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聖王伝  作者: 竜人
第二十二章 魔物との決戦
709/800

第709話

魔物の群れは、そのままゆっくりと北上して行く

それは集落や町を襲い、皆殺しに進んで行く

そして残されるのは、誰も居なくなった廃墟だけだった

そうして魔物は、ゆっくりとアレクサンドリアの街に迫っていた

アレキサンドリアの街では、ドワーフ達が城壁を改造していた

元の城壁の外側に、城塞とさらに大きな城壁を作る

そこにバリスタや、投石器を設置していた

さらにその城壁の間には、罠や迷路も作られている


「魔物は小型だけじゃねえ

 大型の魔物も居るんだぞ」

「そいつ等は外の城壁で、弩弓(バリスタ)の的にすれば良い

 自動照準と起動の魔石は用意してるんだろう?」

「それはあるにはあるが…」

「希少な魔石だ

 直前までは填めるなよ」

「分かっている

 しかし…上手く行くか?」


外側の城壁には、魔石を使ったバリスタが設置されている。

これは魔石を使って、範囲内に入った者を狙って自動で発射される。

魔石と次弾の問題で、そこまでは連射出来ない。

しかし数発撃てるので、大型の魔物にも有効だ。

シャーロット砦にも常設されていた物を、突貫工事で作ったのだ。


「大型の魔物には有効なんだが、小型の魔物には…」

「クロスボウも作れたらな…」

「魔石が足りんのだ

 しょうがない」

「魔物から取れていれば…」

「昔集めた魔石だからな」


魔石自体は、以前に魔物が現れた時に回収されていた物だ。

しかし魔物が暫く居なかった事で、魔石は不足していた。

ドワーフが保管していた物も、今回の戦闘で多く使っていた。

魔物以外から取れないので、そんなに数が無かったのだ。


「魔物を倒して、回収出来れば良いのだが…」

「それは無理だな

 魔物の数が多過ぎる」

「本当に何万もの魔物が居たのか?」

「本当らしいぞ

 ハイキャッスルから来た者も居る

 そこから確認されている」

「ううむ

 それではこの城壁でも心配だな」


しかし心配と言っても、ここでどうにかしなければならない。

この後ろには、後はボルチモアしか無い。

しかもボルチモアでは、城壁を作って守るには不向きだった。

ボルチモアの街は、平地に作られた街なのだ。

アレキサンドリアの様に、片側が海の様な天然の要害は無いのだ。


「ここで追い返すしか無いんだ

 この先はボルチモアしかない」

「ああ

 ボルチモアでは、囲まれて逃げ場が無い

 アレキサンドリアなら、海から逃げれるからな」

「船の準備は?」

「全員分は無理だが、少数なら逃げ出せる」

「いざとなれば、難民だけでも逃がすか?」

「それしか無かろう」


兵士は魔物と戦うなら、死んでも構わないという覚悟がある。

しかし難民は、魔物から逃げたいと思っていた。

例えそれで、この先に逃げ場が無いとしても、生きて逃げたいと思っているのだ。

だからこそ脱出用の船は、避難民を乗せる為に用意されていた。


「出来れば魔物には、ここで諦めて引き返してもらいたいのだが…」

「難しいな

 そもそも魔物の、考えが分からない」

「そうだな」


獣憑きの魔族は、困った様な表情をする。

彼等としては、ここでのんびりと暮らしていたかった。

しかし他の人間が、ここまで逃げて来ていた。

同じ難民として、彼等は避難民を守りたいと思っていた。

自分達がドワーフに助けられたので、今度は助けたいと思っているのだ。


「出来れば私達が…」

「その気持ちだけで十分じゃ

 あんた等もいざとなったら…」

「何を言っている

 私達も最期まで…」

「それは無理じゃ

 あんた等は魔法が使えないじゃろう?」

「しかし…」

「魔物と戦うのは、ワシ等の様な戦士だけで良い

 あんた等は逃げる用意をしておきなさい」


ドワーフ達は、ここである程度倒すまでは逃げる気は無い。

それは非戦闘員の、ドワーフ達を逃がす為でもあった。

ユミル王は、全員に逃げる様に指示を出している。

しかし彼等は、ここで死ぬつもりだったのだ。


「私達の街を守る為に、あんた等が死ぬなんて事は…」

「勘違いしなさんな

 あんた等の為では無い」

「ワシ等の同胞を守る為じゃ」

「しかし…」

「それにな、この城壁の仕組みはワシ等の方が詳しい

 最終的には、この仕掛けで多くの魔物を葬るつもりじゃ」


ドワーフ達は、ただ城壁や罠を増やした訳では無い。

さらに内側の城壁にも、大掛かりな仕掛けを施していた。

しかしそれは、手動で動かす必要があった。

自動では、どうしても狙う事が難しいのだ。

だから何人か残って、決死隊として魔物と共に死ぬ気だった。


ドワーフ達は、最後の一兵まで残って戦うつもりだった。

そこまでして戦うのは、この先に逃げ場が無いからだ。

ボルチモアまで逃げても、そこまで魔物が来ればお終いだ。

だからこそ、このアレキサンドリアで何としても押し返したかった。


魔物の群れは、それから2週間経っても来なかった。

ドワーフ達は、その間に出来得る限りの細工を施した

城壁の間にだけでは無く、外の城壁にも罠を設置した。

そうして万全の準備が整った頃、遂に魔物が姿を現した。


グガアアア

ゴガアアア

「ひっ!」

「ギガースか…」

「それにオーガの群れ…」

「奴等も総力戦か…」


ギガース12体を先頭にして、32体のオーガが向かって来る。

それは縮尺を間違えた、魔物の群れが攻め込む様子に見える。

しかし実際には、大型の魔物が向かって来ているのだ。

その魔物の前には、外側の城壁も無力に見えた。


「近付かせるな!

 バリスタを撃ち込め!」

「後方の投石器も稼働させろ!

 魔物は大型しか居ないぞ」


ドワーフ達が城壁で指揮を執り、魔族は後方で投石器を起動させる。

人間達も手伝って、城壁のバリスタから次々と弾が発射される。

それは木を切り出した大きな矢で、ギガースの身体をも貫く。


グゴガアアア

「次だ!

 まだ来るぞ!」

「落とし穴に嵌りやがった

 あそこに投石しろ!」


中には城壁前の、大きな落とし穴に嵌るオーガもいた。

そこに向けて、投石器から岩が飛んで来る。

大型とはいえオーガは、ギガースほどは大きくない。

それで落とし穴に嵌ったり、投石で圧し潰せた。


「妙じゃな…」

「妙ですね」

「ああん?

 どうしたって言うんだ?」

「他の魔物が来ない」

「他の魔物って…」

「ゴブリンやコボルトじゃ」

「来ないなら良いだろ?

 大型の魔物だけ仕留めれる」

「それはそうじゃが」


その日の攻防は、夕方近く間で行われた。

日が傾て来ると、魔物は一旦引き上げた。

その際にギガースは、4体にまで減っていた。

これは大型ばかりだったので、バリスタと投石器が活躍したからだ。

しかし外側の城壁も、一部が崩されてしまった。

そこには巻き込まれた、ドワーフや人間の兵士が埋まっている。


「ぐう…ちくしょうめ!」

「今夜は飲む約束じゃっただろうが!」

「死んだら駄目だって、お前が言っていただろうが」


亡くなった仲間を悼んで、兵士達は涙を流す。

しかし城壁を直そうにも、時間がそれほど無い。

それに掘り起こすには、さらに時間が掛かるだろう。

だから彼等は、最低限の復旧と補強だけをする。

そうして明日に備えて、再び資材を運び始めた。


「急げよ!」

「大型の魔物には、バリスタと投石しか効かない」

「クロスボウは?」

「明日も準備しておくが…

 オーガしか効かんぞ?」

「それでもマシだろう」


クロスボウは手軽で強力だが、ギガースには効かなかった。

だから数発撃ってからは、オーガに集中して撃っていた。

それで32体居たオーガも、半数近い17体にまで減らしていた。

しかし生き残ったオーガは、後方で無傷な状態だ。

明日になれば、増援も増えてさらに厄介になるだろう。


「岩はこのぐらいで良いか?」

「ああ

 あそこの壊れた城壁のも運んでくれ」

「砕けて使えない分だけだ

 出来るだけ積み直せよ」

「おう!」


ドワーフ達は日が暮れても、城壁の修復を試みる。

完全では無いが、魔物が通れない高さにまで積み直す。

その間にも、魔族や人間達が魔物の死体を運ぶ。

素材を加工するには、日にちが足りない。

しかし折角なので、魔物の遺骸は回収していた。


「武器や防具には…」

「ううむ…

 使えるが窯がのう」

「ここの窯では無理か?」

「ああ

 熱が足りない」

「せめて数日…

 3日、4日でも魔物の侵攻が止まればのう」

「そうか…」


さすがにドワーフでも、そんなに簡単には武器は出来ない。

先ずは手に入った素材を使って、何が出来るか試す必要がある。

その上で、量産を始める必要がある。

全てを加工するには、最低でも1週間は掛かるだろう。


「魔物が…

 諦めてくれれば良いが」

「そうじゃのう」


しかし翌日になって、彼等の願いが届いたのかもしれない。

その日は魔物は、遠くから眺めるだけだった。

それでドワーフ達は、大急ぎで城壁の修復を始める。

勿論その間にも、城壁からいつでも狙える様に見張りは立っていた。

バリスタも起動されて、魔物に向けて引き絞られていた。


「魔物が…来ないな」

「昨日手酷く倒したからな

 警戒しているんだろう」

「それもあるだろうが、増援待ちかもな」

「増援か…」


ここからシャーロット砦まで、馬で10日ほど掛かる距離にある。

そしてハイキャッスルからでは、おおよそ2週間だと計算されていた。

だからこそ本隊が、まだ到着していないのは不思議だった。

まるで大型の魔物だけ、先行して向かって来たかの様だった。


「大型の魔物だけ、先に向かわせたって事か」

「恐らくな」

「そうなれば後続が辿り着くと…」

「恐らく総攻撃だろう

 昨日よりもキツくなるぞ」

「構うもんか

 守り抜くだけだ」

「そうじゃぞ

 ワシ等はその為に残って居る」

「そうだな…」


多くの難民達は、先じてボルチモアに移動している。

ここに残っている者は、ほとんどが戦う為に残った者達だ。

だから彼等は、最期まで戦おうと思っていた。

それで魔物を撃退出来ると、そう信じていたのだ。


翌日も、魔物は城壁に近付くだけで、攻撃はして来なかった。

この時に、獣人や獣憑きの魔族が居なかったのは残念だった。

魔物は一定距離近付いては、攻撃されない様に引き上げる。

それを繰り返していた。


「ううむ…」

「奴等何を考えておるんじゃ?」

「誘い出そうとしている?」

「それはないじゃろう

 奴等とて、こちらの優位には気付いておる」

「しかしあの動き・・・

 それに増援も来ませんぞ」

「本隊が遅いのはおかしいな」

「向こうで何かあったのか?」


ハイキャッスルやシャーロット砦にも、自動で動くバリスタや投石器が置かれていた。

それに罠もあったので、それなりの打撃は与えていた。

しかし彼等でも、さすがにそれで行軍が遅れるとは思っていなかった。

精々何割か削って、士気を下げる程度だと思っていたのだ。


今の魔物の行動も、それで攻め込む戦意が下がっていると判断していた。

だからこそ、援軍が来れば一気に攻め込んで来ると睨んでいた。

そして恐らく、その時は近いとも考えていた。


「兎に角、武器の開発を急がせろ

 間に合う様なら試作をこっちに回せ」

「良いのか?

 ぶっつけ本番だぞ?」

「死ぬよりはマシだろう?

 少しでも多く、使って倒してやる」

「なるほどね

 それじゃあワシも頼んで来るか」

「無茶なのは頼むなよ

 それだけ作る数が減る」

「分かっておるわい」


魔物はそのまま、3日間攻め込んで来なかった。

その間に、ギガースの骨やオーガの骨で魔鉱石が作られた。

ドワーフ達は、寝ずで鉱石を加工する。

そうして数本だが、新たな武器が作られた。


「おう!

 このピッケルは強そうじゃ」

「オレの剣もしっくりくる」

「お前さん達は先頭に立って戦う

 じゃから特別早く作ったんじゃ」

「他の奴等の分は?」

「すまんが…

 さすがに限界じゃ」

「後は他の者が作っておる」

「そうか

 すまなかった」

「ゆっくり休んでくれ」

「そうさせてもらおう」


寝ずで働いたドワーフ達は、そのまま宿舎で眠りに着いた。

2日も徹夜をしたので、さすがに限界が来ていた。

後は交代した職人が、量産用の武器を打っている。

こちらは明日にでも、兵士達に配られるだろう。


「さあ、こっちは準備が整ったぞ」

「後は向こうの出方次第か…」

「そうだな

 しかし今日は…」


昨日までと違って、今日はオーガもギガースも姿を見せていなかった。

昨日までは、バリスタの射程圏外ギリギリまで近付いていた。

しかし今日は、全く姿を現していなかった。

その事に、一部の兵士は嫌な予感を覚えていた。


「本隊が合流したか?」

「その可能性は高いな」

「後は奴等が、どのタイミングで攻め込んで来るかだ」

「そうだな」


ドワーフ達は、魔物が攻め込んで来る事を警戒していた。

本隊が合流したのなら、後は総攻撃が待っている。

そのタイミングを警戒して、城壁から魔物が現れるのを警戒していた。

そして昼を過ぎた頃、遂に動きが見えた。


地響きの様な音がして、遂に魔物が姿を見せる。

初日と同じ様に、12体のギガースが先頭に立っている。

その後方には、25体のオーガも姿を現していた。


「来たぞ!」

「また数が増えておる」

「やはり増援を待っていたか」

「しかも他の魔物も居るぞ」

「いよいよ総攻撃か…」


先日と違って、オーガの後ろにはコボルトの姿も見える。

魔物は唸り声を上げながら、城壁に向かって進んで来る。

そして最初のギガースが、いよいよバリスタの射程に入ろうとしていた。


「いよいよじゃな」

「よく狙えよ!」

「ギリギリまで引き付けろ!」


ドワーフ達は指示を出して、バリスタやクロスボウを構えた。

いよいよアレキサンドリアでの、魔物との戦いが始まろうとしていた。

まだまだ続きます。

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