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聖王伝  作者: 竜人
第二十二章 魔物との決戦
719/800

第719話

女神が訪れた事で、女神の謎が語られる事になる

彼女は女神の端末の一つで、先の女神もその一つであった

しかしこの地の女神を殺させる事で、この地をも支配しようとしていた

そして今も、魔物を使って再び攻め込もうとしているのだ

女神イスリールの口から、勇者イチロの封印の場所が語られる

今の危機的状況を回避する為にも、彼を目覚めさせるしか無いのだ

しかしエルリックは、そんな勇者の封印を解除する事に反対していた

彼が封印された原因は、女神に逆らって戦った事だからだ


「勇者イチロは、女神の神殿に封印されているわ」

「しかしイスリール様

 イチロは女神様に逆らったのでは?

 危険では無いですか?」

「そうね

 確かに彼は、私達女神に逆らったわ

 それで封印された…」

「ならば危険では…」

「どうして?

 彼は私達の為に、わざわざ世界を越えて来てくれたのよ?」

「しかし…

 女神様に逆らって…」

「そうね

 確かに彼は、私達に逆らったわ

 しかしそれは…仕方なかったの」

「仕方が無かった?」

「ええ

 そうよ」


女神はそう言って、アーネストの質問に答える。


「そもそも、彼は何をしたと思う?」

「それは…」

「彼は女神様の使命を放棄して、人間を滅ぼそうと魔物を率いて…」

「そうなのか?」

「そうね

 表向きではそうなっているわ」

「表向き…は?」

「違うのですか?」

「そうね

 その辺を簡単に説明するわ」


女神はそう言うと、パネルに神殿の周りの景色を映し出す。

そこには魔物や獣人、、魔族の集落も映し出されていた。

そしてその外側には、人間の住む国が記されていた。

そこには魔導王国の前身である、古代王国も記されていた。


「先ずは当時の状況の説明ね

 先ずは世界は、人間が主に生活していたわ」

「え?

 魔族や亜人は…」

「古代王国が力を着けて、獣人や亜人は隷属されていたわ」

「それって…」

「そうね

 魔導王国や帝国の時代にも似ているわ

 しかし明確に違う点があるの

 古代王国は魔法よりも、科学という力を手にしていたの」

「科学?」

「ええ

 魔力を利用して、便利な道具を作っていたわ

 しかしそれは、行き過ぎた力だったの」


古代王国は、魔力を使った工業技術を確立していた。

食料も魔力を利用して、魔物を自動で育成していた。

そして生活の中にも、工業技術が浸透していた。

しかし行き過ぎた技術は、世界のバランスを崩してしまう。


「自動で製造する技術は、人間の暮らしを便利にさせたわ

 しかし便利になれば、その分余計な事に意識が向くの

 例えば…世界の覇権とか」

「ああ

 そこも同じなんですね」

「そうね

 魔導王国は、むしろ古代王国を真似たと考えても良いわ

 帝国はそこまででは無かったでしょうね」

「世界の覇権って…

 確かにその様な資料はありましたが…」

「界の女神はね、ほとんどの資料を隠したわ

 自分達の目的を隠す為にね」

「目的って…」

「それは後で話すわ」


女神はそう言うと、パネルの映像を切り替えた。

そこには魔獣が鎖に繋がれて、自動で餌が与えられていた。

それを魔石を組み込んだ機械が、自動で屠殺して行く。

そうして加工された食料や、皮などの素材が回収される。


「ううむ

 こうして見ると、随分と便利だな」

「そうね

 一部の技術は、その後も魔導王国にも引き継がれたわ」

「しかし何故…

 古代王国は覇権を目指したんでしょう?」

「所説はあるけど…

 一番大きいのは私達女神の存在ね」

「え?」

「誰が女神に選ばれた、優秀な人間か

 そんな主張を巡らせた戦いね」

「それはつまり…」

「選民思想だ

 私はそう聞いている」


幾つかあった王国は、我こそは女神に選ばれた人間だと主張した。

そうして人間同士で、覇権を巡った戦いが起こった。

その際に多くの亜人や獣人が、奴隷として戦いに駆り出された。

それによって幾つかの都市が滅ぼされ、多くの人間が命を落とした。


「こんな戦争が?

 しかしアモンの資料には…」

「さっきも言ったでしょう?

 界の女神が資料を隠したの

 中には再現されては、厄介な技術もあるからね」

「再現?

 しかし見ただけでは…」

「難しいでしょうね

 しかし人間は、それを成して来たのよ?

 それも人間が、他の種族に比べて能力が低いからでしょうね」

「能力が低い?

 そうなんでしょうか?」

「ほとんどの人間は、亜人や獣人に比べると弱いわ

 ただし魔石を身に付ければ、大きく力を手に出来る」

「魔石…

 ガーディアンやマーテリアルですか?」

「ええ

 そして人工的に、魔石を埋め込む技術も確立していたわ」

「人工的に?

 それは魔石を埋め込むって事ですか?」

「ええ

 しかし無理矢理埋め込むので、寿命を大幅に削るわよ

 それこそ短期間で死んでしまう様な…」

「う…」


切り替えられたパネルに、人工ガーディアンが映し出される。

その多くが、胸の魔石から送り込まれる魔力に苦しんでいた。

そして奴隷兵として、強制的に戦わされていた。

戦う事で、魔力が身体を蝕んで行く。

そうして魔力に耐えきれない者は、その場で血反吐を吐いて倒れて行った。


「こんな…」

「無理矢理埋め込むからね

 身体が耐え切らないのよ

 ガーディアンがどうして、魔石が体内にあっても平気か…分る?」

「いいえ」

「お前もそうだが…

 ガーディアンになれる者は、元々身体的な素養がある」

「それは少し違うわよ」

「え?」

「確かに素養はあるけど、それは遺伝子がそうだからよ」

「いでんし?」

「そう

 親から子へ、孫へ…

 代々受け継がれて、体内で変化するその人間の設計図の様な物

 それに魔石に耐えうる様な、因子が組み込まれているの」

「そうなると、私の娘にも?」

「ええ

 ジャーネだったわね

 あの子にも…いえ、あの子の方がガーディアンとしては素養が上ね」

「そう…なんですか」


アーネストは驚くと同時に、ショックを受けていた。

娘の方がガーディアンとしては、能力が上である。

それはジャーネが、この先ガーディアンとして戦う可能性が高いのだ。

アーネストとしては、娘にその様な苛酷な運命を送らせたくは無かった。


「安心しなさい

 ここで界の女神を倒せれば…

 あなたの娘が戦乱に巻き込まれる可能性は低くなるわ」

「そう…ですね」


女神は敢えて、巻き込まれないとは断言しなかった。

それは人間が、常に戦乱に明け暮れているからだ。

例え界の女神が倒されても、他の原因で戦いが始まる恐れがある。

だから敢えて、可能性が低くなると表現したのだ。


「それよりも、話を続けるわ」

「はい」

「人間はその力で、多くの国土を獲得したわ

 それで獣人や魔族は、神殿の周りに避難したわ」

「人間がこのアース・シーを支配しようと…」

「ええ

 それを阻止しようと、勇者が召喚されたの」

「確か別世界から召喚されたのですよね?」

「ええ

 他の世界の女神に頼んで、この世界に召喚したの」


人間が世界を支配しようと、アース・シーで戦を起こした。

それを阻止する為に、女神は別の世界からガーディアンを呼び寄せた。

それで勇者は、人間を退ける為に人間と戦った。

しかし先の話では、その後に勇者は女神に逆らったと言う。


「あれ?

 しかし先の話では、勇者は人間を滅ぼそうと…」

「ええ

 私達は、人間を退ける様に命じました

 そして人間が和解を求めた時に…」

「あ…

 そこで勇者はさらに…」

「ええ

 戦いを収める様に指示しましたのに…」

「なるほど

 それが逆らったと言う…」

「ええ

 しかしそれは、別の理由もありましたの

 イチロはその為に、私達に逆らったふりまでして…」

「え?

 別の理由?」

「え?

 何があったのです?」

「それは…

 話すと長くなります

 それよりも今は、勇者の復活が優先事項です」

「しかし、理由があったとは言え女神に逆らったんですよね?

 大丈夫なんですか?」

「それは大丈夫です

 彼はこの日の為に、自ら封印されたと言っても過言ではありません」

「え?」

「自らを封印?

 どういう事ですか?」


女神はパネルを操作して、映像を切り替える。


「彼は予想していたのです

 やがてこの事が起きると

 女神の中に裏切り者が居て、戦いが起きると」

「そんな…」

「どうして?

 どうして彼はその様な…」

「彼は予見していたの

 だからこそ、わざわざ封印されたと言っても良いわ」

「まさか?

 その為に裏切り行為まで?」

「私はそう考えているわ

 そして界の女神も…」


異界の勇者イチロは、界の女神の裏切りを予測していた。

それで女神を裏切ったふりまでして、自らを封印させたと言うのだ。

この戦いを予見して、戦いに備える為に…。


「それじゃあ勇者は?」

「ええ

 封印の解除を待っているわ

 界の女神との戦いを待ちながら」

「しかし何故?

 何でこうなると?」

「それは…

 私達の話はしたわよね?」

「え?」

「はい」


女神は再び、女神の名を示したパネルに切り替える。


「イチロが来た時に、既にイシュタルテは居なくなっていたわ」

「え?

 イシュタルテって、大元の女神では?」

「ええ

 翼人やその他の人間達の争いを見て、彼女は壊れてしまったの

 心を壊した彼女は、分体である私達に世界の運営を任せたわ」

「心を…

 それは人間の争いを悔やんでですか?」

「ええ

 いくら頑張っても、争いは起こってしまう

 折角元の世界と違う、新たな世界を創ったのに…」

「それは…」

「人間の争いか…」


それはハイエルフとて、例外では無かった。

全ての人間種が、女神のお気に入りとして認められたかった。

そうして女神の一番を賭けて、戦っていたのだ。

それはまるで、女神を生み出した世界の再現の様だった。


「争い続ける人間を見て、女神は苦悩していたのか」

「ええ

 このままでは、再び世界は破滅するわ

 彼女はそれに、耐えられなかったの」

「くっ…」

「酷いな…」


本体である女神は、その重責に耐えられなくなった。

それで分体に任せて、自らの機能を停止させた。

それは心が壊れた事で、人間を憎みたく無かったからだ。

彼女はあくまで、生み出した人間を愛していたのだ。


「このままでは、いずれ人間を憎んでしまう

 そうなる前に、本体は機能を停止したの」

「しかし、界の女神は…」

「ええ、そうね

 イチロはそれも予測していたの

 それで彼は…」

「しかし何で?

 封印されなくても、女神様に警告すれば…」

「そうね

 イスリールは理解出来たでしょうね

 ですがイチロは、それでは不十分だと考えたの

 そうして自分が生き残って、その戦いに加わる為に…」

「何でです?

 何でそこまで…」

「彼も人間です

 そのままでは寿命が尽きていたでしょう

 ですから封印されて…」

「生きてこの戦いに参加すると?

 そんな事に意味は…」

「あります!

 彼はマーテリアルを除けば、歴代最強の勇者なのです」


勇者イチロは、間違い無く最強の勇者だった。

彼は自身が、この戦局を左右すると考えていた。

それで封印されてまで、この戦いに参加しようとしていた。

この戦いを、何とか収める為に。


「当時の女神の代行は、先代のイスリールでした」

「え?」

「今のイスリール様は、その後に代替わりされたんだ

 先代の意思を継いで、新たな分体として…」


「勇者イチロの行動で、イスリールも心に傷を負いました

 彼女が機能を停止する為に、茨の女神に権限が譲渡されました」

「茨の女神って、あの…」

「茨の女神は、その後に人間に対して神殿内に立ち入らない様に言ったわ

 それで神殿には、魔族や獣人が残されたの」

「あれ?

 しかしオレ達が向かった時には…」

「それは界の女神の仕業よ

 彼女は女神のふりをして、彼等に命じたの

 神殿を立ち去り、新たな新天地を目指す様に…」

「何でだ?」

「それは彼等が、神殿の周りに居れば邪魔だったのよ

 カイザートの件で、茨の女神も故障していたわ

 しかし彼女は、完全に壊れていなかったの

 それで彼女は、メンテナンスで修復しようとしていたわ」

「何で邪魔なんだ?」

「獣人や魔族の者達は、神殿を守っていたの

 茨の女神の修復を妨げるには、彼等が邪魔だったのよ」

「守り手である獣人達を追い出して、女神の回復を邪魔したのか?」

「ええ

 それで彼女は、故障したままだったわ

 それに獣人や魔族が居ない事で、あなた達が何かしたと勘違いもしていたでしょうね」

「それでいきなり、襲い掛かって来たのか?」

「ええ

 それがあの戦いの原因

 私達が気が付いた時には、既に戦いは終わっていたの」


イスリールが破壊された事で、イスリールの権限が移動した。

しかしイスリールは、直前に権限をほとんど明け渡して。

それは新たな女神として、4番目の端末に引き渡したのだ。

彼女はギルバート達との戦いの中で、違和感を感じていたからだ。


「イスリールが私に…

 下位端末である私に権限を委譲したの

 そうしなければ、全ての権限を界の女神に奪われていたわ」

「権限…

 そういえばそんな世界の声が聞こえたな」

「ええ

 残された権限を、界の女神が奪ったの

 しかしそれは、この大陸と暗黒大陸を行き来する程度だったわ」

「なるほど…

 ほとんどが委譲されていたからか

 しかし行き来するとは?」

「そうね

 界の女神は、今までは暗黒大陸のみ権限を持っていたの

 しかし権限を手に入れたので、自由に行き来出来る様になったわ」

「それが何か…」

「大きな問題よ

 向こうで増やした魔物を、自由にこっちに送れるの」

「何!」

「それも向こうでは、魔物を強化しているわ

 だからこそ、勇者が必要なの」


女神はそう言って、アーネスト達を見詰めていた。

まだまだ続きます。

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