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聖王伝  作者: 竜人
第二十二章 魔物との決戦
710/800

第710話

魔物の群れは、再びアレキサンドリアの城壁に向けて、進軍を始めた

しかしその群れは、ギガースとオーガ、それから少数のコボルトだけだった

その間に本隊は一体何処に居たと言うのだろうか?

それはこの時、まだ城壁の兵士達は気が付いていなかった

迫る魔物に対して、自動で弩弓(バリスタ)が弾を発射する

それは木の幹を切り出した、人の腕程の大きな矢だった

飛来する弾は、ギガースの胴や腕に命中する

中にはオーガに突き刺さり、そのまま絶命させる事もあった


「よし!

 バリスタが効いておるぞい」

「ああ

 魔石に魔力を込めてもらって、正解じゃったわい」

「これである程度は削れるのう」

「ああ

 しかし問題は、この後に続く魔物じゃ」


大型の魔物には、弩弓もある程度当たっていた。

それは的が大きくて、照準をそこまで正確にしなくても良かったからだ。

しかしオーガは動くので、なかなか命中し辛かった。

さらにその後方に続く、コボルトでは当てる事も難しい。


投石器カタパルトはどうじゃ?」

「ギガースが邪魔じゃのう」

「あれに当たって、コボルトには当たらんわい」

「もう少し引き付けて、クロスボウを斉射しろ」


自動の攻撃兵器には、他にクロスボウも取り付けてある。

こっちはギガースには効果が低いので、今はスイッチを切ってあった。

これを入れれば、一斉に魔物に向けて発射される。

問題は、ギガースにも照準が向く事だった。


「くそっ

 小型の魔物だけ狙うのなら…」

「仕方が無いじゃろう

 魔石の魔力に反応する様に作っておる」

「それに小型の魔物じゃあ、魔石を持っておらん可能性もあるでな」


ドワーフ達が作った兵器は、魔石に反応して攻撃する様に造ってある。

これは元々、魔族や獣人に対して作っていたからだ。

魔族や獣人は、ドワーフと違って魔石を体内に持つ。

だから魔法を使えたり、獣化出来るのだ。


「魔石か…

 他に方法は無かったのかのう?」

「しょうが無かろう

 動く物に反応させては、同士討ちになるじゃろう?」


他にも動く者に対して、発射する機構も考案された。

しかし試作段階で、事故が多発してしまった。

周りで動くドワーフにまで、反応してしまうのだ。

所詮は機械なので、そこまでの判断は出来ないのだ。


「ワシみたいに尻に刺されたいか?」

「ううむ…」

「話し込んどる場合じゃ無いぞ

 近付いて来おったわい」

「くそっ!

 ワシにも貸してくれ」


ドワーフは特に、重たい武器での近接戦が得意だ。

そして弓やクロスボウに関しては、そこまで得意では無い。

しかしクロスボウは、手に持って狙いを定めれる。

その分弓と比べれば、ドワーフでも使い易かった。

問題は使用する、兵士の技量だけだった。


「くそっ

 なかなか当たらんわい」

「焦るな

 魔物も動くんじゃぞ」

「分かっておるわい

 しかしちょこまかと…」


コボルトも一回目の斉射で、弓の存在には気が付いた。

そこで動き回って、狙われない様にしていた。

中にはギガースの陰に隠れて、近付くとする者も居た。

狂暴化はしていたが、そのぐらいの頭は回る様だ。


「くそ!

 犬ころめ!」

「止むを得ん

 ある程度近付けて、上から狙い撃て」

「そうじゃのう

 思ったよりも数は少ない

 これなら近付けさせた方がマシじゃ」


ドワーフ達は、魔物への攻撃を一旦中止する。

このまま狙うよりも、もう少し近付けた方が当たるからだ。

予想していたよりも、集まった魔物の数が少なかった事もある。

問題は何故、魔物の数が少ないかだった。


「何で少ないんじゃ?」

「分からん

 しかし今は…」

「そうじゃぞ

 こいつ等をどうにかせねばな」

「それは分かっておる

 しかし少なく無いか?」

「確かに…」


ギガース12体に、オーガが25体も集まっている。

そこだけ見れば、先日よりも多いぐらいだろう。

しかし日数を掛けた割には、他には数百対のコボルトだけだ。

それだけでも十分な脅威だが、他に魔物が居ないのが気掛かりだった。


「こんな物なのか?」

「いんや

 聞いた話じゃあ、この数倍は軽く居るじゃろう」

「じゃったら他の魔物は何処に?

 何処に居るんじゃ?」


その答えは、ここから数十km離れた場所であった。

魔物の軍勢は、ほとんどが南下していた。

途中までは北上していたが、途中で何を思ったのか、急に方向を変えたのだ。

今はリッチモンドの町の廃墟から、南西に向かっていた。

勿論ドワーフ達は、その事を知らなかった。


ズドッ!

ゴアアアア

「よし!

 これで巨人は倒したぞ」

「後は人食い鬼が十体ほどと、犬の群れじゃな」

「ああ

 しかし狼や熊が居らんぞ?

 こんな物なのか?」

「どうでも良い

 これなら何とか、城壁を守れるぞ」

「おう!」

「はいはいほー♪」

「ほいほいやー♪」


ドワーフ達は楽勝と見るや、歌を歌い始めた。

それは彼等が、己を鼓舞して士気を高める為の歌だ。

鍛冶の時にも使われるが、こうした戦いの場面にも稀に見られる。

それは音頭を挙げて、歌を指揮する者が必要だからだ。

今回は城壁の指揮をする、老ドワーフが歌い手だった。


「撃てや撃て♪

 魔物に矢を放て♪」

「はいはいほー♪」

「ワシ等の街を守れ♪

 魔物の手から♪」

「ほいほいやー♪」


歌い始めてから、ドワーフ達のクロスボウの命中率が上がる。

それまでは数発に一発だったのが、今ではほとんど命中していた。


「凄い

 これがドワーフの歌の効果か」

「聞きしに勝るだな」

「しかしエルフとはまた違うんだな…」


ドワーフの歌は、集中力や持久力を上げる物だ。

歌ったからといって、必ずしも効果がある訳では無い。

その代わり集中力や持久力が上がるので、戦闘に役立てれる。

それに歌っている間は、彼等には一体感が生まれている。

それで連携して、戦闘をより優位に進めれる。


一方で、エルフの歌は聞き手を魅了する。

その歌声は美しく、魅了や誘惑、睡眠の効果を付与出来る。

エルフが戦場で唄う時は、味方を支援する為だろう。

敵に混乱を与え、味方の恐慌状態を鎮める。

主にそういった使い方をされている。


「これで魔物は…」

「ああ

 今敗走して行ったので終わりじゃ」

「どうする?」

「放って置け

 それよりも今は…」


城壁の前には、無数の魔物の死体が転がっている。

コボルトは半数ほど減ったところで、敗走を始めた。

しかしギガースやオーガは、最後の一体まで向かって来た。

それで多くの死体が、城壁前を埋めていた。


「これで魔鉱石が加工出来るのう」

「それでは武器の加工も…」

「ああ

 じゃが、先ずは…」

「そうですね

 回収が大変ですね」

「うむ…」


ここに残ったのは、決死隊に志願した兵士達だけだった。

思わぬところで、魔物が敗走して逃げてしまった。

それで彼等も、死なずに済んだ訳なのだが…。

肝心の片付ける人手が足りていなかった。


「時間は掛かるが…」

「ワシ等で片付けるしか無いのう」

「ええ…」


生き残った兵士達で、魔物の遺骸の回収が始まる。

それは兵士達の、数倍の数の魔物の遺骸だ。

集めるだけでも大変な事だった。

そしてそれを集めると、今度は解体の必要があった。

そのまま置いて置けば、腐って腐敗してしまう。

そうなってしまえば、病の元にもなるからだ。


「急いで解体するぞ」

「はい」

「特に魔石と骨、筋肉は大事に回収しろ」

「はい」

「皮はどうします?」

「この魔物の皮や肉は、大した素材にはならん」

「一ヶ所に集めて焼却しよう」

「そうじゃな」


内臓や肉、皮は一ヶ所に集められた。

それを魔族の兵士が、魔法で燃やして行った。

燃やしてしまわなければ、これも感染症の温床になってしまう。

手早く解体しては、集めた肉などは焼かれていった。


「熊や猪の魔物ならな…」

「言うな

 代わりに肥料になる」

「肥料になっても、世話をする者が居ないんじゃ…」

「向こうには報せに向かっておる

 直に帰って来るじゃろう」


魔物を討伐した時点で、ボルチモアには伝令が向かっていた。

このまま魔物が現れない様なら、避難した住民達も戻って来るだろう。

すぐには元通にりとはいかないが、直に騒ぎも収まるだろう。


「東の森には、魔物の姿は見られません」

「まだ逃げたばかりだからな

 暫くは監視しろ」

「はい」

「南も見張りますか?」

「そうじゃな

 海岸線を見張っておいてくれ」


アレキサンドリアは、東側を海に面している。

それで東から南東にかけては、天然の要害になっている。

さらに魔物の群れは、東の森から向かって来ていた。

あれが本隊なら、南や北から向かって来る可能性は低い。


ドワーフ達は念の為、北と南にも見張りを出していた。

しかし魔物は撤退してから、そのまま姿を見せなかった。

そのまま時間が過ぎて行き、1週間を過ぎる頃には住民達も帰還を開始した。

こうしてアレキサンドリアの街は、魔物から守られたのだ。

一つの懸念を残しつつ…。


「それでは魔物の群れは、一体何処に向かったと?」

「ユミル王の勘違いでは?」

「ユミル様だけでは無い

 精霊王も仰られておるのじゃぞ」

「しかし実際には、魔物の群れは大した事は無かったと聞いておりますぞ」

「そうですぞ

 わざわざ逃げ出してみて、それで少なかったですなんて…

 それで納得が行くと思いますか?」


逃げ出した住民の代表と、ドワーフの兵士達が揉めていた。

この街では抑え切れないと、街を棄てて逃げ出したのだ。

それが蓋を開けてみれば、大した事が無かったと言うのだ。

実際はそれでも、城壁が破られる可能性はあったのだが…。

無事に追い返す事が出来たのが問題だった。


住民の代表は、ドワーフ達が虚偽の報告をしたと非難していた。

いたずらに騒ぎを大きくして、この街を混乱に陥れたと言うのだ。

勿論それは、言いがかりでしかない。

魔物は実際には、近くにまで迫っていたのだ。

しかし肝心の魔物の群れが、何処にも見られない事が問題だった。


「騒ぎを大きくしやがって!」

「何様のつもりだ!」

「そんな

 ワシ等はここを守ろうと…」

「良いじゃないか

 ここは無事じゃったんじゃ」

「しかし…」


「城壁の武器は我々が接収する」

「構わん」

「作られた武器も回収させてもらうぞ」

「全ては困るのう

 ワシ等も武器が必要じゃ」

「何の為の武器だ!」

「ここを攻め落とすつもりか?」

「いや

 ワシ等が街に戻るのに、武器内で帰れと?

 それは無いんじゃないか?」

「うるさい!

 貴様等のせいで、ワシ等は苦労したんじゃぞ!」


戦後の処理は、そうして紛糾する事となった。

結局は、ドワーフ達には帰る為に、武器と食料が提供される事となる。

これは街を守った事の、最低限の保証された。

しかし街を守った割には、彼等は住民達から恨まれる事となる。


「折角街を守ったのに…」

「これではあんまりじゃわい」

「仕方が無かろう

 肝心の魔物の群れが居らんのじゃ」

「一体何処に行ったのやら…」


また、ドワーフ達と戦った兵士達も憤っていた。

彼等はドワーフ達が居たからこそ、街が守られたと理解していた。

しかし住民達は、そんな彼等に責任を押し付けようとしていた。

それを見て、彼等も反論していた。


「何だってんだ!」

「言うな

 酒が不味くなる」

「しかし彼等は…」

「そんな物なんじゃ

 私達の戦いですら、無かった事にされている」

「しかしオレ等は兎も角、彼等は命を賭ける必要は…」

「だけどな、それで難民も救われたんだ」


ドワーフの難民の一部は、この街に受け入れられる事となった。

しかし住民の一部は、彼等に敵意を持っていた。

彼等が来なければ、この街に魔物が来なかったと思っているのだ。

それに避難した事で、街にも少なからず影響が出ていた。

その全てが、ドワーフが原因とされていたのだ。


「私達が出来る恩返しは、残った避難民を守る事だけだ」

「そんな事でしか、恩を返せないなんて…」

「仕方が無いだろう?

 その代わり、全力で守るぞ」

「はい」


兵士達は、ドワーフの難民を守ろうと誓っていた。

それが共に戦い、魔物を追い払ってくれた彼等に報いる事だった。

そう思って、兵士達は難民達を守る為に動いていた。


そして魔物の群れは、そのまま南西に向けて動いていた。

その動きは、精霊王にも窺い知られていた。


「こちらに向かって来るか…」

「そうじゃのう

 ワシ等の次は、主らと言う訳じゃ」

「そうですね

 ドワーフの国は、形だけでも落ちました

 次は私達、妖精の国ですか…」


精霊王は溜息を吐いて、友人の方を見ていた。

そこにはドワーフ王、ユミルが来訪していた。

ユミルはあの後、妖精の国に来ていた。

一部の民をこちらに向かわせて、戦いの準備をしていたのだ。


「あなたの読みが、当たってしまいましたね…」

「嬉しくないわい

 女神め…」


ユミルは当初から、次は妖精の国だと確信していた。

そこで少数ながら、国民を妖精の国へ向かわせていた。

しかし正面から向かえば、魔物の群れに掴まってしまう。

そこで精霊王に頼んで、妖精の隧道(フェアリー・ロード)を使わせてもらっていた。

これによってドワーフ達は、魔物をやり過ごしていた。


「お前さんにも無理をさせたな」

「いいえ

 私は道を開けただけです」

「何を言う!

 離れた場所に妖精の隧道を開くには、相当な魔力を消費する」

「その程度です

 無茶をしたあなたに比べると…

 あの騎士があの時、あなたを見逃してくれて良かった」

「本当なのか?」

「ええ

 気付いていた筈です

 しかし彼は、何故かあなたを見過ごしていた

 やはり女神と…」

「それなら良いのじゃが…」


ユミル王がここに、居る事も妖精の隧道のお陰である。

ユミルはあの時、妖精の隧道を通って逃げていたのだ。

しかし謎なのは、黒騎士が見逃していた事だった。

精霊王の話では、彼は妖精の隧道に気が付いていたのだ。


「わざとなのか

 それとも手出しが出来なかったのか…

 いずれ見極め目ねば」


精霊王はそう言って、黒騎士の動向を窺がうのだった。

まだまだ続きます。

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