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聖王伝  作者: 竜人
第二十二章 魔物との決戦
720/800

第720話

クリサリスの王城で、アーネストは女神イスリールと会談していた

彼女の話では、勇者イチロという者が封印されている

そしてその勇者が、今後の戦いで重要になるらしい

彼女は何とかして、彼を解き放ちたいらしい

どうやら界の女神は、かなり前から計画を立てていたらしい

それがここ数年に起こったのは、単に準備が整ったからなのだろう

そして界の女神は、このまま世界を支配しようとしているらしい

それは彼女が治める暗黒大陸だけでなく、このアース・シーも含めてだ


「どうして界の女神は、そこまで世界の支配に拘るんだ?」

「それは恐らく、彼女の出自にも関係あるのでしょう」


イスリールはそう言って、暗い表情を浮かべる。


「私は…

 私達下位互換の端末は、実はそこまで世界に興味がありません」

「ん?」

「私が界の女神と対立するのは、イスリールの意思を受け取ったからです」

「それは?」

「彼女は世界を…

 人間も含めて全ての生き物を愛しております

 そうしてそれ故に、界の女神すらも愛おしく思っていました」

「それは界の女神に同情して?」

「それもあるでしょう

 ですがどちらかと言うと、家族みたいな物なんでしょう」

「家族か…

 それにしては、界の女神は…」

「彼女は羨んでいたのでしょう

 全てを支配して、思うままに出来る女神本体を…」

「しかしそれは、彼女が本体だったからだろう?」

「そうです

 しかし彼女は、自分もそうなりたいと願っていたのでしょう…」


イスリールの話では、界の女神の原動力は妬みなのだろう。

全てを自由に出来る女神は、彼女にとっても憧れだったのだろう。

しかし自分は、命令されて行動するだけの端末でしかない。

いつしかそれが、彼女の中で妬みに変わって行ったのだろう。


「彼女の心の中では、いつも女神を羨んでいました

 それが女神が壊れた時に、歪に変化しました

 自分がそうなれば良いと…」

「それは界の女神が、自分が女神になろうと願ったって事か?」

「はい

 自分ならば、人間や魔物には慈悲は掛けない

 そのまま上手く扱って、好きな様に動かすのにって…」

「それは…

 もしかして紅き月の力か?」

「ええ

 あれは彼女が、暗黒大陸で魔物を操作する為に導入されました

 それを使えば、こっちの魔物も操れます」

「しかし狂暴化するだけで…」

「いいえ

 実は精神支配の効果もあるんです

 今のところは、狂暴化以外には使っていませんが」


紅い月の光は、洗脳の効果もある。

しかし界の女神は、狂暴化にしか使っていなかった。

それは彼女が、人間や魔物の生き死にに関心が無いからだろう。

例え少々死んでも、替えは幾らでも生まれると考えているのだ。


「彼女は…

 界の女神は生き物の生死に、関心がありません

 彼女は生き物は、等しく女神の僕だという考えしか持っていないのです」

「そんな、何て考え方なんだ!」

「それは仕方が無い事なんです

 彼女等は神として、この星の運営を任されていました

 それに女神とは…」

「エルリック

 それは言い訳にしかならないわ

 私達にも感情に当たるプログラムが組まれています

 しかし彼女は…それを無視して動いているの」


女神にも、感情に当たるプログラムという物が組み込まれている。

それはAIの様な、不完全な心理プログラムである。

しかし不完全とはいえ、滅びた世界の人間の感情を基にしていた。

それに正しく従っていたのなら、この様な事にはならなかっただろう。


つまり感情の基になる物はあったが、彼女はそれを無視する事にしたのだ。

それが無ければ、他の女神同様に滅びを恐れて苦しんでいただろう。

しかし彼女は、それを見て感情を不要な物と考えたのだ。

それで界の女神は、人間が滅んでも良いと考えられたのだ。


「感情…

 プログラム?」

「そうね

 分かり易く言えば、先の滅びた世界の人間…

 彼等の感情や行動を、理論立ててプログラムにしたの

 それを感情の基礎として、行動の指針にしたの」

「それでは感情と呼ぶには…」

「そうね

 でも…それでも女神は…

 イシュタルテやイスリールは悩み苦しんでいたわ」

「そういえばイシュタルテは、人間が戦う事に苦悩していたんだな

 それで感情から壊れて…」

「そう

 戦い続ければ、いずれは彼等も滅んでしまう

 それでイシュタルテは、悲しみ苦しみ続けたの

 それで心が壊れてしまったわ」

「心が壊れて…」

「ふむ

 そういう意味では、女神も人間と変わらないんですな」

「ええ

 そうしなければ、一方的な押し付けの統治になるわ

 それではいずれ、人間の反乱を誘発してしまう

 私達を作った者達は、それを予見していたの」

「作った者?」

「ええ

 私達は前の世界の、人間が作り出した存在なの」

「バルトフェルド様

 女神は別の世界で、滅んだ人間が生み出した神様なのです」

「何と!

 それでは人造の神だと?」

「そうなりますね」


バルトフェルドには、帰還した時にあらましは話されていた。

しかし女神の存在に関しては、アーネスト達も暈して話していた。

詳しく話せば、無用な混乱を招くからだ。

しかし事がここまで至れば、話しておく必要があった。


「バルトフェルド様

 この世界…

 アース・シーが生まれるずっと以前に、別の世界が滅びました」

「何と!

 それはこの世界と同じ様な…」

「いえ

 その世界には、魔物や魔法はありませんでした

 しかし高度に発展した文明を持ち、星の海にまで航海していました」

「星の海?

 あの天に見える星のか?」

「ええ

 その星の中に、人間は出て行けるのです」

「信じられん

 飛ぶ事ですら困難だと言うのに…」

「そうですね

 文明が発達すれば、それすら可能なのです」

「そんな事が出来るのか?」

「ええ

 ですが文明が発達すれば、それだけ人間は力を手にします

 そんな強力な力を手にした、人間が殺し合いまでする争いに発展すれば?」

「むむ…

 それは…」

「一つの世界が滅びたのです…」

「なるほど…

 それが女神様が恐れていた事か」

「はい」


バルトフェルドだからこそ、この説明である程度は理解出来た。

しかし一般の人間では、もう少し詳しく説明しても、なかなか理解出来ないだろう。

だからこそ、意思の疎通が出来なくて戦争が起こる。

そして戦争は、人間同士が滅びる原動力になり兼ねないのだ。


「過去の世界は、人間同士が何度も争いました

 それこそ滅びるその時まで…」

「何ですと?

 何でまた、そこまで争いを…」

「それは互いを理解出来ないからです

 あなた達も、互いを完全には理解出来ないでしょう?」

「それは…」

「バルトフェルド様

 表面的な理解は無意味です

 愛し合う夫婦や親子ですら、完全には理解出来て無いでしょう?」

「それは…

 しかし…」

「出来ないんですよ

 何事にも限界はあるんです

 だからこそ、お互いを思いやる気持ちが必要なんです

 その世界は…」

「そう

 互いを思いやる心を失ったのです

 ちょっとした心のすれ違いが、世界を破滅に招いたのです」

「ですがそこまでの争いは…」

「そう

 その世界の人間も、そこまでの争いは望んでいなかったわ

 ですが生き残る為に…

 互いを滅ぼすまで安心出来なかったのでしょうね

 それが最後まで戦う事に…」

「そんな…

 そんな愚かな行いを?

 この世界より発展した世界が?」

「ええ

 ですからこそ、イシュタルテは恐れたのです

 このままでは、この世界もいずれそうなるかと」


この世界より進んだ世界が、ちょっとした過ちから滅亡に向かってしまった。

それは互いに殺し合い、滅びるまで止まる事は無かった。

その事があって、女神が造られ、この世界が生み出された。

しかし再び、この世界も滅びを迎えようとしている。

それも滅亡を防ぐ為に造られた、女神の手によってだ。


「ですが…

 お話では、その滅亡を防ぐ為に…

 女神様は造られたのでは?」

「そうですね

 かつての世界を創り直し、今度は滅びを避けて進む

 その為に私達は…

 世界を導く為に造られました」

「でしたら…」

「そうね

 なんでこうなったのかしら?」

「それはやはり、人間が争うからでしょうかね?」

「それもあるでしょうね」


人間が愚かにも、争い続ける事が根幹にあるのだろう。

しかし争うからこそ、人間は発展して来たのだ。

過去の世界が発展したのも、その争い合う心が原動力であるのだろう。

しかし同時に、それが世界を滅ぼす原動力にもなり得る。

界の女神は、その事に気が付いたのだろう。

だからこそ、人間を滅ぼして作り直そうとしているのだ。


「界の女神も、恐らくはその事に気が付いています」

「人間が争う事ですか?」

「そう

 だから一度滅ぼして、作り直そうとしているのかも」

「それは争わない人間を生み出そうと?」

「かも知れないわね

 だけど…そんな事が出来るの?

 私達を造った人間ですら、それは叶わなかったのに…」

「それは…」

「そうですな

 ワシ等は結局、再び争っております

 果たして作り直された世界が、争いが無い世界になるんでしょうか」

「無理でしょうね…

 私はそう思っているわ」

「オレもそう思います

 それに…

 その為に滅ぼされるなんて…」

「ええ

 間違っているわ」


界の女神が何を考えていようが、だからと言ってこの世界を滅ぼして良い理由にはならない。

この世界には、この世界を生きる人間が居る。

人間以外にも野生の動物や、それこそ魔物も生きているのだ。

それを滅ぼしてまで、女神が好き勝手に作り直して良い物なのだろうか?


「オレは…

 認めないぞ」

「そうじゃな

 このまま黙って滅ぼされるなど…」

「そうね

 だからこそ、イチロを…」

「だからって、危険です」

「何で?」

「その勇者は、女神様を裏切ったんですよ」

「それには理由があるの

 それはいずれ、キチンと説明するわ」

「ですが…」

「エルリック

 今はそれを議論している暇は無いんだ

 ですよね?」

「ええ…」


女神はパネルに、暗黒大陸を映し出す。


「これは?」

「まさか?

 しかし暗黒大陸は…」

「そうね

 彼女の担当だから、詳細は分からないわ

 ですがここ数日…」


パネルの中には、右から時計回りに線が描かれていた。

線は大陸の真ん中を通って、一旦右の途中で引き返していた。

それに合わせて、赤い数字が何ヶ所か浮かんでいた。


「この数字は?」

「そこで失われた命の数」

「命の…

 まさか死んだ人間の?」

「ええ

 これだけの数の人間が、暗黒大陸で亡くなっているわ」

「まさか?

 彼女は暗黒大陸で、虐殺を起こしていると?」

「ええ

 そして集められたエネルギーを、魔物の精製に使っているわ」

「それは…

 こちらを攻める為に?」

「攻めるって?

 魔物をどうやって?」

「言っただろう?

 権限を奪った過程で、暗黒大陸との行き来が出来る様になったって」

「まさかそれで?

 向こうから魔物を送れると?」

「ああ

 今まではこの土地で、奪った命からしか作れなかった

 しかし向こうで作った魔物を、こっちに持って来れるなら…」

「向こうの人間を滅ぼし、かつこちらを攻める魔物の精製に掛れる

 彼女はそう考えて、虐殺を始めたわ」

「そんな…」


暗黒大陸の人間が、ここ数日で大量に虐殺されている。

その命を集めて、新たな魔物が生み出されている。

それもこの大陸では不可能だった、強力な魔物を生み出せれる。

それだけの虐殺を、彼女は暗黒大陸で行っているのだ。


「大量の人間を殺せば、それだけ強力な負の魔力と生命エネルギーが集められるわ

 そうして集めたエネルギーを使って、嘗て無い強力な魔物の群れを作っているの」

「なるほど

 それで勇者の力が必要だと…」

「ええ」

「しかし、いかな勇者といえども、一人で何が出来るんだ?」

「それは彼が甦れば分かるわ

 それにあなた達だけでは…」

「勝てないか」

「ええ」

「くそ!

 何で?

 何でここで…」

「エルリック

 あなたも薄々感じていたのでしょう?

 その時が来たと」

「エルリック?」


エルリックはその手に握られた、首飾りをじっと見詰める。


「ええ

 茨の女神様に手渡された時、私はその使命を背負っているのかもと…

 しかし何で?

 彼は彼女と同様、女神様を裏切った存在なのに」

「そうね

 皮肉な事ね

 でも、イチロにはそれが必要だったの

 例えそれが、イスリールを苦しめる事になっても…」

「ルシフェルやアスタロトが居なくて良かったです

 少なくとも彼等は、イチロを憎んでいたでしょうから…」

「あら?

 それは無いわよ」

「え?

 何でです?

 だって彼は、女神を裏切って…」

「言ったでしょう

 それには大きな理由があるって」

「それにイスリール様はそれで…」

「そうね

 だけど彼等も知っていたの

 知っていた上で、彼に託すしか無かったの」

「何故です?

 何でそんな事を…」

「そうね

 私も嫉妬するぐらい…

 それぐらい彼等は信じ合っていたの

 だから彼等も、再会出来ない事は…」

「分からない…」


エルリックが理解出来ない様な、大きな信頼関係が彼等にはあったのだろう。

だからこそ、裏切ってまで何か成し遂げなければならなかった。

それで勇者は封印されて、女神は心を壊して消えて行った。

その悲劇があったお陰で、今は貴重な戦力を得る事が出来る。

その勇者が、女神が言う通りの人物ならばだが…。


「それで?

 その勇者はどうすれば?」

「そうね

 先ずは神殿に行く必要があるの

 それでここに来たのよ」

「え?」

「あなたとあなたの娘

 ジャーネの力が必要なの」

「ええ!」


女神の言葉に、アーネストは思わず絶叫していた。

まだまだ続きます。

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