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聖王伝  作者: 竜人
第二十二章 魔物との決戦
716/800

第716話

暗黒大陸で、魔物が人類の存続を脅かしていた頃…

アース・シーでは別の問題が起こっていた

アーネストはオウルアイの港で、遭難者から話を聞いていた

そして彼の証言から、予想外の話が聞けた

遭難した者は、暗黒大陸の東に住んでいる者だった

彼は港の近くで、小舟を操って魚を獲る仕事をしていた

彼はやんごとなき理由から、東の地に避難していた

そこで漁をして、何とか糊口を凌いでいたのだ


「なるほど

 漁をしている時に嵐に…」

「ああ

 普段なら、海にも魔物が住んでいる

 しかし嵐で海が荒れていた事で、彼の小舟は無事だったのだ」

「しかしそれでここまで、流されて来るとは…」

「それは運もあったのだろう

 普段は潮流も、こちらにばかり向いていない」

「そうでしょうな

 ここらに流されるのは、精々エジンバラの船ぐらいです」

「それにエジンバラにも、異国の船が流される事は…」

「恐らく嵐で流されて、エジンバラの潮流に乗ったのだろう

 それで流されたみたいだ」

「しかし…

 生きて渡って来るとは…」

「それも運なのだろうな

 いや、あるいは運命なのか?」

「運命…なのですかね?」

「そうなのかもな」


その人間の男は、元々は奴隷だった。

上半身に刻まれた文様は、彼が奴隷だった証だった。

生まれて間もなく、奴隷として刻まれた物だった。

この文様がある事で、隷属魔法の影響を受けるのだ。


「奴隷とは非道な…」

「ああ

 しかしあまり責められ無いぞ?

 帝国も行っていたし、エジンバラも行っている」

「しかしなあ

 アーネスト殿は勘違いされているが…」

「勘違いじゃ無いさ

 いくら制度が変わっても、奴隷は奴隷だ

 違いは無いだろう?」

「それは…」


奴隷制度は、エジンバラでも解消されつつあった。

魔物の襲撃が原因で、身分制度の見直しが始まっていたのだ。

それで些少ながら、身分の解放や権利の見直しが始まっていた。

しかし依然として、奴隷のままの者は多かった。


「フランシスでは解放が進んでいるのにな…」

「あれは国王が処刑されて、体制が変わったからだ」

「そうですよ

 共和制が正解とは…

 まだ証明されておりません」

「我が国も未だに、国王が国を治めております」

「その肝心の国王が、未だに行方不明ですが?」

「そう…だな」


未だにギルバートの行方は、発見されていなかった。

エルリックがあちこちに向かっては、痕跡を調べている。

しかしアース・シーの大陸内では、未だにその痕跡は見付かっていない。

それで暗黒大陸から来た彼に、期待が寄せられている。

もしかしたら、向こうに渡っている可能性もあるのだ。


「それで…

 他にはどんな話が?」

「うむ

 彼は元々は、大陸の北の魔族の国に居たらしい」

「魔族ですか?」

「ああ

 向こうは魔族が主に住んでいるらしい

 しかしあくまでも奴隷の話だからな…」

「そうですね」

「彼がどこまで知っているのか…」


彼が知っている情報は、あくまでも魔族の領地内での事だ。

実際に逃げ出してからの事は、あまり詳しく聞けなかった。


「彼は奴隷の移送の際に、魔物に襲われたらしい」

「魔物ですか…

 あちらも魔物が?」

「いや

 こっちよりも前に、向こうでは頻繁に現れていた様だ」

「それでは向こうでは?」

「ああ

 魔物の大半が、野生動物の様に住んでいたらしい

 それで移送の集団が、魔物に襲われたらしい」

「それで逃げ出したと?」

「ああ

 そうして東の町に、逃げ出して暮らしていたらしい」


彼の話から、その東の魔族の国は違う風習だったらしい。

奴隷制度は無かったが、彼は人間だった。

その為に警戒されて、仕事も碌に与えられなかった様だ。

それで彼は、漁村でなんとか暮らしていたのだ。


「同じ魔族ながら、その町の魔族は違ったらしい」

「違う?

 何が?」

「生態や考え方だろうな

 詳しくは分からないが、彼等も北の魔族から迫害されていたらしい

 それでそこから逃げて来た彼も…」

「なるほど

 警戒されていたのか」

「ああ

 それで漁村に流れて、そこで暮らしていたらしい」

「なるほどね

 それで刺青を隠していたのか」

「それに乗組員を仲間だと思っていたな

 あれも刺青が原因だろう?」

「そうだな

 刺青があるから、同じ様な奴隷だと思ったらしい」


遭難した男は、港の乗組員達と仲良くなっていた。

言葉は通じていなかったが、同じ様に刺青をしている。

それで奴隷仲間だと思って、彼等と打ち解けていたのだ。

そうした経緯もあって、アーネストは何とか彼と話しが出来た。


「最初はオレも、随分と警戒されたがな」

「それは魔法を使ったからだろう?」

「魔族と思われていたもんな」

「それだけ魔族は、人間に似ているのだろう?」

「だろうな」

「肌の色や角、翼があるとか言っていたよな」

「ああ

 その程度の違いらしい」

「その程度って…」

「中には肌が蒼白いだけで、角も無い魔族も居るらしい

 そう考えれば、大した違いも無いだろう?」

「それは…」


正確には、彼の逃げ出した国は角持ちの魔族の国だった。

しかし逃げ出した先は、角無しの魔族も国だった。

それも獣憑きの魔族の国で、見た目は肌の色ぐらいしか違いが無かったのだ。

その事が、彼に警戒心を与える原因となっていた。

見た目が似ていても、魔族なら支配者であるからだ。


「それで?

 結局殿下の事は…」

「無理だろうな

 彼は奴隷だったんだ」

「だろうな」

「それに…

 ギルがどの様な状況にあるのか…」

「そうだよな」

「女神を追って行ったんだって?」

「ああ

 その後にどうなったのか…」


ギルバートを最後に見たのは、崩れるファクトリーの中だった。

女神の私室に入るには、アーネストでは力が足りなかった。

そこでギルバートは、セリアと二人だけで女神の後を追った。

その為に、彼等がどうなったのかは誰も知らなかった。


「オレも後を追っていれば…」

「馬鹿な事を言うな!」

「そんな事になっていれば、殿下が居なくなった事も伝わらなかったぞ」

「そうだぞ

 お前まで行方不明になっていただろう」

「しかしギルとセリアが…」

「二人だけで追ったのだ間違いだったのだ」

「そうだぞ

 そもそもお前は、そのう…」

「…」


確かに入ろうとしていれば、アーネストは死んでいたかも知れない。

あの私室には、その様なトラップが仕組まれていたのだ。

その為にアーネストは、あの時追う事を躊躇った。

それが結果として、二人だけが追うという結果になったのだ。

そう考えれば、そもそもが追う事が間違いだったのだ。


「くっ…

 ギル…セリア…」

「お前のせいじゃない」

「そうだぞ

 追って行った殿下にも問題があったのだ」

「しかし!

 あそこで女神を追わなければ!」

「それは違うだろ?」

「追えない理由があったんだ

 追うべきでは無かった」

「そうだ

 罠があったのに、みすみす追うなんて…」


ロペス男爵も、甥であるギルバートの判断は間違いであると思っていた。

いくら女神を野放しに出来ないと言っても、追うべきでは無かったのだ。

一度体制を立て直して、改めて追うべきだったのだ。

そう思いながら、彼は悔しそうに拳を握り締めていた。

頭では分かっていても、感情までは抑えられないのだ。


「くそ!

 何でそんなところだけ、アルベルトに似たのか…」

「正確には、ハルバート様にですが」

「あれはワシの甥っ子だぞ」

「それは公式の記録だけです

 ロペス男爵も、あの記録は読まれたでしょう?」

「しかし!

 だからと言って…」

「まあ

 オレもギルはギルだと思っていますがね」


アーネストはそう言って、肩を竦めていた。

アーネストも感情では、幼馴染の親友だと思っている。

ギルバートがマーテリアルと言われても、納得は出来ていない。

だから彼一人に、女神の事を任せた事に責任を感じていた。


「その彼の話の中に、興味深い物がある」

「どんな話だ?」

「ギルの事は出ないが…

 女神の可能性がある」

「女神だと?」

「あの女神か?」

「ああ

 あくまでも可能性なのだが…」


そう言ってアーネストは、男から聞いた物語を話した。


「何でも魔物は、あの地の神が放っているらしい」

「魔物を?」

「神が魔物を生み出していると?」

「ああ

 話の感じから、そう判断した」


「何でも神が定期的に、魔物を放しているらしい」

「定期的に?」

「それはどういう意味だ?」

「何年かごとに、魔物を解き放つらしい

 だから暗黒大陸には、野生の魔物が生息しているんだ」

「なるほど

 解き放たれた魔物の残りが、残って生きている訳か」

「そうらしい

 そして魔物だけでなく、元は人間も神が作ったとされている」

「ますます似ているな」

「ああ

 女神とやっている事が、あまりにも似ている」

「それは女神なのか?」

「さあ…

 そこまでは…」

「さすがに奴隷では、そこまで詳しく無いか」

「ああ

 だから神という単語でも無い

 あくまでも言葉のニュアンスから、神だと判断している」

「そうか、言葉が違うから…」

「すまない

 ワシ等が言葉が分かれば…」

「構いませんよ

 古代帝国語が分かるのは、オレぐらいですから」


遭難した男の言葉は、アース・シーの古代帝国語に似ていた。

それで男の聞き取りを、アーネストが行っていた。

しかし正確には、微妙なニュアンスが違う箇所も多々あった。

それでアーネストでも、理解出来ない箇所もあったのだ。


「これが今回、聞き取りに使った言葉のメモです

 何かに役立ててください」

「うむ

 何か分かれば、また来てもらう事になるかも知れん」

「出来ればこっちで、何とか解消して欲しいのですが…」

「すまんな

 見て分かる範囲なら良いのだが…」


今は王都の管理も、バルトフェルドとアルマート公爵に任せてある。

しかし本来なら、アーネストも国政を担う役割にあった。

今や宮廷魔導士として、国政の一翼を担っているのだ。

今回の件も、ギルバートの事があったので来れたのだ。


「帰りはどうするのか?」

「ここまでの距離もあるじゃろう?」

「妖精の隧道を使います

 幸い話は付いています」

「そうか

 気を付けて戻ってくれ」

「はい」


妖精の隧道は、この世界とは違う世界を通って移動する。

そこは精霊の作った疑似空間で、この世界とは違った地形になっている。

その為に竜の背骨山脈を越えずに、王都にまで戻れる。

そう考えれば、普通に山脈を越えるよりは早く戻れる。


しかし便利な道にも、それなりの問題はある。

そこは通常の世界と、時間の流れが違っている。

実際にはそこでの時間の流れは、通常の世界の時間の流れよりも遅い。

だから長く留まれば、出た時には数年経っている可能性もあるのだ。


「急いで渡れば、半月で王都に戻れます」

「そんなに早いのか?」

「ええ

 しかしまごまごしていれば、あっという間に半年過ぎますよ?」

「ぬう?」

「それは恐ろしいな」

「そこで年を取ったら…」

「いえ、時間の流れが違いますので…

 極端な話し、年を取らずに周りが年を取る可能性も…」

「それは困るな」

「ワシが居ない間に、孫が成人する可能性も…」

「そうなりますね」


アーネストの話を聞いて、男爵や部下達は微妙な表情をする。

確かに便利だが、その分大きな危険があった。

道を通っている間に、知り合いが年老いて亡くなってしまっている可能性もあるのだ。


「その…

 妖精の隧道?」

「え?」

「そこを通って、暗黒大陸に渡る事は?」

「あ…

 それは考えていませんでした

 しかしそれは…」

「渡れる可能性は…

 あるんだな?」

「そうですが、どのぐらいの時間が掛かるか…

 それに無事に着けるかも…」

「そうじゃな

 しかし最悪の場合には…」

「そうですね

 向こうに渡る必要はあるでしょう」


船で暗黒大陸に渡るのは、今のところ不可能に近かった。

遭難した男も、途中で荒波に船を壊されていた。

その後は板切れに掴まって、数日を過ごしたらしい。

運良く生きて海岸に打ち寄せられたが、船で渡れる可能性は低かった。


他にも暗黒大陸の沿岸には、海上にも魔物が生息している。

エジンバラやフランシスの海岸でも、稀に魔物が現れるのだ。

波の荒さも危険だが、魔物に襲われる可能性まであるのだ。

そこまで危険を冒してまで、暗黒大陸に渡る必要があるのだろうか?


「ギルが…

 殿下が無事に、暗黒大陸に居るのなら」

「そうじゃな

 先ずはそれが確認出来なければ」

「うむ

 アーネスト殿を送る事は出来んな」


アーネストが国政の、要職を担っている事もある。

だから暗黒大陸になど、簡単に向かわせれない。

しかし海路に比べれば、妖精の隧道は魅力的な方法だった。

時間の流れが違うという、大きな危険はある。

しかし安全に渡れるのならば、それは大きな可能性を秘めていた。


「エルリック殿が…」

「そうですね

 何か持って帰れれば…」

「殿下は一体、何処に行かれたのか」

「先ずはそこが分かりませんと」


女神の事を考えれば、暗黒大陸が一番怪しかった。

しかし確証が無い以上、迂闊に向かう事は出来ない。

だからエルリックが戻る事が、現状で一番の優先事項だった。

アーネストは王都に向かいながら、その事を考えていた。


「エルリック

 あんたは今、何処に居るんだ?」


エルリックは旅立つ時、ハイランド・オークを連れて行くと言っていた。

そして女神の神殿に向かって、何か調べると言っていた。

その成果があれば良いと、アーネストは願っていた。

そうしてアーネストは、王都に帰還するのだった。

まだまだ続きます。

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