全ての権限を得ていない

 だから精霊との会話も不完全なのだ」

「しかし何でジャーネなんだ?」

「精霊女王が居ない今、彼女がその代わりなの」

「ジャーネが?

 精霊女王?」

「正確には違うわ

 だけど今は、イーセリアも居ないのよ」

「あ…」


精霊とのコンタクト能力を持つ、精霊女王はイーセリアだった。

しかしセリアは、ギルバートと共に行方不明になっている。

今のアース・シーでは、ジャーネだけが精霊とコンタクトが取れるのだ。

その能力は、イスリールよりも上なのだ。


「しかしジャーネを連れて行くのは…」

「どうしても必要なの」

「安心しろ

 その為にハイランド・オークも神殿に向かわせている

 それに強力な味方も居る」

「味方?」

「行けば分かる」

「しかし…」


バルトフェルドはすぐさま、ジャーネを連れて行く様に判断した。

そうして許可を得る為に、先ずは母親であるフィオーナを呼ぶ事にした。


「フィオーナをここへ」

「しかし…

 娘を危険な場所に…」

「ここよりは安全じゃろう?

 少なくともハイランド・オークという、強力な味方も居る」

「それに国中に魔物が現れる恐れがある

 今は訓練した兵士が多数居るが…

 どれほど強力な魔物が居るか分からない」

「それなら神殿だって…」

「神殿はイスリール様の管轄に入っている

 当面は安心だ」

「そうなのか?」

「ええ

 長くはもちませんが、少なくともここよりは…」

「ぬうっ…」


アーネストは決断を迫られて、先ずはフィオーナと話す事にした。

娘だけでは心配なので、場合によってはフィオーナも連れて行く。

そのつもりで、彼は妻と話す事にした。


「アーネスト

 一体どういう事なの?」

「すまない

 緊急事態なんだ」

「兄様が…

 ギルバート達お兄様が見付かったの?」

「違う

 別の危険が迫っている」

「危険?

 もしかして魔物?」

「ああ

 魔物が攻めて来る可能性がある」

「それでバルトフェルド様と…エルリック?」

「ええ

 お久しぶりです」


フィオーナはエルリックを見て、慌てて縋り付く様に懇願する。


「兄は?

 ギルバートは見付からないの?」

「う…

 今はまだ…」

「だったら、この騒ぎは何?

 何で魔物が攻めて来るの?

 女神は何処かへ去ったって…」

「すみません

 私達女神の争いに巻き込んでしまって…」

「え?

 この方は誰?」

「女神イスリール様です」

「め、この者が兄を!」

「待て!

 その方は違う女神だ」

「そうです

 あの女神は界の女神と言いまして…」

「じゃあ!

 この人は何?

 同じ女神何でしょう?」


フィオーナは半狂乱になり、必死に押さえようとするアーネストの胸を叩く。

それから暫く、アーネストは妻が落ち着くまで待った。

それから少しづつ、妻に事情を説明する。


「実はな、女神様は複数人居るんだ」

「神様なのに?」

「ああ

 神様でもだ!

 人間だって、一人の判断じゃあ間違う事もあるだろう?」

「それは…そうだけど…」


「女神様はあの女神とは違う

 しかしオレ達に、危機を報せてくれた」

「魔物が来るって事?」

「ああ

 その危機を回避する為に、オレは神殿に向かわなければならない」

「危険なの?」

「ああ」

「なのにその事に、何でジャーネが!」

「それは私が説明します」


フィオーナとの会話に、割って入る様に女神が説明を始める。


「私にもある程度、精霊と話す力はあります

 しかし完全ではありません」

「精霊?

 精霊に話す必要があるのですか?」

「ええ

 しかし精霊女王は…」

「セリア…

 あの子は今、お兄様と…」

「ええ

 ですからジャーネの力が必要なんです」

「何で?

 何でジャーネが…」

「あなたも気が付いているでしょう?

 あなたは精霊の声が聞けても、話したり姿を見る事は出来ない」

「まさか?

 本当にあの子は…」

「ええ

 それだけの加護を受けています」

「そんな…」


フィオーナも、薄々は娘の言動には気が付いていた。

それに娘が産まれる前に、精霊からの祝福も受けていた。

しかし彼女は、認めたくは無かったのだ。

こんな幼い娘に、大きな力が備わっている事を危惧していたのだ。


「そんな!

 何でジャーネが!」

「安心してください

 娘さんは必ず守ります」

「信じられません!

 あなた達は兄を…

 妹連れ去った張本人達では無いですか!」

「だから違うって…」

「アーネスト

 それは否定出来ないでしょう

 私も女神なのです」

「ですが…」

「しかし私は、今や界の女神と敵対しています」

「だから何?

 娘が危険な事には変わりが無いでしょう?」

「ここで魔物に襲われるよりは、私の神殿の方が安全です」

「な…」

「それは本当だろう

 彼女は今、界の女神と敵対している

 だから彼女の手が届かない様に、神殿は防備されている」

「本当…なのね」


アーネストの様子を見て、フィオーナは溜息を吐く。

それから暫し考えて、答えを出した。


「分かりました

 娘に話してまいります」

「フィオーナ」

「お願いします」

「ただし私はここに残ります」

「え?」


フィオーナはジャーネを、連れて行く事を認めた。

しかし自身は、この危険な王都に残ると言うのだ。


「何でだ?」

「これから危険な戦いになるんでしょう?」

「それは…」

「そこに私の居場所は無いわ」

「だが!」

「それにね

 私はここの職務もあります

 簡単な雑務ですけどね」

「雑務だなんてとんでもない

 国庫の管理や収穫の統計など…」

「バルトフェルド様

 戦闘に比べれば簡単な仕事な筈よ」


バルトフェルドの言う通り、フィオーナは最近では国政にも関わっていた。

それはマリアンヌ王女が、国王代理として働いていたからだ。

彼女は行方不明の兄に代わって、国王代理を務めていた。

そんな彼女を支える様に、フィオーナも国政を手伝っていたのだ。


「ジャーネを連れて来ます」

「フィオーナ!」

「あなたはご自分の仕事を果たして

 ギルバート兄様の国を守るんでしょう?」

「あ、ああ…」


フィオーナはそう言って、ジャーネを連れに向かった。

ジャーネは今日も、城内でお勉強をしていた。

幸いな事に、今日は王城から逃げ出していなかった。

それですぐに、フィオーナはジャーネを連れて来た。


「ねえ

 本当にお城の外に出れるの?」

「ええ

 お父様の言う事を、ちゃんと聞くんですよ」

「うん

 そのぐらいだったら、我慢してあげる」

「我慢って…

 はあ…」

「だってパパ、すぐに頬ずりとかしたがるんだもん」

「そうね…」

「いや、お前達

 女神様も聞いておられるんだから」


フィオーナとジャーネは、アーネストの悪口を言いながら入って来た。

それでアーネストは、顔を真っ赤にしてプルプルしていた。


「なあに?

 パパ」

「あなたも悪いんですよ

 ジャーネに構い過ぎるから」

「だからって、こんな…」

「ふふ…

 楽しい家族ですね」

「はあ…」


「それで?

 お城の外に出れるの?」

「ああ

 女神の神殿に向かう」

「どうやって行くの?」

「私の転移を使います

 一度に数名を転移出来ますから」

「ワシも一緒に行くぞ」

「バルトフェルド様?」

「バルトフェルド

 あんたはここに残らないと…」

「いや、今度こそは一緒に行くぞ

 ここで人類の敵とやらの、正体を見極めたい」

「良いのですか?」

「私は構いませんが?」

「それでは私が、その間は国の政治を見守りましょう」

「頼んだぞ」

「はい」


フィオーナが代わりに、国政を取り仕切る事になる。

主な国政は、マリアンヌ王女が取り仕切る。

バルトフェルドの代わりと言っても、宰相の代わりである。

バルトフェルドはフィオーナに、宰相の代行を任せた。


「それではこちらに…

 私の手を握ってください」

「はい」

「お願いします」

「私は?

 パパの手を握ってれば良いの?」

「ワシはエルリックの手を握れば良いのか?」

「ええ

 それでは行きますよ」

ブウウウン!


何か耳に大気を震わす様な音がして、世界が歪んだ様な感覚に襲われる。

周りで見守る者達には、アーネスト達の姿が薄まって行く様に見えた。

そうしてアーネスト達の姿が消えた後には、静寂だけが残されていた。


「大丈夫でしょうか?」

「さあ

 信じるしか無いでしょう?」

「そう…ですね」

「さあ、今日の案件を片付けるわよ」

「はい」


フィオーナはそう言うと、謁見の間に向かって移動を開始した。

謁見の間では、今もマリアンヌ王女が貴族との謁見を果たしている。

フィオーナは、バルトフェルドの代わりに決断を下さなければならない。

その事を心に刻んで、謁見の間の扉の前に立つのだった。


一方で、アーネスト達は時空を飛び越えていた。

そこは世界が色を失い、奇妙な光が流れ去って行っていた。

時間や平衡感覚は喪われて、何処へどう向かっているのか分からない。

しかし確実に、何かの力で引っ張られているのだけは分かった。


「こ、ここは…」

「手を放さないでね

 ここで取り残されると、一生出れないわよ」

「え?」

「ここは妖精の隧道に似た空間

 疑似亜空間という場所よ

 ここを通り抜ける事で、短い時間で移動出来るの」

「妖精の隧道と同じという事は…」

「ええ

 現在この外では、光の速さで時間が流れているわ」

「え?

 それじゃあ…」

「大丈夫

 その代わりに、こっちも時間の制約から離れているから

 もうすぐ着くわよ」

「え?

 はあああああ…」

ブウウウン!


再び耳鳴りの様に、奇妙な空間を震わせる様な音がする。

アーネスト達は気が付くと、見知らぬ場所に立っていた。

そこは神殿が崩れた跡で、あちこちに草木が生えている。


「ここは…

 神殿の跡?」

「そう

 あなた達が戦った後、すっかり崩れてしまったわ」

「それは…」

「良いの

 どうせ何も残されていなかったわ

 残っていたのは、茨の女神の後悔と思い出だけ

 それもここと共に崩れ去ったわ…」

「…」

「パパとおじさんが戦った場所?」

「ああ

 これまでこの世界を守っていた、女神様が眠られていた場所だよ」


知らなかったとはいえ、それまではアース・シーは茨の女神によって守られていた。

しかし界の女神の計略によって、アーネスト達は茨の女神と戦った。

そして機能を封じられていた茨の女神は、ギルバートによって破壊された。

止めは界の女神が刺したが、ギルバートの一撃で大破したのだ。

責任を感じるなと言うのが無理だろう。


「さあ、行くわよ」

「行くってどちらに?」

「ここに封印された勇者が居るんです」

「確かそういう話じゃったが…

 大丈夫なのか?」

「破壊とかそういうのなら、問題はありません

 勇者が封印されているのは、時間の檻の中です

 そこには時間が閉じ込められています」

「と、申しますと?」

「時間が停まったままって事ですよ

 それで年を取らずに、そのまま封印されているって事ですね?」

「ええ

 ですから周りで何が起こっても、封印には何の影響もありません」


女神が先頭に立って、崩れた神殿の中を進む。

神殿の一角に、その封印のレリーフは存在していた。

それは大きな壁を切り出した様に、垂直な壁に人の姿が刻み込められていた。

その姿は、まるで複数人が壁に取り込まれた様だった。


「これが…勇者?」

「ええ

 勇者とその一行です」

「え?

 その一行?」

「あれ?

 封印されていたのは、勇者イチロでは?」

「正確には、その妻である勇者の一向ね」

「妻?」


それは勇者だけでは無く、その妻達も封印されていた。

勇者の周りの6人が、彼の妻である仲間であった。

彼が封印される時に、共に封印されたらしい。


「何で妻が?」

「彼女等は優秀な戦士や魔術師だったの

 そして同時に、勇者の妻でもあったの」

「しかし何でまた…

 一緒に封印されたんです?」

「彼女等も共に、女神に逆らって戦ったの

 それで一緒に封印されたのよ」

「そう…なんですか」


アーネスト達は、そのレリーフの様な封印を眺める。

そこでバルトフェルドが、ボソリと呟いた。


「なあ

 この者はまるで…

 獣人に見えるのだが?」

「そう

 その子は獣人よ」

「そういえば、こっちは翼人?

 こっちは人間に見えますが…」

「彼女は魔族よ

 彼女達は6種族の代表として、勇者の妻になったの」

「え?

 それじゃあ彼等は…」

「そう

 自分達の同族と戦う決心をしたのよ」

「何で?

 なんでそんな事を?」

「重要なのは、人間の数を減らす事

 しかし彼等は、滅ぼす事を提唱したわ」

「何でそこまで?」

「重要なのは、彼等が封印される事だったの」

「それじゃあまるで…」

「そう

 人間の数がある程度減ったところで、彼等は封印される事を望んだわ」

「だから何で?」

「この事態を予見したから…

 正確には、未来を予見したの」

「未来を?」

「ええ

 人類が女神と、戦う事を知っていたの

 それで自ら封印される事を、望んで戦う事にしたの」

「それが先ほどの?」

「ええ

 あそこでは話せなかったわ

 だって未来を知っていたって事になるから」

「それならこの事態だって…」

「知らなかったのよ

 知っていたのは、勇者の妻である一人

 ここには居ない、もう一人の勇者の妻」

「え?」

「自らが亡くなる事を知り、後の事をイチロに託して亡くなった少女

 彼女の言葉を信じて、彼等は封印されたの

 そんな話をして、全員が納得出来ると思う?」

「それは…」

「確かに

 あの場で話しておれば、混乱を招いておりましたな」

「そうなのよね…

 私も半信半疑なんだから」


女神はそう言って、レリーフの表面を撫でていた。

その目は悲しそうに、レリーフの勇者を見詰めていた。

まだまだ続きます。

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