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聖王伝  作者: 竜人
第二十二章 魔物との決戦
708/800

第708話

魔物の群れは、暫くドワーフの洞窟の前で立ち止まっていた

それは思ったよりも被害が大きく、中を調べる必要があったからだ

それで数日、魔物の群れはドワーフの洞窟から離れらなかった

しかし既に、中はもぬけの殻だった

だから調べ終えた後は、再び山を迂回する様に北上を開始した

洞窟があった場所は、硬い岩盤の大きな山だった

それを迂回する様に、魔物は先ずは北に進む

それから山を回り込む様に、洞窟の反対側に向かった

そこは既に、中から出口がある事を確認していた


コボルトを先頭にして、魔物は洞窟の周囲を調べる。

途中で雨も降ったので、臭いや痕跡は大分減っていた。

しかしコボルトは、そのまま北東に向かった事を確認する。

それで魔物の群れも、その後を追って北東に進み始めた。


二日を掛けて、魔物の群れはシャーロット砦の前に着く。

先ずは攻撃を警戒して、ギガースとゴブリンが砦に近付く。

そこでバリスタから、人の身長程の大きな矢が放たれる。


グガアアア

ゴガアア


ギガースの内の2体が、バリスタの矢で倒れる。

その間にもバリスタからは、魔物に向けて矢が放たれる。

バリスタ以外にも、小型のクロスボウも矢を放っていた。

それはゴブリンに降り注ぎ、ここでも手痛い反撃を受ける。


しかし半日もすると、矢が切れたのか攻撃が止んだ。

魔物はここぞとばかりに、一気に城壁に詰めよる。

しかしそれは、魔物の群れを油断させる罠だった。

ギガースはさすがに嵌らないが、ゴブリン達は落とし穴に落ちてしまっていた。


ドワーフ達は城壁の周りに、無数の落とし穴を仕掛けていた。

それはピットという簡単な罠で、2mほど掘った落とし穴に武器が埋められている。

そこに落ちれば、そのまま突き出した剣や槍に串刺しにされるのだ。

単純な罠だが、これは効果的だった。

多くのゴブリンが落ちて、そのまま串刺しになって死んでいた


ここでも魔物の群れは、大きく損耗していた。

しかも未だに、ドワーフ達を一人も殺せていない。

一方的に、魔物の数だけ減らされていた。

この事で、魔物の群れはさらに進みが遅くなった。


グガアアアアア

ゴアアアア

ガラガラ!


ギガースはバリスタに撃たれて、怒りで城壁を破壊する。

しかし城壁を壊しても、そこにはドワーフ達は居なかった。

そして城壁には、金具でロープが固定されていた。

城壁が崩された事で、そのロープが宙に舞った。


ビュンビュン!

ドガッ!

ガスッ!

グガアアア


次の瞬間、大きな岩や鋭い剣、槍などが飛んで来る。

それはギガースに命中して、さらに何体かその場に倒れる。

しかし追加の攻撃は来ず、魔物は周囲を調べる。

それはドワーフ達が、城門を壊された時に発動する様に仕掛けた罠だった。


ドワーフ達は、この様に無数の罠を仕掛けて去っていた。

魔物が城壁を破壊して、中に入って来ると睨んでいたのだ。

それで少しでも打撃を与える為に、こうして罠を設置したのだ。

そうして魔物は、まんまと罠に掛かっていた。


魔物がもう少し…人間ほどでも無くて良いから、頭が賢ければ違っただろう。

しかし彼等は、あまり考えずに突き進んで来ていた。

その事は、ドワーフ王ユミルも気付いていた。

だからこうして、魔物に対して簡単な罠を無数に仕掛ける様に命じた。

それは正鵠を射ていて、魔物に大きな打撃を与えていた。


黒騎士はその光景を見て、そのまま前に進んで出る。

そうして剣を掲げると、城門の大きな鉄の扉を切り裂いた。

それは頑丈な、鉄を固めた扉だった。

しかし黒騎士は、まるで紙でも切る様にそれを切り刻んだ。


グガア?

ゴガアアア


黒い騎士が扉を破った事で、魔物は砦の中に雪崩れ込んだ。

しかし既に、ドワーフ達は逃げ出した後である。

砦には誰も居なくて、魔物達は周囲を調べ始めた。

そうして中央の開けた場所に、無造作に置かれた木箱の山を発見した。


グゴウ

ガア、グゴア

グルルル


魔物達は喜び、食料の匂いのする木箱に近付く。

しかしそれも、魔物を倒す為の罠だった。

魔物が集まり、木箱の蓋を壊そうと持ち上げる。

そうして下ろし始めたところで、何かの音がした。


カチッ!

バゴン!

ゴウッ!

グガアアアア

ギャヒャアア

ギャンギャイン


突如火柱が上がり、大きな爆発が起こる。

そして同時に、木箱に仕舞われていた武器が周囲に飛んで行った。

木箱の山の中心で、何かが激しく爆発したのだ。

その爆発で、木箱に仕舞われていた武器が飛び散ったのだ。


ほとんどの武器が、その爆発で壊れてしまっていた。

しかし爆発が強力だったので、周囲に飛び散って被害を拡大していた。

そして真ん中では、激しく炎が燃え上がる。

その炎で、積まれていた木箱は燃えて行った。


折角の食料が、目の前で消し炭になる。

これは食料が無いより、一度目の前に見ているのでよりダメージが大きかった。

そこまで考えて、ユミル王は罠を仕掛けさせた。

そして魔物達は、予想通りのショックを受けていた。


実はユミル王は、魔物が食料不足で苦しんでいると見抜いていた。

それは魔物が、襲った街で人間を食っていたからだ。

それが得られない以上は、あれだけの群れを維持する食料は不足するだろう。

そう考えて、こうして食料を餌にした罠を仕掛けたのだ。


グガオオオオ

ギャギイイ


魔物は悔しがり、中には炎の中に突っ込む者もいた。

しかしそうすれば、当然の様に炎に焼かれる。

食料を手にしようにも、中心から噴き出た炎が邪魔だった。

そしてその炎は、木箱が焼けても噴き上がっていた。


黒騎士が前に出て、その炎を剣で切り払う。

すると炎は、まるで生き物の様にそのまま消えてしまった。

後には魔石が組み込まれた、何かの機械がそこに残されていた。

黒騎士はそれを、剣で破壊した。


グガア?

「…」


余程腹を立てていたのだろう。

黒騎士はその機械を、何度も剣で叩いて壊した。

残して持って行けば、自分達も利用できたのだ。

しかし黒騎士は、機械を破壊する事にした。


それはユミル王の、これまでの罠が効いていた。

魔物のが多く倒れて、命を失っている。

それに対して、ドワーフ達は無傷だった。

その事が、黒騎士をより苛出せていたのだ。


そして魔物が単純とはいえ、こうも罠に容易く引っ掛かる事にも腹を立てていた。

今回の罠で、魔物達の士気はさらに下がっていた。

食料が手に入ると思っていたら、目の前で焼かれたのだ。

しかもこの罠で、多くの魔物が傷付き死んでいた。

魔物の群れを指揮する黒騎士にとって、これは相当に腹が立つ事だっただろう。


グガ?

グルルル

「…」


魔物が心配して、黒騎士の周りに集まる。

しかし黒騎士は、そんな魔物達に手を翳して心配するなと踏み止まらせる。

そして死んだ魔物を、そっと運んで隅に寝かせる。

無傷だった魔物達も、それを真似して仲間の死体を運び始める。


本当なら、空腹で仲間の死体でも食いたかった。

しかし黒騎士の行動を見て、彼等も冷静さを取り戻していた。

そのまま死体を運ぶと、手厚く寝かせてやっていた。

その死体の前で、黒騎士は剣を掲げる。


黒騎士の剣は、魔物の死体から何か黒い靄の様な物を集め始めた。

そうして死体は、灰の様に崩れて消え去る。

代わりに黒騎士は、生きている魔物達に剣を翳す。

そうすると、今度は魔物達に剣から黒い靄が出た。


黒い靄は、魔物達を包み込んだ。

そうして魔物達は、傷が癒えて元気になる。

黒騎士は指差して、砦を探索する様に指示を出す。

加工した食料は駄目になったが、まだ畑は手付かずだった。

探せば他にも、食料や物資は残っているだろう。


魔物に砦の探索を任せて、黒騎士は城門の近くに腰を下ろす。

どうやら先ほどの行為で、相当消耗している様子だった。

声は出さないが、肩は大きく息を吸って揺れている。

その様子は、苦しんでいる様にも見えた。


魔物達はそのまま、砦のあちこちを探索する。

砦の住民達は、お急ぎでここを離れていた。

だから畑には、まだ収穫していない食料が残っていた。


また、家や宿舎の中にも多量の物資が残されていた。

それを片付けたり、処分する余裕は無かったのだろう。

さっきの罠は、運んで来た物資の一部だったのだ。

罠に使う為に、あそこに集められていたのだ。


ドワーフ達が、もう少し余裕があれば違っていた。

しかしハイキャッスルが、想定以上に早く陥落していた。

それは勿論、ドワーフ達が逃げ出す為でもあった。

しかしあれだけの城が、簡単に落ちるとは思っていなかった。

それで砦のドワーフ達も、慌てて逃げ出す事にしたのだ。


魔物の群れが、洞窟の前で暫く止まるとは思っていなかった。

それを知っていれば、彼等はもう少し余裕をもって移動しただろう。

そこはユミル王も、想定している事とは違っていた。

しかしそれも仕方が無い事なのだ。


相手が魔物なので、人間を想定した準備では不十分なのだ。

事実ハイキャッスルでも、飛行型の魔物に随分と攻め込まれた。

その事があって、予定よりも早く退避させてのだ。

しかしその飛行型の魔物も、先の戦いでほとんど失っていた。

それで今回の戦いでは、ギガースとゴブリンに向かわせたのだ。


黒騎士も、まさか罠でここまでやられるとは、想定していなかった。

そこはユミル王と、ドワーフ達が優秀だったからだろう。

巧みに配置した罠が、見事に魔物を倒していた。

ここで飛行型の魔物が居れば、罠を発見されていた可能性もあった。

そういう意味では、ハイキャッスルでの戦いはユミル王に軍配が上がる。

厄介な魔物を、大量に屠ったからだ。


黒騎士は座り込んだまま、魔物達の動向を見守る。

座ってからも暫くは、肩で息をしていた。

それだけ先ほどの行為は、黒騎士に負担が大きいのだろう。

しかし治療をした事で、それ以上の魔物の損耗は防がれていた。


魔物は野菜や木の実を集めて、他の魔物達に配り始める。

そこには上下はほとんど無く、彼等はみな仲間として行動していた。

大きなギガースでさえ、分けられた食料だけで不満を漏らさない。

足りなければ、そのまま自分で食料を調達すれば良いのだ。


魔物の間では、人間の様な上下関係はほとんど無かった。

大きさや戦い方で、前線に立つ者も当然居る。

しかしそれは、自分の力でそこに居ると理解していた。

だから魔物は、人間の様な差別や迫害をする事は無かった。

純粋に同じ目的を持って、共に行動していたのだ。


グガア

ギャッギャッ


オークが木の実を差し出し、それをゴブリンが喜んで受け取る。

代わりにゴブリンは、そこで回収した剣をオークに渡した。

オークは少し考えて、その剣をコボルトに渡す。

代わりにコボルトの持っていた、重そうな斧を受け取った。


そこには上下関係は無く、仲間内で分け合う姿が見られた。

この光景を見れば、ユミル王や精霊王はどう思っただろう。

しかし彼等は、魔物に襲われている側だ。

そんな魔物達に、同情や共感は持てなかっただろう。

たとえそれが、見習うべき行為を行っていても。


それから3日掛けて、魔物は砦内を詳しく捜索した。

しかし当然、逃げ遅れた者は居なかった。

そして集めれるだけ物資を集めると、魔物は再び動き始める。

今度は北東に向かって、先ずは手近な集落に向けて移動し始める。


そこは魔族の小さな集落で、今もそのまま生活していた。

ドワーフの兵士に警告されたが、彼等はそれに聞く耳を持たなかった。

それどころか、武器を手にして襲い掛かって来た。

小さい集落なので、騙して物資を奪おうとしていると勘違いされたのだ


その集落では、2mほどの小さな防壁しか備えていなかった。

魔法の使える角無しの魔族が居たので、その程度で良かったのだ。

しかし2m程度の、石を積んだだけの防壁だった。

そんな物は、魔物の群れには意味が無かった。


くちゃくちゃと、集落の中で音が鳴っている。

魔物が集落の中で、食事をしているのだ。

小さな集落なので、住民はあっという間に倒されていた。

そして魔物達は、久しぶりの肉を堪能していた。


血だまりの中で、美味そうに足を齧っている。

その向こうでは、引きずり出した内臓に夢中になって齧り付いていた。

既に悲鳴を上げる者も居なく、魔物達は食事に夢中になっていた。


この集落では、ほとんど犠牲が出る事は無かった。

ゴブリンやコボルトが、多少魔法に焼かれたりした程度だ。

先日までの被害を考えると、温いぐらいの勝利だった。

しかし黒騎士は、食事も取らずに広場を見回っていた。

そんな事をしなくても、生きている人間は居なかったのだが…。


この光景を見た者は、改めて不思議に思っただろう。

魔物ですら、こうして人間や食料を食べている。

しかし黒騎士は、一行に食事をする素振りは見せなかった。

そのまま座ったり、周囲を見回っていた。

いや、そもそもが睡眠を取る光景も見られなかった。


翌日には、再び魔物の群れは移動を開始した。

集落は既に、食べ尽くされていた。

次の獲物を探す様に、そのまま北に向って移動を開始する。

そこには同じ様に、集落と町がある筈だった。


こうして魔物の群れは、ゆっくりと食事や休息を取りながら北東に進む。

その遥か先には、獣憑きの魔族の街がある。

アレクサンドリアとボルチモアに向けて、魔物の群れは進んで行く。

それは黒い染みの様に、ゆっくりと大地を血で染めながら移動していた。

まだまだ続きます。

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