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聖王伝  作者: 竜人
第二十二章 魔物との決戦
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第717話

アーネストが王都に帰還して、一週間が経とうとしていた

アーネストは王都に帰還すると、先ずはバルトフェルドに報告をした

その上で、王都の書庫に籠って調べ物を始めた

それは男との会話で、判明していない部分があったからだ

王都の書庫も、一時は多くの書物が焼失していた

王都が陥落した折に、書庫にも被害はあったのだ

それでもその後に、アーネストは各貴族に要請書を出した

それで多くの写本が集まり、以前に近い蔵書が集まっていた


「く…

 この表現でも違うな」

「パパ

 ここはこうじゃないの?」

「そうだと思うんだがな

 確認出来る書物が無いんだ」


精霊の協力もあって、何とか男の言葉の解析は進んでいた。

娘であるジャーネが、精霊と会話出来るからだ。

しかし凡その翻訳は出来ても、それが正解か確認出来なかった。

王都にある書物では、古代帝国語の記録は少なかったのだ。


「ああ!

 こんな時に魔王かエルリックが居れば!」

「エルリックおじちゃんはどうしたの?」

「ギルを探している」

「ギルバートおじちゃん?」

「ああ

 しかし未だに…」


ジャーネもそろそろ、7歳の誕生日を迎えようとしていた。

それで最近では、精霊と会話して賢くなっていた。

しかし子供なので、その賢さにも限界はあった。

何とか大好きな、パパの役に立ちたいと思っていた。

しかしジャーネの知識では、翻訳の手助けも難しかった。


「うう…」

「ん?

 どうした?」

「むう…」

「はは

 飽きたか?」

「違うもん」

「はははは…」


アーネストは娘を抱っこしながら、纏めた資料に目を通していた。

しかしジャーネには、そのほとんどがチンプンカンプンだった。

多少分かる範囲では、神が魔物を引き連れていたと書かれている。

しかしその後が、ジャーネの語彙力では理解出来なかった。


「ねえ

 何で女神様は、魔物を引き連れたの?」

「女神じゃ無いぞ

 神が魔物を引き連れただ」

「え?

 だってあの本には…」

「あの本?」


アーネストはジャーネが、指差した本を引っ張り出す。


「ここのね…

 ここ!」

「ん?

 これは確かに、女神という単語だが…」

「違うの

 こっちとこっち!」


そこには帝国語で、女神の神話に対する信憑性が書かれていた。

クリサリスの北の貴族が、帝国軍の捕虜から聞き取りした調書の控えだった。

なんだってジャーネが、そんな本を読んでいるのか分からない。

しかしその本には、確かに二種類の単語が混在していた。


「こっちが元々の女神でしょう?」

「ん…

 ああ」

「で、こっちが今の女神」

「なるほど…

 女神の単語も変わったのか」

「だからあっちのも、こっちの女神で…」

「ああ!

 そういう事か!」


つまり何故か、彼は新しい帝国語で女神と発音していたのだ。

それをアーネストは、古代帝国語の神と判断していた。

それでアーネストは、神だと頭から考えていたのだ。

実際には彼は、ずっと女神と発言していた訳なのだ。


「でかしたぞ、ジャーネ」

「えへへ」

「そうなれば、向こうではやはり女神が…」


アーネストは急ぎメモを取ると、それを文官に手渡す。

宮廷魔術師を使って、ロペス男爵に使い魔を送る為だ。

こうしておけば、彼にも真意が伝わるだろう。

しかし問題は、この女神が同一人物かどうかだ。


「ううむ…

 これが同じ女神ならば…」

「違うの?」

「そこが分からないんだ」

「え?

 でも、精霊は同じだって…」

「そうなのか?」

「うん

 界の(ZONE)女神(GODDESU)って呼んでるわ

 違うの?」

「界の女神?

 それはどういう…」

「分かんない

 だけどそう呼んでいるわ」

「それはギルの…」

「うん

 ギルバートおじちゃんとイーセリアおばちゃん?

 二人と一緒に消えた女神だって」

「それじゃあ女神とは…」

「さあ?

 他にも茨の(THONS)女神とか呼んでいるわ

 意味は分かんないけど」

「界と茨…

 何か意味があるのか?」

「分かんない」


ジャーネのお陰で、少しだけ進んだ。

しかしまた、意味が分からない単語が増えてしまった。

ギルバートが恐らく、暗黒大陸に向かった事は間違い無いだろう。

しかしアーネストには、界と茨の意味は分からなかった。


「ううん…

 意味が分からん」

「そうね

 私も分かんない」


二人はそう言って、頭を抱えるしか無かった。

しかしそこへ、兵士が慌てて掛け込んで来た。

彼は報告があるらしく、アーネストの前に跪く。


「アーネスト様!

 エルリック様が戻られました!」

「何!

 本当か?」

「はい

 今はバルトフェルド様が…」

「ジャーネ

 急ぐぞ!」

「うん♪」

「あ!

 謁見の間です」

「分かった」


アーネストはジャーネを抱き抱えると、そのまま謁見の間に向かった。

そこには玉座の前で、話し込んでいる二人の姿があった。

宰相代理を果たすバルトフェルドと、くたびれた表情のエルリックだった。

その表情は疲労していたが、目は生き生きと輝いていた。


「エルリック!」

「おお、アーネスト

 遅れてすまない」

「何か情報が入ったのか?」

「すまない

 ギルバートの行方は、未だに掴めていない」

「そ、そうか…」


その言葉に、アーネストは落胆を隠せなかった。

しかしエルリックは、そのまま言葉を続ける。


「しかしな、有力な情報を持って来てくださった方がいらっしゃる」

「有力な情報?

 方がいらっしゃる?」


アーネストはそこで、少し離れた場所に控える人物に気が付いた。

その人物は、目深にローブを被っていた。

その姿を見ても、男性か女性かも分からなかった。

バルトフェルドは表情を曇らせながら、その人物を見詰めていた。


「女神イスリール様だ」

「な!

 女神だと!」

「止めんか!

 アーネスト」

「しかし女神だと…」

「そうじゃ

 しかし違うのじゃ」

「何が…」

「違うんですよ

 彼女はゾーンとは違うんです」

「ゾーン…

 界の女神…」

「その名前を何処で?」


女神と聞いて、アーネストは思わず身構える。

謁見の間に居た兵士も、緊張して腰の剣に手が伸びていた。

しかしエルリックと、バルトフェルドがそれを制する。

その上でアーネストの呟きに、エルリックは驚いた顔をしていた。


「先ずは驚かせた事、申し訳ございません」

「え?

 あ…」

「イスリール様

 頭をお上げください

 彼は知らなかったんです」

「しかし私が来た事で彼等は…」

「それはそうなんですが…」

「うむ

 ワシも正直、驚いたぞ

 女神様が他にいらっしゃったなど…」

「それはオレもだ

 一体どういう事なんだ?」

「それは私もなんだが…

 神殿に向かったら、イスリール様が目覚められたんだ

 私もそれまで、複数の女神様がいらっしゃるなんて…」

「先ずはそこから、説明いたしますね」


女神が説明する為に、先ずは一同は場所を移す事にする。

ここでは人目を引くし、兵士達も女神と聞いては身構えてしまう。

いくら違う女神といえども、兵士達にとっては王太子の行方不明の原因である。

また、多くの兵士が女神の手によって殺されている。

そういった事もあり、ここで話すのは危険だった。


「奥の執務室に参りましょう」

「そうですね

 人払いをしてくれ」

「え?

 しかし…」

「あの…

 女神なんですよね?

 仲間の仇なんですよ?」

「この方は違うんだ

 説明は後でする」

「しかし!

 エルリック殿!」

「今は堪えてくれ

 オレからも頼む」

「くっ…」


兵士達を残して、アーネスト達は執務室に向かった。

そこでメイド達にお茶を用意させて、それから人払いをする。

メイドの中にも、夫や彼を亡くした者も居るのだ。

そういった者達には、女神という名は刺激が強過ぎた。


「それで?

 女神が複数と言うのは?」

「その前に、アーネスト

 何処で界の女神という名前を?」

「ん?

 ああ、娘から聞いたんだ」

「娘?

 ジャーネからか?」

「ああ

 精霊から、女神の名を聞いたって」

「そうか…」


「それでその話の中で、今まで戦っていた女神が界の女神だと…」

「界の女神とは?」

「それは…」

「私が説明しましょう」


アーネストにしても、そこまで詳しい事は知らなかった。

代わりに女神が、イスリールがその事を説明し始めた。


「先ず、私の名はイスリールと申します

 本来の名はエリヌース

 運命の女神と申します」

「ん?」

「運命の女神?

 しかしお名前が違いますが…」

「それには理由がございます

 私達の名は、本来は役職から来ております

 私は運命の女神エリヌース

 人や生き物の運命を司ります」

「運命?」

「人の生き死に…ですか?」

「いえ、そこまで高尚ではありません」


女神は立ち上がると、宙にパネルを出して見せる。


「う!」

「何じゃ?

 これは?」

「女神様の能力の一つ、端末を操作する為のパネルです

 しかし神殿以外でも出せるとは…」

「この身体が端末の代わりです

 ですが出せるのは、精々が簡単な操作が出来るパネルまでです」

「それでも十分に驚きなのだが…」


女神はパネルに、樹形図の様な物を描き出した。


「元々女神とは、一つの世界を創り出す為の存在です」

「創造神ですな」

「そこは知っております」

「アーネスト…」

「そうですね

 あなた達はアモンから受け取りましたね」

「ええ」


「ここが本来の女神…

 この星の女神の名は、S・M:014

 便宜上イシュタルテの名を冠しています」

「イシュタルテ?」

「元々の星の神話で、大地と豊穣、泉を司る女神です」

「豊穣…

 まさに女神様らしい名ですな」

「ええ

 そうでした…」

「でした?」


女神はここでも、元の女神の事を過去形で説明していた。


「イシュタルテは世界を創り、生き物を生み出しました

 その一部は、アーネストも観ましたね?」

「ああ

 観たが…一部?」

「ええ

 世界が…

 この星が見付かった時、この星には既に生き物が居ました

 それが竜種と精霊です」

「竜は分かるが…

 精霊も?」

「ええ

 精霊は元々、この星に息づいていた生命体です

 それに明確な意思を与え、交流を持ちました」

「もしかして…

 竜も?」

「いいえ

 竜種は…こと古代竜は、元々明確な意識を持っていました

 それこそマーテリアルに匹敵するほど」

「マーテリアル…

 元の星に住んでいた人間か?」

「そうです

 古代竜は、この星の正当な住人でした」


女神がパネルに映し出したのは、人型の竜種と大型の古代竜だった。

古代竜が莫大な知識を持ち、星の運営を担っていた。

そして人型の竜が、人間の代わりに生きていたのだ。

その世界に、他の世界からの神である、女神が降り立った。


「女神と古代竜は話し合い、古代竜はこの地を発つ事になりました」

「何で?

 ここは元々…」

「古代竜は限界を感じていたのです

 更なる高次の世界に向けて、彼等は旅立ったのです」

「ん?

 意味がよく分からないんだが…」

「そうですね

 人型の竜種の統治や、己の成長に限界を感じていた

 そう思っていただければ…」

「そんな事で?」

「そんな事ですが、彼等にとっては重要だったのです

 それで彼等は、上の世界に向けて旅立ちました

 その際に身体を棄て、精神体となって旅立ったのです」

「それで竜の背骨山脈が…」

「ええ

 彼等の遺した身体を使い、イシュタルテは生命を生み出しました

 それが最初の人間と、魔物でした」

「ん?」


最初に生み出されたのは、野生の生き物だとされていた。

しかし女神の説明では、いきなり人間と魔物が生まれていた。

その違いを感じて、アーネストは質問する。


「いきなり人間と、魔物を作ったのか?」

「ええ

 正確には、魔物は生き物の雛形なのです

 魔物をベースにして、様々な生き物が生み出されました

 当時の環境では、魔物しか耐えられませんでしたから」

「なるほど…

 先ずは魔物を作って、そこから他の野生動物が生まれた

 そう考えて良いのかな?」

「ええ

 そんな感じです」


魔物は少々生き難い環境でも、魔石の力で生きる事が出来た。

そうして環境を整えつつ、魔物を元に他の生き物を生み出したのだ。

そして人間も、最初は魔族に近い人間が生み出されていた。

しかしその人間は、環境に耐えられなかった。


「最初の人間は、残念ながら耐えられませんでした

 そこで環境を整えて、何度か生み出されました

 それが今の人間や、魔族や獣人、その他の亜人です」

「それだけ時間と手間が掛かったって事か?」

「ええ

 ですからイシュタルテは、彼等に愛情を注いでいました

 等しく愛して、大事にしていたのです」

「そうか…

 それが互いに争ったから…」

「ええ

 イシュタルテは大層悲しみました」


ここからはアモンの遺した、記録の映像と同じだった。

女神は魔物を再び生み出して、翼人や魔族の専横を押し留めようとした。

結果として、翼人はアース・シーでは滅ぼされる事になった。

しかしここからが違っていた。


「あなた方が知っているのは、この大陸の話だけ」

「それは…」

「暗黒大陸の事か?」

「そうですね

 ノースランドやサウスランドの事を、そう呼んでいるのですね」

「ノースランドとサウスランド?」

「その大陸は、南北に連なった大陸になっている

 今回重要なのは、その北側のノースランドだ」

「なるほど…」


「ノースランドには、女神の端末の一つであるドミネーターが宛がわれました」

「ドミネーター?」

「支配者って意味だ

 だからあの大陸の女神は、支配の女神という」

「支配の女神?

 しかし確か…界の女神と…」

「そう

 今はそう名乗っている」

「今は?

 それじゃあ…」


アーネストんも言葉に、女神は黙って頷いた。


「支配の女神は、最初はノースランドで満足していたわ

 でもね、アース・シーで問題が起こったの」

「先の翼人の事か?」

「そうね

 それもあったわ」


女神はそう答えながら、苦悩に額に皺を寄せていた。

それは長く続く、戦乱の幕開けだったのだ。

まだまだ続きます。

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