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聖王伝  作者: 竜人
第三章 新たなる領主
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第71話

ザウツブルク卿の先行部隊は7名居たが、隊長である一人を除くと選民思想に染まった者達であった

これが偶然なのか、それともザウツブルク卿の考えであるのかギルバートには分からなかった

しかしそれでも、到着した際には真っ先に聞かなければならないと思った

これからこの街を任せるに当たり、信頼に値する貴族か見極めなければならないからだ

ギルバートは遠くに上がる土煙を見て、到着を待っていた

蹄の音を鳴らしながら、騎馬の群れが駆けて来る

その歩みは緩やかだが、しっかりとしたものだった

力強い騎馬の群れに続き、貴族の乗った馬車が続く

その中には王都からダーナに訪れる、ザウツブルク卿の姿があった


ザウツブルク卿は、ダーナの近況を記した書類を読んでいた。

ここ近年の農耕の様子と、魔物が出てからの被害や収益の記録だ。

それを見ながら、王都では有り得ない規模の被害の記録を読む。

自分が戦った魔物の規模に比べると、数は倍以上だった。

本当に戦ったとしたら、勝ったのは奇跡であろう。

余程の戦力差が有ったか?それとも優れた戦士が居たのか?

少なくとも、今の自分の配下では善戦は出来ても、街を守っての勝利は厳しいだろう。


ザウツブルク卿は書類から目を上げ、これから向かう街の事を考えた。


「フランドール様、そろそろ城門が見えて来ます」

「そうか…」


横に座る兵士が前方を確認する。


「変ですね」

「どうした?」

「出迎えの兵達が居ますが…

 隊長は居ますが他の兵士の姿が見えません」

「ん?」


フランドールは書類を纏める手を止める。


「姿が見えんとは?」

「はっ

 確か7名で向かった筈なんですが、隊長しか居ません

 他は…ダーナの兵士の様です」

「外套を脱いでいるだけでは?」

「いえ、鎧も違います

 間違いありません」


フランドールは書類を纏め終わると、兵士に尋ねる。


「途中で何かあったのか?」

「さあ?

 その様な形跡は見当たりませんでしたが…」


「ふむ

 そうなると、城門で何かあったか?」

「そうですね

 しかし、兵士に何があったのでしょうか?」

「分からん

 分からんが、注意しておけ

 何か揉め事がある様なら、こちらから事を構えるのは良くない

 これからお世話になる街だ、最初が肝心だからな」

「はい」


フランドールは不穏な空気を感じたが、先ずは先方の言い分を聞いてみようと思った。

これから自分が治める領地だ、変な諍いを起こすのは得策では無い。


フランドールを乗せた馬車は城門に近付き、旗下の兵士が整列して降りるのを待つ。

騎兵がほとんどで、総勢120名が整列する。

その後に騎士が120名揃い、歩兵が300名馬車から降りて整列する。

いきなり500名以上の兵士が集まり、城門の前に整列するのだ、街の城門は緊張に包まれる。


馬車のドアが開き、一人の兵士が一礼をして横へ移る。

それから中へ声を掛け、主の降りるのを待つ。

カツコツとブーツの音を響かせて、一人の男が馬車から降り立った。


男の様子は、金髪に碧眼の偉丈夫で、長身の割に筋肉は少なく見えたが、その鋭い眼には隙は窺えなかった。

青い外套には金色の鷲が描かれ、肩には国王から下賜された勲章が止められていた。

その階級は男爵に当たるが、ここで正式にダーナの領主を引き継げば、辺境伯の肩書と侯爵の爵位が与えられる予定である。

武勲を除けば、異例のスピード昇進の叙勲となる。


「出迎えご苦労さまです

 私がこの度、ダーナの領主代行に赴任しましたフランドール・ザウツブルクと申します」


男は恭しく礼をして、胸を張って周りを見る。

フランドールは正面の集団を見て、屈強な騎士と少年を見た。

騎士は微動だにせず、代わりに少年が恭しく一礼をしてから前へ出る。


「長旅ご苦労さまです

 私はダーナの領主アルベルトの嫡男、ギルバートと申します」


フランドールは無言で挨拶を返し、少年を見る。


若いな

12、3歳といったところか?

彼は自分の処遇を聞いているのだろうか?


フランドールはギルバートを観察し、予想より若い事に驚いていた。

なんせ、聞いた話では大型の魔物を屠った戦士と聞いていたからだ。

こんな少年が魔物と戦うとは、話は本当なのだろうかとも思った。


「ご報告は伝わっていると思いますが、先日父である領主は亡くなりました

 代わりと言っては、若輩者で心配でしょうが、私が代表として挨拶に参りました

 街を代表して、新しい領主の代行として、歓迎いたします」

「わざわざのお出迎え、ありがとうございます

 そのお心遣い、身に染みる感動でございます」


ギルバートの挨拶に、フランドールは無難な返答の言葉で返す。

色々言いたい事はあるが、そろそろ兵士達の事が気になる。

ギルバートも特に言及しないので、フランドールは口を開きかける。


「と…」

「ですが、」


フランドールが言いかけたところで、ギルバートの言葉が発せられ、フランドールは訝し気にする。


「ですが、とは?」


フランドールの言葉に頷き、ギルバートは答える。


「先ほど、貴殿の私兵が先触れとして訪れました」

「その様ですね

 そこに隊長も居ますし」

「ええ」


「他の兵士は何処へ?

 ここで出迎えに居ると思っていましたが…姿が見えませんね」

「それなんですが

 貴殿は選民思想とはご存じですか?」

「な!」


フランドールは絶句した。

フランドール自身は元々平民の出で、先の魔物との戦闘の功績で叙勲している。

だから選民思想はよく知っている。

自分も何度か巻き込まれ、辟易している思想だ。

何度あの集団の抗争にに巻き込まれ、迷惑を被った事か。

正直なところ、唾棄すべき集団と思っていた。

それが予想外の場所で出たのだ。


「その様子では、貴殿は関係無い様子ですね」

「まさか…」

「ええ

 私も先ほど初めて聞いたんですが…

 困った者が居ますね」


ギルバートが頭を振り、溜息を吐いた。

それを見て、フランドールは確信した。


「お恥ずかしい

 自軍からは排斥したつもりではいたんですが、まだ入り込んでいたとは

 お手を煩わせました」

「いえ

 それで、件の者達の処遇は如何いたしましょう」


フランドールは顎に手をやり考える。


「そうですね、王都では処罰は軽いんですが、ここは辺境です

 よろしければ処罰は任せます

 ただ…」

「なるべく重い刑罰で反省させろ、ですか?」

「ええ

 迂闊に放ちますと、再び勘違いして暴動を起こします

 鉱山労働なりさせて、拘束は解かない様にしてください」

「分かりました」


ギルバートは近くの兵士に頷き、兵士は小走りで城門を潜った。

騎兵達を連行する為だ。


「それで

 これから如何いたします?」

「そうですね

 先ずは街へ入りましょう

 今日は領主邸宅にて歓迎のパーティーを用意しております

 その前に一休みとしましょう」

「お気遣い、ありがとうございます」


ギルバートは将軍に振り向き、指示を出した。

将軍は兵士に指示を出し、フランドールの私兵を休ませる為に案内する。

数名の兵士が進み出て、ギルバートに恐る恐る質問する。


「あのう…」

「すいません」

「はい、何でしょう?」


「申し訳ございませんが、我々だけは主に同行して宜しいでしょうか?」

「?」

「主の身の回りを世話する為に、同行したいんです」

「あ…

 そうですね

 その方が私達も助かります」


ギルバートは快く承諾し、兵士達も胸を撫で下ろす。


「お前等…

 申し訳ございません」

「いえ

 私が同じ立場なら、同行の私兵は必要と思いますよ

 ですから気兼ねはしないでください」

「はあ

 ありがとうございます」


ギルバートは、年上の割には気さくで自分を立てた行動を心掛けるフランドールに好感を持った。

例え相手の身分が上と言っても、相手が自分の年の半分にも満たない少年なのだ。

しかも、ここはその相手の領地だから、本当は油断も出来ない場所なのだ。

それなのに、怒ったり不満を言う事も無く、こちらに合わせようとするのはなかなか出来る事では無いだろう。


一方で、フランドールもギルバートを気に入っていた。

最初は少年と侮ってはいたが、思った以上にしっかりとしている様だ。

相手を冷静に見極めようとし、相手の立場に立った気遣いもしている。

これが貴族の嫡男という物だと思い知った。


フランドールはギルバートに着いて城門を潜り、ダーナの街の中へ入った。

そこは南門の中の広場で、周囲には王都から来た旅人に向けた店が集まっている。

旅用の装備を扱う店や、食料を売る店、売り物を買い取る店等が集まっている。

宿屋もあり、商人が商談をする声が漏れ聞こえる。


「ここは商人と旅人が集まる場所になります」

「なるほど

 確かに賑やかなばしょですね」

「ええ

 他の北門は農作業者が主に出入りしています

 東門も元々は旅人や農民が使っていましたが、最近は魔物の討伐に出入りする事が多いですね

 あっちはノルドの森に近いので」

「なるほど

 しかし、魔物ですか…」


「ザウツブルク卿は魔物の討伐の経験が有ると聞いていましたが?

 それでご活躍されたと聞きましたが?」

「ああ…まあ

 そうですね、確かに貢献はしました」

「?」


「私が戦ったのは、せいぜいがコボルトまでです

 オークですか?

 豚の魔物など居ませんでしたから」

「え?」

「ですから、殿下の様に大型の魔物なんぞ見た事は無いんです」

「そうなんですか?」

「ええ」


「ご無礼を承知で申しますが…」


横から兵士が助け舟を出す。


「私達も未だに信じれていないんですよ

 身の丈3mの魔物なんて、あの城壁ぐらいの大きさでしょ?」

「ええ

 実際は城壁の上に顔が出る魔物も居ました」

「え!」

「それだけ大きな魔物なんですよ」


「殿下は…

 ギルバート殿はそいつを見たんですか?」

「えーと

 報告に上げているオーガとトロールがその魔物です」

「と、言うと?

 殿下の倒されたという魔物ですか?」

「ええ」


ギルバートの言葉にフランドールは驚いた。

こんな少年が魔物を倒したと言うのも驚きなのに、そんな大きな魔物を倒したと言うのだ。

驚くなと言う方が無理だ。

その話を聞いて、兵士達もヒソヒソ話す。


「あんな少年が…」

「信じられん」

「オレなんて、コボルトでも倒せなかったぞ」


「こら

 お前達失礼だぞ」

「いえいえ

 普通は信じられ無いでしょう」

「はあ…まあそうなんですけど」

「よろしかったら、明日にでも手合わせしましょう

 ここの兵士の力量を知る良い機会ですよ」


「良いんですか?」

「ええ

 良い機会になると思います」

「では、よろしくお願いします」


ギルバートは兵士同士の交流と言う名目で、明日に手合わせをする事を約束した。

これで私兵達に、ダーナの兵士が強い事を知らしめるだろう。

これから共に戦うのだ、舐めて侮られない様にしてやりたいと思ったのだ。


「それで、西には城門は無いんですか?」

「あー…

 西は城門はありませんが、港に続く公道はあります

 城壁は公道に沿って繋がり、港の入り口まで続いています」

「おお

 有名なダーナの港ですか」


港は今でも機能していたが、実質街から別れていた。

港には海軍が常駐し、管轄も海軍の物となっていた。

商人がダーナに商いに入る事は出来るが、主な商いは王国との直接の取引となる。

その為、港は実質独立した別の領地の扱いになっていた。


「あそこはダーナの一部になりますが、ダーナではありません」

「え?」

「自治領に近い物と思ってください

 父もあそこには手を出していません」

「という事は、あそこはダーナであってダーナでないと

 そういう事ですか?」

「ええ

 海軍も国が出してますし、税も国が直接徴収しています

 言って置きますが、あそこに迂闊に手は出さないでください

 商人の流れを止められたら、ここは干上がってしまうので」

「はあ…」


ギルバートの説明を聞いて、フランドールは港を危険な場所と判断した。

言うならば、並んで出来た二つの街。

その一方が港になるのだろう。

下手に手を出すと、こちらへの被害が尋常じゃないと。


そんな話をしている間に、一行は商店が並ぶ通りを抜けて、領主の邸宅のある中央広場へと到着した。

広場からは商工ギルドが見えて、その隣に冒険者ギルド、魔術師ギルドと続き、女神聖教の教会も並んで見えた。

その一角に領主の邸宅が建っており、一行はそちらに向かって歩いて行った。

今日はこれから、邸宅で一休みをしてから歓迎のパーティーに出席するのだ。

ギルバートに連れられ、一行は邸宅の中に入って行った。

ダーナの街は、これからこの貴族が治める事になります

次の話しでも彼が中心になります

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